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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
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Act.069:騎士への道Ⅱ~また来月~

「アンタ、アレクサンドリア連邦のBクラスのトラベル・パスも取りなさい」

「はあ? いきなり何訳分かんねーことを言ってんだ?」


 カオスとミリィやメルティの間に、一瞬沈黙が走った。カオスとしては、マリフェリアスがいきなり変なことを口走ったようにしか聞こえなかったのだ。ミリィとメルティは、そんなカオスとマリフェリアスのやり取りを見ながら苦笑いをしていた。

 カオスよりもずっとずっと長くマリフェリアスと一緒に居る彼女等には、そのマリフェリアスはいつものことで、珍しいことでも何でもなかった。そう、その気まぐれと自分勝手さは。

 そういう風に見えはするものの、マリフェリアスの中では理論は繋がっている。彼女は、話を続ける。


「時代の流れからか、ここエスペリアだけでなく他の三ヶ国でもそろそろ私達四人の時代は終わりを迎えようとしている。元々この平和には無理がある、不自然なものであったしね。しかし、その次を担う者達が育ち、それを背負っていく準備が整っていない」


 だから、いきなり何の話だってんだ?

 カオスは適当に耳を貸しながらそのように思っていた。


「だから、そう遠くない未来に今あるこの平和が崩れてしまうのは火を見るよりも明らか」


 Bクラスのトラベル・パス、騎士、崩れる平和、それからカオスは一つの答を導き出す。自分にとって望ましくない答を見つけてしまったのだ。


「それでBクラスのトラベル・パスを取って、騎士になって、皆の平和を守る為に力を尽くせと? 無理無理。だりー。面倒くせー。馬鹿馬鹿しー」


 カオスは心底嫌そうな顔をした。マリアやルナのように親しい者の為に少し力を貸すというのならばともかく、見ず知らずの人間の為に自分の命を懸けるなんて、自己満足の偽善以外の何ものでもないとしか思えなかった。

 マリフェリアスはそうしろと言っていると思っていた。だが、それは違っていた。マリフェリアスは答える。


「いや、そんなもの強要はしないし、ましてやお前がするとも思っていない。ただ、あると便利だから取っておきなさいってだけ。Bクラスのトラベル・パスがあれば、その国内の治安状況は教えてもらえるようになるだろうし、他にも色々と一介の一般人では知りえないことも教えてもらえるようになるからね。平和が崩れた時、そういったものがあれば、騎士にならなくてもプラスにはなるんじゃないかって寸法よ。と言うか、あんたの姉もアレクサンドリア連邦のBクラスパスを持っていながら、国防の為には何もやってないじゃない」


 マリフェリアスの言葉と、自分の持っているこのエスペリアのBクラスのトラベル・パスを併せながら、カオスは一つ一つ考えを巡らせていった。

 便利。確かにこうして面会するのにこのトラベル・パスは必要不可欠だが、マリフェリアス一人と会うのがそんなに良いかと問われると、それは素直に首を縦に振れない。悪いとは言わないが、苦労してまでしてその権利を得ようとするものではないと思えた。

 治安状況を知れる。それはこの先平和に暮らしてゆく為に必要なものに思えた。しかし、そこには一つひっかかるものがあった。それは。


「俺、ここの治安状況知らねぇぞ? まあ、知ろうとしてねぇのも確かだが」


 そう、エスペリアのトラベル・パスを持っていても、その治安状況は全く知らないのだ。だが、そんなカオスにマリフェリアスはニッコリと笑って答える。


「大丈夫♪ 私も知らないから」

「大丈夫♪ じゃねーだろがよ」

「ふふふふ」


 そうしてマリフェリアスはひとしきり勝手に笑った後、また話を元の位置に戻す。


「まあ、持っていて損するようなことは無いだろうし、とりあえず取っておけって話よ。それを目指すというのは、これからのトレーニングのモチベーションにもなるだろうからね」

「成程ねぇ」


 ただ漠然と周りに居る者達を守れる位の力を手に入れておこうと考えたところで、目の前に何らかの危機でもない限り、その曖昧な動機付けがトレーニングのモチベーションとはなり難い。そこで、具体的な目標を掲げ、それを目的にトレーニングを励むようにさせ、結果として目的を目指す。

 仮にBクラスのトラベル・パスを持ったところで、必ず騎士として国の為に尽力しなければならない訳ではないのは、マリフェリアスの言う通りマリアを初めとするアレクサンドリア連邦のBクラスのトラベル・パスの所持者達を見れば分かるものであった。それならば、持っていても困ることはないだろう。困らないなら、とりあえずそれを目指してみるのもいいかな~、とカオスは考えた。


「それで、まあ、騎士と言って何もしないのもカッコつかないから、気が向いたら困ってる人の一人や二人位助けてやりなさいな」


 騎士と謳われる者が一般人を見殺しにしてはならないという規定はないだろうが、カッコ悪くてみっともないのは事実だ。だから、マリフェリアスはそのように言ったのだったが、カオスはそんな言葉を即答で拒絶する。


「やなこった」


 そして、その後に理由を述べる。


「なぜなら、この俺様が救うのは美女&美少女だけだからな! はーっはっはっはっはっは!」


 いつもの通りだ。いつも通りのカオスだった。そして、そのいつも通りのカオスに、マリフェリアスの鉄拳制裁が行われるのもいつも通りであった。

 カオスの体は弧を描き、床にベチャッと落ちる。その床に倒れたカオスを見て、ポニーテールのミリィは呆れた顔をしていて、ボソリと言った。


「懲りませんね」

「フッ、シリアス展開に突入するのを防ぐ為には仕方ないのさ」


 立ち上がりながら、真っ直ぐな瞳でそのように答えるカオスは、馬鹿以外の何ものでもなかった。


「…………」


 美女、もしくは美少女しか救わない。そのようにカオスは言ったのだが、マリフェリアスにはカオスは目の前で自分が助けられる者を見殺しには出来ないと分かっていた。要するに、カオスも根は悪くないのだ。

 それをマリフェリアスは分かっていた。だからこそ、カオスの言動に対して軽く怒ることはあっても、本気で怒ることもないのだ。



◆◇◆◇◆



「じゃあな。俺は帰るぜ」


 青空の広がる屋外へと出て、カオスは見送りに出たマリフェリアスとミリィ&メルティに別れを告げる。今生の別れとなる訳ではないし、今回のように瞬間移動魔法インスタンテを使えばすぐ会えるので、挨拶はこの程度で良い。喩えるならば、学校からの帰宅時でのお別れと同じようなものだ。


「…………」


 マリフェリアスはカオスとその隣に居るアリステルを交互に見てから、視線をカオスに戻した。その間、少し考えさせられる事があり、考えを巡らせていた。

 カオスは無事にアドバイザーとなるアリステルことブラックエンド・ダークセイバーを手に入れた。それで、これから人間初の闇魔法の使い手として成長してゆくだろう。それは非常に興味深く、楽しみだ。

 とは言うものの、それだけでは不安が残る。闇魔法そのものに実害は無い。しかし、魔王アビス以外に使い手が知られていない闇魔法をカオスが使っているのを知った時、アーサーはどのような行動に移すのかを考えると、その楽しみを秘密裏に消される恐れがある。隠し切れればそれもいいが、それは恐らく不可能であろう。ならば、自分の騎士としてアーサーや民衆の前に曝け出して、消せない状況にさせてしまえばいい。そうすれば、カオスが普通の生活を送っていくには困らなくなるであろう。

 そのように考えてのことだった。だが、それはカオスには言わない。


「ま、せいぜい頑張んなさいよ」


 その程度だ。


「ああ。死なねー程度にな」

「ま、あそこの試験では命を奪うと失格だから、試験中に意図的に殺されはしないけど、少なくとも『私の騎士』としてみっともない姿を曝すんじゃないわよ? しっかり監視に行くからね。いいわね?」

「言ってろ、ババァ」

「▽$■%ξ≠√!」

「#★@*ΠΛヾ!」


 またレベルの低い口論が始まり、その口論をアリステルはまた始まったかというような呆れた目で見ていて、ミリィとメルティはただ眺めていただけだったが、もじもじするメルティをミリィは後押しをしていた。

 メルティは一歩踏み出し、適当なところで口論を切り上げたカオスにニッコリと笑って挨拶をする。


「カオスさん、また来て下さいね」

「ああ。また会おうな、メルティ」


 それは、メルティとミリィに驚きを与えた。なぜなら、カオスがここに居る間彼女等が進んで前に出ることは無く、名乗りも殆ど無ければ、名前を呼ばれたことさえほとんど無かったのだ。その上、マリフェリアスに比べて個性も薄い。だから、名前を覚えていてもらっているとは夢にも思わなかったのだ。

 けれど、カオスは即答で返した。それは、彼女等には喜びだった。それ故に、彼女等は去ってゆくカオスを心からの笑顔で見送れたのだった。

 その様をマリフェリアスが面白くない顔で見ていたのは言うまでもない。

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