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6話 人は見たいものを見る生き物です

第一章、本番のスタートです。

   †  †  †


 御堂沢氷雨(みどうさわ・ひさめ)は高校生になったのと同時にこの春、探索者(シーカー)になったばかりの一五歳の少女である。


「先輩、アレは?」

「ああ、先に挑んでいる“先客”がいたか」


 氷雨の呼びかけに、臨時のパーティリーダーである男がそう答えた。霊園墓地跡に生まれたDランクダンジョン『六道迷宮』の一階、その最終フロア。目的は一階の探索とフロア・ボスである牛頭鬼(ゴズキ)の見学――だったのだが。


『ブルゥ!』

『ブルァ!』


 牛頭人身の鬼と馬頭人身の鬼が、足を止めて殴り合っていた。唸りを上げる岩の斧と棍棒、その激突音は墓地の外縁部にいる氷雨たちにも聞こえるものだった。


「あれは牛頭鬼(ゴズキ)と……馬頭鬼(メズキ)ですね。Dランクモンスター同士の激突とは、圧巻ですね」


 そう呟いたのは臨時パーティのひとりで、召喚者(サマナー)の女性だ。彼女もパーティリーダーと同じくDランク探索者で、探索者になったばかりの氷雨のような新人の補佐のために加わっていた。

 離れた場所に立っている黒い人影を見つけると、リーダーの男は唸るように呟く。


「……見ない顔だな。Dランクモンスターを扱っているあたり、最低でも中級者だと思うが――」

「いえ、同時にガーゴイルとスケルトンを三体使っています。五体を同時に使役しているとなると、最低でも《召喚》スキルはランクBはあるはずです」

「げ、ならBランク以上の上級探索者じゃないか! こんなDランクダンジョンではなくもっといいダンジョンに行けって」

「おそらく、目的はあの牛頭鬼との契約では? 牛頭鬼と馬頭鬼は、二体でセット運用するとランク以上の働きをしてくれますから――」


 先輩探索者たちは、傍観を決め込むことにしたらしい。フロア・ボスと先に戦っている探索者――業界用語で言うところの“先客”だ――がいた場合、順番を待つのがマナーである。


「ま、いいか。ちょうどいい、おーい。戦闘を見学させてもらうぞ。いい機会だ。あのレベルのモンスター同士の戦いなんてそうそう見れるものじゃない。よく見て学んでおけ」

『はい!』


 新人たちがリーダーの男の声に、元気よく返事する。探索者というのは、世間で言うところの体育系なのだ。


(……すごい)


 牛頭鬼と馬頭鬼の激突は、凄まじい。地響きが遠く離れた氷雨のブーツ越しにも伝わってきた。知らず知らず、氷雨の手は腰に差した打刀の柄頭に伸びてしまう。自分ならあの化け物たちとどう相対するだろうか? そう考えながら見るが、今の自分の腕前では攻略の糸口も見えそうになかった。


『ブォオ!』


 徐々に牛頭鬼が馬頭鬼を押し出した。遠目に見ても牛頭鬼の方が一段階も二段階も上だ――おそらく、あの牛頭鬼がフロア・ボスとしてダンジョンからの補助を受けているからだろう。


「――!」


 そこへ、上空からガーゴイルが急降下。左踵を豪快に牛頭鬼の頭上へと落とした。体勢を崩す牛頭鬼、そこへ左右から大盾を構えた剣を持つスケルトンと槍を構えたスケルトンが襲いかかる。


(――上手い)


 氷雨は岩の棍棒で迎撃しようとした牛頭鬼へ踏み込み、その手首を盾で受け止めたスケルトンに舌を巻いた。武器を振るう場合、振り切る前に間合いを詰められ止められれば威力は半減、ましてや武器ではなく手首を受け止められたらお手上げだ。牛頭鬼の動きが止まったそこに、もう片方の槍を構えたスケルトンが執拗に片足の太ももを突き続けた。


『ブモォ!!』


 たまらず下がろうとする牛頭鬼に、遠距離から弓を装備したスケルトンが矢を放つ。牛頭鬼はそれを岩の棍棒で受け止めるが、その隙にガーゴイルの爪先が牛頭鬼の顎をサッカーボールキックで蹴り上げた。


『――ッ!?』


 大きくのけぞる牛頭鬼の胴へ、馬頭鬼が石の斧を何度も薙ぎ払う。脇腹を深く切り裂かれてくの字になる牛頭鬼へ、スケルトン二体の剣と槍が執拗に四肢、その末端を攻めていった。


「うわぁ……」


 だれかが、ドン引いた声を上げる。それほど見事な連携だった。真正面から馬頭鬼が足を止めてタンク役に徹し、剣と槍のスケルトンが四肢を攻撃して動きを鈍らせる。更にそこに頭上からガーゴイルが的確に牛頭鬼に痛打を与えるのだ……まさに、一方的なフルボッコである。

 それに加え、距離を取って状況を整えようにも弓のスケルトンが虎視眈々と狙っている――教科書に乗せたくなるような連携だ、と氷雨などは感心した。

 ……なお、氷雨は知らないが本当に召喚者の戦術指南書に載っている戦術をなぞっているだけなのだが。


「決まったな」

「ですね」


 先輩たちふたりは、もう決着を確信したようだった。氷雨も、そこには同意する。

 ほどなくして、馬頭鬼とガーゴイルの地上と空中のコンビネーションで牛頭鬼の巨体が地面に崩れ落ちた。


   †  †  †


 岩井駿吾(いわい・しゅんご)は、地面に落ちた大人の拳大の黒い水晶球、魔石を拾った。それを“魔導書(グリモア)”の表紙に乗せると、光の粒子となって“魔導書”に溶けるように消えていった。


「――《召喚(サモン)》」


   †  †  †


【個体名】なし

【種族名】牛頭鬼

【ランク】D

筋 力:D+

敏 捷:D-

耐 久:D

知 力:‐

生命力:D

精神力:D+


種族スキル

《地獄の獄卒:牛頭鬼》


固体スキル

《習熟:棍棒》:D


   †  †  †


『ブルゥ!』

『ブルル!』


 光とともに現れた牛頭鬼と共に、馬頭鬼がいなないた。よくよく見れば馬頭鬼の方は耐久に『+』が、牛頭鬼には筋力に『+』がある――攻撃の牛頭鬼と防御の馬頭鬼というバディのようだ。


『ほい』


 ガーゴイルが開いた右手を見せる。それに犬の仮面ごしに怪訝な表情をした駿吾に、ガーゴイルは言った。


『ほら、やったぜってハイタッチだって』

「あ、うん……」


 それに答えて、駿吾はパン! とガーゴイルに右手でハイタッチ。その掌に残る感触が、一仕事終えたのだという実感を駿吾にくれた。


『おい、主。どうやら、見学者だぜ』

「……え?」


 ガーゴイルに言われて振り返ると、そこには近づいてくる探索者の一団がいた。一団は総勢八人、その中で最年長だろう男が声をかけてきた。


「すまない、新人の引率中でね。見学させてもらった」

「……ウス」


 小さく、ボソリと犬の仮面越しに駿吾が呟く。もしも街中の通りですれ違ったら間違いなく俯いて道を譲るタイプの人だ。おそらく男がリーダーなのだろう、一瞬だけ仮面に驚いたようだが、そこはスルーしてくれる。探索者には奇妙かつ奇抜な人間が多いので、慣れているのだ。

 リーダーの男は、パーティを代表して改めて口を開いた。


「牛頭鬼を倒してもらったんで、二階に行ける状況になっただろう? 後の経験のために少しだけ二階を見せてやりたいんだ。いいかな?」

「……こっちの、用事は終わった、ので」


 駿吾が道を譲ると、ガーゴイルや馬頭牛頭、スケルトンたちも道を空ける。それにありがとうと礼を言ってリーダーと落ち着いた女性が続くと、残る六人も後についていく。


(うわ、若いなぁ)


 その中のひとり、長い黒髪を軽く後ろで結った刀を腰に差したライダースーツに似たボディアーマー姿の少女を見て駿吾は思った。もちろん、自分を棚に上げている自覚など彼にあるはずもなく――。


(……ありがとう、仮面)


 仮面がなければ、その姿を見ることもできず目を伏せていただろう。そのぐらい、綺麗と呼ぶのがふさわしい少女だった。いや、違うか。容姿に関係なく、人の顔を見れないか、ボク。


 モンスターに見られながら歩くのは、新人探索者は生きた心地がしなかったのだろう。その少女以外の五人の男女はおどおどと歩いて、二階へと下っていった。


「……戻ろうか」

『おう。帰り道に出会ったヤツは倒しておくか』

「そうだね」


 このDランクダンジョンの一階ではオーバー・キルな仲間たちを引き連れ、駿吾は出口に向かって歩き出した。


   †  †  †


(随分と若い声だったな)


 氷雨は周囲への警戒を怠らず、そう思い返した。それこそ自分に近しい一〇代後半か、どんなに言っても二〇代前半くらいだったろう。あれだけの実力がありながら横柄さはどこにもなく、穏やかで謙虚ささえ感じられた――おそらく、人間のできた先輩探索者なのだろう。


(……私も負けていられないな)


 おそらく自分よりもはるかにランクが上だろう相手にそう思えるだけの向上心が氷雨にはあった……彼女が、彼が自分と同じ新人探索者だと気づくのは、もう少しだけ先のことだった。


   †  †  †

《召喚》スキルは

F=一体

E=二体

D=三体

C=四体

B=五体

A=八体

S=一〇体

が同時に召喚できるモンスターの数となります。もう、三〇体以上召喚できた駿吾のおかしさがこれでわかっていただけると嬉しいところ。



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― 新着の感想 ―
[一言] スケルトンのダンジョンでコアを破壊する前に、ナカマにするー合体ーナカマにするー合体、を繰り返せば高レベルのスケルトン数体にはなれたかもw。
[一言] 「教科書に載せたいような」からの「教科書の真似であった」は地味に初めて見た気がする。
[気になる点] いななくってヒヒィーン!みたいなので、ブルルゥ!みたいなのは違うんでは?
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