リアの日記
退屈しのぎで始めた日記だったが、思いの外楽しかった。リアは、本で読んだ外の世界を想像していた。
この世界にはリアが見た事無いものが沢山ある。炎が噴き上がる山や雪で覆われた草原というものもある。また、幾つもの海を越えた先には黄金の都という場所があるらしい。リアはそれを自分や他人が書いた文章から想像する事しか出来ない。だが、それだけで毎日を過ごす事が出来た。
リアがいつも遊んでいるのは二階だ。対してレオンが仕事をしているのは一階の図書館だ。そこにはリアの部屋以上に本が沢山ある。本が大好きなリアはそこにある本を読みたいと思っていたが、レオンは何故か止めるのだ。
「お兄ちゃん、この本読んじゃだめなの?」
「駄目だ、ここにある本はとても良いものじゃないからな…。」
レオンはリアにそう言うだけで、本の内容までは教えてはくれなかった。それなのにレオンはこの本を読んで何やら考え込んでいるようだった。一体何が書いてあるのだろうか。
レオンはリアに注意するのはそれだけではなかった。この図書館は一階の他に地下室があるそうだ。そこには決して入ってはならない。リアはそこに入る為の扉を一回だけ見た事があった。その扉は錠前が無いのに鍵が厳重に掛けられてあった。一体、この扉の向こうには何があるのだろう。レオンは一切教えてくれない。
「お兄ちゃん、やっぱり変だよ…。」
リアはそう呟いた後、二階に戻った。
それから、本を開いて羽根ペンでこう書き始めた。
『この図書館に来てから、お兄ちゃんは私に何か隠しているような気がします。この図書館は色々とおかしい事が沢山あります。図書館の本は誰かに読まれる為にあるはずなのに、本はお兄ちゃんにしか読めせん。図書館にやって来るお客さんも居ません。それに、毎日食事が出るのに、キッチンはとても綺麗で使っている感じがしません。お風呂もありますが、お兄ちゃんは入っていません。それなのに、お兄ちゃんは汚れていません。この図書館にはおかしな事がよく起きますが、今の私はここで凄すしかありません。外に出たらお兄ちゃんに怒られてしまいます。いつかは外に出たい。でも、そんな日は来るのでしょうか…。』
リアはそこまで日記を書き上げた後、天井を見上げた。リアの部屋は一人で過ごすには充分な程に広い。それなのに、リアは狭い場所に押し込まれているかのように窮屈に感じていた。
リアは毎日小さな窓から外を眺めていた。図書館の外は魔物が棲むといわれる深い森だ。昼でも薄暗く、時折何かの呻き声や叫び声が聞こえる。何故、このような不気味な場所に図書館が建てられたのだろうか。そして、自分達はそこで暮らしているのか、リアには分からなかった。