16話 まつろわぬ災害1
※誤字修正報告、ありがとうございます!
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大型連休――日本ではゴールデン・ウィークと呼ばれる四月末から五月初頭の大連休。だが、自由業であるところの探索者に、決まった休日などない。
「……ど、どうかな?」
とある不人気ダンジョン、そこに早朝から訪れていた岩井駿吾はおそるおそるとガーゴイルを見上げて聞いた。
『――おう、悪くねぇな』
そう言ったガーゴイルは、自分の右拳を見る。その拳に意識を集中させるとゴォ! と旋風が起きた。
† † †
【個体名】なし
【種族名】ガーゴイル
【ランク】D
筋 力:C (C+)
敏 捷:E+
耐 久:C (C+)
知 力:‐ (C)
生命力:D+(C+)
精神力:D
種族スキル
《魔除けの像》:D
《擬態・石像》:D
固体スキル
《覚醒種》:C
《剛力》
《習熟:魔法:風》:D
《鉄拳》
† † †
「ほ、本当ならアイアンゴーレムの鉄の身体を継承させてあげられたら良かったんだけど……」
『上等上等! 拳そのものは鉄並みに固くなったしな。で? 風の魔法を選んだ理由は?』
「ガーゴイルは飛行能力もあるから、風の方が応用が利くかなって思って」
駿吾なりに試行錯誤した結果だ。実際、風の魔法によって攻撃力も上昇しているし、使い方によって飛行速度も上がるだろう。そういう意味では、ガーゴイルの現状のまま応用力が上がったと考えれば、充分なパワーアップだ。
『主が考えた上でってんなら、後はオレが使いこなすだけだな。レッサーガーゴイルたちももうちょいしたら《進化》の素材になりそうだろ?』
「うん、そうなったら多分、グレーターガーゴイルに進化できる、と思う……」
ガーゴイルの強化の方は順調だ。そして、ガーゴイルは自分の『隣』を見上げて笑う。
『オレの試しにしては、面白い《進化》をしたな』
「……そうだね、正直驚いた」
そこに立っていたのは全長三メートル、牛の頭をしたアイアンゴーレムだ。レッサーミノタウロスをアイアンゴーレムの《進化》に使用してみたのだが、かなり驚きの結果となった。
† † †
【個体名】なし
【種族名】アイアンミノタウロス
【ランク】D
筋 力:D (D+)
敏 捷:E-(E)
耐 久:C (B)
知 力:‐
生命力:C (C+)
精神力:E (E+)
種族スキル
《迷宮の雄牛》
《真理の人形:鉄》
固体スキル
《習熟:斧》:D
《習熟:魔法:雷》:E
† † †
種族名を見るとアイアンミノタウロスと出た。種族的にはアイアンゴーレムを主体にしたはずなのだが、ミノタウロスの部分が大きく残ったらしい。個体スキルから《鉄拳》を失ったものの、斧もより凶悪な形状になったりと全体的にアイアンゴーレムが強化された形となった。
『……正直、初めて聞く種族名です。新種かもしれませんね』
「そ、そうなの?」
『《進化》では時折起きることとは聞いていましたが、目にするのは初めてです』
藤林紫鶴からの『ツーカー』のメッセージに、やはり駿吾はしっくりとは来ない。ただ、紫鶴は手放しの称賛を送って来るだけだ。
『ですが、岩井殿はこれでDランクモンスターを牛頭馬頭と後一体のアイアンゴーレムを合わせれば五体も所有しています。Cランク相当以上の実力を持たれていると言って過言ではありません』
「まだ探索者になって一ヶ月なんだけど……」
『探索者業界は実力社会です。経験の長さは関係ありません』
実際、【DLV】などの目に見える指針がある業界だ。駿吾は既に15LV――これは普通の探索者が平均一年はかかるLVである。ダンジョンの破壊などでその際に膨大な魔力をひとりで吸収しているというのもあるが、それを差し引いてもハイペースでここまで来たと言える。
『通常であれば、もうEランクからDランクになるだけの実績を積まれていると思いますが……あまり早くランクを上げてしまうと悪目立ちしてしまうので。申し訳ありませんが、もうしばらくFランクを維持していただければ――』
「い、いいよ。うん、そういうの急がないから」
ただでさえ《ワイルド・ハント》という激レアスキルで面倒なことになっているのだ。ここにランク関係で目立つのは御免こうむる、とブンブンと駿吾は首を左右に振った。
「――わわ!?」
その時だ、不意に携帯端末がビービービー! と派手な音を立てた。その音に驚いて携帯端末をお手玉した駿吾に、紫鶴が慌てて落ちかけた携帯端末を空中でキャッチ。一瞬だけ犬の面をつけた紫鶴の姿が見えて、携帯端末を駿吾に渡すと再びかき消えた。
『今のは探索者への探索者協会からの緊急速報かと思います。どうか、ご確認を』
「うん、ありがとう」
落とさなくてよかった、と駿吾が『ツーカー』に届いた協会からの緊急速報を確認する。ガーゴイルもそれを上から覗き込むと、小さく唸った。
『おい、こりゃあ――』
それはダンジョンを知る者ならば誰でも知っている、“迷宮大災害”が生んだ“最悪”にして“災厄”のひとつ――。
《――緊急事態。未確認ダンジョンからCランクモンスター土蜘蛛による“スタンピード”の発生を確認。現在、“災害”ランクCと認定。発生箇所より半径二〇〇〇メートル内の探索者にこの緊急速報を通達》
《――探索者法第七条に従い、現場に移動可能な探索者はランクを問わず向かわれたし》
† † †
――“スタンピード”、それはダンジョン内でしか徘徊しないはずのモンスターがなんらかの条件を満たした時、ダンジョン外へと溢れ出す“迷宮大災害”の産物にして、世界を滅ぼしかけた要因のひとつである。
ダンジョン内だけであれば、踏み込まなければ一般人には危害が及ばない。しかし、この“スタンピード”は違う。直接モンスターが人類を狙って殺すべく、外の世界で暴れ狂うのだ。通常の物理攻撃や銃器など意味をなさないモンスターに、一般人では手も足も出ない――対抗できるのは、ダンジョンで経験を積みモンスターと同じく法則や概念を逸脱した力を持つ探索者のみ。
これは“最悪”の状況として、今なお人類にとって恐怖の対象である。
『どうする? 主。確か第七条だったか? 探索者は“スタンピード”が起きた場合、半径二〇〇〇メートル圏内にいたのなら可能な限り“スタンピード”の鎮圧に助力するってヤツ』
ガーゴイルが敢えて駿吾にそう訊ねる理由は、可能な限りという一文からだ。相手がCランクモンスターなら、Fランク探索者であれば後詰――万が一、主力の上位ランク探索者が取りこぼしたモンスターを数に任せて倒す集団戦への参戦か、肉壁になって時間を稼ぐか、ぐらいの役割しかない。
行っても行かなくても問題ない――言外にそう言っているのだ。
『――いえ、待ってください』
だが、それに待ったをかけたのは紫鶴のメッセージだ。立て続けに、紫鶴のメッセージは無視できない情報を伝えてきた。
『今、諜報部の方から確認したところ――半径五〇〇メートル以内に存在する探索者は、岩井殿含めて一四人らしいです』
「……え?」
『んな、馬鹿な話あるかい。この国の首都だろ? ここ。探索者だって結構、いるだろうが!』
駿吾が驚き、ガーゴイルが声を荒げる。まったくもって、ガーゴイルの言い草は正論だ。東京都は多くのダンジョンが発生する土地であり、一〇万人近い探索者が登録されている。普通ならそれこそ三桁、どんなに少なくとも五〇人を下回るようなことはないはずだ。
紫鶴だって、正直そんな馬鹿なと最初は疑った。しかし、そんな冗談のような“偶然”が起きてしまったのだ。
『それが、他の場所で二件、一時間ほど前に“スタンピード”が発生して、そちらに人員が割かれているのです』
「え? でも緊急速報はなかった……はず?」
『はい。ちょうど、この位置は他二件の半径二〇〇〇メートルから外れた位置にありまして……』
『んな“偶然”あるのかよ』
ガーゴイルの呆れた声に、駿吾も同意したい。だが、実際に起きている事実から目を背ける訳にはいかなかった。
「――行こう。放置はさすがにできない」
なにができるかわからないが、なにかをしないといけない――そんな焦燥にかられて駿吾が言った。
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