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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.062:守護者Ⅲ~黒い誤認~

 ちゃんとしたカッコウ。

 ロージアはハッキリとそう言った。それはつまり、今はまだちゃんとしたカッコウではないということ。もっとも、それはそうだろう。だぶだぶのローブに銀色の仮面、その今のロージアのカッコウは戦闘に向くとはどうしても思えないものだからだ。

 と言うことは、それから変わるというのだろう。それは、言わなくてもルナ達には理解出来た。


「…………」


 ロージアはもう一度自分のローブに視線を向けた。そして、決意を新たにする。

 出し惜しみ、するようなものではないしね。やりましょう。

 ロージアはまずローブを脱いだ。右手でローブをつかみ、それを引っ張って強引に脱いだ。脱がれたローブはそのまま乱暴に宙を舞い、地面に落ちる。ローブには多少のおもりがついていたのか、布切れにしては随分と低く大きな音を立てて地面に落ちた。

 そのローブの様子をロージアは顧みない。そんなロージアのローブの下には、案の定動き易い服装が隠されていた。袖の無いボタンダウンのシャツに、綿パンだ。長いローブに隠れて見えなかった靴も、動き易そうな普通の靴であった。

 そこから、ロージアはゆっくりと銀の仮面を外す。そこに、ロージアの素顔が現われた。

 髪は完全に剃ってあり、頭皮が丸見えであった。眉も全て落としてあり、そこには何も無い。額には大きな薔薇の花の刺青が施されてあり、そこから右目には短い茨の、左目には長い茨の刺青が瞼の上から通してあり、頬にまで至っていた。目は猫のように丸く鋭かった。マスカラ等でアイラインも彩ってあり、そこはパッチリとしていた。そして、唇には真紅の口紅が塗られてあった。化粧はバッチリだ。

 そのロージアの姿は異様ではある。だが、誰もその姿を見て驚いた顔はしない。ルナやマリアは共闘しているメンバーの姿形なんかで驚いている余裕は無かったし、人と接する事が極度に少ない闇の守護者に至っては、それが異様かどうかの認識すらなかった上、ヒトの容姿なんかに興味がないからだ。

 闇の守護者は笑う。


「クククク、思いローブを脱ぎ、視界を狭める仮面を外し、格闘面における動きを良くした訳か。全く、下賎な者は無駄な足掻きが好きなものだな。そのような微細な変化、余の前では何の効果も」

「もたらさないかどうかは、これから見せてあげるわ。じっくりと、ね」


 闇の守護者の憎たらしい言葉を、ロージアはピシャリと断ち切った。それ以上闇の守護者の無駄話を聞いたところで、ロージア側としては何の意味も為さないからだ。

 それは闇の守護者側からしても似たようなものだった。久し振りの来客から、闇の守護者は少し楽しもうとも考えてはいたのだが、それも少々飽きてきた。だから、もうここらで殺してしまうのも一興かと考え始めるようになっていた。

 これは最後の様子見である。これがつまらなかったら、ここで終わりにさせようと闇の守護者は考える。


「面白い。何か結果が残せるかどうか見てやるから、やってみるがいい」


 闇の守護者はやはり何処か馬鹿にしていた。だが、そんなものをもうロージアにしろ、ルナやマリアにしてもいちいち取り合いはしなかった。最早、どうでもいいことと化していた。考えるべきなのは、この憎たらしい闇の守護者をいかにして葬るか、それだけ。


「はっ!」


 ロージアは気合いを入れて、闇の守護者に対して真っ直ぐにかかっていった。余興として少しロージアの相手をしようと考えた闇の守護者は、真っ直ぐにかかってきたロージアに対して構えを取りながら右の正拳突きを繰り出す。ロージアは体勢を下に落としながら、左腕で闇の守護者の突きを上方へと逸らして、その攻撃を回避する。

 それから腰を入れて闇の守護者の腹に正拳を叩き込む。その拳は威力あるものだったが、闇の守護者を突き飛ばす程のものではなく、ただ少し体勢が後ろに崩れただけだった。

 闇の守護者はロージアの突きによる体勢の崩れからすぐさま直ると、体勢を前へ直したその勢いのまま遠心力を加えながら左足を掲げる。そして、そのまま回し蹴り。鋭い蹴りが空を切る。

 それはロージアも読んでいた攻撃である。先程闇の守護者の攻撃を防御した左手をもう一度掲げて、その攻撃を先程の突きの時と同じように上方へと流れを変えてその攻撃から回避するが。

 そこに闇の守護者はさらに尻尾を回してロージアを攻撃する。回し蹴りとの二段攻撃だ。が、それは先程ルナを攻撃した時と同じ作戦である。無論、ロージアもそれを読み切っていた。だから、今度は右手をさっきと同じように掲げて、またその攻撃を上方へと流して攻撃を回避する。

 すると攻撃をし終えた闇の守護者には隙が生じる。ロージアはその隙を見逃さない。すぐさま、左の拳を闇の守護者に叩き込む。攻撃に対する準備も何も整っていなかった闇の守護者の巨体は、その攻撃により簡単に吹き飛ばされる。矢のように部屋の壁に向かって飛んでいった。

 しかしながら、叩きつけられまではしない。空中で素早く体勢を立て直して、壁を蹴る。岩の壁を蹴って、闇の守護者は上方へと飛び上がった。天井との中間辺りで翼を広げて、そこで止まった。

 闇の守護者はそこから下方に視線を移す。が、ロージアが元居たそこには既にロージアの姿はない。闇の守護者が体勢を整えたりジャンプしている間に、ロージアは闇の守護者のさらに上に飛び上がっていたのだ。上方から闇の守護者の背後にロージアは現われる。

 そのまま間髪入れずに攻撃。

 ロージアの気配に気付いて振り返った闇の守護者に蹴りを入れて、体勢を崩す。空中でバランスを崩して隙だらけになった闇の守護者に、ロージアは追い討ちをかける。

 ロージアは両手を組み合わせて一つの拳にして、それを上からハンマーのように振り下ろす。その渾身の力を籠めたロージアの攻撃は、隙だらけの闇の守護者にクリティカルヒットした。

 闇の守護者はロージアの攻撃の勢いと落下の勢いによって、凄いスピードで地面に向かい落ちてゆき、そのまま強く叩きつけられた。地面に穴が開き、そこに闇の守護者は横たわる。

 それで終わりだろう。そのように思われた。だが、ロージアは攻撃の手を休めない。まだ生きていると思われるからだ。ロージアは素早く魔力を両掌に集中させて、それを攻撃へと変換する。


「とどめよ!」


 魔力はすぐに冷気へと変換されてゆく。そして、解き放たれる。


「アイシー・トーテムフォール!!」


 ロージアの放った冷気は一つの大きなサイコロのような氷柱となり、それは横たわる闇の守護者の上に向かって落とされる。


「ま、魔法? 魔法は効かないんじゃないの?」


 一介のギャラリーとなっていたルナは、ロージアの突然の魔法攻撃に驚きを隠せなかった。物理攻撃は通用してるとしても、闇以外の魔法攻撃が一切通じないのならば、この攻撃も無意味に終わると思えたからだが。

 マリアはそのようには考えなかった。


「ん~ん。多分、あれならば大丈夫よ~♪」


 魔法を吸収しない限り、物理攻撃が通用するのならばあれでいいとマリアは考えたのだった。なぜなら。


「魔法による効果がないのだとしてもぉ、あれならば物理攻撃としての効果はある筈よ~♪」


 氷柱は轟音を発しながら闇の守護者を下敷きにした。岩の破片と氷の破片が飛び散り、部屋の地面に氷柱がしっかりと突き刺さる形となったのだった。闇の守護者は、その中だ。

 ロージアは静かにその氷柱の上に降り立った。世界から音がなくなったかのような静けさと共に、白い冷気がロージアを包む。


「やっつけた、の?」


 ルナはもしかしたらそうなのかもしれないと思った。だが、ロージアの表情は変わらない。あれだけ痛めつけたにもかかわらず、ここで感じられる禍々しい気配には何の変化も感じられないからだ。

 それすなわち、闇の守護者は生きているということ。それどころか、殆どダメージを受けていないのではないかという疑いさえある。

 ロージアがそう結論付けた瞬間、割れた風船から漏れる空気のような音と共に、地面とそれに接している氷柱の隙間から黒い煙が勢い良く噴出された。


「え!」

「何アレ?」

「…………」


 まさか!

 誰もがそう思っていた。だが、ロージアは何処か予感していた。そして、その予感は的中する。

 黒い煙は素早く形を変えてゆき、元の闇の守護者の形に戻っていった。その姿は本当に元の通りであり、そこに何らかの負傷や力の減退があるようには見えなかった。

 それはルナ達三人にとっては、最悪中の最悪のパターンであり、にわかには信じたくない事態であった。


「嘘!」


 そのように叫びたくもなった。そんなルナ達三人を、闇の守護者は馬鹿にした目つきで嘲笑う。


「嘘も何も、貴様等が勝手に勘違いしただけ。余は物理攻撃ならばダメージを食らうとは、一言も言っておらん。第一に、余は言ってやっただろう? 余は闇属性の魔法でなければ倒すことは不可能であると」


 それすなわち、闇魔法以外では何であっても闇の守護者にはダメージを与えられないことを意味する。例えそれがどのような強力な魔法、凶悪な兵器だとしても。

 それは信じられないことであった。だが、これまでの闇の守護者の無敵ぶりを見ると、それが真実であると認めざるをえない状況だった。

 だがそれは、この現時点では手も足も出せない絶望的な状況である。

 とは言え、覚醒した状態のカオスでならば、闇の守護者にダメージを与えられるとルナとマリアは知っていた。だから、こうして戦い続けていればダメージは与えられなくても敵の体力の低下はされるかもしれないし、仮にそれも出来なかったとしても、動きの癖や技のかけ方等動きに関するデータの収集は可能。

 その一方で、ロージアは思っていた。知っている限りでは、闇属性魔法は魔王アビスにしか使えない。だが、ここにやって来る予定のフローリィは魔王アビスの娘である。養女ではあるが、血縁的には姪でもあるので、その素質がある可能性は高い。

 三人は思う。あの二人がやって来るまで、ここを持ちこたえる。それが、ここでの勝利の礎となるのだ。

 それは暗闇の中の僅かな希望であった。僅かではあるがその希望が、三人の瞳に希望の光を灯す。それに、闇の守護者は気付く。

 つまらなくなった。闇の守護者はそのように感じ始めていた。だが、向こうにとってはこの圧倒的な絶望の中で、何かしら希望の光を見つけたらしい。それに気付いて、少し興味を抱いたのだ。

 それは何なのか、闇の守護者には知る由はなかった。だが、あの○△□×☆の五人とは比べようのない程良い顔つきになったルナ達三人は、その愚物達とは違うであろう末路を、その目で見たいと考えるようになった。

 この目で、貴様等の最期をきちんと見届けてやろう。

 闇の番人は魔力を充溢させながら愉快そうに笑った。

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