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67話 青い迷宮

※誤字報告、助かります。ありがとうございます!

   †  †  †


 無人島についてから翌日、岩井駿吾(いわい・しゅんご)は発見されたダンジョンの入り口にいた。島の洞窟、その奥に下へと続く階段があったのだ。


『足元にお気をつけを』

「あ、うん……ありがと」


 南斗の手を借りてダンジョンの入り口まで降りた篠山(しのやま)かのんは、呆然と駿吾の方を見る。


「……なにか、すごく強くなってるねー」

「えっと……はい」


 あの『新宿迷宮』での成長を知らなければ、駿吾のモンスターたちの姿はまったくの別物にしか見えないだろう。


「北斗に南斗、アステロペテスはかのんさんの護衛をお願い」

『心得た』

『お任せを』


 牛の仮面の北斗と馬の仮面の南斗が駿吾の言葉に頷き、アステロペテスはかのんが持ち込んだ機材を背に背負う。アステロペテスの右肩に腰掛けたかのんは上機嫌だ。


「うっわ、快適ですよ! いやー、やっぱり持つべきは優秀な召喚者(サマナー)ですねっ」

『乗ってるなぁ、調子に』

「あはは……」


 ボレアスの率直な感想に、駿吾も笑うしかない。この場に来ているのは、駿吾と調査員のかのん、そして監視役の藤林紫鶴(ふじばやし・しずる)のみだ。他のメンバーは、外で待機である。


「こほん、とにかくまずはこのダンジョンでわかってることを改めて説明するね」

「……はい」


 かのんは気取った咳払いをひとつ、説明を始める。昨夜の内に――みんなでキャンプ気分で作ったカレーを食べながら――受けた説明を、もう一度再確認する。


「この無人島でダンジョンが発見されたのは、五日前。小笠原諸島を調査する探索者(シーカー)は、地下二階まで確認して引き返してるの」

「……マーフォークの数が多くて、ですよね」

「うん。これは自分たちで手に負えないかもってことで改めて探索者協会(シーカーズ・ギルド)に別の探索者を派遣してもらおうって流れ」


 これも決して珍しいことではない。FランクやEランクのダンジョンであれば、問題なくダンジョンの発見者が探索しきれることも少なくないが、Dランク以上となると相応の準備がいる――無理をしない、というのも探索者の立派な資質だ。


『マーフォーク……半魚人だっけか?』

「うん、基本はEランクモンスター。でも、ゴブリンとかスケルトンとかに近い習性があって結構、職業的な進化をして群れを形成するの。その上、最弱でも水系統の魔法が使えるのが特徴だね」


 一体一体でなら問題はないが、連携を取ってくる敵と言うのは厄介だ。かのんの解説に、背伸びして手を上げたのは村雨だ。


『かのん、かのん』

「はい、なんですか? 村雨くん」

『すぐに破壊しないのは、なんで?』


 小学校の先生と生徒のようなやり取りをするかのんと村雨、その時にあげた村雨の疑問は駿吾も思っていたものだ。


「無人島、だから、管理も大変ですよね? なら、すぐに破壊した方がいいのでは?」

「うんうん、もっともな疑問です。問題は、このダンジョンが発見されたばかりでどんなモンスターがいて、どんな資源が取れるかわかんないから――なの」


 例えば、他のダンジョンでは生息していないような貴重なモンスター。あるいは、希少な鉱物や植物群、今後活用できるかもしれないなにかが入手できるとすれば? それはこの無人島を開発し、人が住み着いてでも維持すべき“価値”があるからだ。


「言ってしまえば、そうだね――()()()()()かな」

『おとな、の……?』

『身も蓋もねぇ』


 かのんの簡潔な言葉に、村雨は理解できずに小首を傾げて理解できたボレアスなどは苦笑いするしかない。


「わたしたちがするべきは、ただ調査することだけだから。まずは今日のところは地下二階まで行ってみよう。で、その後のことはその調査結果で決めよっか」


   †  †  †


「……うわ」


 階段を降りて地下一階へ踏み込むと駿吾は思わず息を飲んだ。ダンジョンの壁、その一部が透けて海が直接見えていたからだ。


『主君、魚! 魚だぞ!』

「う、うん……水族館みたいだけど、これは……」


 泳いでいる魚を見つけてはしゃぐ村雨の隣で、駿吾が戸惑った声をこぼす。よく水族館で海をイメージした水槽、というのがあるが、それとはまったく別物の光景が広がっていた。どこまでも広がる、本物の海――その迫力と圧力は、言ってしまえば圧巻だ。


「すごい、引き込まれそう、だね……」


 初めて空を飛んだ時と似た、しかしまったく別物の感動がそこにはあった。空のそれを開放感とするのなら、海のそれはただただ青く満たされている圧迫感がある。


「……怖いぐらいに綺麗、だね」

「観光地になりそうだよね、これ」


 駿吾の感想に、かのんが呑気に答えたその時だ。通信端末が、ピロリンと音をさせた。


『岩井殿、マーフォークです』

「うん、ありがとう」


 紫鶴からの『ツーカー』のメッセージに、駿吾はヒタヒタとこちらに向かってくるいくつもの足音を聞いた。それに“魔導書(グリモア)”を手に、駿吾はボレアスを見上げた。


「今は、ボクたちを守っててもらえるかな? ボレアス。最初は村雨と阿形、吽形に頼みたい」

『小手調べとしちゃ悪くないな、心得た。主たちには指一本触れさせねぇよ』


 ボレアスが頷き、村雨を見る。名指しで指名され、やる気になった小柄な悪鬼は小太刀を抜いて前に出た。


「――《召喚(サモン)》」


 駿吾の召喚に応じたのは、二体の悪鬼だ。一体は大具足を身に纏った大柄な悪鬼である阿形、そしてもう一体は純白の巨大狼に乗った小柄な悪鬼だ。


   †  †  †


【個体名】吽形

【種族名】悪鬼・騎兵

【ランク】B

筋 力:C (B+)

敏 捷:C+(A+)

耐 久:C (B+)

知 力:‐

生命力:C (B)

精神力:D (D)



種族スキル

《小鬼の群れ》

《小鬼の統率者》


固体スキル

《騎乗》:B

《悪鬼の血統》

《武装:具足》

《熟練:槍》:B

《熟練:弓》:B

《乗騎:真神》


   †  †  †


 かつてゴブリン・ライダーだったゴブリンは吽形と名付けられ、その乗騎もグレイウルフから真神という純白の巨大狼に進化した。その機動力は、Bランクのモンスターの中でも高い。

 三騎の悪鬼が身構える中、一〇体の魚類と人を融合させたようなモンスターたちが姿を現した。マーフォーク、その名の通り半魚人の群れである。その手には簡素な槍を持っており、ダンジョンへの侵入者と見ると襲いかかってきた。


 否、正確には襲いかかろうとした。


『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 阿形が、咆哮を上げる。《悪鬼咆哮》、その叫びは聞く者の身をすくませ、震え上がらせる――マーフォークたちが息を飲んだそこへ、吽形が槍を構えランスチャージの要領で先頭のマーフォークを刺し貫いた。


『――ッ!!』


 マーフォークたちが、水の魔法で反撃しようとする。ギュル、と水が生み出され槍に変わる、それを防いだのは跳躍した村雨の小太刀による一閃だ。


『させない』


 振り払った刃を返し、村雨は一体のマーフォークに小太刀の切っ先を突き刺す――直後、駆け寄ってきた阿形の大金槌の横払いが、マーフォークたちを薙ぎ払った。


 ――個々の実力が段違いだ。悪鬼三体は、一分もかからず一〇体の半魚人を蹂躙した。


   †  †  †


【個体名】なし

【種族名】マーフォーク

【ランク】E

筋 力:E

敏 捷:E

耐 久:E

知 力:‐

生命力:D

精神力:D


種族スキル

《水陸適応》

《魚人泳法》:E


固体スキル

《習熟:槍》:F

《習熟:魔法:水》:E


   †  †  †


 データだけを見れば、魔法が使えるスケルトンに近い。魔石を“魔導書”に取り込み、マーフォークのデータを確認して駿吾は呟いた。


「……《魚人泳法》?」

「水中での行動が有利になるっぽいんだよね、マーフォーク。ダンジョンでも水中にいる場合は油断しない方がいいよ」

「はい、気をつけます」


 かのんの忠告に駿吾は頷く。改めて、マーフォークたちを呼び出すと駿吾は言った。


「……よし。行こう、みんな」


   †  †  †

海の底って、こう、本能に訴えてきますよね、あれ。


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