闇夜の中の図書館
…それは、今より昔、怪異が人々の身近に居た頃の話だ。人里から遠く離れた場所に森があった。その森には怪異、特に魔物が居るとされ、人々は無闇に近づこうとしなかった。
その森には大きな洋館があった。その中は図書館になっており、本が棚に所狭しと並んでいた。だが、誰一人とその図書館に来る者は居なかった。
その図書館には二人の子供が居た。一人はレオンという十四歳の少年だった。彼は図書館の司書で、広間や書庫で本を管理していた。
もう一人はリアという五歳の少女だった。彼女はレオンの妹で、図書館の二階にある部屋に籠っていた。レオンはリアの事をとても大切にしていた。リアの為にと何処からともなく服や食事や玩具を用意してくれるのだ。そうだというのにレオン自身は寝食を忘れて一階で仕事をしていた。
この図書館に居れば、綺麗な服も美味しい食事も手に入る。図書館は立派な建物だから寝ていたとしても魔物に襲われる心配はない。両親は既に亡くなっているが、優しい兄が居る。何不自由ない生活だった。だが、リアは退屈だった。
リアがいつも読んでいる本には森の向こう側にある世界の事が書かれてあった。リア達兄妹や両親は元々その世界の住民だったはずだ。それならば、その世界に行きたいとリアは思っている。
ところが、優しいレオンはリアが外に出るのを厳しく止めるのだ。リアが外に居る魔物に食われたらいけない。レオンは図書館の扉と窓を全て閉め切ってしまった。
そんな事があってから、リアはレオンに外に出たいと強く言い出せなくなってしまった。リアは自分の部屋にずっと籠っていた。部屋の本棚にある本は全て、読み切ってしまった。玩具も遊び尽くしてしまった。暇で退屈なリアは、白紙の本に日記を書く事にした。毎日の何気ない日々を書いた。文字は読んでいた本を参考に見様見真似で書いた。最初は難しかったが、三日経つと慣れた。
自分で文字を書くのは面白かった。有る事だけでなく想像した事も書く事が出来た。リアは外の世界がどうなっているのかずっと考えていた。リアの想像に過ぎないが、きっとこの図書館よりも素晴らしい世界が広がっているに違いない。
いつか、本当に外に出て陽の光を浴びられたならば、どれほど嬉しいだろう。リアはそう夢を見る。記憶が朧気な頃、両親とレオンと一緒に野原を駆け巡った事がある。あの時のようにリアは自由になりたかった。だが、レオンはそれを許さなかった。
レオンはリアを異常に大切にしている。その愛情は深く、リアが重たく感じる程だ。自分の兄ではあるが、何故ここまで大切にされているのか、リアには分からなかった。