36話 ゴールドディガーズ4
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「大丈夫!? 村雨!」
岩井駿吾が赤い煙に埋め尽くされたダンジョン内に声を張り上げる。喉が痛い、普段あまり大きな声を出さないからだ。それでも構わず、瓦礫をどかした牛頭鬼と馬頭鬼の前に出て、駿吾は叫び続ける。
「村雨! 聞こえたら返事して!」
『――主君、オレここ!』
何度目かの呼びかけでようやく向こうからの返事が聞こえ、駿吾は胸を撫で下ろす。そのままゴブリン・ライダーを召喚すると、村雨の元へ向かわせながら叫んだ。
「ジェネラルを、追って! 無茶だけはしちゃ駄目だよ!」
『わかってる! 任せろ!』
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【個体名】なし
【種族名】ゴブリン・ライダー
【ランク】C
筋 力:D-(C+)
敏 捷:C (B)
耐 久:C (C+)
知 力:‐
生命力:C-(C)
精神力:E (E+)
種族スキル
《小鬼の群れ》
《小鬼の統率者》
固体スキル
《騎乗》:C
《熟練:槍》:C
《熟練:弓》:C
《乗騎:グレイウルフ・ヒュージ》
† † †
ゴブリン・ライダーが乗っているのは、もうただのグレイウルフではない。体長二メートルほどの大型のグレイウルフ――グレイウルフ・ヒュージだ。グレイウルフ・ヒュージは牙と爪で敵のゴブリンたちを蹴散らし、村雨がその背に飛び乗る。
『があああああああああああああああああああああああああ!!』
ゴブリン・バーサーカーがハンマーでグレイウルフの頭部を殴打しようとする。例え大型と言えど、その威力の前にはただではすまない――それを前に出たアイアンミノタウロスが受け止めた。鈍い打撃音、鉄の身体が凹むほどの一撃を受けて、それでもなおアイアンミノタウロスは耐え切る。
『頼むっ!』
『――――』
アイアンミノタウロスは答えない。だが、前に出るという行為で応えた。足を止めてのアイアンミノタウロスとゴブリン・バーサーカーの殴打戦、そこに牛頭鬼と馬頭鬼は加わろうとするが、ゴブリン・ソードマンたちが許さなかった。
「ボレアス! フォローを!」
『わかってる、ただ――邪魔してくるらしいぜ』
ボレアスの言葉と共に、大きな地鳴りがした。震度五はありそうな地面の揺れ――その時、ガゴォ! と天井に大穴が開く。
「……え?」
駿吾が目を疑った。天井の大穴から現れたのは、身の丈二〇メートルは下らないだろう大百足だったのだ。ちょこん、とその頭にゴブリンが乗っている。ゴブリン・ライダーの亜種なのだろうが……これではどちらが本体なのかわかったものではない。
『くそったれが――悪い、ちょっと時間がかかるがコイツの相手はオレがやる! 下は任せた!』
「う、うん!」
全力で戦えば敵ではないが、場所が悪い。崩れやすい岩盤のダンジョンで本気で風を使えば、崩落を招きかねない――否、そもそもがこれほどの“大駒”がいるとは夢にも思わなかった。
『嫌な予感がしやがるな……』
なにかが引っかかる、そう思いながらボレアスは自分に噛みつこうとする大百足の顔を力づくで受け止めた。
† † †
ゴブリン・ジェネラルはその音に、“援軍”の訪れを知った。ならば、今の内に――ジェネラルは赤い煙に視界を遮られながら、急いで外へと向かった。
そこは山の麓、見下ろせば下に街が見える――身を隠しながら進めば、そこにたどり着けるだろう。ジェネラルがそう思っていた、その時だ。
『――ギギ!』
考えてではない、咄嗟の勘で背負っていたツルハシを振り上げる。ガキン! と散る火花――奇襲に失敗した、と鷲尾倉吉は舌打ちした。
「行かせねぇっての!」
『ギギギ!』
ピックと呼ばれる武器として扱えるツルハシを構えて、ジェネラルが倉吉と対峙する。倉吉の持つ魔剣は、淡く赤い輝きに包まれていた。得体が知れない、だからこそジェネラルが取った選択肢はひとつだった。
『が、ああああああああああああああああああ、ああ、ああああああああああああああ!!!』
ジェネラルの咆哮、それは煙によって迷っていたゴブリンたちを呼び寄せる――《小鬼への指令》、高位のゴブリンのみが使える下位のゴブリンを呼び寄せる種族スキルだ。
「鷲尾さん!」
「こっちは任せて!」
穴から出てくるゴブリンたちを他の探索者たちが迎え撃つ。多数対多数の激突、それは瞬く間に乱戦へと変わっていった。
† † †
――他の出口でも、小競り合いが始まっている。山頂近くから、それを不機嫌そうな表情で眺めるモノがいた。
一メートルもない小柄な体躯。赤く長い髪に緑の肌、ゴブリンであるのは確かだが豪奢な黒い布地に白いフリルをあしらったドレスを着たその女性型のゴブリンは人間の目から見ても愛くるしい顔立ちをしていた。
『まったく、今日はワタクシの視察の日だと言っておいたでしょうに……自我のない殿方はこれだから……』
『ギギギギ……』
小柄なゴブリン少女の背後に控えていたのは、一八〇センチほどの全身甲冑に身を包むゴブリン・ナイトが五体だ。その内の一体の唸りに、ゴブリン少女は忌々しげに吐き捨てる。
『もうゴブリン・ライダーを向かわせたでしょう? これ以上の手助けが必要でして?』
『ギギ、ギギギ……』
いる、と思ってもこのゴブリン少女に対して、ナイトは進言まではしない。それを主であるゴブリンの姫君が望んでいないとわかっているからだ。
『ゴブリン・ライダーを向かわせたのは、せめてもの慈悲――これで生き延びれば良し、生き延びられねばキングになる資格はありませんわ』
当然でしょう? とゴブリン少女は言った。
『このゴブリン・プリンセスの伴侶にふさわしいか否か、せいぜい見極めさせてもらいますわ。オーホッホ―――』
『……ギギ』
『――ホッホッホォ……』
平伏したままのナイトたちに、ゴブリン・プリンセスは高笑いしようとする。しかし、人間にバレたらまずいとナイトたちに必死に止められると、ゴブリン・プリンセスは小さな声で器用に高笑いした。
† † †
いきなりメンテでびっくりしました。
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