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ハルヲンテイムへ ようこそ  作者: 坂門
小さな犯獣と大きな犯人?

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瓦礫の奥

 マイキーの震えは止まらず、背中や肩に衝撃が次々に襲います。


『『『グルゥ⋯⋯』』』


 サーベルタイガー達の低い唸りに衝撃が止まりました。


『『『グゥゥゥゥゥ⋯⋯ガアアアアアッ』』』

『『ガルルル⋯⋯』』


 チワニッシュも引く事無く、背中越しに唸り合いが続きます。


「エレナ!」


 ピシっと地面を叩く鞭の音に、ゆっくりと体を起こして行きました。

 私達を守るように立ち塞がるハルさんの背中は頼もしく、恐怖はスッと消えて行きます。マイキーをしっかり抱き直し、犬歯を剥き出しにしているチワニッシュへと顔を上げました。

 特徴的なとても大きな目は血走っていて、いつも愛玩動物(ペット)として対峙している姿は皆無です。そもそも、自身より何倍もの大きさを見せる相手に向かい、威嚇を見せるなんて違和感しかありません。


「エレナ、大丈夫? ごめんね」

「大丈夫です。ハルさんから貰ったこれが守ってくれました」


 振り向くハルさんに私がポンポンと胸当てを叩くと、軽く微笑み、また前へと向き直しました。


「クエイサー! スピラ! ゴー!」

『『ガァアアアアアアアアアアッツツツツ』』

『『ガウガウアガウ』』


 バシっと力強くハルさんの鞭が地面を叩くと、巨躯を誇る二頭がしなやかに前へと跳ねます。その姿を見上げるチワニッシュ達は必死に抵抗しようとしますが、吼えながら下がる事しか出来ません。


「ステイ」


 ハルさんの待てという指示に、二頭の巨躯は前進を止め静かに前を睨みます。二頭の間を割ってハルさんがゆっくりと、チワニッシュへと近づいて行きました。


「ハルさん! 気を付けて!」

「大丈夫、心配しないで」


 冷静な声色を響かせ一歩、また一歩と距離を詰めて行きます。


『『⋯⋯グゥゥゥゥ』』


 じりじりと後退するチワニッシュ。ハルさんとの距離はなかなか近づきません。

 二頭のサーベルタイガーもその巨躯をゆっくりと揺らし、ハルさんの後に続きます。

 届く。ハルさんが素早い手つきでチワニッシュへと伸びて行きました。

 刹那、チワニッシュ達は一目散に走り出します。


「チッ! クエイサー! スピラ! チェイス」


 ハルさんの背後から飛び出す、白い影にチワニッシュ達は蜘蛛の子を散らすかのようにバラバラに散って行きます。どれを追うべきか二頭に生まれた一瞬の躊躇に、チワニッシュ達の影は一瞬で消えてしまいました。


「ああ~もう!」


 悔しがるハルさんの後ろで私は安堵の吐息を漏らします。

 怖かった。チワニッシュなのにあんなに怖いなんて。

 安堵ともに緩んだ両腕から、マイキーがスルリと抜け出すと廃墟の中へとスルスルと入ってしまいます。


「ちょ、ちょっとマイキー!」

「ふたりとも待ちなさい!」


 私が急いでマイキーの後を追うと、悔しがっていたハルさんも続きます。

 ブンブンと細くて短い尻尾を振りながら、ズンズン奥へと進んで行きました。ハルさんの見つけた足跡を辿る迷いのないマイキーの姿は、その奥に何かがあるのだと感じさせます。


「エレナ、待って。私が前に行く」


 チワニッシュが隠れている可能性を鑑みて、ハルさんが前へと。埃が舞い上がりキラキラと陽光に反射します。転がる瓦礫に足が取られ思う様に進みません。

 マイキーはそんな私達にお構いなしにズンズンと奥へと進んで行きます。ハルさんが転がる椅子やテーブルを掻き分け、私達の道を作ってくれました。

 窓から届く光は僅かとなり、影が視界を隠していきます。朽ちた扉が、進む事を拒みますが、マイキーは下に出来た隙間からスルリと奥へ。


「マイキー! ストップ、ストップ、まったくもう。よいしょっと」


 ハルさんは、その力を使って朽ちた扉を横へずらすと埃がさらに舞い上がって視界を塞ぎます。


「ケホッ、ケホッ⋯⋯ちょっとマイキー! 大丈夫なの?」


 ガサガサっと明らかに何かが存在する音。

 チワニッシュ?!!

 私達の緊張は一気に上がります。


「マイキー! バック! エレナ、マイキーをお願い」

「はい。マイキーおいで」


 両手を広げ、マイキーを迎えると埃の落ち着きと共に視界が開けて来ます。

 ガサっと何かが蠢く音が、奥から届きます。サーベルタイガー達の耳はピクっと反応を見せ、私達の足は止まってしまいました。緊張一気に破裂しそうなほど膨らみます。得体の知れない何かが奥に隠れているのは間違いありません。

 部屋の奥は小さな瓦礫が重なり合い、覗く事を拒みます。ハルさん意を決し、瓦礫の前に立つとゆっくりと中を覗いて行きました。


「エレナ、来て来て。ここ⋯⋯良く見えないんだけど何がいるの?」


 私も恐々奥を覗き込みます。何かが飛び出して来たら⋯⋯何て考えてしまいゆっくりと覗き込んで行きました。

 この暗闇ではハルさんの瞳に何も映らないでしょう。

 え? 何で??

 獣人の血を持つ私の瞳に、うっすらと映るその姿に困惑を隠せませんでした。


「ハ、ハルさん! これって⋯⋯」

「何? 何? 暗くてぜんぜん見えないのよ」


 私の後ろで必死に覗き込もうとするハルさん。

 一瞬の困惑に言葉を失ってしまい、頭の中で整理がつきません。ジッと暗闇に浮かび上がったその姿を見つめ、私は首を傾げていました。


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