初めての友達
レオナが姿を消してから、日はすっかり沈んでしまった。リアはガルと一緒に遊んでいる。
夜に近づくにつれ、ガルの身体は毛深くなっていった。そして、急に四つん這いになったと思うと、獣の姿になっていた。
「そういえぱ、今宵は満月でしたね。」
ガルは狼の子供の姿になった。狼になったガルをリアは抱え上げる。
「おい!俺は犬じゃないんだ!」
「可愛いですね」
リアはガルを撫で回して可愛がっていた。ガルは嫌がりながらも可愛らしいリアの姿を見て赤面していた。
「リアさん、ガルで遊んではいけませんよ。」
「えぇ…。」
コボルトにガルを取り上げられたリアは不服そうに口をすぼめた。
「そうだぞ!俺は玩具じゃないんだぞ!」
「ガルも子供相手に本気になってはいけませんよ。」
「俺も子供だって…」
「そうだとしても、リアさんよりも年上でしょう?」
荒れているガルをコボルトは平然と宥めていた。
そして、コボルトはガルを木陰で休ませた後、リアを呼んだ。
「リアさん、どうぞこちらにいらしてください。」
コボルトはリアを膝に座らせると、背後からそっと抱いた。
「やはり人間の体温は心地よいですね。」
リアはコボルトの身体を触った。その肌は白く、そして冷たかった。
「ひんやりしてる~…。」
「吸血鬼は死人ですからね。体温が無いのですよ。」
「お兄ちゃんに抱かれた時もこんなだったような…。」
リアは兄のレオンにも抱き締められた事があったが、暖かいと感じた事はなかった。顔色も青白かったような気がする。
「お兄ちゃんも、コボルトさんみたいに吸血鬼なのかな…。」
リアはこの場に居ない兄を思い出して、考え込んでしまった。そんなリアを気にかけてコボルトは声を掛ける。
「どうされましたか?」
「いいえ、何でもないです…。」
リアはレオンの事は気のせいだと思い込む事にした。そして、コボルトを見ていると、白いレースの手袋が見えた。
「手袋をはめてらっしゃるのですか?」
「ええ、そうですよ。」
コボルトは手袋を外して中の手を見せた。その手は青白く、造られたもののように綺麗だった。爪を見ると、リアのものとは異なり、黒くて鋭かった。
「爪には触れてはいけませんよ。リアさんを傷つけてしまいますから。」
コボルトは仲間を傷つけないように手袋をしているのだろうか。死人や魔物だとは言っていたが、ただ怖いだけの存在ではないんだとリアは思った。優しくしてくれたコボルトやガルとなら、これからもずっと遊べるかもしれない。リアはコボルトの顔を見て、こう言った。
「私、コボルトさんとガルさんと、それからレオナさんとも友達になりたいです!」
リアの声に反応して、ガルも近寄って来る。
「ええ、私もリアさんとお友達になりたいと思っていました。」
「ああ、また遊ぼうぜ!」
外の世界に初めて友達が出来て、リアは嬉しかった。また、三人と一緒に遊びたい。図書館で本を読んでいる時間も好きだが、この森にはそれ以上にわくわくする何かがあるのだとリアは思った。
その時、箒に乗ったレオナが戻って来た。
「リアちゃん、待たせてごめんね!」
リアは立ち上がると、レオナの箒に乗った。
「リア、もう帰るのか?」
「はい、また会いましょうね。」
レオナは、リアが乗ったのを確認すると、箒を上昇させた。そして、あの図書館へ向かう。
「レオナさん、またあの広場に連れて行ってくださいませんか?」
リアがそう言うとレオナは頷いた。
「ええ、また連れてってあげるよ。」
「ありがとうございます!」
リアは夜空を眺めていた。飛びながら見た空は、窓から見るよりも広く、何処までも続いているように見えた。実際、空は何処までも続いているのだが、ずっと図書館に籠っていたリアには実感が湧かなかったのだ。
そして、図書館が見えると、レオナはリアの部屋の窓からリアを降ろした。
「それじゃあ、また会おうね!」
レオナは箒に乗って再び森の方へ戻っていく。リアはお風呂を済ませた後、今日の出来事を日記に書いた。レオンは怒るかもしれないが、またあの森でレオナ達と遊べたらどれ程嬉しいだろう。リアは窓から再びレオナが現れるのを心待ちにしていた。