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ハルヲンテイムへ ようこそ  作者: 坂門
エレナ・イルヴァンの一日

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お仕事中です

 出来る事を少しずつ。

 

 今の私の合言葉。

 私の一日はお店の掃除から始まります。入口の外から綺麗にして受付を掃除していくのです。

 受付はお店の顔ですからねぇ、煤けているのはいただけません。私が言うのも何ですが。

 掃除が終わると湯浴みをして、ラーサさんに点滴を打って貰います。点滴を打っている間に手持ちの石板を使って教えて貰った算数を復習して、それが終わるとみなさんの手伝いをしていきます。



「エレナー! ちょっと!」


 フィリシアさんに呼ばれてお店の倉庫に向かいます。

 たくさんの備品が整然と並んでいる狭い部屋。フィリシアさんは棚から手早く小さな皮のバッグを取り出すと、棚に並ぶ備品を物色していきます。何やらバッグに詰め込むとベルト共に手渡されました。


「はい、これはエレナの。ハサミと筆記用具しかまだ入れてないけど、徐々に必要な物を自分で入れていってね。大事な商売道具よ」

「ありがとうございます」


 みんなと同じ腰のバッグ。凄くうれしくて顔が自然と綻んでしまいます。何度も腰に手を当てまだ硬いバッグの感触を確かめてしまいました。



「何だとてめえ!!」

「いい加減にしろって言ったの⋯⋯聞こえなかった?」

「てめえ! 客に対して、なんだその態度!」

「ああ?! 他の周りの人に迷惑掛けるヤツなんざぁ、そもそも客じゃねえ! 出て行きやがれ!」

「このぼったくりが! 覚えていやがれ!」

「てめえらチンピラなんざぁ、いちいち覚えているか! いつでも相手してやる!」

「はん、この半端者が」

「何だとコラてめえー! ギッタン、ギッタンにしてやる!」


 受付からハルさんの元気良過ぎる声が届きます。たちの悪い冒険者が、待合で迷惑な事でもしたのでしょう。やれやれです。


 しかし、半端者はいただけませんね。ハーフを侮蔑する言葉です。ハルさんの逆鱗に触れるのは当たり前。この店を開く前は名うての冒険者だったハルさんと小物のチンピラじゃ、きっと勝負にならないでしょう。


「ハルさん! ストップ! ストップ!」


 アウロさんとモモさんで必死に抑えます。鼻息荒いハルさんは、逃げるように去って行く冒険者を今にも飛び出して追いかけて行きそうでした。

 有り余るハルさんの力に、アウロさんとモモさんも必死です。


「まったく! あったまくるわね!」


 アウロさんとモモさんは肩で息をして、少しだけ落ち着いたとはいえ、ハルさんの鼻息は荒いままです。


「⋯⋯どうしたのですか?」


 私はそっとモモさんに耳打ちしました。


「待合いの椅子を占領して⋯⋯ほら、あそこに足の悪いおばあちゃんいるでしょう? 詰めておばあちゃんに椅子を空ける分けでもなく、ふんぞり返っていたからハルさんが注意したら向こうが逆ギレして⋯⋯まぁ、良くある事よ」

「はぁ⋯⋯そうなのですね⋯⋯」


 モモさんは苦笑いと共にお茶目に肩をすくめて見せました。

 良くある事ですか⋯⋯私もそっと苦笑いを返しておきます。


「フィリシア! 塩持って来て! 塩!」

「はい、はい、はい。分かった、持ってくるから、ちょっと落ち着いて」


 待合は平和になりましたが、ハルさんの鼻息は止まる所を知りませんでした。


◇◇◇◇


「エレナ、どう? 勉強捗っている?」


 落ち着いたハルさんが、声を掛けてくれました。あの時とは打って変わって、いつもの穏やかな声色が届きます。


「算数を中心に教えて貰っています。数字はだいたい読めるようになりましたが、文字はまだぜんぜんです」

「今日はもうあがっていいわ。あいつどうせ暇なんだから、文字を教えて貰いに行って来なさい」

「あいつ? あ、キルロさんですか。最近不在みたいですけど⋯⋯」

「クエスト行っていたけど帰って来ているわよ」


 久々にキノに会える。そう思ったら自然と笑みが零れていました。


「あ! ハルさん。何か教えて貰うお礼というかキルロさんとキノに何かあげたいのですが、何がいいのでしょう? いろいろお世話になっていますし」

「そうね⋯⋯ドライフルーツなんてどう? 日持ちもするし、あいつもキノも食べられるでしょう」

「なるほど! そうします」

「じゃあ、これはフルーツ代」

「今日のごはん代はもう貰っていますよ」

「それはそれ。別に上げるって訳じゃない、これはそもそもあなたのお金。エレナの好きに使っていいお金よ」


 そう言って10ミルドを渡してくれました。

 私のお金⋯⋯。

 手の平にある10ミルドを見つめます。ごはん代とは何か違う不思議な感じがしますね。


「ごはん代って言っているけど、あれもエレナのお金だからね」

「⋯⋯はい」


 受け取った硬貨を腰の皮バッグへ入れると、何だか少しだけ大人になった気分になりました。

 誰かの為に自分のお金を使うなんて、ついこの間まで考えもしなかった事ですものね。


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