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44話 育成と呼ぶにはあまりにも常識外れで、改造と言うにはあまりにも――2

   †  †  †


 一週間で四回目のダンジョン『鎧辻の古戦場』攻略で、岩井駿吾(いわい・しゅんご)はついにダンジョン・マスターへと挑もうとしていた。


「……あれ?」


 いつも通りの早朝に訪れた古戦場、その奥から戦闘音が聞こえる――珍しい、先客がいるらしい。


『こいつぁ――』

「……ボレアス?」


 駿吾はボレアスの念話に混じった、確かな緊張を見逃さなかった。犬の仮面の下、駿吾はゆっくりと呼吸を整えて、改めて問いかける。


「なにかあった?」

『いや、今日は運が悪かったな。ダンジョン・マスターは諦めといた方がいい』

「……うん、それはいいんだけど――」


 おそらく、それだけではない。ボレアスが緊張したのは《魔除けの守護像》が強く反応したからだろう――それほどの脅威が、この先で戦っているのだと駿吾はすぐに察した。


   †  †  †


 このDランク『鎧辻の古戦場』のダンジョン・マスターである動く大具足は、そのサイズが他の動く具足と比べ、二回りは大きい。四メートルを優に越すその巨体、そしてその特殊能力はCランクモンスターに数えられる実力を秘めていた。


「うん、ただちょっと大味かな?」


 そう言って笑うのは、赤褐色の髪が鮮やかな少女だった。フライトジャケットに似た耐刃防弾ジャケットにジーンズ、ブーツというラフな格好に偽装しているが、その全てがダンジョンから得た技術の粋を集めた最新装備だ。そして、なによりも少女の前に立つモンスターこそ彼女の実力を物語っていた。


「センチュリオン、どう? まだいける?」

『――問題ありません』


 少女の問いかけに答えたのは、体長五メートルほどの都市迷彩柄の人型ロボだ。アダマンタイトというダンジョンにしか存在しない特殊鉱石を素材としたゴーレムに分類されている。

 ただ、この問いの意味は「戦えるか?」という意味ではなく――。


『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 動く大具足が、その大太刀を地面に突き刺した瞬間、センチュリオンを中心に地面から無数の刀の切っ先が出現した。呪詛の太刀による特殊能力であり、相対する敵を一斉に串刺しにする恐るべき特殊能力だが、センチュリオンの装甲に傷一つつけられない。それどころか、火花を散らしてへし折れるのは刃の方だった。


「うんうん、フォルムといい能力といい、この国固有のモンスターよね。サムライとかニンジャとか、やっぱりいいわよねー」


 少女は気楽な口調で、そう返す。そう、まだいけるという問いの意図は()()()()()()()()()? という催促に過ぎない。

 戦いの場だと言うのに、緊張感もなく少女は嘆いた。


「もったいないなぁ、時間があれば《進化(エボルブ)》用の素材に道中ここのモンスターも狩れたのに……」


 モンスターの育成という点において、スキル《進化》はこれ以上ない有用なスキルだ。だが、《進化》は少なくない影響をモンスターに与えてしまう。せっかくの鎧武者なのに西洋甲冑のリビング・メイルで強化してしまえば、その形状にまで変化させてしまうかもしれない――それではせっかくの趣が台無しだ。


『我々、()()で挑めば大した時間はかかりませんが?』

「さすがにDランクに分類されてるダンジョンでソレはマナー違反にも程があるでしょ」


 幾度となく大具足の刃が、センチュリオンを襲う。だが、アダマンタイトというダンジョンの特殊鉱物でもオリハルコンにさえ硬度で勝る金属には歯が立たない。呪詛の大太刀で生み出される刃が、当たる端から脆くも砕け散っていく――まさしく大人と子供、否、それ以上の力量差があった。


「仕方ないかぁ、あくまで来日記念に持って帰るってとこにしときましょうか。センチュリオン、もういいよ」

『――了解』


 動く大具足の剣撃――その袈裟斬りの斬撃が振り下ろされる。ガキン! と刃が肩に命中するが、半ばから折れて宙を舞った。

 斬撃を無視して拳を振りかぶっていたセンチュリオンは、そのまま右拳を振るった。ただの右ストレート、しかし、武者兜がまるで薄いガラス細工のように簡単に砕かれた。


 バキン! という破砕音と共に、ひとつの魔石が地面に転がる。そして、少女は魔石を拾うと一冊の本――“魔導書(グリモア)”へ吸収、契約した。


『――マスター』

「ん? なに?」


 センチュリオンに呼ばれ、少女は振り返る。センチュリオンの視線の先、そこにいたのは黒ずくめで犬の仮面をつけた人影だった。

 その姿に、少女は怪訝な表情で言う。


「……モンスター?」

「ち、ちが……い、ますよ!?」


 勘違いされて殴りかかられてはたまらない、最後の方で見学していた駿吾は慌てて否定した。


   †  †  †


「はははは、ごめんごめん! 実は合衆国(ステイツ)から日本に用事があって来たんだけど、来日記念にこの国のモンスターがほしくって」

「……は、はぁ……」


 早朝なら誰にも会わずにすむ、そう思っていたのは少女も同じようで。聞かれもしないのに説明してくれた少女に、駿吾はたじろぎながら生返事をする。なんというか、こう、踏み込みに躊躇のない少女だ。一気に相手の懐に躊躇いなく入り込んでくる、そんなコミュニケーション強者であった。

 少女はまじまじと、駿吾が連れていた牛頭鬼(ゴズキ)馬頭鬼(メズキ)を見上げ、満面の笑顔で言った。


「うん、よく鍛えられたモンスターだわ。この国の召喚者(サマナー)は、丁寧に育てるね」

「……そ、そう?」

「うん。ランクが高い召喚者ほど、育成上手ってのはどこの国でも一緒だよ。少なくとも、道具扱いするよりもずっと好印象だねー」


 ミノタウロスとはまた違うなぁ、と牛頭鬼を見回す少女に、駿吾としては戸惑うしかない。ボレアスも呆れたように、駿吾へ念話を送る。


『気をつけろよ、主。少なくとも、あのゴーレムはオレと()()()()()

(……ボレアス、より?)

『真っ向からやり合えば、勝率は五分あるかないかだろうよ。クソ強いわ』


 ボレアスがそう素直に認めるしかない、それほどの実力のモンスターらしい。少なくともそんなモンスターを持っているなら、動く大具足など所有する意味がない……そうなると、本当にただの来日記念に和風なモンスターが欲しかっただけのようだ。


『そうですね。今、探索者協会(シーカーズ・ギルド)のデータと照合しました――』


 こっそりと、『ツーカー』に届いた藤林紫鶴(ふじばやし・しずる)のメッセージの続きに、駿吾はギョっとする。


   †  †  †


『――その人はセリーナ・ジョンストン。現在、世界に一四人しかいないSランク探索者のひとりです』


   †  †  †


 ――Sランク探索者。それは、“最初の探索者たちファースト・シーカーズ”に送られた名誉的称号に過ぎなかった。

 しかし、現在ではもうひとつの意味も持っている。それは探索者協会が設定したSランクダンジョンの踏破経験者に与えられるランクである。


 一度は踏破不可能と認定されたSランクダンジョンを破壊した者――それは文字通り、探索者協会が保有する最強戦力の一角であり、世界トップクラスの実力者ということだ。


「ねえねえ、つかぬことを聞くんだけどさ?」

「え? あ……ナンスカ?」


 ビクビクと身をすくめる駿吾に、下から上目遣いで覗き込んでくる少女――セリーナは訊ねた。


「もしよかったらだけどさ、ここの動く具足……だっけ? あのリビング・メイルの魔石、売ってくんない?」

「え、あ……いい、です……けど?」

「本当!? 今、いくつ持ってるの!?」


 パァ、と表情が明るくなるセリーナ。せっかくの和風モンスターなのだから、その系列で《進化》させたかったからだ。思わず身を乗り出すセリーナに、のけぞりながら駿吾は答えた。


「え、えーと……七〇個……くらい?」

「へぇ! 七〇―――――え?」


 駿吾の口から出た数に、今度はセリーナが絶句する番だった。


   †  †  †

世界最強の一角、その“一体”でも恐ろしく強いのです。



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[良い点] ランキングで見かけて、のめり込んで一気読みしました モンスターの相棒といえば、人型か狼系統か猫系統かスライムかドラゴンが多い中、ガーゴイルというのは珍しいですが、これが戦闘でも交渉でも人生…
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