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ハルヲンテイムへ ようこそ  作者: 坂門
アルバの馬、アルバの人

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その原因は何でしょう?

「あ、ごめんなさい!」


 詰所に勢い良く飛び込むと、真剣な顔のキルロさんとヨルセンさん。それにもう一人若い兵士さんが神妙な面持ちで対峙していました。


「いや、大丈夫だ。どうした? 何か問題か?」

「はい。早急に対応をお願いしたい事と、確認をさせて頂きたい事があります」


 キルロさんは黙って頷き、続ける様促します。


「まず、急いで馬房の工事をお願いします」

「工事?」

「はい。割り当てている一頭あたりのスペースが狭過ぎなのです。倍は欲しいので、空いている所を上手く利用して、馬房を広くしてあげて下さい」

「分かった。倍でいいんだな? ヨルセン、すぐに取り掛かってくれ。そうだ、治療院(メディシナ)に寄って、ニウダにも声を掛けてくれ。手の空いている人間で一気に片づけよう」

「分かりました」

「ヨルセンさん、宜しくお願いします」


 ヨルセンさんは大きく頷いて、詰所をあとにします。


「それと確認ってのは?」

「あっ! はい。馬の世話をしている方の話を聞きたいのですが⋯⋯」

「あ、あ、あのう、それ僕もしていますが、何か問題でも?!」


 何だか少し怯えながら、すごすごと手を上げる若い兵士さんに、私は慌てて手を振ります。


「いえいえ、お世話はきちんとしていると思います。馬の様子を教えて頂きたくてですね⋯⋯その、みんな元気が無いのですが、何か気になった事とかってありますか?」


 俯く若い兵士さん。元気が無いと言うか落ち込んでいると言うのか、何か怒られでもしたのか、少しオドオドとしていました。


「コラット、エレナに協力してやってくれ。多分コラットは、言われるがままに世話をしていただけだと思う。もう少し具体的に聞いてやって貰えるか」

「はい。具体的にですね⋯⋯。お世話はどんな感じでされていますか?」

「だいたい3~4人くらいで、毎朝引き運動組と馬房組に分かれて、面倒を見ています」


 運動もさせてあげて、掃除もしっかりしている。見て感じた通りです。手抜き感はありませんでした。


「何か最近おかしな事とか無かったですか?」

「おかしな事⋯⋯特には」

「そうですか⋯⋯」


 コラットさんは、ゆっくりと首を横に振りました。

 何とも言えないあの覇気を感じない仔達。その原因が分かりません。お世話の手を抜いている所も見当たりませんし、馬房が狭くてストレスを感じているのでしょうか?


「すいません、お役に立てず。でも、こうして聞かれると、ご飯も馬房も、オーカの時に比べると、かなり改善されたのに馬の元気が無くなってきている⋯⋯かも⋯⋯です」


 無くなってきている? いきなり元気が無くなったわけではなく、少しずつ弱っている?

 やはり、馬房が狭くてストレスを感じている⋯⋯のかな? う~ん。


「あのう、あげている牧草とか見せて頂けます?」


 コラットさんは、自身無さげに顔をキルロさんに向けました。キルロさんは大きく頷き、声を掛けます。


「エレナの手伝いをしてやってくれ。エレナ、馬の元気が無いのか?」

「はい。ちゃんとお世話はされているのですが⋯⋯馬房が狭いからかなって思っているのですが、何かしっくり来ないのですよ」

「そっか。オレはそっちを全く手伝えないから、悪いが頼むぞ」

「はい、頑張ります」


 コラットさんの案内で、牧草庫を覗きます。晴れている今日は窓を開け放ち、風の通り道はしっかりと確保されていました。

 牧草に触れても問題はありません。いたって一般的な牧草です。


「お嬢! ちょっとこっち見てくれ!」

「あ、はい!」


 ニウダさんの呼び声に、今度は馬房の方を覗きます。


「この壁を取っ払えばいいのか?」

「はい、そうです。宜しくお願いします」


 コンコンと、仕切り壁をニウダさんは叩いて見せました。

 私は腰の皮バッグからメモを取り出し、馬房について聞いた事を思い出して行きます。

 馬は寝転んで背中を掻く習性がある⋯⋯。

 あ! 背中を掻くので寝転んだ時に起きやすいようにしなくちゃだ。


「すいません! それと起き上がる時に、足が引っ掛けられるよう、この辺に横一本の木を付けて下さい」

「横一本の木な。余裕だ。聞いたか! サッサと始めるぞ!」

「みなさん、お願いします。工事が終わった所から、馬を移動しますので声を掛けて下さい。それと、コラットさん。一旦、馬を外に出すので、どなたか手伝いをお願い出来ますか?」

「分かりました。呼んで来ます」


 さて、あとは⋯⋯。メモを開いて、注意点を漁ります。

 蹄。

 そうでした。蹄の健康がとても重要でした。ここの手入れを怠ると、病気を発症してしまいます。最悪、死に至る事もあると聞いていました。

 馬房から出すついでに、蹄を見て見ましょう。ハルさんから掃除用に鉄爪(てっぴ)も貸して貰っていますしね。

 鉄爪(てっぴ)は、金属で出来た、先端が尖っている細い棒です。汚れを掻き出しやすいように先端に向かい湾曲しています。


「大人しくしていてね。よし、よし、いい仔だね。コラットさん、そのまま優しく持ち上げていて下さい⋯⋯。う~ん、蹄もそんなに汚れていないですね」

「見よう見まねですが、掃除はしています」

「そうですか」


 蹄の汚れをこそぎ落して行きますが、そんなに汚れていないのであっという間です。

 この作業では蹴られないように注意しなくてはいけません。掃除に集中し過ぎて顔を近づけ過ぎたり、後ろ足で蹴られたりしないよう注意です。あと、足を下ろす時に自分の足の上に下ろさない様にとも、注意を受けました。何にせよ、周りにも気を使い、一点に集中し過ぎない様、心掛けして行きましょう。


「ふぅ~」


 大きい仔はさすがに体を使いますね。頭数の多さもありますが、なかなかのやり応えです。じりじりと照らす太陽の光が、私から水分を奪って行きます。もう汗でびしゃびしゃですよ。ぽたぽたと落ちる汗を拭う事もせずに、私は一心不乱に蹄の汚れを落して行きました。


「お嬢! とりあえず終わった! 確認してくれ!」

「はーい! コラットさん、すいません。ちょっとこちらをお願いします」


 工事の終わった新しい馬房は、こちらの要望通りです。横になれる広さと起き上がる時に支えとなる木もちゃんと付いていました。


「ニウダさん、バッチリです。藁を敷けば完了です」

「ふふん、そうかい。よし、残りもサッサと片付けるぞ!」

『へーい』


 ニウダさんは、誇らし気に胸を張って見せると、すぐに工事の続きに手をつけます。

 職人さん達のやる気の無い返事とは裏腹に、作業の手は止まる事をしません。この調子だと思った以上に早く終わりそうです。良かった。


「エ、エレナさーん!! 来て下さい!! 馬の様子が⋯⋯!?」


 コラットさんとは思えない悲痛な叫びに私は馬房を飛び出します。


「どうしま⋯⋯詰所に茶色の大きなバッグがあります! それを急いで持って来て下さい!」


 一頭の馬が苦し気にしゃがみ込んでいました。吐息は弱く、早いです。苦しそうな様子で力無くこちらを見つめ、今にも首は地面に着いてしまいそう。私は反射的に首を優しく抱きかかえ、大丈夫、今、治すからと声を掛け続けました。

 何か病気でしょうか? 食欲不振、元気が無くぐったりとしている⋯⋯これだけで特定するのは難しいです。馬房のストレスと考えると、ぐったりとしている姿に釈然としません。ストレスから攻撃的になって、噛んだり、暴れたりするはずですから。


「こ、これですか?」

「それです! 早くこちらへ!」


 ともかく、今、この状況を打破しなくては。

 バッグの中から、大型種用の大きな輸液を取り出します。

 重い!

 太い点滴針を背中に刺し、輸液を全開で落して行きました。


「持ちます」

「すいません、お願いします」


 輸液をコラットさんに手渡し、聴診器(ステート)を当て、体の音を聞いて行きます。些細な事が大きなヒントになる事もあります、聴診器(ステート)が拾う音に耳を研ぎ澄まして行きました。

 でも、心音が少し早く苦しそうな事ぐらいで、肺やお腹から異音は全く聞こえません。

 食欲不振なので消化器系の不順も考えたのですが、体の音からはそれらしい兆候はありませんでした。



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