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51話 “S”ランクダンジョン『新宿迷宮』3

※今日明日は病院等で更新が滞る可能性が高いです、優先してこちらを更新したいですが、ご容赦いただけると助かります。

   †  †  †


 ――Sランクダンジョン『新宿迷宮』二八階。二日目、アステリオス討伐隊は順調に迷宮を攻略していた。


「……やっぱいいですねぇ、《進化(エボルブ)》持ちは」

「は、はぁ……」


 伊神千登勢(いがみ・ちとせ)は、“魔導書(グリモア)”を広げる岩井駿吾(いわい・しゅんご)の手元を見てしみじみと言う。この『新宿迷宮』という長丁場、主力が温存できるのは《進化》で補助役が倒したモンスターの魔石を素材として使用できるからだ。これはレアスキルである《進化》持ちの駿吾とセリーナ・ジョンストンだから使える手だ。

 Aランク探索者(シーカー)たちは、事前にそれを踏まえた報酬は得ている――魔石の稼ぎがなくても、相応の報酬と探索者協会(シーカーズ・ギルド)からの評価が得られる。充分、収支はプラスだ。


「……こちらで、《進化》で……そちらのモンスター、強化しましょう、か?」

「え? 本当!?」

「――場合が場合だ、今回は見逃すが……適度にな?」


 駿吾の提案に食いつく千登勢に、片岡玄侑(かたおか・げんゆう)は指摘する。はっきり言ってスキルのレア度を考えれば、それだけを商売にしてもやっていける有用スキルである。依頼の成功度を上げるためとはいえ、相応の報酬があってしかるべきなのだ。


「……でも、片岡さんの、モンスターはすごい、ですね」

「これぐらいしか召喚に関しては手伝えそうにないからな」


 モンスターが“再出現(リスポーン)”しない場所を拠点に休憩地点を確保する、それも重要なことだ。その上で、玄侑が所持しているモンスターはこれ以上なく有用だった。

 それは鶏の足の上に立つ小屋――スラヴ民話に語られる魔女バーバ・ヤガーの小屋だ。部屋の隅、箒を片手に寝そべる骨と皮のやせ細った恐ろしい容貌の老婆と駿吾は視線が合う。その視線に、駿吾は素直に頭を下げた。


「ありがとう、助かります」

『ゲゲッ』


 それにバーバ・ヤガーが喉を鳴らして笑う。そのやり取りに、玄侑は眼鏡を押し上げながら問いかけた。


「……君は、バーバ・ヤガーの伝承を知っているのか?」

「え? いえ、知りません、けど……その、すみません」

「――いや、謝る必要はない。むしろ、こちらが感謝する」

「は、はぁ……」


 バーバ・ヤガーという魔女は冬の厳しさが擬人化したとされる悪しき存在だ。しかし、関わるべきではないこの忌まわしい魔女は時折、人を助ける。礼儀を知り、善なる魂を持つ者に対しては窮地を救い、導くのだ。

 とはいえ、付け焼き刃や上辺だけの行動では逆にバーバ・ヤガーは気にいらない。召喚して制御下にあるので悪事は行わないが、ここまで機嫌が良くはならなかったろう。


(素でやっているのか、彼は。なるほど、良い少年だ)


 表情には出さないが、玄侑は感謝する。これなら、バーバ・ヤガーも快くこちらに従ってくれるだろう。召喚した本人である玄侑以外にも導く者がいるとなれば、万が一の時は進んで彼を守ってくれるだろう――それがバーバ・ヤガーの本能であり、本質なのだから。


『確かにいい家だな。守り甲斐はありそうだ』

(そうだね。変わってるけど、人柄が出て温かい小屋だと思う)


 ボレアスがガーゴイルの本能で上機嫌に念話を飛ばすのに、駿吾も答える。ボレアスが“魔導書”に戻ったのは、この小屋を自分の重みと硬さで傷つけたくないとまで思わせたからだ――ガーゴイルにそう思わせる、不思議な魅力がこの小屋にはあった。

 どんなに普通の家に見えても、あまり居心地のよくない家も世の中にはある。それに比べれば、歓迎の意志を示してくれる家主の家はとてもリラックスできた。ちょっと人骨が飾ってある程度は愛嬌と思えてしまうのは、駿吾の視点がズレているゆえだろうが――今は、そのズレが幸いした。


「本当にありがたいわ。こういう拠点を所持するモンスターって、ものすごく珍しいのよね」

「おう、作ってもらう飯も美味いしな。こういうとこで温かい美味いもんが食えるのはありがてぇ」


 セリーナは興味深げに見回し、坂東左之助(ばんどう・さのすけ)も腹を叩いて笑う。こちらは魔女程度では気後れしない組だ、暴れたり騒がしくしない限りバーバ・ヤガーも咎めない。


「外は人狼(ルー・ガルー)たちが見張ってるから、大丈夫ですよー。バーバ・ヤガーさんも、警戒してくれてるんですよね?」

「ああ、少なくともこのフロア内の異常はすぐに気づく」

『こちらも警戒は怠りません』

『そんぐらいは手伝うぜ』


 千登勢と玄侑の言葉に、センチュリオンとボレアスが念話で警戒の意志を伝える。不眠不休、寝ずの番という点においてガーゴイルやゴーレムは最適だ。特にボレアスの《魔除けの守護像》の知覚範囲と精度は、人狼の鼻やバーバ・ヤガーのそれよりも広く正確である。


「正直、ここまで快適な『新宿迷宮』の探索は初めてですよ、私」

「私もだ」


 しみじみと語るヴィオラ・ターナーに、玄侑も同意する。ただ、これも危ういバランスで成り立った好調だ。メンバーの相性がいいのは別として、運が良かった部分は否めない――なによりも下へ降りれば降りるほど、ダンジョン内のモンスターは強くなり脅威が増していくからだ。


「とにかくここのフロアで休憩の後、明朝更に降ろう。坂東、今日は交代で番をするがいいか?」

「いいのかよ、俺なら三日ぐらいなら寝ないで動けるぞ?」

「……パフォーマンスの低下の可能性があるから却下だ」


 実際、左之助なら不可能ではない。実際左之助は一昼夜戦闘を行なう、なども可能とするタフネスの持ち主だ。しかし、そうする理由は今は()()ない。進んで無理をする必要など、どこにもないのだから。


「万が一の場合は頼むしかなくなるだろうが、今はその時ではない。これでいいか? 御堂沢(みどうさわ)君」


 玄侑の確認に、御堂沢時雨(みどうさわ・しぐれ)はしっかりと頷く。Sランクとして最終決定を下すぐらいしか、今の所時雨の役目はなさそうだ。


「ああ、問題ないよ。では、各自割り当てられた部屋でゆっくりと休んでくれ――キミたちはしっかりと《進化》を終えておいてくれ」

「了解」

「は、はい……」


   †  †  †


「……どういう構造になってるんだろうね、この小屋」

『空間がねじ曲がってんだな。これひとつが、小さなダンジョンみたいなもんだわ』


 小屋の中は、外見よりも遥かに広く部屋数もあった。割り当てられた部屋でベッドに腰を下ろすと、駿吾は改めて“魔導書”を開いた。


「えっと……五階で出たグレーターガーゴイルたちと一〇階のフロアボスだったアークガーゴイルはボレアスの素材にすると、して……結構、色々なのが、出たね――」


 その一体一体を確実に倒していったAランク探索者たちの実力は確かなものだった。基本的にセリーナと魔石を分け合い、いくつか千登勢に譲ったが――。


   †  †  †


●フロア・ボス

・Aランク

 アークガーゴイル

 ミスリルゴーレム

 エイシェントリッチ

 レッドドラゴン


・Bランク

 エルダーレイス

 水銀(マーキュリー)スライム

 ネメアの獅子

 


●ワンダリングモンスター

・Aランク

 デュラハン

 アークミノタウロス

 アークデーモン


・Bランク

 人狼

 大鬼

 リンドブルム

 スケルトンジェネラル

 クロムゴーレム

 烏天狗


・Cランク

 グレーターガーゴイル

 スケルトンナイト

 トロール

 オーガ

 リビング・メイル

 グレーターデーモン


   †  †  †


「オーガとか大鬼は、牛頭鬼(ゴズキ)馬頭鬼(メズキ)、村雨にも回して。クロムゴーレムかミスリルゴーレムはどっちをアステロペテスに回すかかなぁ?」

『ミスリルゴーレムはアステロペテスに回した方がいいかもな。オレよりもあいつが戦力になる方が――』


 不意に、ボレアスが言葉を切る。それに駿吾がなにごとか尋ねる前にノックの音が響いた。


「えっと、シュンゴ……今、いい?」


 扉の向こう、珍しく緊張した声色でセリーナの声が届いた。


   †  †  †



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[良い点] 召喚系でここまで面白いって思えたのは初めてかもしれない。 ストレスなく読めて面白いです。 [一言] ブクマと評価しましたm(_ _)m 応援してます!
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