01 アイネ
『リヴァイス 04 召喚脱落者と女神の旅』の別視点の物語です。
お楽しみいただければ幸いです。
私の名はアイネ。
なぜか小さい頃から冒険と縁があった。
お母さんとふたりっきりで人里離れた森の中をさまよったり、
いろんなところでいろんな悪漢に襲われたり。
その度に大勢の人が助けてくれた。
知ってる人、知らない人、本当にたくさんの人たちのお世話になった。
いつか私も誰かの手助けができる人になれたらなってずっと思ってた。
子どもの頃に住んでいた家はとても大きくて、いつも大勢でにぎやかに過ごしていた。
みんな本当にすごい人たちばかりで、お勉強もお作法も冒険に必要なあれこれも、家にいながらにして一流の教育を施してもらえたと思う。
教育とかって言っちゃったけど、家のお手伝いをしながらとか一緒に遊びながらとか、何というか自然と覚えちゃったって感じかな。
冒険者になってみんなみたいに誰かを助けてあげたいって言ったら、家族みんなが祝福してくれた。
みんなみたいに超一流じゃなかったからちょっぴり不安だったけど、その時自分ができる精一杯をすれば良いんだよって笑顔で送り出してくれた。
ソロ冒険者になっての自由なひとり旅、思い通りに動けた時はありがとうって言ってもらえたり、失敗しちゃって野営のテントの中でひとり泣いちゃったり。
手を引いてもらったり後押ししてもらったりの子どもじゃなくて、自分の意思・自分の責任で動くソロ冒険者の冒険活動は、苦労も楽しいこともいっぱいあったと思う。
冒険者ギルドで自分の評価が上がっていくのは、最初はとても誇らしかった。
自分が全力で取り組んできた成果が、目に見える形で評価してもらえたのだから。
それなのに、冒険者ランクが上がるにつれて何かが少しずつおかしくなっていった。
それまでと同じように振る舞おうとするとランクを理由に断られたり、
人助けよりも栄誉や名声を優先させられたり。
周囲の人たちの顔ぶれも変わっていった。
ずっと親しくしてくれてた人たちが遠慮しだしたりよそよそしくなったり。
私個人のことを見てくれないで、ランクや人づての評判のことばかり話題にするような人たちが寄ってきたり。
本当は家族や仲間たちに相談したかったけど、どうしてもできなかった。
冒険者したいって飛び出したのに、自分の弱いところを見られたくなくて意地を張ってしまったんだと思う。
私の気持ちを無視して近づいてくる人たちの気持ち悪い笑顔に囲まれたり、
自分たちのランクを鼻にかけて仲間にしてやるよとか言いながらどんなに断ってもしつこく誘ってきたり、
ランカーの責任とか言って、やらなくて良いような依頼を強制的に押し付けられたり、
勝手に私の名前を使って迷惑行為や犯罪行為を繰り返されたり。
もう、我慢の限界だった。
冒険者ギルドの年間最優秀ランカーの表彰式。
大っ嫌いな連中がいっぱい集まって気持ち悪い笑顔で私を見てる前で、
表彰状を宙に飛ばして剣でメチャクチャに切り裂いてやった。
唖然としているそいつらの前で、拡声魔法でこう言ってやったんだ。
「お前らみんな大っ嫌いだから、冒険者ギルドなんかたった今やめてやるっ」
悪は絶対許さない、正義で良い子ちゃんのトップランカーは、
ギルド冒険者たちの一番の晴れ舞台でご乱心してじゃじゃ馬フリー冒険者になりました。
舞台を駆け降りて階段を駆け上がってギルド本部の屋上から王都の景色を見回していたら、
今までに無いくらいに胸がスーッとした。
息が続くかぎり思いっきり叫んでから、
屋上から飛び降りて、
すっごく気持ちいい風を感じながら、
転送魔法で王都の郊外へ飛んだ。
先のことなんて考えないで行動したのってすごく久しぶりだった。
何だか、昔のことを思い出していた。
お父さんたちみんなと、初めてお家の中広間で家族全員で眠った時のこと。
すっごく安心しているのにすっごくわくわくしてたあの日のこと。
やっぱり、冒険者なら冒険しなくちゃね。