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64話 その瞳が見るものは――

※連載再開しました!

※お待たせしました!

   †  †  †


 探索者協会(シーカーズ・ギルド)日本本部にある闘技場。そこで二体の悪鬼が向き合っていた。

 一体は悪鬼・剣豪――村雨だ。


   †  †  †


【個体名】村雨

【種族名】悪鬼・剣豪

【ランク】B

筋 力:B (B+)

敏 捷:A+

耐 久:C (B)

知 力:‐ (B)

生命力:B+

精神力:B+



種族スキル

《悪鬼の英傑》


固体スキル

《覚醒種》:B

《悪鬼の血統》

《武装:具足》

《習熟:佐士一刀流(さじいっとうりゅう)》:A

《習熟:弓》:B

《常在戦場》

《怪力》:A


   †  †  †


 その大きさはゴブリンの頃から変わらない。だからこそ持ち味は身を低く構え、止まらずに駆ける機動力だ。


 対する悪鬼は、身の丈二メートルはある大型のゴブリンだ。その肌の色は浅黒い緑であり、村雨が軽装な具足であるのに対し全身を大鎧で固めた重装甲だ。だからこそ、村雨は攻めあぐねいていた。


『眺めているだけでは、終わらぬぞ―?』

『わかってる』


 闘技場の片隅からからかう雪娘(スネグーラチカ)の声に、村雨は短く答える。だが、巨大な大金槌を持った巨体の悪鬼に迂闊に攻め込めば、振り下ろしの一撃で全身潰されるのも目に見えていた。


(思い出せ、ヒサメと――シグレの動きを)


 村雨にとっての剣術の師である御堂沢氷雨(みどうさわ・ひさめ)と、その兄であり更に遠くの境地に至る御堂沢時雨(みどうさわ・しぐれ)――あのふたりなら、どう相対するのか? その村雨の《覚醒種》としての自我、貪欲なまでに強さを求める想いがその思考へと至らせる。


 右へ、左へ。相手の狙いを絞らせない。上から下への重量級の一撃は威力と速度はあるが、軌道は単純だ。だから、相手に一度空振りさせる――その上で、次の一撃を許さずに鎧の隙間へ斬撃を繰り出す。それが最善手であり、今の村雨にはそれしか攻略法がない――。


(だから――()()()()


 だからこそ、村雨が選んだ一手は単純だ。まっすぐ、懐へ飛び込む!


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 だから、大型の悪鬼の対応もまた単純だ。ただただ。全身全霊で大金槌を振り下ろす!


『おおうっ』


 スネグーラチカが小さく身をすくませる。それだけの轟音と振動が、闘技場を揺るがしたのだ。大型悪鬼の大金槌の振り下ろし、それが放たれ床を打ったのだ。


『――ッ!』


 村雨が、右手のみで小太刀を構える。回避が完全ではなかった、左腕は大金槌がかすっただけで具足の大袖部分が砕かれだらりと力なく下がっている。それでも村雨の瞳は死んでいない。渾身を込めて跳躍、悪鬼の首元へ小太刀の切っ先を繰り出し――。


『おっと、そこまで』

『おう!?』


 それを止めたのは荒々しい風と力強い思念だった。風に動きを取られ、小太刀の軌道が変わる――大型悪鬼の首元に届く前に、大きく逸れた。


「……本当に強くなったね、村雨に()()

『お、主君! もういいのか?』


 闘技場にやって来ていた岩井駿吾(いわい・しゅんご)に、村雨が駆け寄る。その左腕を見て、駿吾は苦笑した。


「怪我をしないように稽古してねって言ったのに……」

『あ』


 忘れてた、と村雨が声を上げる。村雨の無邪気なその態度と大金槌を肩に担いでやって来た大型悪鬼、阿形を見上げて駿吾は言った。


「一度、戻すよ? 怪我を治すためにも」

『おう!』

『…………』


 村雨が元気よく答え、大型悪鬼がひとつ頷く。それを確認して、駿吾は“魔導書(グリモア)”に二体を送還した。


   †  †  †


【個体名】阿形(あぎょう)

【種族名】悪鬼・狂兵

【ランク】B

筋 力:B+(A+)

敏 捷:D (C)

耐 久:C (B+)

知 力:‐

生命力:A (A+)

精神力:D (E-)



種族スキル

《小鬼の群れ》

《狂戦士化》:C


固体スキル

《熟練:鎚》:B

《悪鬼の血統》

《武装:大具足》

《怪力無双》

《悪鬼咆哮》


   †  †  †


 悪鬼・狂兵――元はゴブリン・バーサーカーだ。駿吾が丁寧に鬼やオーガなど大型の鬼種を使い《進化(エボルブ)》させていった結果である。

 村雨から見ればゴブリン・ライダーよりも役割が被っている分、好敵手(ライバル)として見ているのだろう。互いに競い切磋琢磨する関係となっていた。


『どうじゃ? ()()の調子は?』

「あ、うん。大丈夫だよ」


 歩み寄って手を握ってくるスネグーラチカに、駿吾は答える。そのコートのフードに隠された顔にはいつもの犬の仮面はなく――代わりに、左目を覆う眼帯があった。


   †  †  †


 あのアステリオスとの戦いの際、藤林紫鶴(ふじばやし・しずる)が駿吾を助けるために限界以上に浄眼を使用した、その結果が今の駿吾の左目である。


 雷化していたならまだしも、生身の部分を消し飛ばす――アステリオスほどのモンスターに対してそれを可能とするほどの過剰な出力は、今の紫鶴には耐えきれなかった。その代償としての負荷を、駿吾は無意識に引き受けていたのだ。


 そして、駿吾の左目は()()()()


   †  †  †


 その目の検査に探索者協会日本本部に来ていたのだが――駿吾からすれば、異常どころか便利なものだった。


「……眼帯越しにも見えるんだ、これ。前よりもよく見えるようになったし」

『それは魔眼と化したからじゃよ。逆に見えすぎて、脳に負担がかかってしまうんじゃから見ようとするな』


 すごいよね、と感心する駿吾に、スネグーラチカは呆れる。呪いによって得た超視覚は、決して良いものではない。過剰な性能など、それこそ無用な長物……人間に過ぎた力は、身を滅ぼすものだ。


 そんな背後で、沈んだ気配がする。《隠身》で姿を隠した紫鶴がそこにいるからだ。


「えっと、気に、しないで? 大丈夫だから」

『はい』


 返答は短いが、レスポンスはいつもよりわずかに遅い。気にしているのは、明白だった。それもそうだろう、あの場で生命を助けられ、あまつさえ自分が受けるはずだった負荷を駿吾に背負わせてしまったのだ――気にしない方が、おかしいのだ。


 駿吾としてはむしろ紫鶴を助けられた証だと思えば、いっそ――。


『――とはいえ、悪くはねぇだろ。オレはあの呼び方は良いと思うしな』

「ああ……」


 ボレアスの念話に、駿吾は無意識に眼帯に触れていた。自分の中にこみ上げるのは、自嘲の想いだ。


「過ぎた名前だと思うけどな……」

『それに似合うぐらいになろうって目標にできりゃあ充分さ』


 四人目――“ヘルラ王の後継者”。《ワイルド・ハント》。そして、“ヘカテ”――彼女のコードが秘密裏にだが、探索者協会で正式に認定された。

 だからこそ、三人目である駿吾にも識別呼称(コード)が与えられた。


「コード“()()()()()”か……」


 それは北欧神話の主神オーディン。奇しくも夜と魔術、月の女神である“ヘカテ”と対を成すように魔術と叡智、そして戦と死を意味する嵐の神の名だった。


   †  †  †

アーサー対ヘルラが王対決であったように、ヴォーダン対ヘカテの神対決の構図となります。



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― 新着の感想 ―
[一言] 阿形なぁ・・・てことは対の吽形もいるのかな?阿形が槌だから吽形は斧とか? 呪いによる魔眼化なぁ・・・見えすぎるってことはまぁ、見えないよりはマシなんじゃないかな?見えすぎて脳にかかる負担が〜…
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