11話 傍から見てると、確かにソロにしか見えないけれど――
† † †
『がーはっはっはっはっは!!』
憂さ晴らしだ、と言いたげにガーゴイルが空を飛ぶ。そんなガーゴイルを囲むのは、体長一メートルほどの悪魔を模した石像――そう、下位存在であるレッサーガーゴイルたちの群れだ。一回りどころか二回りは違う。文字通り大人と子供ほどの大きさに差があるが、レッサーガーゴイルの群れは怯むことなくガーゴイルに向かっていった。
『遅えんだよ!!』
しかし、その一体一体がガーゴイルに襲いかかろうとする度にレッサーガーゴイルが一体、また一体と拳と蹴りによって地上に落とされていった。一撃の重さ、鋭さがあまりに違う。実力の差は明白だった。
† † †
【個体名】なし
【種族名】レッサーガーゴイル
【ランク】E
筋 力:E (E+)
敏 捷:F
耐 久:E (E+)
知 力:‐
生命力:E+
精神力:E
種族スキル
《魔除けの像》
《擬態・石像》:E
固体スキル
《剛力》
† † †
(……やっぱり、ガーゴイルって強いんだな)
岩井駿吾は“魔導書”に記録された情報を確認し、しみじみと思った。レッサーと名のつく1ランク下のモンスター、ということだけではない。《覚醒種》だからなのだろうか、その動きのひとつひとつが洗練されている。数を任せに襲いかかっても、レッサーガーゴイルたちの攻撃はガーゴイルに少しも届きはしなかった。
『ブロォ!』
『ブルゥ!』
そして、ガーゴイルに落とされてなおも動けるモノは、馬頭鬼と牛頭鬼たちによって粉々に粉砕されていく。そこに混じっておこぼれをもらうのは、体長三〇センチほどの子供にも似た小悪魔の群れ二〇体ほどだ。
† † †
【個体名】なし
【種族名】インプ
【ランク】F
筋 力:F
敏 捷:E+
耐 久:F
知 力:‐
生命力:F
精神力:E+(D-)
種族スキル
《悪魔の血》
固体スキル
《習熟:魔法:■》:F
† † †
『キキィッ!』
『キキキ!!』
インプたちはデーモンの中でも、もっとも脆弱な存在だ。しかし、弱くてもデーモン――《悪魔の血》は魔力を高め、火や風、水、地、闇、雷、氷などそれぞれが得意な魔法を使い、瀕死のレッサーガーゴイルたちを破壊した。
(『新宿迷宮』のこのあたりではレッサーガーゴイルが大量に出るって聞いてたけど……)
ここは一階でさえない、ただの入り口である。その入り口でさえ出現するのは最低がEランク。一階でさえ、Cランクのモンスターが普通に闊歩しているらしく――確認されている一番下の五〇階――調査の結果、まだ『下』があることは確実だという――では、Aランクモンスターがうようよと歩き回り、フロア・ボスはSランク認定されたミノタウロス・プロト“アステリオス”が探索者を退け続けているという。
「スケルトン・ランサーとスケルトン・ソードマンはインプを守ってやって。ボクはレッサーミノタウロスが――」
守ってくれればいい、と言うと、ジャランという音がした。その音に足元を見ると、革袋に卓球のボールサイズの魔石がたくさん詰まって置かれていた――《隠身》スキルで姿を隠した藤林紫鶴が、姿を消したままレッサーガーゴイルの魔石を拾い集めてくれたのだ。
「ありがとう」
そう駿吾がそう礼を言うと、ピロリン、と携帯端末の『ツーカー』が反応。それを確認すると、紫鶴からメッセージが届いていた。
『いえ、このようなことしかできず申し訳ありません』
「ううん、かなり助かるよ。時間短縮になる」
『それでしたら、良かったです』
ピロンピロン、と会話の速度で届くメッセージ。探索者専用コミュニケーションメッセンジャーアプリであるため、通常の方法ではなく魔法的な仕組みでタイムラグはなく、電波が届かないような場所でもメッセージの送受信ができる、という優れものなのだというが――。
「……打ち込み、早いね」
『忍者ですから』
それ、関係あるの? と思ったが、口には出せなかった。とにかく駿吾は拾い集めてもらったレッサーガーゴイルの魔石を“魔導書”に取り込んで、次々に契約していく。
「――《召喚》」
次々と召喚されたレッサーガーゴイルが、ガーゴイルの周囲へと展開していった。数の優位すら簡単に奪った駿吾たちは、《蹂躙》によって数の差でも文字通り蹂躙し、そこにいたレッサーガーゴイルたちを駆逐した。
† † †
(とりあえず、一五体だけレッサーはガーゴイルの《進化》用に残して、売っておくね)
『おう! いやぁ、オレもとっとと強くなれそうで助かるぜ、主』
三〇個ほど、レッサーガーゴイルの魔石をバッグの中へと詰めておく。Eランクの魔石だとひとつ五万円から純度によっては一〇万円になるらしい――なので、最低でも一五〇万円の稼ぎになる訳で。
「……本当に、取り分はいらないの?」
『とんでもありません! 探索者協会から給金は頂いているので二重取りになってしまいます!』
「そ、そう……なの?」
『はい。表向き存在しない部所なので説明は省かせてください』
そういえば諜報部門所属と言っていた……協会の触れてはいけない場所に触れてしまいそうなので、それ以上紫鶴に聞くことを駿吾は避けることにした。
(……なら食事でも奢って……って、思ったけど、なにかな……)
『いいじゃねぇか、誘えば』
思ったこちらの思考に、送還されたガーゴイルが念話で笑う。断りはしねぇだろ、とガーゴイルにはからかう色があるが、実のところ駿吾が気にしているのはそこではないのだ。
(多分、外食って心が休まらないと思うんだ……周りに人がいて)
『――そっちかよ』
(ボクがそうだから、あの子もそうなんじゃないかなぁ)
まさか、似た者同士で交流することになるとは思わなかった。しかし、自分の苦手なことが相手も苦手だと、対処がしやすくて楽だ。そして、ふたりがお互いにこのやり取りで満足しているので、誰からも文句は来ない……ガーゴイルとしても、わざわざ口を挟むつもりもなかった。
――お互いに理解者になれるなら、それが一番だわな。
ガーゴイルはモンスターである。人間の常識に囚われず、また主である駿吾こそ第一に考える傾向が強い。だから、世間一般が理解できない交流でも、主の納得こそを優先して選べるのだ。
駿吾にせよ、紫鶴にせよ。治せとか変われとか、星の数ほど言われてきたのだ。それで治っていないのだから、別のアプローチを試すべきというのがガーゴイルの意見だ。
† † †
【氏名】岩井駿吾
【年齢】15 【性別】男性
【DLV】12
保有スキル:
《ワイルド・ハント》:F
《蹂躙》
《進化》
† † †
(スキルは覚えなかったけど、レベルは上がったなぁ)
あそこは美味しい狩り場になりそうだが、とはいえ周囲の人に見られると面倒なことになりそうだ。また、別の人のいない不人気なダンジョンへ行ってインプやレッサーガーゴイルたちを鍛えて、《進化》させるのが優先だろう。
『――岩井殿』
ピロリン、と『ツーカー』に紫鶴からメッセージが届き、確認する。携帯端末に視線を落とすと、紫鶴から質問が飛んできた。
『つかぬことを伺いますが……仮面というのは、効果があるものなのですか?』
「ああ、これ?」
コンコン、と特殊合金製の犬の仮面を指で叩いて、駿吾は頷く。
「どこに視線が向いててもバレないから、話す時は少しは気が楽になるね」
『なるほど。貴重な意見、ありがとうございました』
「いや、あくまでボクは、だから――」
そう言いかけ、駿吾ははたと気づく。その思考を読み取って、ガーゴイルは笑った。
『いいんじゃないか?』
それに、駿吾は小さく頷いた。
† † †
数の暴力ってひどいのですよ。
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