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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.067:降臨-Side.B-

<前回までのあらすじ>

 闇が訪れるXデーの35日前の夜型人間も眠る丑三つ時、闇の個室ビデオ屋の234号室にて、闇の愛好家ドドメス=ポポスマス45番地を、超絶ワンダフル&セクシャル・ヴァイオレット必殺技のオッパイ89cmGカップ煩悩スペシャル3号機にて破り、魔剣ブラックエンド・ダークセイバーの入手権をGETしたカオス。

 しかし、そんなカオスにブラックエンド・ダークセイバーの意識体であるロリロリ・チビッ子に「貴方、ダメダメねぇ~ん」と罵られる。M属性の無いカオスは右手を掲げて「異議あり!」と叫ぶが、さてはて……(←一部に誤りアリ)。

「って、いきなり何すんだ、テメーはッ!?」


 カオスはブラックエンド・ダークセイバーに対して文句を垂れる。まだこの場ではセクハラもしてなければ、下ネタもしてないので、いきなり殴り飛ばされる謂れは無いように思っていたが。

 ブラックエンド・ダークセイバーの方ではその謂れはあり、それにすら気付けない新しい主、カオスに対し、その怒りを露わにする。そして、考えるように命ずるのだ。


「己の胸に問うてみよ! 愚か者!」


 自分の胸に訊け。そのように言われて、カオスは自分の胸を軽くノックして、ちょいと問いかけてみた。


「ちょいとちょいと、胸さんや。奴は一体何を言ってるのか分かるかね? 胸、『さぁ? 何だか私にも分っかりませ~』」


 ん、と言う前に、ブラックエンド・ダークセイバーの赤い目から光線が発せられて、カオスに直撃した。


「ぬぐべらっ!」


 相手をおちょくっているとしか思えないボケを故意的にかましたカオスは、高圧電流のような光線によるキッツイお仕置きを食らい、のた打ち回るハメとなった。


「理由を話せ! 理由をなっ!」

「理由?」

「そう、理由だー!」


 夜も遅いので、カオスは妙にハイテンションだった。そうしないと、もう眠いのだ。だが、それとは対照的に目覚めたばかりのブラックエンド・ダークセイバーは、冷徹な程に冷静な様子だった。

 ブラックエンド・ダークセイバーは、淡々と述べる。


「妾はあの守護者の目を通じてお主の戦いを見ておった。お主は己の実力であれを倒したと思っておるやもしれぬが、それは違う。あの時のあの力は、お主のものではない。無意識下において繰り出された力など、真の力と呼ぶにはおこがましかろう?」

「ぬ」


 何百年も眠っていたせいか微妙に時代がかった喋り方のせいで、内容がイマイチ分かっていないカオスではあったが、ブラックエンド・ダークセイバーが何を言わんとしているかは分かっていた。

 要するに、暴走しているような状態で出した力を、実力と呼んではならないという訳だ。そして、それはカオス自身が一番実感していたことでもあった。


「だが、安心するが良い。お主はこれから妾が最高の使い手に育ててやろう。そして、それも妾の魔剣ブラックエンド・ダークセイバーとしての役目でもある」

「ぬあ」


 阿呆面しているカオスには、ブラックエンド・ダークセイバーが何言っているかは良く分かっていなかったが、これから面倒臭くなることだけは分かっていた。


「…………」


 そのカオスとブラックエンド・ダークセイバーの様子を、ロージアは穏やかな面持ちで眺めていた。微笑ましいものを見ている気分だった。

 ブラックエンド・ダークセイバーをこうして実際に見て、それはやはり魔王アビスよりもカオスが持った方が良いのではないかと感じていた。ブラックエンド・ダークセイバーによって、これから使い手は育てられてゆくのだろう。だとすれば、使い手としてほぼ完成形となっている魔王アビスよりも、これから成長してゆくカオスが持った方が、使い手としてもブラックエンド・ダークセイバーとしても双方共に良いように思えた。

 これも運命というものなのだろうか。おそらく、そうなのだろう。

 ロージアはそう感じていた。


「…………」


 カオスとブラックエンド・ダークセイバーの様子。

 そこから、もう既に魔剣ブラックエンド・ダークセイバーはカオスのものだと、フローリィも感じ取っていた。そこから翻って、魔王アビスのものになるという考えは現実的ではないし、そのように仕向けたりしたところで魔王アビスも喜びはしないと分かっていた。

 それを踏まえると、フローリィとロージアは今回この月朔の洞窟の冒険では、物理的に手に入れたものは何もなかったことになってしまう。


「あたし等には、骨折り損だったかしら?」


 フローリィは隣のロージアに話を振る。あまり面白そうな顔はしていなかった。

 結果として、カオスがブラックエンド・ダークセイバーを入手するのに力添えをするだけとなってしまっていたが、それに対しては後悔はしていない。ただ、自分には何も無いという客観的事実が面白くないだけだ。

 ロージアはそんなフローリィとは対照的に嬉しそうに笑っていた。


「そんなことないわよ」


 ロージアにとっては、そして魔王アビス軍にとっては、今回のこの冒険は骨折り損のくたびれ儲けではなかった。収入はあった。




 カオスは『C』である。




 それだけではあるが、魔王アビスが成し遂げたく、そして魔王アビス軍も力添えしたいと思っているMissionのAとC、その一つ『C』が達せられる可能性が芽生えただから、この程度の困難は何でもないと言っても良かった。


「いいことはあったわ。ふふふふ」

「?」


 ロージアは笑う。だが、MissionのAにもCにも殆ど関わっていないフローリィには、何が嬉しいんだかほとんど分かっていなかった。


「▼#α≒<$@♭!」


 そこから少し離れた所で、カオスがブラックエンド・ダークセイバーに向かって少し逆ギレ気味に何か叫んでいた。その理由が何か気にならない位に、フローリィとロージアは既にその光景に慣れていた。


「やかましい」


 ブラックエンド・ダークセイバーの鉄拳で、カオスは飛ばされる。そんな光景も、心穏やかにさせるものとなっていた。



◆◇◆◇◆



 月朔の洞窟の外では、もう東の空が赤く輝き始めていた。夜明けである。カオス達五人+1は、歩いてその外まで戻って来ていた。夜の闇と、洞窟の中の薄暗い光景に目が慣れていたカオス達の目に、やけに朝日が眩しく感じられていた。

 夜の終わり。

 それはこの月朔の洞窟での冒険の終わりである。元々この五人は、月朔の洞窟を攻略するのに必要だったから組んだだけのパーティ。攻略し終えて、冒険が終わったなら解散だ。

 カオス達とフローリィ&ロージアは、月朔の洞窟の外に出て自然と二つに別れるようになった。そして、少し歩いて別れた相手側の方と互いに視線を交わす。


「じゃ、またね」


 フローリィはそのように切り出した。双方共に瞬間移動魔法(インスタンテ)でここから去るのだから、ここでお別れだ。


「おう、またな」


 カオスはあっさりと切り返す。そんなカオスに対し、フローリィは少し眉をしかめる。


「淡白ねぇ」

「ん? そんなもんだろ?」


 カオスは言う。


「別に、これが今生の別れじゃないだろうしな」

「ま、それもそうね」


 フローリィの隣に居たロージアが、一言だけ口を挟んだ。

 カオスは『C』である。それが真実であるから、関係は途切れない。絶対に。

 ロージアは確信を持ってそう言えていた。だが、フローリィにとってその確信はどうでも良かった。絶対に会えなくなる理由が無ければ、会える可能性はゼロではない。それだけでいいのだ。


「だね」


 だから、フローリィも首を少し縦に振るのだった。


「では、また会おう」

「ええ」


 そうして、その後は互いに振り返らなかった。すぐに瞬間移動魔法(インスタンテ)で両方共光になって帰るべき場所に帰っていったのだ。

 また会おう。

 帰る途中、そのフローリィの言葉がロージアの頭の中で繰り返されていた。そして、その言葉に対してロージアは頭の中だけで返答する。

 また、会える。そう遠くない未来にまた会える。それは絶対。

 カオス君は『C』なのだから。

 遠ざかる人間界に郷愁に似た念を抱きつつも、先に見える希望を信じてロージアはフローリィと共に自分の帰るべき場所である魔界に戻っていったのだ。



◆◇◆◇◆



 アレクサンドリア連邦のルクレルコ・タウンに戻ると、そこには変わらぬ光景があった。月朔の洞窟近辺では、夜明けの時間にもかかわらず眠いという摂理に反したような状況だったが、ここルクレルコ・タウンでは時差の為、これから夜になる時間となっていた。

 疲れを伴って、ルナも帰宅する。怪我はマリアの治癒魔法によって完治したのだが、魔法で失った体力の回復までは行われない。休息は確実に必要だ。

ルナはそう感じながら、自宅へと入ろうとするが、そこで一旦振り返って挨拶だけはしておく。


「じゃあ、また明日学校でね」

「おーーーー」

「…………」


 相変わらずやる気の全く見られないカオスの挨拶に、ルナは口をあんぐりとさせていた。怒りはしない。呆れていただけだ。


「ったく、やる気のなさそうな気の抜けた返事をして」

「実際ねぇからな」

「…………」


 少し説教でもしてやろうかとルナはチラッと思ったが、それはやめておいた。カオスがこんな調子なのはいつもと同じだし、それに自分にもそのような説教をするパワーは残っていない。実際問題として、月朔の洞窟での探索は体力的にかなり消耗してしまったようだ。

 それはカオスやマリアにしても同じ。だが、ブラックエンド・ダークセイバーだけは元気いっぱい、やる気いっぱいであった。


「さて主よ、では早速修行を始めるぞ」


 ルナが少しカオスから離れ、集まりの時間が終了したと感じたブラックエンド・ダークセイバーは、それからは修行の時間だと言い出したのだ。それは、カオス達にはにわかに信じられない言葉であった。家に入りかけたルナも、思わず足を止める。


「今、から?」


 カオスは信じられないものを見るような顔で訊ねる。そんなカオスに、ブラックエンド・ダークセイバーは当然のように答える。


「無論じゃ」

「ざけんな! 俺は眠いんだ! 修行なんか出来るか、ボケッ!」

「何おぅ! 妾は目覚めたばかりじゃっ!」

「勝手言ってんじゃねー!」

「お主がなっ!」


 その光景を、ルナは冷ややかな目で見ていた。


「どっちもどっちよ」

「そうね~」


 マリアはルナに比べれば幾分暖かな目で見ていた。だが、二人の口論は全く成果を得られないただの時間の無駄という考えだけは一緒であった。


「■¢Λ∝∑●α!」

「☆β◎◆Å+Ω!」


 マリアは手を叩いて合図をして、二人に口論をやめるように促す。


「はいは~い、今日はそこまでにして続きは明日にしましょ~♪」


 そのマリアの呼びかけに、カオスはニヤリとした。マリアの言葉はカオス寄りだったからだ。マリアの発言には、これから修行はしない。それは明日からだという意味も含まれていたからだ。


「何故じゃ?」


 ブラックエンド・ダークセイバーは、マリアに向けて不満そうな顔を向ける。


「カオスちゃんはぁ、アナタを手に入れる為に今日は随分と頑張ったわ~。だから、今はかなり疲れてる筈よ~。そんな時に無理を押して修行をしても、それは逆効果。体を悪くするだけよ~」

「…………」


 ブラックエンド・ダークセイバーは、一応納得の表情を見せる。


「そうか。それならば、仕方あるまい。今日は中止にしておいてやろう。だが、明日からは厳しくしていくぞ。覚悟しておくが良い」

「構わねぇよ」


 カオスは即答する。

 強くなる。いざという時にマリアやルナなどを守れるように、守りたいものを守るべき時に力無く嘆かないで済むように力を手に入れておく必要があるのだ。その為なら、多少厳しくされても構わないと思っていた。多少ならば。


「さて」


 カオスはブラックエンド・ダークセイバーに向かって話を切り替える。


「耳にはしているだろうが、改めて名乗っておこう。俺の名はカオス」


 名乗り、そしてブラックエンド・ダークセイバーに訊ねる。


「お前は? やはり、剣の名の通りブラックエンド・ダークセイバーって長い名前で呼ばないといけないのか?」


 それは面倒臭くて嫌だな、とカオスはずっと思っていた。もしそうならば、何か略称なり仇名なりを考えて呼ばなければならないとも考えていた。ロクなのが浮かばなかったが。

 そんなカオスにブラックエンド・ダークセイバーは首を横に振る。


「いや、妾自身にもアリステルという名がある」

「そうか、じゃあアリステル」


 そう言いながら、その右手を差し出す。


「ま、よろしくな」

「うむ」


 こうして、カオス強化策の礎は完成された。後はその上に建築してゆくだけである。それも正しく組まなければ意味を成さないが、マリアとアリステルことブラックエンド・ダークセイバーが指南役についているのだ。間違えようがない。基礎訓練はきちんと行われてきていたカオスは、そんなに時間を置かなくてもどんどんと強くなっていくだろう。

 ルナはハッキリとそう感じていた。

『無意識下において繰り出された力など、真の力と呼ぶにはおこがましかろう?』

 カオスに向かい、アリステルはそのように言っていた。それは、現時点では真実であろう。だが、それでもカオスはあの時のあの力を自分のものにしようとしているし、それは闇の魔剣であるアリステルの力を借りれば現実のものとなる。

 そうでなくても、自分は守られただけだった。

 ルナはそのように感じて、負い目に思っていた。それも、今日だけでない。ガイガーの時も、グレンビーストの時も、結果としてはカオスに守られただけ。

 それでは、いけない。それでは、幼馴染として駄目。

 ルナはそのように考え、自分もこれから出来る限り努力して強くなっていこうと決意を新たにしていた。学習出来るものは全て学習し、吸収出来るものは全て吸収する。そうして、より高みへと目指してゆくのだ。

 そうすれば、いつかカオスが困った時、苦しんだ時にやっと手を差し伸べることが出来る。その日まで、頑張ってゆこう。

 そのようにルナは改めて決意したのだ。

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