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37話 ゴールドディガーズ5

   †  †  †


 奥多摩に、地響きが響く。その異様な音をブラック・ワイバーンに乗った御堂沢氷雨(みどうさわ・ひさめ)が聞いた。


(村雨も、岩井さんも大丈夫でしょうか?)


 スキルの関係で、岩井駿吾(いわい・しゅんご)は大っぴらに全力で戦えない――だからこそゴブリンの群れがいるだろうダンジョンにほぼひとりで挑んでいる。いくら彼の《ワイルド・ハント》が強力なスキルといえど、身体能力はそれほど高いわけではない。普通のゴブリンと一対一ならいざ知らず、大勢に囲まれればひとたまりもないだろう。


『ギュア』


 そう心配している間に、ワイバーンが鳴く。《気配察知》のスキルで察したのだろう、氷雨を振り落とさない速度で下へ向かうと口から放つ衝撃波でゴブリンの一団を薙ぎ払った。


(アレは――!?)


 吹き飛ばされるゴブリンたち、その中の一体が爆発を免れて転がり出る。相対していた野畑虎彦(のばた・とらひこ)が虎の絵が書かれたライオットシールドを構え、迎え撃った。


『ギギギ!』

「ぐ、う!?」


 鋭い一撃、それは脇差による一撃だった。おそらくはゴブリン・サムライ、熟達した技は相応の経験を積んだ個体だろう。それを見て、刀を抜いて氷雨がワイバーンから飛び降りた。


「あなたは他のゴブリンを捜して対処して」


 そう言い残し、ゴブリン・サムライに上空からの大上段で斬りかかる! それをゴブリン・サムライは脇差で受け流し、後方へ下がった。


「大丈夫ですか、野畑さん」

「悪い、助かった」

「ありがと~。駿吾君に借りた鬼、ゴブリンたちとの戦闘に行っててもらってるからさ」


 虎彦の背後から顔を見せたのは、篠山(しのやま)かのんだ。鬼は前線に行きゴブリンたちを食い止めている――だが、それに一緒に行けるほどの実力がかのんにはなかった。


「やっぱ、召喚者(サマナー)にも何かしら戦闘方法ないと厳しいね」

「その反省は後でだ――気を抜くな」


 虎彦の言葉に、かのんと氷雨はゴブリン・サムライに集中する。今の村雨ほどではないにしろ、かなりの手練だ。これがゴブリンという種族の恐ろしさでもある。


(経験と武装で、ここまで差が出るなんて)


 ゴブリンとは最弱と呼ばれる種族のひとつだ。だからこそ、上下には絶対の関係がある。だからこそ、貪欲に強さを求めるモノが現れる――まさに玉石混交だ。その中で玉のみではあるが高いランクを誇る個体が出てくる。最弱でありながら、それにとどまらない。それこそがゴブリンを恐るべきモノとし、“スタンピード”で大きな被害を出す要因でもある。


「前衛、私が出ます。かのんさんをお願いします」

「悪いが頼む」


 氷雨は《身体強化》のスキルで自身を強化すると、ゴブリン・サムライへと踏み込んだ。


   †  †  †


 一方その頃、洞窟内では駿吾を中心に拮抗した状態が続いていた。だが、駿吾側は時間と共に有利に進んでいく要因があった。


『岩井殿、これを』

「ありがとう」


 藤林紫鶴(ふじばやし・しずる)からゴブリンたちの魔石を受け取り、次々と契約していく。その度に召喚されるゴブリンたち――これは言わば、相手が駒を取ったらそこまでのチェスのルールで戦っているのに対して、こちらは取った駒を味方に替えられる将棋のルールで戦っているようなものだ。


「鬼たちは前に。牛頭鬼(ゴズキ)馬頭鬼(メズキ)をフォローして。ゴブリンたちはボクを中心に円陣を組んで徐々に前に――」


 それは台風によく似ていた。台風の目である駿吾を中心に、徐々に徐々に大きくなっていくゴブリンの群れ――だが、それを簡単に許さないのはゴブリン・ジェネラル側が要所要所に《小鬼の統率者》持ちのゴブリンを置いて配下を強化しているからだ。


(ボクも《限界突破(リミット・ブレイク)》は使えるけど――)


 使ったら最後、以前の土蜘蛛八十女(やそめ)の時のように倒れかねない――そうなれば、強化しても意味がない。


「ボレアス、頑張ってよ……!」


 上を見上げれば、巨大な百足と殴り合うボレアスの姿があった。体長四メートルのボレアスでさえ小さく見える大百足だ。巨大さのために速さこそ足りないものの、その外殻の硬さは並の金属など問題にならないほど硬い――全開で風を使えないとはいえ、あのボレアスが殴り合えるのだ。こちらの戦力では、ボレアス以外では足止めは無理だろう。

(アイアンミノタウロスは――)


 ゴブリン・バーサーカーと足を止めて殴り合うアイアンミノタウロスは、もはや全身が凹みながらも止まらない。同じくバーサーカー側も同じだ、己が血を流せば流すほど興奮して一打一打に重みを増していった。


「――《召喚(サモン)》っ」


 ここで、駿吾はまだ隠していた二体のミノタウロスを投入する。アイアンミノタウロスの上、斧を振り下ろしたミノタウロスたちがバーサーカーへと襲いかかった。


「アイアンミノタウロス、下がって!」


 ガシャン、と地面を踏みしてアイアンミノタウロスが後退する。その傷だらけの身体に手で触れて、駿吾は呼吸を整えた。


「アイアンミノタウロス、今からキミに名前を贈る――」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 ミノタウロスたちが、バーサーカーのハンマーに吹き飛ばされる――その瞬間、光の粒子となってアイアンミノタウロスへ吸い込まれていった。そして、バーサーカーはアイアンミノタウロスめがけて走り出す。


『ぉお、おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

「《進化(エボルブ)》――!」


 そして、一体のゴブリン・ランサーがその姿を光の粒子と化して消えた。その光の粒子がアイアンミノタウロスの斧へ――“この時”のための、取っておきの一体を使用した《進化》!


「その名前はアステロペテス、電光を投げる者を意味する名前だ……!」


   †  †  †


【個体名】アステロペテス

【種族名】()()()()()()()

【ランク】C→B

筋 力:B (B+)

敏 捷:D-(D+)

耐 久:B (A-)

知 力:‐

生命力:B (B+)

精神力:B (B+)

種族スキル

《迷宮の雄牛》+《真理の人形:鉄》+《習熟:魔法:雷》:B →人造・電光の投擲者(アステロペテス)


固体スキル

《習熟:斧》:B

《習熟:投擲》:B

《怪力》:B


   †  †  †


 バチン! とアステロペテスの内側から電光が迸る。個体名はもはやそのまま、種族名として世界に刻まれる。何故ならばコレは偶然の産物であり、奇跡の結果。世界にただの一機のみだからだ。


 アステロペテスは斧を振りかぶる。眩い電光が斧へ宿り、アステロペテスはその斧を投擲した。


『おお、おおおおおおおおおおおおおおおおお――――』


 その瞬間、文字通りハンマーを振りかぶってかけてきたゴブリン・バーサーカーの上半身が()()した。ズドン! と一条の電光はバーサーカーごと、一直線の軌道を焼け跡という形で地面に刻んだ。その焼け跡の上にいたゴブリンたちもまた、情け容赦なく蒸発し、魔石のみを残して消滅する。


「――え?」


 そのあまりの威力に、駿吾の方が声を失う。その間に、ガシャン! と新たな斧を生み出しながらアステロペテスは修復した身体で一歩前に出た。


   †  †  †


 アステロペテス――それはギリシャ神話の原典において、アステリオスの別名である。しかし、駿吾はひとつだけ失念して名付けていた。

 このアステロペテス、実はアステリオスのみの異名ではない。それはギリシャ神話の主神ゼウスの異名であり、またゼウスは牛に化けそれが牡牛座となった、という伝説を持っている。


 ミノタウロス(アステリオス)という牛頭人身の化け物、それは雄牛(ゼウス)を模した真理の人形(ゴーレム)に――雷属性魔法(雷繋がり)で、イコールに結んでしまった。


 このふざけた連想ゲームさえ、現実のものにしてしまう。それが“迷宮大災害ダンジョン・カタストロフィ”のある時代()なのだ。


   †  †  †


『岩井殿、これを』

「う、うん」


 空中に放られる、ボウリングのボールほどの魔石。紫鶴が放ったそれを駿吾は“魔導書(グリモア)”で即座に契約、召喚した。


   †  †  †


【個体名】なし

【種族名】ゴブリン・バーサーカー

【ランク】C

筋 力:B (A)

敏 捷:D (C)

耐 久:C (B-)

知 力:‐

生命力:B (A)

精神力:E (F-)



種族スキル

《小鬼の群れ》

《狂戦士化》:C


固体スキル

《熟練:鎚》:C

《怪力》


   †  †  †


『――ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

「バーサーカー、よろしく」


 アステロペテスとバーサーカーが並び、ゴブリンの群れへ突撃する。それこそが均衡を崩す反撃の狼煙となった。


   †  †  †



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― 新着の感想 ―
[一言] 周りがチェスしてるなか一人だけ将棋してる感じ
[一言] やっちゃえっ! バーサーカーッ! でもゴブリン。(遠い目) ゴブリンって・・・。
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