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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter1:トラベル・パスCランク試験
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Act.007:デンジャラス・テストⅤ~邂逅G~

「ここか」


 洞窟の正面に着いたカオス達は、その入口の前で一旦歩みを止めた。そして、その近辺で負傷して棄権した元・受験者を横目に、躊躇わずにその中へと入っていった。

 その洞窟の中には灯りは無く、外の青空から一転して辺りは暗闇に包まれた。だが、その瞬間カオス達の周りにずっと浮いている擬似生物の、その正面の一部分が光り始めて、それが道と洞窟内を照らす光となった。


「へぇ、灯りになるのか。驚いた。便利じゃん。家に1個欲しいくらいだ」


 カオスは自分の傍にあるその擬似生物の変化に驚きつつ、何の警戒も無さそうな足取りでずんずんと洞窟の奥へと歩いていった。それを見て、ルナは流石に少し不安そうな顔をした。そして、訊ねる。


「それより、静かに歩かなくて大丈夫なの?」


 ここには魔物が居ると、試験前に試験官から聞かされていた。魔物との戦いに対して臆病になっている訳ではないのだが、避けられる分は避けた方が賢明だろう、とルナは考えていた。

 カオスはそんなルナの考えと似たようなものを持ちつつ、だが行動面ではそれとは逆を主張した。


「確かに、戦わねぇで済むのならそれに越したことはない。が、魔物共は鼻が利くんだ。ちょっとくらいコソコソ歩いたところで、そんなんが役に立つとは思えねぇ。それに、この足音が却って戦いを避ける効果があるかもしれねぇしな」


 そんな主張に、ルナより前にアレックスが納得する。


「ああ。それと似たようなことをウチの親父から聞いた記憶あるぜ。何でも、山道とかで熊なんかとの遭遇を避ける為に、わざと大きい音を鳴らしながら歩くって言ってたからな。それと同じようなもんだろ?」

「まあ、そんなところだな」


 と言ったところで、カオス達の前にその効果を受けなかった魔物が1匹現れた。1メートル位の食虫植物に足が生えただけのような、小形の下級魔族だ。


「キシェアアアアアアッ!」

「あと、それに」


 下級魔族の咆哮に臆すること無く、カオスは姉から渡されていた刀を素早く抜く。そして、その抜刀の勢いのままにその魔物を一刀両断に切り伏せる。

 その魔物は何の抵抗も出来ないままに真っ二つ。


「グギェガゥアアアアッ!」


 その末、魔物は断末魔の叫びと共に息絶える。


「強い奴も居ないみたいだしな」


 カオスは軽く刀を拭って、鞘にしまった。その姿を見ながら、ルナは試験前のマリアによる特訓を思い出し、苦笑いを浮かべた。


「そりゃあそうだろうね。グレイムヴィーストとかに比べるとどうしてもね」

「じゃ、こんなじめじめした暗い場所にいつまでも居るのは嫌だから、とっとと先を急ごうぜ」

 カオス達は序盤、順調にその歩みを進めていた。



◆◇◆◇◆



 その一方、魔界にある魔王アビス城の玉座で、魔王アビスは肘をつきながら正面に居る魔族を真っ直ぐに見据えていた。そして、その銀色の仮面を被った魔族、ロージアに問いかける。

 二人の間に緊張感はない。


「するとだ。ガイガーの奴は、そこに居るということなんだな?」

「はい、そうです。使役蟲からの報告と送られたヴィジョンによりますとそうなりますので、まず間違いないと思われます」


 そのロージアの報告を聞いて、アビスは深く溜め息をつく。

 部下のプライベートの一つ一つまで口出すつもりは全く無いのだが、上級魔族である部下が勝手に人間界に行ってしまうのは、他国との拮抗関係やその他諸々で困る。そして、あの趣味程度のことでそうまでする彼の気持ちはもっと理解出来なかった。


「まあ、勝手に行ってしまうのはいいとする。特に今は緊急でやらなければいけないこともないしな」

「は、はあ」

「だが、アイツの収集癖を念頭に入れたところで、あの洞窟には手間隙かけて得ようとするような、貴重な物など何一つとして無いと聞いたぞ」

「そ、そこは彼の趣味ですから」


 不思議に思うアビスに、ロージアはそう簡潔に説明する。


「はあ、成程な」


 アビスはその一言で納得した。そして、先程のよりもさらに大きな溜め息をついた。


「アイツの性格上難しいとは思うが、無駄な殺生をしてなければ良いのだがな」

「そうですね」


 アビスの言うことに、ロージアは賛同する。無駄な殺生をされてしまっては、あの二つの計画の遂行に支障をきたしてしまいかねないからだ。魔王アビスの配下として、一番に優先すべきなのはその二つの計画の成就であり、個人の人間に対する感情等は二の次三の次にすべきなのだ。それを、ガイガーは理解出来ているのか?

 アビスにとっても、その配下のロージアにとっても、それが不安に思えていた。何より今、目立ってしまうのは本意ではないのだが。

 そんな心配を他所に、とある洞窟の中に居るガイガーは不機嫌そうに舌打ちをして、唾を石の床に吐き捨てる。


「ふう。やっと去っていったか」


 物陰からゆっくりと現れたガイガーは、少し背伸びをして身体を伸ばす。そして、偉そうに腰に手をあてる。


「薄汚い人間共が大挙して押し寄せやがって。ったく、何だったんだ? あの大群は」


 洞窟は答えてくれない。少しの沈黙が彼の周りに漂う。ガイガーは両腕を組んで軽く息を吐き、気持ちを入れ替える。そして、自分の足元にある大きな袋に視線を送る。


「まあ、人間のようなゴミ生物などどうでもいいか。それよりこの大漁が大事だ!」


 ガイガーはこの洞窟内で集めたガラクタ、もとい宝物の入った袋を見ながら笑う。


「はっはっは。さっさと帰ってこれらを愛で倒すとしようじゃないか!」


 ガイガーは魔界での自分に対する心配を他所に、馬鹿みたいに笑っていた。



◆◇◆◇◆



 そんな中、カオス達は引き続き洞窟内を順調に前進していた。通路を通り、階段を下りてゆく。その階段の最も下辺りに辿り着いたところで、先頭を歩いていたカオスがちょっと驚きの声を上げた。

「おっ」

「カオス、どうかしたか?」

 一番後方で天井に頭をぶつけないようにちょっと屈んでいるアレックスが、カオスに訊ねる。

「アレックス、良かったな。この先はちょっと広くなっているぜ」

 まっすぐな姿勢のまま歩いていた大して背の高くないカオスは、後ろで一人屈むはめになっているアレックスにそう笑いかける。アレックスもそのカオスの言葉を聞いて、やっと身体を伸ばせると思って嬉しそうな顔をした。

 カオスはその嬉しそうなアレックスの顔を見ると、また前方に視線を戻して前に歩き始めた。そして、カオス達がその広くなり始めた空間に入り始めた時、カオスは警戒の顔になった。

「!」

「!」

 カオスと、カオスの前方に居る者は互いに目を合わせた。

「魔物? いや、魔族か?」

 カオスは目の前に居る者にしっかりと目を向けて、そう判断した。赤い鶏冠のような物の付いている髑髏型のヘルメットを被っているので顔つきは良く分からなかったが、エルフのように異常に尖った耳と、その禍々しい佇まいは、いくら他はどんなに人間のような容姿をしていようと、その者が人間や他の善良な亜人種には思えなかったのだ。

 すると、カオスの前方に居る変態ちっくなカッコウの魔族、ガイガーは嘲るように笑う。

「フン、人間共がまだ居たのか。蛆虫のようにうろちょろしやがって」

 そう言いながら、ガイガーは段々と険しい顔になっていった。

「ゴミ掃除なんかしたくなかったんで、しょうがないから放っておいてやったんだが、やはり、そんなのは止めだ。止め。ゴミ共は死ね」

 カオス達に殺意を向け、さらにゴミ屑扱いするガイガーに、アレックスが早々に激昂する。

「な、なめんな魔物! 俺達はっ!」

「ちょっと待った」

 ルナはそのガイガーをきちんと真正面から見据えて、激昂するアレックスやちょっと前でただ立っているだけのカオスに、目の前の魔物を警戒するように忠告する。

「やばいわ、二人共」

「やばい? 何を弱気な! 俺達三人が力を合わせればあんな変態魔物など恐るるに足らん!」

 それでも、熱くなり過ぎている横でルナはしっかりと敵の実力をその目で感じ取る。

「アイツは今まであたし達が戦った奴、グレイムヴィースト程度の下級魔族なんかとは全く格が違う。話で聞いただけだけど、間違いない。アレは、上級魔族よ」

「何?」

 カオスとアレックスは、改めてその変態魔族を見据える。

 確かに、グレイムヴィーストのような下級魔族には無い禍々しいオーラのようなものが感じられる気がした。それどころか、マリアの姉チートがなければどうしようもない状態のようにも思えた。



◆◇◆◇◆



 ルクレルコ・タウンから少し離れた場所にある岩山の中腹、トラベル・パスCランク二次試験会場のスタート地点とは逆側のゴール地点。そこには、既に洞窟を突破した受験者が到着し始めていた。例の怪しいマスクを被った試験官は、洞窟を通らずに先回りしてそこに辿り着いていた。そして、そこに待機して受験生の状況を見守っている別の試験官に話しかけ、試験の状況を訊ねる。


「どうだ、様子は?」


 ただ何か変わったことは無いか訊ねただけだったが、そこに居て擬似生物のカメラから受験生の様子を監視していた試験官は、恐怖に引きつったような顔をする。マトモに声も出ない様子で、話しかけてきた試験官にモニターに映っている試験の様子を見るように指差す。


「あ、あ、あ、アレを、アレを見て下さい」


 やっと絞り出した声で、試験官はモニターに目を向ける。そして、それが見間違いじゃないか確認するように、いや、見間違いであって欲しいと望みながら、その目を何度もこすった。

 怪しいマスクを被った試験官は、その部下の示す方向に何の気負いも無く眺めた。


「なっ!」


 それを見て、怪しいマスクを被った試験官は驚愕する。

 そこには三つの擬似生物のカメラから一体の上級魔族が映し出されていた。ここには絶対に存在しないはずの上位種の魔物、魔族だ。


「な、奴はガイガー! 魔王アビス軍の幹部、『魔の六芒星』の一人じゃないか!」


 ゴール地点は喧騒に包まれる。これは、試験関係者の誰も予期していなかった、非常に危険なアクシデントだからだ。今、受験生達の命は危急な状態となった。ただのテストが一転、デンジャラス・テストと化したのだ。

 そして三つの画像は途切れた。


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