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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.060:守護者Ⅰ~黒い沼地~

 ルナ・マリア・ロージアの三人は、カオス達よりも先に最奥の少し手前までやって来ていた。

 最奥のブラックエンド・ダークセイバー。

 それがこの奥にある。だが、その前に越えなければならない障害もある。それがルナ達の立っている扉の外からでも感じられていた。

 率直に言って、避けられるものなら避けたい。

 それが偽りのない正直な気持ちであった。だが、避ける道は無い。目的の為ならば、此処は邁進しなければならない。それを、ルナ達は分かっていた。

 扉を開ける。そして、鍵のかけられていない扉は、重い音と共にルナ達をその中へと迎え入れた。


「…………」


 扉を抜けたルナ達は、まずはその入った中の様子を探った。辺りを見渡して、その異変を見付けようとする。

 ルナ達が扉を抜けた先は、部屋のようになっていた。岩の壁はきちんと直角に切り揃えられてあり、床は平に整備されてあった。だが、それを『部屋』と呼ぶのには少々語弊があるようにも感じていた。

 なぜなら、そこは広いのだ。とてつもなく広いのだ。天井までは軽く10メートル以上はあり、天井はルナ達の位置では良く見えなかった。横幅もかなり広く、ルナ達の場所を真ん中としたら、左右各々数十メートルあるように見えた。そして、最奥はもっとも遠く、ルナ達の位置からはどの位か見当もつかなかった。おそらく、100メートル位はあるだろう。

 とは言え、ルナ達の動ける位置は限られているようだった。前後左右と上は普通だったのだが、下は普通ではなかったのだ。扉を抜けた先に出た部屋は、出入口近辺に半径2メートル程度の半円があり、扉から奥に向かって真っ直ぐ横幅1メートル程の通路が通してあった。その他は少し窪んだ所となっており、その中に真っ黒な何とも言えない物体で満たされていた。

 部屋は広いけれど、普通の岩の所は限られており、後はその訳の分からない黒い物体で埋め尽くされているのだ。

 黒い物体が何なのか、ルナ達には見当がつかなかった。だが、それが何なのか触れてみようと思う者はいなかった。流石にリスクが高過ぎる。触れられない。だが、触れなくても一つだけ分かることがあった。この黒い物体は、近寄るだけで嘔吐したくなる位嫌な感じがする。つまり、さっきからルナ達が感じていた嫌な感じとは、ここから発せられていたのだ。

 避けたい。だが、目標物はこの奥にある。

 ルナ達は通されてある横幅1メートル程の道を一列になって歩いていった。歩いたのは1分とかからず、数十メートル歩いたところで、その道は終わった。その道の終わりは数メートル四方の四角い岩のリングに繋がっており、そのリングの先は岩の壁となっていて、そこの中央に重そうな扉がつけられていた。おそらく、その扉の向こうにブラックエンド・ダークセイバーがあると思われたが。

 ルナ達はリングの周囲を見る。そこにはかなりの量の白骨化した屍が、弔われもせずに放置されていた。それから、ここに突破しなければならない障害物があると分かった。そして、その障害物を越えない限り、この重そうな二枚扉は決して開きはしないのだと。


「この奥か」


 ルナがその扉をもう一度見たその時、ルナ達の居るその部屋が揺れ始めた。最初は気が付かない程に小さく、そしてすぐにその揺れは大きくなり、部屋を大きく揺さぶる。

 ルナ達は最初、それは地震かと思った。だが、それがただの地面の揺れでないとすぐに気付かされた。ルナ達の居るリングの周りの黒い物体に変化が現われたのだ。

 黒い物体はプロミネンスのような動きを見せた後、数本の柱が天井近辺の一点に向けて放たれた。その数本の黒い物体の柱はぶつかり、その空間で一つの黒い球体を成すようになった。

 その黒い球体は、球を為した後もリングの場外に入れられている黒い物体との接触を切らなかった。先程放たれた数本の柱によって接続されたままだったのだ。

 そこから、不気味な音が発せられ始める。何とも形容し難い音を発しながらその球は脈打ち、次第に大きくなってゆく。


「な、何アレ?」


 その不気味な光景に、ルナは畏怖を感じていた。この嫌な気配と、その不気味な光景、どう考えてもハッピーな出来事が起こるようには見えない。嫌な事が起こりそうなのだ。

 それは他の二人も感じていた。

 周りを見渡すと、周りを埋めていた黒い物体が、次第に減っていた。そして、それが減る毎に天井近辺の黒い球体はその体積を増やしていった。つまり、その黒い球体が周囲の黒い物体を吸収しているのだ。

 黒い球体は、黒い物体を吸収し続ける。その勢いはとても早く、ルナ達の周りにあるその黒い物体を吸い尽くす勢いだった。そして、それがほとんど無くなってゆくと、黒い物体の池と黒い球体を結んでいた柱は次第に細くなっていって、黒い物体が吸い尽くされたと同時に柱も消えた。

 池は空となり、黒い柱も無い。ただ、天井近辺に大きな黒い球体が残されるのみであった。

 その黒い球体はとても大きかった。だが、それは周囲の黒い物体を吸収しつくすと、その大きさを収縮させ始めた。それと共に、大きな体積によって周りに拡散されていた黒い球体に籠められた魔力が、収縮と一緒に凝縮され始めていった。まとまりのなかったものが、まとまりだしたのだ。それは、結果としてパワーアップとなる。


「…………」


 そこに、ロージアは危機感を抱いていた。あの黒い球体はまだ目覚めていないのと同じ状態である。目覚めさせないで殺すのはフェアではない。だが、そうも言っていられない。強く、禍々しい魔力が、ロージアにそのように思わされていたのだ。


「くっ」


 あの黒い球体が、これからすぐに自分たちを苦しめるようになるのは火を見るよりも明らか。ブラックエンド・ダークセイバーを手に入れる為には、それが最大の障害物になるというのも含めて。

 ならば、最良の道は一つ。

 ロージアは素早く魔力を充溢させる。それを見て、ルナとマリアは驚いた顔をする。敵など、まだ何処にもいないように思えたのだ。だが、ロージアにとっては既にアレは敵である。そして、先手必勝がここにおいての必定であるように思えた。

 だから、これは当然。そのように感じていた。ロージアは自信を持って言う。


「アレを、今の内に破壊するわ」


 そして、解き放つ。


「アイス・キャノン!」


 ロージアから冷気の大砲のようなものが解き放たれ、真っ直ぐに黒い球体へと飛んでいった。その威力は凄まじかった。普通の人間なら、それを食らったら即死であろう。あの黒い球体を普通の人間と同レベルと捉える者はいなかったが、そのロージアの攻撃をマトモに食らっては、無事では済まない。誰もが、そのように思っていた。

 その黒い球体はロージアの攻撃をよけなかった。ただ単に、避けるという行為が出来なかっただけなのかもしれないが、その黒い球体はロージアの攻撃を真正面から食らったのだ。

 しかし、衝撃はない。

 ロージアの魔法攻撃は、そのまま黒い球体の中に吸い込まれていって、反対側へと貫通していった。黒い球体には一瞬だけ穴のようなものが開いたのだが、それもすぐに修復され、元の球体へと戻ってしまった。

 どうこちら側に贔屓目に見ようとも、ダメージがあるようには見えなかった。

 その黒い球体は、そこからさらに収縮を加速させる。直径数メートルの球体であったそれは、1メートル弱にまで収縮されていた。そして、そこで収縮はストップした。

 黒い球体はそこで休まずに、今度は形態の変化を始める。

 もごもごとその黒い球体は動きながら、まずはそこから両手が現われた。手の甲から肩にかけて真っ直ぐのラインにその黒い色を残した以外は、紫色の腕となっていた。そこに、無数の横のラインが現われていた。その腕の先から、指が人や上級魔族等と同じ数である5本現われたが、やはり色は紫色であった。ちなみに、爪は無い。

 そうして黒い球体+腕2本の形になると、今度は球体そのものが変化を始めた。黒い球体は少し横に広がりを見せた。すると、その黒い球体の真ん中から腕と同じ色の紫が現われ始めて、黒い色は横2つに割れる形となった。▽状に紫色は広がりを見せながら、胸部を形成してゆく。下に残された黒い部分はそのまま真っ直ぐ下方に伸びてゆきながら、腹筋を作り上げてゆく。やはり、腹筋も紫色だ。ただ、ここには模様は無い。

 下に伸びていった黒い部分は腹筋の後に何も無い股間を形成した後、そこから2つに割れた。それぞれが右下と左下に分かれていって、足を形成し始めたのだ。足の紋様は腕と同じ。黒と紫のストライプを併せたものだ。ただ、足の指だけは人等と違って、指は3本しかなかった。そして、やはりそこには爪は無い。

 それからその黒と紫の物体は、後方の尻を形成しながら、そこの一部分に盛り上がりを見せる。その膨らみは真っ直ぐに伸びて、尻尾となった。尻尾の形態はミミズと同じようなものだった。色は紫ではあるが、横線が模様となっていて、そこに黒い縦線が1つあるだけだ。

 それと同時に、背中の背骨部分を中心に横に線対称になる2つの位置に、針のような真っ黒な突起が現われた。それは真っ直ぐに伸びていって、1メートル弱でその伸びを止める。

 さらに、それと一緒に胸部の上もズッと上方に向けて伸び始める。黒いのは紫をそこに残しながら上へと向かう。そこで首を形成し、残りは頭となる。その頭は輪郭を模りながら、頭部を整えてゆく。ただ、そこは人等とはかけ離れたものだった。耳のようなものは見当たらず、その位置に角のようなものがあった。頭髪も何も毛のようなものは一切存在せず、真っ黒な頭部を横に別つように大きな2本の角がそこには立っていた。角は合計4本。そして、顎の下にはさらに真っ黒なサーベルのようなものがついていた。その上、目玉は3つである。そうして、頭部は完成となる。

 すると、さっき現われた背中の2つの突起は動きを見せる。その位置から一気に下へと広がり、翼を形成したのだ。

 それで完成である。悪魔のような者が、黒い球体から変化してルナ達の前に現われたのだった。




 それがブラックエンド・ダークセイバーの守護者。言わば、『闇の守護者』である。




 闇の守護者は辺りを見渡し、そして下方の地面に居るルナ達に視線を合わす。一人ずつゆっくりと視線を移していって、それと共に彼女等の才気を測る。彼女等の品定めをするのだ。

 そして、溜め息。

 闇の守護者は少し失望した。面白くないと感じていた。だが、『守護者』としての務めは果たさなければならない。いい加減ウンザリする事だが、それもまた自分の任務である。周りに散開している屍のように、今回もまたこの不適合者を葬らなければならない。

 そのように言い聞かせる。


「…………」


 最終試練の間の天井付近に浮いていた闇の守護者は、無言のままゆっくりと下りて来た。静かに着地し、ルナ達に視点を合わせる。そして、もう一度ルナ達の力量を測る。測るが、やはり三人共お眼鏡には適わなかったようだった。


「また、やって来たのは持つに値しない愚物共か」


 そうしてまた溜め息をついた後、闇の守護者は魔力を上げる。その辺りに闇の守護者の魔力によって、振動が生じ始めた。


「死ね」

「!」


 闇の守護者の目が怪しく光り、戦いが始まる。

 それを感じたルナ達は、それに対抗する為に素早く戦闘態勢を整えるのであった。



◆◇◆◇◆



 そこから少し離れた場所、遠回りを強いられたカオス達の所にも、魔力による振動は微量ながら伝わっていた。そして、それが魔力であるともすぐに気付く。

 これだけの魔力が突然生まれたとしたならば、戦闘が始まったか、始まるかのどちらかだろう。相手は普通に考えればルナ・マリア・ロージアの三人である。そこまで予想はついた。

 ならば、もっと急がなければならないな。

 カオスとフローリィは、その足を速めていった。


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