57話 “S”ランクダンジョン『新宿迷宮』7
※誤字報告、大変助かっております!
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――Sランクダンジョン『新宿迷宮』五〇階。
そこは正しく、決戦場だった。ただ広い空間、その中心にアステリオスが一体立っている――それだけの場所。
『下に降りれば、あのアステリオスが襲ってくるじゃろう。準備を整えてから下ることじゃな』
「……うん」
スネグーラチカの警告に、岩井駿吾は静かに頷く。広げるのは“魔導書”――まるで一体一体を刻み込むように、告げた。
「――《召喚》」
その呼びかけにまず応えたのは、一体のガーゴイルだ。
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【個体名】ボレアス
【種族名】ガーゴイル・ストームルーラー
【ランク】S
筋 力:A+(S+)
敏 捷:A (A+)
耐 久:A+(S+)
知 力:‐ (A)
生命力:A+(S+)
精神力:A (A+)
種族スキル
《魔除けの守護像》
《擬態・石像》:A
《合成獣》
固体スキル
《覚醒種》:A
《嵐が王》
《貪り尽くす北風》
《真理の外殻:クロム》
《真理の武装:クロム》
《剛力無双》
《高速再生》
† † †
外見そのものに変化はない――しかし、その場に立つだけでボレアスが発する威圧に感嘆の声をこぼすのはセンチュリオンだ。
『――見事です。これほどに至るとは』
『ようやくお前に並んだってとこだけどな』
センチュリオンと同じく、世界に認められSランクに到達したボレアスの強化は凄まじい。おおよそ考えられる、ここに至るまででボレアスに注げる強化は施した――特に《嵐が王》の効果は筆舌に尽くし難い。
『主――《ワイルド・ハント》のスキル、その影響下にある者を強化する、か。ま、第一のモンスターの面目躍如だな』
「うん、あてにしてるよ」
そして、ボレアスの横に並ぶのは銀色の牛頭人身のゴーレムだ。
† † †
【個体名】アステロペテス
【種族名】アステロペテス
【ランク】A
筋 力:A (S)
敏 捷:C-(C+)
耐 久:A (S-)
知 力:‐
生命力:A (A+)
精神力:A (A+)
種族スキル
《人造・電光の投擲者》
固体スキル
《習熟:斧》:A
《習熟:投擲》:A
《剛力無双》
《耐性:魔法耐性》
† † †
『ブルゥ』
体長は五メートル、アステロペテスの身体は完全なミスリル製に変わっている。単純な一撃のみならばボレアスにも匹敵し、対アステリオス戦用に対雷撃に特化したタンク兼アタッカーだ。
「……強くなったなぁ」
『ブル……!』
思わずしんみりして撫でる駿吾に、アステロペテスは上機嫌で喉を鳴らす。その間に、ふたつの影が光の粒子の中で揺らいでいた。
「うん、じゃあ――名付けるね」
そう言って、駿吾はふたつの影に呼びかける――その内のひとつが、先に膝を折って控えた。
「牛頭鬼、キミは北斗――丑の方角、北の獄卒」
『――御意』
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【個体名】北斗
【種族名】獄卒・牛頭鬼
【ランク】A
筋 力:A+(S+)
敏 捷:B-
耐 久:A (A+)
知 力:‐ (B)
生命力:A
精神力:B+
種族スキル
《地獄の獄卒:牛頭鬼》
固体スキル
《覚醒種》:B
《習熟:棍棒》:A
《獄鬼の羅刹:獄炎》
《剛力無双》
† † †
そして、もう一体の影もまた膝を折る。
「馬頭鬼、キミは南斗――午の方角、南の獄卒」
『――御意』
† † †
【個体名】南斗
【種族名】獄卒・馬頭鬼
【ランク】A
筋 力:A (A+)
敏 捷:B-
耐 久:A+(S+)
知 力:‐ (B)
生命力:A+
精神力:A+
種族スキル
《地獄の獄卒:馬頭鬼》
固体スキル
《覚醒種》:B
《習熟:斧》:A
《獄鬼の夜叉:獄氷》
《金城鉄壁》
† † †
光の粒子が収まった時、そこにいたのは体長三メートルほどのふたりの巨漢だ。姿形は大きいだけで、すっかり人のそれだ。武者鎧に身を包む、牛の面を被った羅刹と馬の面を被った夜叉――その肌の色だけが、かつての牛頭鬼と馬頭鬼を連想させた。
「……名付けしたら、姿形もすっかりと変わっちゃったけど――」
『構いませぬ。我ら、その魂の本質は王に形作られた者――』
平伏したまま、南斗が答える。仮面越しにくぐもりはしても、涼やかな男の声だった。そして、隣の北斗もまた低く岩をこすりあわせた野太い声で返した。
『今まで以上に、我ら身を粉にして戦働きする所存。どうか、ご期待あれ』
「う、うん……」
急に流暢に話されると、それ相応に驚きが勝る――だが、怯むことなく駿吾は頷きで返した。
『主君主君!』
そして、そこにひとつの小柄な影が降りてくる。一緒に現れたのは、御堂沢時雨だ。駿吾は改めて、時雨を見た。
「……どうでした?」
「どうもこうも――約束通り、一〇本中、まがりなりにも一本を取られたからね。認めるしかないよ」
この場に坂東左之助が残っていれば耳を疑っただろう。時雨相手に一〇本中一本取れるかどうか? その条件なら、左之助では殺し合いの中でしか試せない――技術だけなら、Aランク探索者でも指折りのトップクラスということだ。
『ヤクソクだから、オレ、加わるぞ!』
「――うん、そうだね。村雨」
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【個体名】村雨
【種族名】悪鬼・剣豪
【ランク】B
筋 力:B (B+)
敏 捷:A+
耐 久:C (B)
知 力:‐ (C)
生命力:B+
精神力:B+
種族スキル
《悪鬼の英傑》
固体スキル
《覚醒種》:C
《悪鬼の血統》
《武装:具足》
《習熟:佐士一刀流》:A
《習熟:弓》:B
《常在戦場》
《怪力》:A
† † †
ボレアスは簡素ながら具足に身を包む村雨に、からかうように言う。
『大丈夫か? おい。さすがにまだキツいんじゃないか?』
『強くなる、待ってられない。主君の戦い、今、あるから』
「常に戦いは強くなるのを待ってはくれない、か。至言だね」
村雨の答えに、時雨が笑う。一剣士として、その覚悟は見事と褒めるべきだろう。姿かたちこそ変わっていないが、鬼やオーガといった東洋西洋問わず鬼の血統を得た村雨は、ある意味で悪鬼としてゴブリンという枠から逸脱しきった存在だ。
『ギュア!』
そして、黒い飛竜がそこに舞い降りる。駿吾へ頭を垂れるその身は、無数の竜種の組み合わせによって、赤とも銀ともつかない光の線が輝いていた。
† † †
【個体名】なし
【種族名】エンシェント・ブラック・ワイバーン
【ランク】A
筋 力:A-(A)
敏 捷:A+(S)
耐 久:A-(A)
知 力:‐
生命力:B (B+)
精神力:C+
種族スキル
《ティアマトの怪物》
《合成獣》
《竜鱗:黒》:C
《竜の吐息:衝撃波》
《竜の吐息:猛毒》
《竜の吐息:炎》
《古の竜血:赤竜》
固体スキル
《気配察知》:B
《高速機動》:B
《習熟:魔法・風》:A
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『なにか、ピカピカしてる? ワイバーン』
「だ、だね……色々な竜を混ぜたからなぁ」
村雨の感想に、駿吾も戸惑いを隠せない。Aランクにこそなったものの、大きさそのものは変わらない――それでも能力値の上がり方や機動力に関してはかなり跳ね上がっているのは確かだ。
「……これだけ強化しても、安心できないんだよなぁ」
『心配すんなって、勝ち目は充分にあるさ』
心配げな駿吾に、ボレアスが優しく背に触れ請け負った。
――もちろん、自分だけではない。セリーナ・ジョンストンが、センチュリオンの隣に立った。その背後には、他にも強力な召喚モンスターが揃っている。
「シュンゴがそこまで頑張ってくれたもの。大丈夫、私だっているわ」
「……私も、微力ながら……」
笑いかけてくるセリーナと、駿吾のすぐ背後に控えていた藤林紫鶴が告げる。それに、時雨がポンと駿吾の肩を叩いて言った。
「大船に乗ったつもりで挑んでいいよ、岩井君。正直、今、この国でこれ以上の布陣はちょっと私も思いつかない」
「は、はぁ……」
「あれ? シグレ。この国、もうひとりSランクがいなかった?」
そうセリーナが言った、その時だ。おそるおそる、小さく挙げられる手があった。
「……そ、の……ここに……い、ます……」
『――え?』
駿吾とセリーナ、そして《覚醒種》のモンスターたちが驚きの表情で思わず挙手した少女を見る――その身を小さくしてしまった紫鶴に、時雨はとっておきの悪戯を成功させた少年のような笑顔で言った。
「――と、言う訳で。現在、この国の探索者協会最大戦力だ。これで勝てないなら、文字通りお手上げってことで――気張ろうか、諸君」
† † †
この戦力でどう戦うか、次回、戦闘開始です!
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