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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Connect09:彼等の後日譚

 時は少し遡って、カオスが闇の守護者を倒した頃合いのこと。決闘場のリングの上に二人、☆と×は立っていた。☆は過ぎ去りしあの日、自分がこのような月朔の洞窟の守護者になってしまったあの日の出来事を思い出していた。

 今日対戦した五人組、あれと同じく自分もまたこの月朔の洞窟への挑戦者であった。だが、最後の闇の守護者との戦いに敗れ、それは終わった。そして、闇の守護者によって自分の命が奪われようとした時、自分やその仲間は闇の守護者に対して命乞いをしたのだ。みっともなく頭を地面にこすり付けて、お願いしたのだ。

 闇の守護者はそんな命乞いをした者達の命乞いを受け入れる為、一つの条件をつきつけた。有無を言わせぬ命令であった。


『死にたくないのならば、この月朔の洞窟の為に、この余の為に働け。期間は100年でいい。ただ、働いた報酬として侵入者を足止めした時間をその年月からさらに引いてやる。相手が撤退したり、死んだりしたら、そこから夜明けまでの時間にしてやる。それが終了したならば、この月朔の洞窟から貴様等を解放してやろう』


 その上で付け加える。


『逃げることは出来ぬ。侵入者共と違い、守護者となった貴様等は、月朔の洞窟から自由に出入りは出来なくなる。それが朔の日であったとしてもな。余の特殊な結界により、いかな力でもってしても月朔の洞窟から出られぬ。それ故、貴様等がここから生きて出る為には、余の言った務めを全うして余から解放してもらうか、結界の大元である余が敗れて消えるかのどちらかしかないが』


 闇の守護者は胸を張る。


『余の辞書には『敗北』の二文字は存在しない。ならば、分かっておるな?』

「あ、ああ」


 そのように返事をするグレン(偽)に対して、闇の守護者は偉そうに腕を組みながら愉快そうに笑っていた。

 それは屈辱。

 それは尊厳の喪失。

 それは忘れたくても忘れられない憎しみの記憶であった。だが、それが何となく今晴らされたような気がしてならなかった。しかしながら、闇の守護者の特性を考えると、それは気のせいにも思えていた。


「気のせい、だろうか?」


 大して高くない薄暗い天井に問いかける。無論、答は返ってこない。その代わり、×がその問いに対する解決策を出してくれる。


「ならば、確認してみればいいじゃないか。ここから出れるかどうか」

「そうだな」


 案ずるより産むが易し。行ってみれば良いのだ。☆と×はそう判断し、月朔の洞窟の入口に向かって歩き出していった。そして、何となくだが気付いていた。ただ、具体的な証拠が挙げられないので、それに対して自信が持てないだけ。

闇の守護者は敗れ、そして消えたのだと。

彼等はそうして一歩一歩、外へ向かって歩いて行った。その末に彼等は辿り着いた。月のない真っ黒な空と、東の彼方に見える眩しい光の下へと。


「外だ。出られたのだ」


 頬に星型のタトゥーを入れた男が、空に向かい呟く。頬に×印の傷がある男もつられるように眺める。

 月朔の洞窟に闇の守護者によって閉じ込められて、普通の者が普通に見られていたモノを奪われていた。それが今、戻った。取り戻したのだ。


「まさか、こんな日が来るとはな」

「夢にも思わなかったな」


 闇の守護者は自分が敗れるか、100年過ぎるかのどちらかを満たせば解放すると言っていた。だが、前者については期待していなかったし、後者についても、それで本当に解放してくれるとは思えない、闇の守護者は信用するに値する者とは思えなかったのだが。

 こうして外に居る。刑期を考えれば、このように外に出られるようになったのは前者の理由からなのだろうが、正直そんなものはどうでも良かった。

 自由。

 それが確かならば、それだけで良かったのだ。


「では、行こうか。このような場所にもう用は無い」

「その通りだ」


 魔剣ブラックエンド・ダークセイバーの入手は、彼等にはもうどうでもいいことになっていた。これから自由に生きてゆける。それだけで良かったのだ。

 二人は月朔の洞窟から去っていった。不要となった☆と×の仮面を置き去りにして。そして、苦難の道にいた二人もまた、彼等に続いて外に出るのだが、それはまた別の話。



◆◇◆◇◆



 そして魔界の魔王アビスの居城、その魔王アビスの個室で、魔王アビスはロージアの報告を聞きながら窓の外を眺めていた。その口元には、うっすらと微笑みさえも浮かんでいた。彼にとって、ロージアの報告は全て吉報であった。


「そうか。間違いはなさそうなんだな?」

「ええ、まず間違いないでしょう。思えば外見や年代もそうですし、グラナダの調査でもその可能性は一番大であると出ました。その上で、さらに闇の魔法を使い、闇の魔剣であるブラックエンド・ダークセイバーに認められもしましたので、確実ではないかと」

「…………」


 ロージアは慎重な性格上、物事に対してあまり断言をしないと魔王アビスは良く分かっていた。そのロージアが此処まで自信を持って進言するのだから、それは『C』であるに違いないとアビスは考えた。


「そうか。そこまで条件が合うのならば、他にそれ以上『C』らしき人物は現われないだろう」


 『A』は最初から分かっていた。だが、周りの犠牲を考えると狙う機会がなかった。『C』は存在するかどうかも分からなかった。だが、あの時の不自然さを考えれば、それが生存しているのはおかしくなかった。そして、一つの異変が『C』の存在を浮き彫りにさせた。最初はそれだけだった。

 それが今では手の届きそうな位置に浮き上がってきていた。


「翌朝、いえ今すぐ向かいますか?」


 逸る気持ちを抑えきれないだろうとロージアは察し、そのように進言する。だが、アビスは落ち着いたままだ。逸って、行動を早くしようとはしない。


「いや、焦らんでいい」


 アビスは言う。


「そう焦らずとも、すぐに会えるようになるだろう。それに、『A』を遂行する前に波風は起こしたくない。早くとも、『A』の時期までは待つべきだろう」

「は」

「それより、ロージア」


 魔王アビスは話を変える。


「ノエルの報告、進言通りに『A』の遂行は来月としたのだが、それに伴いお前にもやってもらいたいことがある。頼めるか?」

「はい。何なりと」


 魔剣ブラックエンド・ダークセイバーは入手出来なかった。だが、魔王アビスの居城では水面下で、少しずつ動きを見せ始めるのだ。



◆◇◆◇◆



 その一方で、その頃フローリィはノエルと一緒にプリンを食べていた。


「あ、このプリン美味しいわ」

「だろー?」


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