24話 厄ネタにはきっと足が生えている、でないと説明がつかないだろう?
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† † †
洞窟型ダンジョンの、一番奥に到達する。岩井駿吾は、そこで“魔導書”を改めて確認した。何ページも渡るゴブリン、ゴブリン、ゴブリン――その数、実に六七体にも及んだ。
「……多くない?」
『ひとつのダンジョンにいたゴブリンすべてです。そこそこの規模の群れだったのでしょう』
藤林紫鶴の『ツーカー』のメッセージに、駿吾もそんなものなのかな、と思う。それよりも重要なのは新たに見つかった《覚醒種》の存在だ。
「形としてボクと契約ってことになったけど……いい?」
『――――』
『あー、こいつまだ念話は無理そうだわ』
「そっか」
ボレアスの意見に、駿吾は改めて“魔導書”に触れて唱えた。
「――《召喚》」
目の前絵に光の文字が現れると、あのゴブリン・ソードマンが姿を現した。左右を見て、足場をタンタンと踏んで確かめる――初めての体験に、戸惑っているようだった。
『お前、すごいヤツ?』
「……それはちょっと自信がないかな」
ゴブリンに駿吾はそう苦笑交じりに返すと改めて問いかけた。
「形としてボクと契約ってことになったけど……いい?」
『お前、オレに勝った。勝ったヤツ、正しい。文句ない』
「……それは良かった」
実にシンプルな考えだった。この《覚醒種》のゴブリンだけがそうなのか、あるいはゴブリンという種がそうなのか――そんな疑問を駿吾が抱くと、察したゴブリンが答えた。
『ゴブリン、群れで一番強いヤツ、群れの頭。みんな、従う』
「キミがここの群れで一番強かったのかな?」
駿吾がそう尋ねると、ゴブリンは首を横に振った。
『オレ、こことは別の群れから追放された』
「ふうん……ん?」
駿吾は頷きかけ、紫鶴に言う。
「今、すごく不穏な内容だった気が……?」
† † †
ゴブリンというモンスターは、最弱のモンスターの一種と言われている。だが、探索者でゴブリンを侮る者など存在しない――より正しくは、ゴブリンという種族特性を、だ。
『ゴブリンは絶対の上下関係でダンジョン内に群れを作ります。記録ではAランクモンスターと判断されたゴブリン・エンペラーが複数のゴブリン・キングの群れを纏め上げて一〇万体規模の“スタンピード”を起こしたとされています』
「……えっと、キミは別の群れにいた、んだよね? その群れはどこにいるの?」
『この山、別のダンジョン』
ゴブリンの答えに、紫鶴は改めて携帯端末を高速で操作。確認を終えるとメッセージで答えた。
『この付近では、他のダンジョンは見つかっていません。あるとしてもゴブリンのダンジョンではないですね』
「どんなヤツがキミの群れの、頭だったの?」
ゴブリンはどんどんと沈んでいく駿吾の声に訝しがりながら、当然のように答えた。
『ゴブリン・ジェネラル』
『……Bランクに分類されるゴブリン系のモンスターですね。その上になるとBランク上位のゴブリン・キングやゴブリン・エンペラーのみになります』
メッセージでの三点リードが紫鶴の心情を物語っていた。これはもしかしても、とんでもなく厄介なネタではないだろうか?
『もしかしなくても厄ネタだろうぜ。土蜘蛛の時といい、主は厄介事に愛されてんな!』
(……ボクは好きじゃないんだけどなぁ)
ボレアスのからかうような念話に、駿吾は乾いた笑いしか出ない。今度は道満ちゃんが関係ないのなら……それこそ、多くの人が犠牲になりかねない非常事態だ。
『すみません、岩井殿。一度、戻りませんか? 探索者協会に急いで報告すべきことかと思います』
「うん、そうだね……」
『倒していかない? ここの群れの頭』
ゴブリンはすっかりとやる気のようだが、内容が内容だ。報告を先に急いだ方がいいだろう。だから、駿吾は改めてゴブリンを見て言った。
「次でいいかな? それにキミ、今武器がないだろう?」
『追放された時、刀置いてきた。オレの、違ったから。だから、棒があれば――』
「なら、キミの刀を手に入れてからにしようよ」
駿吾の言葉に、ピクリとゴブリンが動きを止める。驚いたような顔をしたゴブリンは自分の顔を指さし、言った。
『オレの? 刀? いいのか?』
「う、うん」
思わず言葉が詰まったのは、思った以上に食いついたからだ。目を輝かせたゴブリンは、コクコクとすごい勢いで頷いた。
『ほしい、オレ、オレの刀』
「なら、そうしよう。ボレアス、いいかな?」
『おう、任された』
駿吾はボレアスを召喚――ボレアスは駿吾と紫鶴を抱きかかえると即座に来た道を引き返した。
† † †
『報告の方は、私が行ってきます』
「なら、待ってるよ。ゴブリンにも刀を用意してあげないといけないから」
『はい、すぐに終わらせて戻ってきます』
近くの探索者協会西多摩地区支部に着くと、紫鶴が《隠身》したまま駆け出した。もちろん、気配も姿も見えない駿吾にはそれはわからない。ただ、気配は察せられるボレアスだけが“魔導書”の中で苦笑するだけだ。
『…………』
(見えてる? ゴブリン)
『見えてる。武器、たくさん、ある』
支部の売店、そこに並ぶ武器を“魔導書”の中から見てゴブリンは覚えたての念話で答える。しかし、その答えもどこか上の空だ。ものすごく武器に集中しているのがわかる。
(武器、そんなに珍しい?)
『ゴブリン、いい武器、全部、群れの頭の。だから、いい武器、自分の、ゴブリンの夢』
(……そっか)
そういえば、粗末な石器による武器ぐらいしか普通のゴブリンは持っていなかった。ゴブリンが最初はみんな最弱の状態から生まれるのなら、武器はあの手の石器がデフォルトのはずだ。しかし、ゴブリン・ソードマンであり、刀に熟練しているのなら追放前に使っていたのは刀であったはずだ……後に手に入れたか、見つけたか、奪ったか。なんにせよ、群れの頭の武器を授かって使っていたらしい。
(なら、いい刀がいいよな)
『……お前、オレの頭。頭に従う』
そう言いながらも、やはり視線が外れていないらしい。それが伝わって、駿吾はショーウインドーにかじりつく子供を連想してしまった。
(でも、ボク武器のことはわからないからなぁ)
武器に関しては、高い物がいいものだ、ぐらいの意識しかない。だから、戦う機会がないだろうと思って自分のものは安物にしたのだ……ただ、ゴブリンにはどうせならそれなりの物を持たせてやりたいと思う。
「す、すみません。お聞きしたいんですが……」
「へいへ……へ?」
恐る恐る尋ねる駿吾に売店の店員は振り向き、犬の仮面をつけた黒ずくめの姿に言葉を失った。あ、ですよね、と不審者扱いされそうなので、駿吾は慌てて探索者証明証を掲示した。
† † †
「なるほど、ゴブリンに刀ね。あんた、変わってんね」
「……ドモ」
売店の定員である初老の男は、気さくな人物だった。普通、ゴブリンなど初心者が初期に使って後は売り払うようなものだ。それなりに強い上位のゴブリンであろうと、そこまで親身になって対応せず、余った武器を持たせるのが業界の常識だ。
「なら、こいつでどうだい?」
そう言って店員が差し出したのは、一本の小太刀だ。刀身の長さは六〇センチほど、黒塗りの鞘に収まったものだ。
「無銘だがダンジョン産の鉱物を使った逸品だ。切れ味と強度は申し分ない、ゴブリンならこのぐらいの長さが使い勝手がいいはずだ」
「……な、なら、それで」
「毎度。刀を装着できるベルトとかもオマケでつけとくよ。ゴブリンに使い方は自分で教えてやんな。装備させたら、召喚や送還でもひとまとめにゴブリンって認識されっからよ」
そういって、小太刀と差す用のベルト。それにズボンやシャツ、ゴブリンサイズの皮鎧なども一緒に詰めてくれる。それに慌てたのは、駿吾だ。
「え。その……オマケ、それもです?」
「おう、どうせサイズが小さすぎて誰も買ってかないし。持ってけ、持ってけ!」
そういって一纏めの荷物にすると、店員の男は笑って言った。
「自分のモンスターのために相当なもん買ってやるって気概を気に入ったんだ。気にすんない」
言っとくけど、小太刀の値段はまけねぇからな、と笑う店員に、荷物を受け取って駿吾は頭を下げた。
「……ありがとう、ございます」
「へい、毎度!」
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