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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.064:守護者Ⅴ~黒い対峙~

「死ね」


 冷たく言い放ち、闇の守護者はルナに攻撃を仕掛けた。マリアによって右腕を切り落とされて隻腕となった闇の守護者は、左の正拳を真っ直ぐに繰り出してくる。

 それはルナにはお見通し。右足を引いて視線はそのまま、体を右向きにして攻撃を自然な形で外に流す。それと同時に腰を落とし、左の肘打ちをカウンターにして闇の守護者の腹へと叩き込む。

 闇属性の魔法でしかダメージを受けない闇の守護者は、その衝撃で少し体が後ろへ動かされようとも、ダメージを受けない。攻撃を受けても尚、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。

 そして言い放つ。


「甘い」


 すると闇の守護者の後方から、マリアによって切り落とされた右腕がルナ目がけて一直線に飛んできた。闇の守護者の体が壁となってしまい、それは直前までルナの視界には入らなかったのだ。ルナはその腕によるアイアンクローを頭部に見事に食らってしまう。

 切り離された右腕はルナの頭を無造作に掴むと、その勢いのままルナの身体を後方へと持ってゆく。そして、加速がついたところでそれを離し、ルナを岩壁へと叩きつける。

 岩壁は轟音と共に砕かれ、あちらこちらに欠片を飛ばす。闇の守護者は、その欠片の少々を身体に浴びながら、ニヤニヤと笑っていた。その間に、闇の守護者の切り落とされた右腕は右肩の下に戻り、そこにしっかりと付着して、元ある右腕と同じ形に戻ったのだった。

 闇魔法以外ではダメージは受けない。つまり、あのように切り落とされたところで、いつでもその傷は回復出来、そしていくらでも回復出来たのだ。それをしなかったのは、ただの闇の守護者の暇潰しに乗じた戯れの一つでしかなかった。


「だが、死んだか」


 死は確認していない。だが、死んでようが生きてようがどうでも良かった。闇の守護者が存在している限り、この先へと繋がる道は決して開かれることはない。そして、もしルナ達三人が生きていたとしても、こんなに圧倒的な差のある戦いである。これ以上戦っても、闇の守護者にとってはつまらないだけだと思っていたのだ。


「では、またそろそろ眠るとするか」


 戦いの前の漆黒の流動物に戻り、次の侵入者が現われるまで時間の分からぬ眠りにつく。そして、それはブラックエンド・ダークセイバーを誰かが手に入れるまで、自分がやられるまで、果てしなく続いてゆく。そういう定めなのだ。

 闇の守護者は溜め息をつき、眠りにつこうとした。その時だった。


「はあっ!」


 先程闇の守護者が岩壁を砕いて出来た、岩の詰まれた山が吹き飛ばされる。そして、その中から一つの人影が現われる。ルナだ。ルナは体のあちこちから出血しつつも、真っ直ぐに立って岩の中から出て来たのだった。


「死んで、たまるかっ!」


 ルナの目に迷いはない。そして、それに呼応するように他も立ち上がる。


「そうね。こんな所なんかで死ぬ訳にはいかないわ」


 ロージアは立ち上がり、闇の守護者を見据える。


「負ける訳にはいかないのよ。この私の名においてもね」

「そうよ~」


 マリアも立ち上がる。


「私達は負ける訳にはいかないわ~」


 その立ち上がる三人の姿を横目で見て、闇の守護者は嘲笑う。勝ち目は全く無いのに戦意を失わない。その姿勢は、闇の守護者からしてみれば馬鹿以外の何物でもなかった。


「馬鹿共が。尻尾巻いて逃げちまえば良かったものを」


 どうせ逃げられはしないし、逃がしもしないのだが。

 ここで逃げれば、闇の守護者は月朔の洞窟の仕掛けを使用してその逃亡者を捕らえる。そして、その捕らえられた者達は、○△□×☆や苦難の道の二人のような月朔の洞窟の新たな守護者とならなければならない。そして、それはこの場に居る三人も例外ではない。

 そうなると、自由は失われる。だが、生きてはいる。しかし、こうして戦うのだとしたら、その先は死あるのみ。

 ここまで生き残れる。そして、戦意を失わない。守護者としては非常に有能となる事は闇の守護者にも分かっていた。だが、殺す。そのように決意した時だった。




 ドドーン!




「ん?」


 大きな音がして扉が開き、人がこの部屋の中に入って来た。その音が聞こえた。ルナ達にしては援軍、闇の守護者からすれば新たな闖入者の登場だった。

 部屋に立ち込める靄の中から、その二つの人影は現われる。カオスとフローリィだ。


「カオス!」

「フローリィ!」

「カオスちゃん!」


 ルナ達はやって来た援軍に次々と声をかける。だがカオスとフローリィは三人にチラッと視線を向けただけで、その視線をすぐに闇の守護者へと戻す。


「急いで良かったみたいね」

「ああ、こんな奴が居ると思わなかったけどな」


 カオスは呟く。

 こんな奴。

 姉を傷付ける奴が居るとは思っていなかった。それだけやっておきながら、見た目が無傷の奴にマトモにやって勝てるとは思えなかった。だが、不死身の者が存在しない以上、やってみれば何かしら勝機がつかめるものだとも思っていた。

 それはフローリィも同じだったのか、カオスに話を持ちかける。


「ロージア達三人をここまで傷付ける奴に、1対1で挑むのは無茶かもね。二人でやるよ?」

「そうだな」


 自分の氷魔法とフローリィの炎魔法、その温度差を上手く利用していけば、敵に対して多大なダメージを与えるのも可能となるのではないか?

 とりあえず、共闘で作戦を作り上げるにあたって、そんな策がカオスの中で思い浮かんだ。やっつけ仕事ではあるが。しかし、そんな策は無意味なものだとルナの言葉で思い知らされる。


「カオス、気を付けて! 奴には闇魔法以外の全てが通用しないわ!」

「なぬ?」


 青天の霹靂であった。だが、少し考えればもっともであった。ムチャクチャに強いマリアが圧倒的にやられてしまったというのは、そんな特殊な条件下であったからなのだ。そう考えれば、少しは納得出来るとカオスは思った。

 その一方で、フローリィは信じられない顔をしていた。


「そんな阿呆な」


 何も知らないカオスとフローリィの二人に、闇の守護者は高笑いする。


「そこの女が言う通りだ、新たな二つのゴミよ」

「ゴミ?」


 カオスとフローリィは、ピクッときた。そして、その中でもカオスはルナの言葉の可能性も踏まえて、敢えて意図的に自分の怒りをさらに増長させようと試みていた。

 その為に、頭の中でイメージする。

 マリアがやられた。

 ルナがやられた。

 守ろうとした者を守れなかった。

 幸か不幸かその間にも闇の守護者による罵倒は続く。それが、カオスの中の小さな怒りの炎に油を注いでくれる。


「お前達のようなゴミクズが、いくら増えたところで何も変わりはしない。この者共と運命は同じ。余を相手に、手も足も出せずに死に絶えてゆくのみなのだ! はーっはっはっはっはっは!」

「この無礼も」

「ブッ殺す!」


 フローリィがキレる前に、カオスが闇の守護者に飛び掛っていった。左足を軸足に、きっちりと前に繰り出す右の蹴りだ。だが、それは魔力も何も籠もっていないただの蹴りでしかない。闇の守護者はそれを難なく捌き、カウンターとしての右の正拳をカオスの腹に叩き込む。

 カオスはその衝撃によって飛ばされる。だが、その途中の空中で体勢を整え直して、キッチリと着地をする。

 殺す……

 やられた苛立ちを、カオスは一つ殺気へと変換する。


「死ね!」


 カオスはまた闇の守護者に向かっていく。次は右足を軸とした左の回し蹴りだ。だが、勿論そのような普通の攻撃など闇の守護者には通用しない。闇の守護者はそれを上方に捌き、またカウンターとしての左の肘打ちをカオスに叩き込む。

 カオスはさっきと同じように飛ばされ、さっきと同じように上手に着地する。

 殺す。殺す……

 そして、そのやられた苛立ちを、また一つ殺気へと変換してゆく。


「くたばれ!」


 カオスはまたまた闇の守護者に向かっていく。今度は右手で氷の魔法剣を出現させ、それで切りつけてゆく。だが、勿論それも通用しない。いくら切りつけても、闇の守護者の身体を霞のように揺らすだけで、それは全くダメージとはならなかった。

 そんなカオスに闇の守護者は反撃する。


「鬱陶しい奴め!」


 右の正拳をみぞおちに叩き込んで、カオスのバランスを崩す。そして、左のアッパーでカオスを浮かせて、自分の体をカオスに対して垂直に回し、右の横蹴りでカオスを後方へと蹴り飛ばす。その蹴った足を、後ろに戻して身体をカオスに対して真っ直ぐの位置に戻すと、闇の守護者はカオスに対して追い討ちをかける。


「消えてしまえ!」


 両腕に魔力を充溢させる。それを正面の位置に合わせる。そして、カオスに向けて解き放つ。極太レーザーのようなエネルギーの塊がカオスに向けられ発射され、それがカオスに命中する。カオスは大きく上方へと飛ばされ、そのまま仰向けに地面に落ちる。


「チッ!」


 今の攻撃で闇の守護者はカオスを木っ端微塵に出来たと思っていたので、ただ飛ばされただけの結果に闇の守護者が納得出来よう筈もない。そして、このままではカオスが生きているのは間違いない。闇の守護者は、そこからさらに追い討ちをかける。

 カオスに向けて大きく弧を描くようにジャンプして、両膝を曲げてカオスの腹の上に落ちる。膝蹴りだ。


「ぐはっ!」


 カオスは吐血しながら横向きに倒れる。そして、動きを失った。それを横目で見ながら、闇の守護者は満足そうな顔をしていた。カオスの体から離れながら、嘲笑っていたのだ。そんな闇の守護者は、何も知らず、何も気付いていなかったのだ。




 そこまで全て、カオスの計画通りだと……




 倒されたカオスの指が、ゆっくりと地面の上で動きを見せる。始めは緩やかに、そして力強くなっていってその指が岩の破片を砕く。それと共に、カオスの体はゆっくりと立ち上がってゆく。大きくどす黒い殺気と共に。

 闇の守護者はその異変に驚き、カオスの方をクルリと振り返る。


「な、何?」


 その姿を見た闇の守護者は、自分の足が震えるのを感じていた。大きく闇の魔力を纏うカオスの姿は、闇の守護者にとっては無意識下での恐怖の対象となっていたのだ。


「殺す、殺す、殺す……」


 そしてその時、闇の守護者は悟らされたのだ。

 カオスが魔剣ブラックエンド・ダークセイバーを持つに相応しい者であり、そのような者がやって来たからには自分は消滅しなければならないのだと。

 逆転、そして終わり。今までずっと狩る立場であった闇の守護者が、狩られる側に逆転された瞬間であった。


「殺す!」

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