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第1話 最初から予想外の展開

 目を覚ますと森の中にいた。


 俺は土の上に寝転がっていた。どうやら本当に生き返っているらしい。体を起こすと後頭部からパラパラと土や木くずが落ちる。


「どこだ、ここ……」


 地面に手をつき立ち上がる。手の土を払いながら周囲を見回すが、木と茂み以外のものは何もない。立ってみて気が付いたが地面がわずかに傾いている。もしかするとここは森ではなく山の中なのかもしれない。神様もとんでもないところに生き返らせてくれたものだ。


「だれかー、いますかー」


 無気力に呼びかけながら傾斜を下っていく。人の気配は微塵もなく、当然返事も返ってこない。このまま降りていけばいずれ人里にたどり着けるだろうか。あれほど楽しみに感じていたにも関わらず不安が募る。


「だれかいませんかー…………ッ!」


 ガサっと茂みが小さく揺れた。驚きのあまり無言で飛び退く俺を余所に、這い出てきた小さい蛇がスルスルと別の茂みに入っていく。


「なんだよ、驚かせやがって」


 思わず舌打ちが出た。同時に、自分の知っている動物がこの世界にも存在することに少し安堵した。神様の言う通り、俺の持つ常識は通用するようだ。ただ俺の常識によれば、蛇がいるような場所には他の動物──例えば熊や猪──がいてもおかしくない。下手に声を出さない方がいいだろう。そう考えていた時だった。


 山の遥か上の方から、草木をかき分ける音が近づいてくるのに気付いた。おそらく動物の足音だ。しかも足音は複数聞こえる。山にいる足の速い四足歩行動物と来れば、猪か、あるいは野犬だろう。なんにせよ、襲われれば丸腰の俺は太刀打ちできない。


 その場から逃げ出そうとしたが、足音の群れはすごい速さで山を駆け下りてくる。音の変化から、人間の走る速度以上のスピードで移動しているのは確かだ。これでは逃げ切れない、などと考えているうちに足音の正体はすぐそこに迫っていた。


「くそっ!」


 俺は大きめの茂みに飛び込んだ。小さな枝が手足を引っ掻き、手や顔がじんわり痛む。幸い茂みの中にはちょうど人一人隠れられるほどのスペースがあった。これなら何とか隠れてやり過ごせるだろう。


 足音が一段と大きくなった。気づくな、俺を無視して通り過ぎろ、と目を閉じて念じる。しかし願いむなしく、足音の主は俺のいる茂みに突っ込んできた。


「うわっ!」


 あまりの衝撃に俺は茂みから押し出された。目を開けると、腹の上に青い毛並みの狼がまたがっていた。仰向けに倒れた俺を、動物とは思えない真っ赤な瞳で俺を見つめる。その凛々しい表情は犬とは似て非なるものだった。


 狼が首を振る。噛みつかれると思った俺はとっさに両腕を交差し防御姿勢をとった。しかし狼は俺を攻撃することなく、もの凄い勢いで走り去ってしまった。


 息つく暇もなく複数の足音が近づいてきた。身の危険を感じ慌てて立ちあがろうとするも、瞬く間に五匹の狼に包囲された。どの狼も、先の狼よりも一回りは大きい。どうやら集団であの青毛の狼を追いかけていたようだ。


 狼の足音がじりじりと近づいてくる。まるで獲物を見定めるかのような動きだ。俺は観念して突っ立っていた。変に動いて刺激するのも逆効果だし、そもそもこの狼の群れから逃げられるとも、戦って勝てるとも思えない。


 やがて、目の前に黒い狼が歩み出た。一団の中で最も大きいので、おそらくこの群れのリーダーなのだろう。今度こそ襲われる。転生したばかりだというのに死ぬのは御免だ。俺は心中で戦う覚悟を決めた。しかし次の瞬間、予想だにしないことが起きた。


「お前、何者だ。ここで何をしている」


 喋った。


 狼が。


 人間の言葉を。


 あまりにも予想外過ぎて、俺の思考はフリーズしていた。


「どうした。質問に答えろ」


 我に返った。よくわからないが、話し合いの余地がありそうだ。とはいえ、どう答えたものか。彼らは俺が別の世界から転生してきたと言ったら信じてくれるだろうか。


「おい、名前くらい言ったらどうだ」


 まごつく俺を狼が焦らす。名前はまだ決めていないので答えようがない。


「名前は、えーと、考え中、デス……」


「何を言っているんだ?」


 狼が顔をしかめる。当然だ。今の自分が客観的に見て不審者であることは明らかだった。


「いや、そのー、なんと申しますか」


「……もういい。私の名はリガード。人狼の村の長をしている」


 人狼。どうやら喋る狼の正体は人狼だったようだ。俺の頭の中では人狼は人間を取って食う怪物なのだが、彼らにはこちらを攻撃する意思はなさそうだった。


「お前、怪しいが悪者ではなさそうだな。とりあえず村に帰って話を聴く。ついてこい」


「村長、あの娘のことはどうするおつもりで?」


 リガードの隣にいた栗毛の狼が口を挟む。どうやら人狼はみな喋れるみたいだ。


「今更追いかけても捕まえられないだろう。それにもうすぐ日が暮れる。おそらく山のどこかに隠れて夜を越すはずだ。一度支度をし直しすぐに捜索を再開する。村の全員に手を貸すよう伝えてくれ。遠くに逃げられてしまう前に、絶対に見つけ出さねばならん」


「わかりました」


 リガードが歩き始め、他の狼たちがそれに続く。俺は何にもわからないままその後姿を追った。

読んでいただきありがとうございます。作者です。

この作品は執筆前からある程度ストーリーは固まっていましたが、それでも見切り発車投稿してしまったのでこのまま続けるか迷っております。別の話を書きたい気持ちもありますが、この作品もきりの良いところまでは書くのが礼儀かなー、なんて思ってます。

ではまた。

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