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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
99/183

Act.082:初戦Ⅱ~ナイヤ・ソヴィンスカヤ vs リスティア・フォースリーゼ(裏番組:カオス劇場①)~

☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:× ジェイク・D vs Dr.ラークレイ ◯

 2:ナイヤ・ソヴィンスカヤ vs リスティア・フォースリーゼ

 3:ケヴィン・アノス vs ルナ・カーマイン

 4:アッシュ vs クライド

 5:オーディン・サスグェール vs ベス

 6:デオドラント・マスク vs コルラ・モルコーネ

 7:クロード・ユンハース vs ガイル

 8:アレックス・バーント vs カオス・ハーティリー

 首都アレクサンドリアの市街地から少し離れた砂漠地帯、そこにカオス達5人はやって来ていた。彼等にしてみればトレーニングでも、市街地でやっては他の人に迷惑がかかるので、そのようにちょっと離れた場所に移動したのだ。

 カオスを前にし、アリステルは説明に入る。

「この試験、今日と明日の試合では、当然実戦であると想定して戦ってもらう」


 とは言うものの、勿論殺し合いをするわけではない。それを意味するところは別にある。


「それは聞いた。つまり、いくら『試合』で良い成績を残せたとしても、それが試合限定で、実戦では何の役にも立たねぇんじゃ意味がない。相手は気にせず、常に初見のものと考え、自分自身の戦いを行えと」

「その通りじゃ。騎士になれるかどうかは問題ではないし、それがお主の目的でもなかろう? それより今回は自分の実力をいかんなく発揮し、なおかつ自分の実力がどの程度のものなのか知るのが、今回お主が重視すべきことだ。この大会は非常に都合がいい。命を懸けず、そうした試みが行える」

「…………」


 マリフェリアスは笑っていた。非常に楽しそうな顔をしていた。



◆◇◆◇◆



 その一方で、トラベル・パスBクラス試験会場である国立第一武道館では1回戦の第2試合、ナイヤ・ソヴィンスカヤ vs リスティア・フォースリーゼが始まっていた。殴り合いと蹴り合いの嵐だった第1試合のジェイク・D vsDr.ラークレイとは対照的に、この第2試合は非常に静かな試合となっていた。それどころか、殴り合いの「な」の字もないような試合だった。

 始まってから1分と少しの時間が経った。双方共に、まだ1発のパンチも繰り出していない。ただ、間合いを取りながらリングを回っているだけに見える。


『両選手共、互いに牽制し合っています。試合開始から1分強の時間が流れましたが、まだお互いに1回の攻撃も行っていません』


 実況はそのように伝えている。

 この試合に制限時間は無い。つまり、このまま牽制が続いているならば、観客はその様をずっと見続けなければならない。それが観客の中で苛立ちになり、ブーイングへと変わる。


「何やってんだ、さっさと戦えーっ!」

「お前等、やる気あんのかー!」

「ねぇなら帰れっ!」


 観客は非常にイライラしていた。前の試合が分かり易かっただけに、余計にそう感じるのだろう。

 その様を、試合を控えている選手達も、控え室のモニターで見ていた。オーディンは、その様を見て呆れたように溜め息をつく。


「愚かな」


 観客は何も分かっていない。


「戦いは既に始まっていると何故分からん? 分かれんのだ?」

「静かな形だからな」


 素人では理解出来ないのも無理はない。クロードは一応観客をフォローする。そして、それから試合の実況を述べる。


「アイツ、あのリスティア・フォースリーゼとかいう奴は、既に攻撃を仕掛けている。それに気付かないようなら、あのナイヤ・ソヴィンスカヤとかいう男は話にならない」

「はっ、確かにな」


 オーディンも相槌を打つ。自分の見解と同じだからだ。


「や、やはりな」


 その後ろの方で、アレックスは独り呟いた。誰に聞かせる訳でもなければ、誰もその言葉を聞いていなかったのは分かっていたが、そうやって分かった振りをしていたかったのだ。つまりは見栄だ。

 そう、アレックスは何も分かっていなかった。アレックスには試合をしている二人はただリングの上をウロチョロしているだけにしか見えなかったのだ。

 とは言え、何が起こっているのか、周りに訊ける雰囲気じゃねー! つか、訊ける相手も居ねー! 次の試合のルナは、スタンバイで別の場所に行ってしまったし、カオスはいつの間にかどっかにいなくなっている。でもって、分かってないのはこの場で俺だけか~?

 心の中でそう叫んだアレックスは、自信喪失の螺旋に陥ってグルグルしていた。

 その一方、観客席で観ているサラとアメリアも戦っていないようにしか見えていなかった。サラはつまらなそうな顔をして呟く。


「いつになったら戦い始めるんだか」

「そうね~」


 何も見えない素人の二人とは対照的に、玄人であるマリアとリニアは当然分かっている。その2人の問いに、リニアは答える。


「いや、もうすぐ終わる」

「え?」


 始まってもいないのに、終わりも何もないだろう?

 サラはそう思ったのだが、それを口にする前にマリアはその続きを、その終わりを告げる。


「はい。出来たわね~」

「終わり、と」


 リングの上のリスティアも、それと同じように呟く。これで終わり。彼女は自分の勝利を確信した。その瞬間である。


「な!」


 ナイヤを中心とした魔方陣が一気に現れた。その魔方陣の周囲から縄状の光が現れて、それが素早く真っ直ぐに中心のナイヤへと向かう。そして、ナイヤを捕らえた。


「ななななっ、これは?」


 避ける間は無い。魔方陣によって足も固定されている。抵抗も出来ず、回避も出来ず、ナイヤはただ縛られるだけだった。


「これは結界。束縛結界かっ!」

「ええ」


 さすがに知識はあるのか、ナイヤは自分が置かれた状況を、捕らえた魔法がどのようなものであるかを、その一瞬で理解した。もう、既に手遅れではあるが。だからこそ、リスティアもナイヤに対して即答する。

 そんな試合運びを、モニターの向こう側で見ていたクロードとオーディンはその束縛結界が完成する前に気付いていた。


「僅かではあるが牽制にしては違和感のある動きの端々、そして描かれた魔法陣による残存魔力」


 オーディンは言う。


「そういった変化に気を払えていたならば、まだ少しは分からなかったのかもしれないな。ま、それでも時間の問題だろうが」


 クロードも言う。そして、そこで勝負の終了を2人は確信したのだ。リスティアとナイヤの、2人の格は違い過ぎた。


「見事だ。だが」


 ナイヤはこのような結界に捕らわれた自分の落ち度と、それを成功させたリスティアの腕前は認めたが。


「決着はまだだぞ。このような結界、すぐに破ってやるからな」


 結界は破ることが出来る。そして、振り出しに戻る。そこからが勝負だ。

 ナイヤはそのように考えていた。勿論、リスティアもその結界が破られないとは思っていない。


「ま、破ることは出来るでしょうね。けれど」


 それは承知の上でやっていたのだ。なぜなら、捕らえてそれで終わらせるのが目的ではない。その目的が成された結果として、事実上終わるだけだ。


「勿論、それまでおとなしく待っていたりしませんよ?」


 リスティアは魔力を充溢させてみせる。

 結界を破っている時、その者は隙だらけになる。どのような熟練者であれ集中しなければならないし、それ以前にこのような束縛結界ではそれ以外に出来ることはない。

 つまり、破っている間は相手に攻撃され放題というわけになる。防御も出来ず、ダメージは大きくなる。その上、攻撃によって結界破りは阻害される。それは、事実上結界破りは出来ないこととなる。

 故に此処でお終いなのだ。


「くっ!」


 ナイヤは悔しそうに唇を噛む。ようやく彼は自分の置かれた立場を理解したのだ。


「当然だ」


 モニターの向こうの、クロードもそう言う。このようになった者に攻撃するのは、卑怯でも何でもない。罠にかかったのが間抜けなだけだ。

 その上でナイヤはもう1つのことを実感する。目の前で見せているリスティアの魔力、自分より圧倒的に下ならば食らっても結界破りは可能なのかもしれないが、目の前に居るのはそれとは真逆に自分よりも格違いに強い者であった。1発食らっただけでKOされかねない実力差があると。


「で」


 リスティアは、ナイヤに訊ねる。


「どうします? 続けますか?」


 この魔力、事前のA評価は正当だということか。こんな試合運びをしなくても、どうとでも倒せるということだ。

 どう転んでも、自分に勝ちはない。ナイヤはそのように実感する。これ以上無理をしたところで、自分が不必要に怪我をするだけだ。

 だから、諦める。


「…………。ああ、まいった。降参だ」


 その瞬間、観客席から歓声があげる。さっきまでブーイングをしていたのが嘘のようだ。もっとも、見てるだけの者としては、楽しければそれだけで良く、何も考えていないのだろう。

 審判はリスティアの勝利をコールする。


『降参。ナイヤ・ソヴィンスカヤ選手、降参しました! よって、リスティア・フォースリーゼ選手の勝利です!』


 マスコミ向けの放送席でも、実況と解説が行われている。実況は、一応騎士でもある解説者に、この試合について訊ねる。


『このナイヤ選手の判断についてはどうでしたか? 解説のデケムさん』

『まあ、賢明な判断ではありますね。あそこまで綺麗に極められてしまうと、確かにどうしようもないですからね』



 そうして試験は進んでいく。第2試合の選手の退場が終わり、次の試合が始められようとしていた。それを審判兼司会の女性が宣言する。第3試合の開始を。


『それでは第3試合、ケヴィン・アノス vs ルナ・カーマイン! 両選手共、入場して下さい!』


 そのコールと共に、北門と南門の両方が開かれ、パイロの演出と共に両選手が入場する。その2人に観客は大きな歓声を贈る。


「キャー、ケヴィ~ン!」

「頑張ってケヴィンー!」

「ファイトー」


 歓声の殆どがケヴィンに向けたものだった。ケヴィンは2回目の出場である上、出場前からアイドル的な扱いを受けていた人物なので、女性ファンが多くついている。その一方、ルナはただの一生徒でしかない。

 とは言え、そんなルナに対する応援の声も無いわけではない。


「頑張れー」

「女の子も負けるなよー!」

「ケヴィンなんかやっつけちまえー!」


 そんな歓声もあるにはある。もっとも、数も大きさもケヴィンに対して大きく負けてしまうものであったが。

 ルナはそのようなことは気にしない。目的は別の所にある。此処で大きな歓声を浴びることではないのは勿論、騎士となって出世することでもない。だからこそ、平静なままでリングインする。

それはケヴィンにしてもそうであった。歓声に気を取られずに、真っ直ぐに対戦相手であるルナを見据える。


「見せてもらおうではないか。エスペリアの騎士の実力とやらを」

「…………」

『それでは第3試合、始め!』



◆◇◆◇◆



「なぬ?」


 試合とは別の場所、首都アレクサンドリアの市街地から少し離れた砂漠地帯、そこでカオスは少し眉をひそめた。目の前に居るマリフェリアスが馬鹿を言った気がしたのだ。

 人の話を聞かないカオスに、マリフェリアスはもう一度言う。


「だから、今日の鍛錬は私がしてやるって言ったのよ」

「何故?」


 適当にウォーミングアップする程度に抑えておきたいと思っていたのに、マリフェリアスが介入すると面倒になりそうだ。

 カオスはそのように思った。だから、やめさせようとした。だが、それはマリフェリアスには通用しない。マリフェリアスもまた、人の話を聞かないからだ。


「何となくよッ!」

「ざけんな、ババァ!」


 逆ギレに逆ギレ。それに対する、さらなるプッツン。

 マリフェリアスの鉄拳が、またまたカオスに炸裂した。カオスは殴り飛ばされ、真昼の星となった。そんな、いつも通りの展開であった。

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