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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.063:守護者Ⅳ~黒い絶望~

 月朔の洞窟、苦難の道の通り道となっているこのエレベーターは、カオス達二人を乗せて降下していた。スピードも何もエレベーター任せなのだが、そこに乗っているカオスの心は非常に焦っていた。それが何故なのか、カオス自身自覚はなかった。探求する気もなかった。

 ただ、急がなければならない。

 そんな気がしてならなかったのだ。急がなければ、何もかもが手遅れになってしまうような気がしたのだ。



◆◇◆◇◆



 その一方、月朔の洞窟、最後の砦ではまだルナ達と闇の守護者との激戦は続いていた。それは結構な時間になっていたのかもしれないし、短い時間なのかもしれない。それを正確に測る者はいない。

 ただ、優劣は歴然であった。闇の守護者を傷付ける技をルナ達は誰も持っておらず、ただ闇の守護者による攻撃を一方的に食らうだけ。出来るのは時間稼ぎだけだった。ずっと防御側でいるしか出来なかった。

 闇の守護者は嗤う。そして、自身の魔力を充溢させてゆく。ここらで一気に片をつけてしまおうという魂胆だ。魔力を充溢させてゆき、それをさらに右手に集中させてゆく。

 エネルギーの光球が闇の守護者の右手にハッキリと現われると、闇の守護者はそれをロージアに向けて解き放った。


「死ね!」


 闇の守護者のエネルギーボールがロージアに向けて放たれる。ロージアはその軌道をキッチリと読み取り、それを上方へと回避する。光球は、ロージアの足元を通り抜けてゆく。

 かと思われた。だがその時、闇の守護者は笑った。


「甘い」


 そして、その光球に向かい、右手を翳す。


「炸裂せよ!」

「え?」


 すると、ロージアの下を通り抜けてゆくはずだった光球は、その場で轟音を立てながら爆発した。その爆発によって生じた熱と、爆風がロージアを襲う。さっと防御体勢はとったのだが、ダメージは免れない。


「くっ!」


 ロージアの体は、そこからさらに上空へと吹き飛ばされてゆく。その最高点に達した時、闇の守護者は爆煙の中から出たロージアに向けて標準を合わせる。視線をキッチリと合わせて、右手に追撃となる新たなエネルギーボールを生み出す。強力な魔力が、右腕に籠められているのがビシビシと感じられた。


「死ね!」


 それを解き放つは必定。

 ならば、それは防がなければいけない。それを食らうと、いくら魔の六芒星であっても、危ないのに変わりはない。ここは救うべきなのだ。

 ロージアとは違う場所にその爆風から避難したルナは、その追撃を阻止する為に手を打つ。闇の守護者よりも早くに魔力の充溢した右手を闇の守護者に向けて標準を合わせて、そして解き放ったのだ。

 炎の波は一直線に闇の守護者に襲いかかる。


「懲りん奴め」


 魔力の波動から、ルナの動きに闇の守護者は気付いていた。闇の守護者はエネルギーボールをキャンセルして、炎の波の方に向き直り、防御しようと構えをとる。そして、左腕を炎の波の右側に突き出し、それを無造作に左側に弧を描いて、ルナの炎攻撃を左側へと払った。

 ルナの炎は強制的に方向を変えられ、誰も居ない岩壁に向かい突進し、それが岩壁にぶつかったところで、炎は小さな火山のようにその周辺に炎を撒き散らした。誰にも影響を与えず、その炎は姿を消した。

 その技の効果は一欠片として得られなかった。だが、その間に空中に飛ばされていたロージアは、体勢を整えて無事に着地した。ルナとしてはそれで良かったのだが。

 そのようなことを考えもしない闇の守護者は、その消え逝く炎を横目で眺めながら嘲笑うだけだった。


「愚かな。そのような技は、余には通用せぬと何度言ったら」


 と言ったところで、闇の守護者はハッとした。その隙を縫って、闇の守護者の周りに光の支柱のような物が何本も立っていたのだ。


「な、何だこれは?」


 それは、マリアの仕業である。ルナの攻撃を囮とした、二人の連係プレイだ。ロージアを救うだけではルナとマリアのアクションは止まらない。


「ライト・ケージ」


 そのようにマリアが唱えると、支柱の横の繋がりが生まれ始めた。光の横棒がいくつも現われ、それと先ほど現われた支柱を組み合わせると、ちょうど鳥籠のようになった。そして、闇の守護者は鳥籠の中に捕らえられた鳥となった。

 倒せないのならば、倒す手段(カオス)がやって来るまで、そこに閉じ込めておけばいい。そのような策だったのだ。そして、その策は上手く作用しているように思えたが。


「甘い」


 闇の守護者はそう言い放つと、体をアメーバのように変形させ、マリアの作った光の檻の合間を通って簡単に檻の外に出てしまった。出て、また元の形に戻る。元々変形によって人に近い形になった闇の守護者にとって、そのように変化するのは容易だったらしい。

 また元の形に戻った闇の守護者は、ニヤニヤと笑う。そんな闇の守護者の四方に、今度は氷の壁が落とされ始めた。大きな板状の氷の壁は、闇の守護者をあっと言う間に氷の箱の中に閉じ込めてしまう。

 誰?

 ルナとマリアは思わずその氷のやって来た方向に視線を向ける。だが、そんなものは向けるまでもないと分かっていた。

 そう、ロージアである。冷静に考えてみなくとも、他にはいない。

 ロージアは氷の板をもう1枚作り上げ、それを氷の箱の上に落とす。それが蓋となり、闇の守護者は密閉空間に閉じ込められた。

 マリアの光の檻は、隙間があったから良くなかった。ならば、隙間のない密閉空間に閉じ込めておけば良いという結論に至ったのだ。

 とは言え、それも完全ではない。それを、ルナ達三人はすぐに痛感させられる。闇の守護者はその氷の密閉空間からすぐに外に出て来てしまうのだ。その氷の箱を破壊して。


「無駄だ、無駄」


 圧倒的に優位な立場に立っている闇の守護者は、そのように言いながら高らかに笑う。そして、対戦相手であるルナ達三人を見渡す。そこには、もう満身創痍に近い状態である三人の姿があった。

「もう、策も力も尽きてきただろう? では、そろそろ死ぬがいい」

 万策尽きた。

 闇の守護者は特に考えて言った訳ではないが、それはルナ達にとって真実であった。敵を倒す手段はなく、閉じ込める手段もない。逃げる手段もなければ、時間稼ぎもそうそう望めはしない。八方塞がりだったのだ。

 完全なる敗北?

 それは逆に闇の守護者にとっては、逆に完全なる勝利である。それで、今回の宴も終わる。それは今までのものと大差なく、闇の守護者の守護者としての時間がまだまだ続いてゆくのを示しているのだ。


「行くぞ」

「!」


 闇の守護者はロージアに向かってゆく。ロージアは素早く構えて、防御をとろうとした。だが、体力と魔力を失いかけているロージアの反応は鈍くなっていた。闇の守護者の蹴りを、その腹に食らってしまう。


「くはっ!」


 ロージアは吐血しながら飛ばされる。斜め下方に蹴り飛ばされたロージアは、地面に叩きつけられ、車輪のように地面を転がされた。

 闇の守護者はそれに追い討ちをかけんと迫ってゆく。それに気付いたロージアは、転がりつつも体勢を立て直し、地面を蹴り上げて闇の守護者へと向かう。

 逃げるならば、いっそ攻撃だ。しかし、そうやって反撃を試みたロージアの思いが叶うことはなかった。

 闇の守護者は体を右方向に流し、ロージアの反撃をかわす体勢を整える。それと同時に、右腕を真っ直ぐロージアに向かって伸ばした。パンチの間合いとしてはまだ随分と外だったのだが、闇の守護者は体を自由自在に変化させられる。闇の守護者の右腕は、グングンと伸びて蛇のようにロージアの首に巻きついた。


「うがっ!」


 伸びた闇の守護者の右腕がロージアの首に絡まり、ロージアの首を締め上げる。そのまま窒息死させるか、首をへし折ろうという狙いだが。

 それは為される前に阻止される。

 円盤状の光のカッターが闇の守護者の右腕を切断して、右腕の先を闇の守護者の意志から切り離したのだ。その光のカッターの出所に闇の守護者が目を向けると、そこにはマリアが居た。マリアが阻止したのだ。

 そのマリアの阻止は一応の成功を収め、ロージアは締め上げから解放された。ロージアの体はそのまま地面に落ち、地面に横たわる。まだ、生きてはいる。だが、息を切らしながら吐血をしていた。ダウン状態だ。


「…………」


 ロージアを倒した。しかし、獲物を横取りされた。

 闇の守護者はそんな気分だった。そんな少し苛立った気分のままゆっくりとマリアの方を向く。そして、いきなり吐いたのだった。




 強烈なエネルギー砲を。




「!」


 いきなりのことで、防御も回避も出来ない。マリアにはなす術も無く、その攻撃をマトモに食らってしまった。体は紙くずのように吹き飛ばされ、その近辺で大爆発が起こる。

 もうもうと湧き上がるその爆煙の中で、少々部屋の中の視界が閉ざされる。そして、その煙が晴れた後に出て来たのは、傷付き倒れ、地面に血を濡らすマリアの姿だった。防御もロクに出来なかった満身創痍のマリアは、既にダウン状態だ。

 ロージア、ダウン。

 マリア、ダウン。

 そこに立っているのは、闇の守護者を除くとルナ一人であった。


「さて、後一人だな」


 闇の守護者はゆっくりとルナの方に視線を向ける。そして、歩いてゆく。

 前回より幾分てこずったような気もするが、もう仕上げ。これで終わりだ。ならば、一気にカタをつけてしまおう。

 そのように考えていた。


「…………」


 ルナは少し後ずさりした。

 確かに闇の守護者に言われた通り、力及ばず、策も尽きてしまった。逃げることなど出来ないし、この状況でする訳にもいかない。ならば、どうすれば良いのか?

 満身創痍な上、思考は堂々巡りで結論は見えない。自分でも何が何だか分からなくなってしまっていた。ただ、一つだけハッキリと見えてしまっていた。

 自分一人では、どうやってもこの闇の守護者には叶わない。

 それだけは残酷な程に……


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