1話 え? 友達〇人でも召喚者ってなれるんですか!?
※手探りですが、新連載です。
頑張って一日一更新したいと思います。
† † †
「待受番号426番! 岩井駿吾さーん! 岩井さんいますかー?」
探索者協会町田支部、その一階待受で名前を呼ばれ、ひとりの少年が席から重い腰を上げた。
「……ウス」
「岩井サーン、いわ――」
受付嬢にそう声をかけるが、声が小さくて聞こえなかったらしい。駿吾は俯いたまま、再び声をかけた。
「自分ス、岩井っす」
「あ、いらっしゃったんですね」
声をかけてくれればいいのに、と言わんばかりの笑顔を見せる受付嬢に、声をかけたとは言えず、結局「……ウス」とだけ駿吾は答えるのがやっとだった。
「あ、どうぞどうぞ。座ってください」
「……ウス」
「試験合格、おめでとうございます! 岩井さん。今日からあなたはランクF探索者として本探索者協会に登録されました!」
「……ドモ」
「こちらのパンフレットに詳しい規約や諸々の情報が載っていますので、後ほどご自分でご確認ください。こちら、岩井さんの探索者証明証となります。ダンジョンでは携帯義務がございますので、きちんと管理してくださいね」
「……ウス」
「それでは、こちらの契約書にサインと指紋。網膜登録と声紋登録をお願いします!」
「……ウス」
手渡されたタブレットにタッチペンでサイン、指紋と網膜登録まではすんなり終わったものの声紋登録で五回ほど失敗してから駿吾はようやく登録を終えた。
「――はい。これにて登録完了です!」
「……ウス」
「なにか、ご質問はありますか?」
「……ナイッス」
「そうですか! では、お疲れさまでした!」
「……ドモ」
ペコリと首だけ動かす会釈だけして、駿吾はその場を後にする。駿吾は猫背のまま、その場を足早に後にした。
(……今日は人とたくさん話して、疲れた)
早く帰って寝よう、駿吾は魂の抜けた表情でそう思った。
† † †
――“迷宮大災害”。
それは二一世紀になったばかりの頃、二〇〇〇年代に世界中で起きた大災害であった。世界の至るところで空間が歪み、ダンジョンと呼ばれる謎の建造物がそこかしこに現れるようになったのだ。
ダンジョンは未知に溢れていた。危険なモンスター。殺しにかかってくるトラップ。過酷な環境――足を踏み入れれば、生きて帰れる保証などどこにもない危険な領域。人類は最初期、このダンジョンに科学による兵器で挑み、まったく違う法則の中で動くダンジョンの前に惨敗した。
その頃の数年を“失われた時代”という。人類はこのままダンジョンとそれが生み出すモンスターによって蹂躙され滅ぶのか? そう誰もが思った時――“彼ら”は現れた。
ダンジョンの物理法則に対応した新人類。それこそファンタジーフィクションから抜け出てきたような魔法や力を持ってモンスターを駆逐し、ダンジョンを踏破して破壊する者――後に“彼ら”は探索者と呼ばれ多くの人々から畏敬の念をもって受け入れられた。
それから、五〇年以上が経った現在。今、こうしている間にもダンジョンは生まれ続けている――世界は“迷宮大災害”の脅威に晒されているのだ。
しかし、もう以前のような危機感もなければ悲壮感はない。それどころか、国家も企業もダンジョンで得られる資源を目当てに、ダンジョンを管理しだす始末で。
全世界規模で探索者たちを管理する探索者協会とそれに所属する探索者は、人類の守護者として日々戦っている――主に、高額の報酬目当てで。
† † †
(……私見が入りすぎたかね)
四月、新生活が始まるこの億劫な時期。いつもなら環境が変わり気分が滅入る時期だが、駿吾は生まれて始めて晴れやかな気分に浸っていた。
中学を卒業したばかりの駿吾は、家賃月四万円のワンルームのアパートで新生活を開始していた――そう、探索者としてとっとと実家から独立したのだ。
家具もなにもない、六畳一間のワンルーム。こここそが、彼にとっての天国。ぱらいそ。極楽浄土であった。
寝転がってパンフレットを開いたまま、駿吾は改めて自分の探索者証明証を確認した。
† † †
【氏名】岩井駿吾
【年齢】15 【性別】男性
【DLV】1
保有スキル:
《ワイルド・ハント》:F
† † †
駿吾はパンフレットの探索者証明証についての項目を確認した。氏名と年齢、性別は見たままだ。それぐらい理解はできる。
「えーと、この【DLV】ってのが、えーと?」
指で文章をなぞり、駿吾はそこに書かれた説明文に目を通す。
『【DLV】とは、その探索者がどれだけダンジョン環境に適応したかを表します。【DLV】が高ければ高いほど、肉体が頑強となり環境適応能力が上昇するとされています。また、探索者にとって生命線とも言うべきスキルも発現しやすくなり、スキルランクが上昇しやすくなることが確認されています』
駿吾は、改めて見る。1LV――当然だ、一般人はダンジョンへの侵入は禁止されており、駿吾は今日初めて探索者になったのだから。
それよりも、この保有スキル。これこそが、駿吾が探索者などという危険な世界に踏み込む理由となったスキルであった。
今度はパンフレットではなく、探索者協会のサイトに携帯端末でアクセス。判明しているスキル情報から、《ワイルド・ハント》の項目をタッチした。
† † †
《ワイルド・ハント》
召喚者系最上位スキル。このスキルは“最初の探索者たち”のひとりである“アーサー”が保有していたというレアスキルである。本来であれば最上級のランクS召喚者でも一度に一〇体の召喚が限度と言われた契約モンスターを際限なく召喚可能にしたという。
なお、“アーサー”以外に今まで、ひとりしか発現しなかったと言われている。
† † †
この情報は間違っている、と駿吾は知っている――なにせ、駿吾こそが史上三人目の《ワイルド・ハント》所有者だからだ。
「……全然実感わかないんだけどなぁ」
駿吾のイメージする、TVやニュースで見る召喚者とはみなカリスマを持つ存在ばかりだった。あ、こいつならモンスターも従うわ、と納得できる覇気に満ちた存在――のはずだというのに。
岩井駿吾という少年は、まさにその正反対であった。陰気で暗く、人に交じるよりもひとりでいる方が心休まるタイプ。休み時間など本を読んでいるか、寝た振りしたり。まともな挨拶などクラスメートとしたこともなく、まさに小学校から中等部まで独りを貫き通した――陽キャやリア充の対極にある、人生一五年間で友達〇人のぼっち・オブ・ぼっちである。
その証拠に使っている携帯端末もついこの間買ったばかりだ。どうして? 現代人の必需品でしょうって? 連絡取る相手がいないんだからいらなかったんだよ! 血の繋がっているはずの家族とだって二、三言葉を交わすのがやっとの微妙な距離感なのだから。
おかげで人とは目を合わせて話すのも苦手だし、コンビニの店員とだってまともに話せない。政府の政策の一環で中学二年生の時に受けたスキル鑑定で超絶レアスキルが出たと興奮気味に説明されても、「あ、そうッスカ」としか言えない始末。
「……友達〇人でも召喚者ってなれるのか?」
人類ともまともにコミュニケーションを取れない自分が、本当にモンスターとうまくやっていけるのだろうか? そんな心配を今更してしまうが、それを今は飲み込むしかない。
「これは、最初で、最後のチャンス、なんだ……」
まともに人付き合いできなかった自分が、超絶レアスキルを手に入れたのだ。これを活かさないと人類の文明圏で生きていける自信が、正直ない。それこそ清水の舞台から飛び降りるぐらいの覚悟で、すべてを投げうって駿吾は探索者としての道を選んだのだから。
† † †
友達〇人のぼっち岩井駿吾――この選択こそがまさしく、生まれて初めて選んだ“冒険”だった。
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