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ハルヲンテイムへ ようこそ  作者: 坂門
アウロ・バッグスの憂鬱

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これが世に言う七不思議というやつですか?

「皆様、お騒がせいたしました。お待たせして申し訳ありません。受付を再開致します」


 モモさんがいつもの優しい笑顔で待合に声を掛けていきます。ざわついていたお客様達も、いつもの【ハルヲンテイム】にすぐに落ち着きを取り戻して行きました。

 

 

 まん丸のせいで滞っていた治療やトリミングが一気に流れて来て、店は大忙しです。

 ハルさんを筆頭に破綻する事無く、見事なまでに回していきます。私も目の回る忙しさに必死についていきますが、なかなか皆さんのようにこなせていないのが現状。もっと、もっとですね。



「お忙しい所、すいません」


 ひと段落した所を見計らったようにひとりの男性が入店されました。短い髪を綺麗にまとめ、エルフかと思うほど綺麗な顔立ちのヒューマン。身長はそれほど高くありませんが、顔が小さいのか、とてもスタイルが良く見えます。

 物静かに頭を下げる姿に、みんなが同じように嘆息して見せました。知った顔の方なのでしょうか?

 男性が顔を上げると、申し訳なさそうな顔でまた頭を下げました。


「本当にいつも申し訳ありません。また父が皆様にご迷惑を掛けてしまったようで、皆様の邪魔をしないようにと口酸っぱく言ってはいるのですが⋯⋯誠に申し訳ありません」


 父??

 誰? ですかね?


「もういいわよ。頭を上げてオルファスさん」


 オルファスさん? 

 どっかで聞いた⋯⋯ええー!? 父? まん丸の息子さん? 何故、あのまん丸からこんな爽やかで、綺麗な顔立ちの子供が生まれるの?? 世の中って不思議。

 

 私が一人困惑をしていると、みんなは苦笑いしつつも、慣れた様子で息子さんを迎え入れていました。


「そうそう。悪いのはあんたじゃないんだからさ。しかし、毎度毎度謝りに来るなんて、律儀だね」


 ラーサさんが肩をすくめて見せると、息子さんも嘆息して見せます。


「身内の不始末を詫びるのは当然です。その前にさせるなと言われればそれまでですけど⋯⋯あ、これお詫びと言ってはいつも同じですが、みなさんでお分け下さい」

「もういいわよ、そこまで気を使わなくて」

「そう言わずに受け取って下さい。せめてもの罪滅ぼしです」


 ハルさんに綺麗な箱に入った焼き菓子を差し出します。ハルさんは苦笑いと共に仕方なくといった感じで受け取りました。


「⋯⋯あれ、高くて美味しいやつ⋯⋯」


 フィリシアが私の耳元で囁きます。

 何とも出来た息子さんで。

 私は父親とのあまりの落差に驚きを隠せませんでした。その姿を面白がるようにフィリシアは続けます。


「⋯⋯いつものルーティンみたいなものよ。父親が面倒を起こして、息子が尻ぬぐい。まぁ、息子的にもここに来る口実が出来るからいいのかもね」


 そう言ってフィリシアは口端を上げて意地の悪い笑顔を見せました。

 口実? 

 私がさらに困惑を深めると、息子を見ろとフィリシアが目配せ。私は息子さんへ視線を移します。


「それとカラログースさん。もうひとつお詫びというわけではありませんが、劇場の特等席のチケットが二枚手に入ったのでいかがですか? 今上演中の『暗黒騎士に落ちぶれたけど気を取り直して、いちからやり直す事にしました』、なんでも主演女優のアンナ・ネレーニャが素晴らしいそうです」

「申し訳ないけど、行く時間は無いわ。本当にそんな気を使わなくていいから」

「⋯⋯そうですか。お忙しいですものね。失礼致しました。あ! そうだ、このチケット、もしよろしかったらどなたか行かれませんか? 二枚とも差し上げますよ」

「あ! いいの!? 貰う!」


 フィリシアは間髪入れずに手を差し出しました。息子さんもイヤな顔ひとつせずに笑顔でチケットを差し出します。

 劇場⋯⋯そんなものもあるのですね。


「どうぞ。楽しんで来て下さい。お騒がせしました。失礼します。あ、アウロ。また嫌味を言われたかい? すまない。君の穴が埋まらないから父もイライラしているのだよ」


 アウロさんは嘆息して、黙って首を横に振ります。息子さんはその姿に微笑みを返し、最後にまたひとつ頭を下げて、お店を後にされました。

 何でしょうこの父親との落差は。

 きっと、父親が引っ掻き回した後に息子が謝りに来るのが分かっているので、最初から強く当たらないのですね。

 いつものハルさんなら瞬殺ですもの。


「ハルさん、一回くらい付き合ってあげれば? 健気でいい子じゃない」

「モモは他人事だからそう言えるのよ。悪いやつじゃないのは分かっているけど、父親がアレだし、なんかいいやつ過ぎて何か気乗りしないのよね」


 ハルさんとモモさんのやり取りを聞きながら、ラーサさんとフィリシアは“ククク⋯⋯”とふたり揃ってニヤニヤと肩を震わせていました。

 まったくふたりとも悪い顔になっていますよ。


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