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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
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Act.078:顔合わせ

 アレクサンドリア連邦国立第一武道館、その別棟となる何処かの建物、そこにカオス達本選出場者である16人は集められていた。

 その顔ぶれをカオスは見渡す。


「ほー」

「ほーって、何が?」


 表情を変えずにそう言うカオスに、アレックスが訊ねる。


「顔ぶれが、な」

「顔ぶれ?」


 アレックスはカオスの真似して、自分達を除く本戦出場者12人の顔を見渡した。髪の長い者、短い者、奇妙なカッコウの者、普通のカッコウの者、見た目の良い者、悪い者、色々存在していた。


「ほー」


 アレックスもカオスの真似をしてみた。特に意味は無いけれど。


「ほー」


 カオスも続く。全く意味は無いけれど。


「って、何なのよ。一体」


 ルナは訳が分からず、そうツッコミを入れた。そんなカオス達から返事は無い。意味なんか何もないからだ。そして、そんな間を置かずにカオス達に話しかける者が現れた。


「久し振りだな」


 その者は言う。


「「?」」


 カオスとアレックスがその者の方を振り返ると、そこには一人の男が居た。ここに居るということは予選の通過者なのだろうが、『久し振り』と言われてもカオス達はその男に見覚えがなかった。その男は普通の男と比べればガタイは良くても、格闘家としては普通である。髪型、顔、カッコウ、どれをとっても普通である。まるで印象に残らなそうな容姿だった。

 ただ、自信たっぷりにそう言うのでは、以前に会ったことがあるのだろう。アレックスは過去に会った男を思い浮かべながら、その中から探し出そうとしていたが、男相手にそんな面倒したくないカオスは、即刻訊き返す。


「誰?」

「やっぱり覚えていないのか~」


 その男は自分の地味な容姿を認識していて、そうなるだろうと予想していたとはいえ、やはり多少はショックを隠せないでいた。そんな男の後ろからリスティアが現れ、その男のフォローをする。


「コルラ・モルコーネさん。アヒタルで会った警察官の一人ですよ」

「リスティア」


 アヒタル、それはトラベル・パスCクラスのパスを受け取りに行った街である。そこで騒動があり、何人かの警察官に会って、それらが名乗った記憶はある。その名前は何一つ思い出せないが。


「言われてみれば、そんなのが居たような、居ないような、居たような、居ないような?」


 アレックスは眉をしかめながらそう言う。


「そうか? 俺は全然記憶にねぇ。ま、アヒタルで覚えてるって言ったら、カイとその若い母ちゃんの素敵おっぱいくれぇだしな」


 カオスは思い出そうともしなかった。そして、どうでもよさげだった。


「…………」


 コルラはそんな2人の応対に絶句した。だが、すぐさま気を取り直す。

 あの時は対モスル=カルバラ&エマムルド強盗団と戦う同志であったけれど、今回はライバルである。彼等とも戦う可能性があるのだ。その時は、一介の戦士として全力で戦わなければならない。

 コルラはそのように改めて決意を固める。


「まあ、いい」


 コルラは言う。


「とにかく、この本戦ではアヒタル警官No.1の意地を見せてやるからな。容赦しないから覚悟しておけ」

「ああ、分かった分かった。楽しみにしとくよ。ああ、楽しみだ」


 感情の全くこもっていない言葉を放つ。カオスの対応は実にいい加減で塩対応だ。


「じゃ、リングで会えれば会おうな、コレラ=モッコリーナ」


 コルラが思い切りずっこけたのは、言うまでもない。



◆◇◆◇◆



「それでは、本戦組み合わせの抽選を行います」


 それから数分経って、本戦組み合わせ抽選の準備が整い、Aブロックの審判をしていた男が16人の選手を集めて説明を始める。


「本戦は16名によるトーナメント戦になります。敗者復活戦はありません。そして、一回戦は8組の試合、二回戦はその勝者8名による4組の試合、と試合数はどの組み合わせになっても均等となっております。そして、このトーナメント戦の上位4名にのみ今年のアレクサンドリア連邦のトラベル・パスBクラスが与えられます」


 Aブロックの審判をしていた男、係員は説明を続ける。


「尚、優勝者にはこの試験のスポンサーとなっている各企業等から、賞金として10万ゼルが与えられます」

「10万ゼル?」


 アレックスは驚く。

 今まで特に賞金について考えてなかったので分からないでいたが、大金が入ってくるとなったら話は別である。やる気がさらに倍増される。

 ただ、悲しいことにアレックスはただの庶民である。10万ゼルという大金がどの位なのか分からなかった。だから、例えを出して指折り数える。


「10万ということは、学食でAランチがひい、ふう、みい」

「もっとマシな例えはないのか?」


 2ゼル半で食べられるAランチで例えずに、もっと良い例えがあるんじゃないか? カオスは言ったが、それ以上は言及しなかった。賞金は貰えれば嬉しいが、優勝出来るとは思っていないので、現実的な話じゃないからだ。尚、その賞金で食べられるAランチは4万食である。

 と、そんなこんな話をしていると、抽選開始の時間となった。


「それでは、組み合わせの抽選を始めます。Aブロックの代表から順に箱に入っているクジをひいて下さい」

「え、ええええ、Aブロック?」


 16番Aブロックのアレックスはそう繰り返し、自分のブロックが何なのか思い返した。


「って、ひょっとして俺からかぁっ?」

「ひょっとしなくてもお前からだ、たわけ」


 鈍いアレックスに、カオスが即刻ツッコミを入れる。だが、突然のことで頭がグルグルと混乱しているアレックスの耳に、カオスの声は届いていない。アレックスの頭は、抽選後の試合組み合わせの不安でいっぱいだった。

 くぅ、いきなり強い奴と当たらないといいなぁ。

 アレックスはそう願う。そして、その試合が大勢の人の前で公開されていることにもすぐに考えが及ぶ。

 もし、強い奴と当たったとして、みんなの前であっさりと負けたりしたら?

 恥晒しである。トラウマにもなりそうだ。

 その緊張とプレッシャーで、アレックスの動きは非常に不自然なものとなっていた。油の切れた上にボロボロなロボットのような動きで、抽選箱に向かおうとする。が、カチコチで上手く進んでいけていないようだった。

 カオスはそれを見てニヤリと笑う。


「おい、アレックス。“手と足が”一緒に出ているぜ」

「何!」


 ナーバスになっていたアレックスは、驚いてそのように言ったカオスの方向を振り返る。そして、自身の動きを振り返る。

 少し経ってからようやく気付く。


「…………」


 手と足が、一緒に出ている。


「って、当たり前じゃないの」


 歩く上で。


「って、騙しかい!」

「ウダウダしてっから、そんなことにも気付けねーんだよ、バーカ」


 アレックスは苛立った気分でまた抽選箱の方に方向を戻した。その動きは、呼び出された最初の頃に比べると、実にスムーズなものとなっていた。

 カオスの言葉は、ただ単にアレックスをからかったものであったが。


「でも、緊張はほぐれたでしょう?」

「!」


 そう言うルナの言葉で、アレックスは自分の体の動きに気が付いた。さっきまで上手く動かせず、抽選箱に向かうだけでも重労働となっていたのに、今では普段通りと大して変わりはなく感じられていた。

 というのは、さっきのはもしかして?

 カオスがからかったのは、緊張をほぐさせる為のものだったのだ。そのことにアレックスはやっと気付いた。だが、カオスにとってそんなことはどうでもいい。


「それよりもたかだかクジだろ。さっさと行って、適当なもんピラッとひいてこいや」

「あ、ああ!」


 アレックスは真っ直ぐに抽選箱の方へと向かった。それから箱の中に無造作に手を突っ込んで、適当に何回か引っ掻き回した後、折りたたまれている一枚の紙を取り出した。


「コレか」


 アレックスはその折りたたまれてある紙を広げて、それを係員等の周囲に見せながら、そこに書かれてある数字を読み上げる。


「15番か」

「はい。第8試合ですね」


 係員は壁に貼られたトーナメント表の端から2番目の所にアレックスの名前を記した。書き終わると、選手達の方を振り返って、次の選手を呼ぶ。


「では、続いてBブロックのクロード・ユンハースさん」

「はい」


 肌は絹のように白く、ウェーブのかかった長髪をもつ若い優男が返事をして、ゆっくりとその抽選箱の方へと向かっていった。その動きは優雅に、貴族のようでもあった。


「ケッ、キザな野郎だな、オイ」


 別に聞かせるつもりはないが、カオスはそのように毒づく。

 確かに、振る舞いはキザなところがある。しかし、彼の実力は本物であり、この戦いを勝ち抜くに当たって障害となるのは間違いない。

 カオスの隣に居た、リスティアは言う。


「でも、彼は今年一番の合格者候補ですよ」


 数多く本戦出場しているオーディンや他の面子よりも、去年初出場した彼が一番期待視されていて、予選前からそのように言われていたとリスティアは言う。


「マジで? アレが?」


 カオスにはにわかには信じられなかった。周りには、もっとガタイの良い奴は山程居るのだ。

 とは言え、強さとはそれだけではないともカオスは知っている。その上で、そこまで持ち上げられるような人材ではないだろう。カオスはそう感じていたが、そんなカオスにリスティアは断言する。


「マジ、です」


 そうリスティアが答える頃には、クロードはクジをひき終って、それを発表していた。


「13番」

「はい、第7試合ですね」


 そして、その名前をまたトーナメント表に書き入れ、それが終わってから次の人物の名を呼ぶ。


「では、次。Cブロックのカオス・ハーティリーさん」

「ああ」


 カオスはふてぶてしい感じでドスドスと抽選箱へと向かった。それから箱の中に手を入れると、迷ってもしょうがないとでも言うように、一番最初に手に触れた紙をピックアップした。

 それを広げ、まずは自分だけでその数字を見る。


「!」


 その数字に、カオスは驚いた。そして、笑い出す。


「クククク」


 実に面白い。なんて面白いナンバーだ。カオスはそう思えた。

 そしてカオスは、それを係員だけでなく他の選手達にも見えるようにしながら発表した。


「16番だ」


 係員は淡々とその作業を進める。


「はい。カオスさんは、第8試合でアレックスさんと対戦です」

「何!」


 選手の人並みの端で、『強い人と当たりませんように』と祈り続けていたアレックスが、その発表を聞いて驚きの声を上げた。声がそれで出なくなってしまうんじゃないかって位の大声を。

 ある意味、一番戦いづらい相手でもあったが。


「待てよ」


 アレックスは考える。

 これは自分にとっても大きなチャンスである。これに勝てば、自分がカオスよりも強いとハッキリ証明出来る。その点で言えば、これ以上の機会は何処にも無いだろう。

 そう、勝てば。


「勝~つ!」


 アレックスは気合いを新たにした。その間に、次のDブロックのリスティアが呼び出される。その次はEブロックのガイル、Fブロックのオーディンと、次々と代表者が組み合わせのクジを引いてゆき、次々と決まっていった。

 そして、最後から2番目のOブロックのナイヤが引いたことで、最後のPブロックのコルラも含めてその対戦表が決定したのだった。


「では、この通り明日と明後日に本戦の対戦を行いますので、その通りにお願いします。それでは、ここで解散となります。明日以降に備えて、各自休息を取って下さい」


 係員がそのように告げ、トラベル・パスBクラス試験の初日の部分は終わりとなった。そして、それがこの試験の本格的な始まりを告げる声だった。



☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:ジェイク・D vs Dr.ラークレイ

 2:ナイヤ・ソヴィンスカヤ vs リスティア・フォースリーゼ

 3:ケヴィン・アノス vs ルナ・カーマイン

 4:アッシュ vs クライド

 5:オーディン・サスグェール vs ベス

 6:デオドラント・マスク vs コルラ・モルコーネ

 7:クロード・ユンハース vs ガイル

 8:アレックス・バーント vs カオス・ハーティリー


 二回戦(決定戦)

 9:1の勝者 vs 2の勝者

10:3の勝者 vs 4の勝者

11:5の勝者 vs 6の勝者

12:7の勝者 vs 8の勝者


 準決勝

13:9の勝者 vs 10の勝者

14:11の勝者 vs 12の勝者


 決勝

15:13の勝者 vs 14の勝者


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