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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.059:Mission A

 悪い感じのする空気の中を、ルナ達三人は最奥に向けて真っ直ぐに進んでいた。そしてしばらく経って、ルナ達は行き止まりに辿り着く。やって来た方向を除く三方が壁なのは、先程の苦難の道との分岐点と同じだったが、今回はそれとは違って、その袋小路の一番奥の壁に初めから扉が一つ備え付けられていた。つまり、この奥に進めと言いたいのだろう。

 その扉の前で、ルナ達は立ち止まる。そして、感じていた。

 この扉の奥にあるものを。

 この奥で待ち構えているものを。

 先程の5vs5の時に戦ったあの五人組なんかとは比べようのない程に強く、そして禍々しいものが待ち構えていることは、扉の外側からでも感じられていた。



『クククク、行くがいいさ。どうせアレは誰にも手に入れられはしない。『奴』に勝てる者などこの世の何処にも存在しないんだ。ハーッハッハッハッハッハッハ!』



 5vs5で圧倒した時、向こう側の☆はそのように言っていた。その時はただの負け惜しみとしか思っていなかったが、その☆の言った『奴』がこの中に居るのだとしたら、その時の☆の言葉は単なる負け惜しみではなかったと言えた。

 勝てるかどうかは分からない。だが、後ろに道は無い。


「では、行きますよ」

「ええ~」

「開けて頂戴」


 ルナ達三人は、カオス達より早く月朔の洞窟最後の砦の中へと入っていった。



◆◇◆◇◆



 その一方で、カオスとフローリィの二人は暢気に喋りながら歩いていた。もっとも、話題はブラックエンド・ダークセイバーのことではあるが。


「でも父様、魔王アビスはアレを必要とする筈よ」


 自身の得意魔法は炎系統ではあるが、父親の得意魔法は闇系統である。それを考慮に入れれば、その父親はブラックエンド・ダークセイバーを持つに相応しい。そのようにフローリィは語る。

 それは分かる。だが、カオスがそれよりも気にしたのは。


「お前、魔王アビスの娘だったんだ」

「そうよ。正確には姪で、養女だけどね。言わなかったっけ?」

「多分」


 とりあえず、カオスはそのことを聞いた記憶はなかった。だが、それはカオスにとってはどうでも良かった。魔界での覇権を狙う輩には重要かもしれないが、そのようなものはカオスには全く縁の無いものだからだ。


「でも、まあ。不自然ではないかな?」


 カオスはそんな感想を漏らした。それは、カオスの率直な感想であった。今までのフローリィの振る舞いを思い返すと、魔王の娘、魔界のプリンセスとしての振る舞いに見えるからだ。

 それは優雅な動き?

 そのように思い、フローリィはまんざらでもない顔をする。


「そんなにお姫様のように見える?」

「あ、ああ」


 そんな嬉しそうな顔をしているフローリィに、勿論カオスは言えない。言動の我が侭ぶり、行動の無茶苦茶さが、過保護に育てられたお姫様のようだとは。

 もっとも、それもまたどうでも良かった。それよりも気になるのは他にあった。


「まあ、いい。でも、そうやって力を求めるということはだ、前の戦いから16年経った今でも魔王アビスは勇者アーサーとやらに復讐するつもりなのか?」

「勿論よ」


 フローリィは即答する。


「あたし達は、決して奴等を許しはしないわ」


 それは魔王アビス軍の総意。

 それはフローリィの意志。

 魔王アビスはアーサーによってその家族を奪われ、フローリィは実の両親を失った。その恨みは、憎しみは、例え16年経とうと、100年経とうと、10000年経とうと、それを晴らすその日まで消えることはない。

 だからこそ、魔王アビス軍の中で『Mission C』と共に『Mission A』も存在しているのだ。言うまでもなく『Mission A』のAは、『Authurアーサー』のAである。そのアーサーの命を、魔族や関係ない人間を含め出来るだけ少ない犠牲で奪うことが、その『Mission A』で目指すこと。


「あたし達が恨んでるのは、16年前の首謀者であるアーサー達だけ。従軍しただけの連中や、他の関係ない人間の命なんかどうでもいいわ。邪魔さえしなければ、奪う気もない。アンタも含めてね」


 フローリィはカオスにそう言う。もう、こちらとしてはアンタの命を奪うつもりはない。もし、自分達に殺されない為に強くなるのだとしたら、それは不必要な心配であると。

 そのフローリィの言葉一つ一つを、カオスは確認するように呟く。


「俺はお前達に殺されることはない。だから、別に強くなる必要もないんじゃないか。そういうことだな?」

「そうよ」


 そこでブラックエンド・ダークセイバーも諦めてくれれば、フローリィにとっては万々歳であった。だが、カオスは首を横に振る。

 魔王アビス軍に狙われる。それも動機の一つではあるのだが、それだけではない。


「でも、俺は強くなるよ。勇者アーサーなんて面識もねぇ奴なんかどうでもいいが、それでもな」


 出世も何も興味はない。必要とは思えない。だが、力は必要となる。カオスには、そんな予感がしていた。だから、強くなろうとする。


「やるからには、誰にも負けたくはないからな」


 そんな力があれば、いざという時に大切な人達を守れなくて嘆く羽目にならなくて済む。

 そう、金にも名誉にも興味は無い。

 カオスはそう言った。そこから、カオスは功名心等には興味が無いとフローリィには受け取られた。だが、カオスはその一方で何よりも強くなりたいとも言った。そこに、フローリィは矛盾があるような気がしてならなかった。

 なぜなら、これまで見てきた人間達は功名心等の穢れた欲望の塊のようなものだったからだ。もしカオスがそういう人間なのだとしたら、カオスが言ってきたことは全て嘘となる。だが、そのような証拠は何処にもないし、フローリィとしてもそのように思いたくはなかった。

 信じたい。

 そう思っていたのだ。

 ただ、何の為に強くなろうとしているのかは分からない。負けず嫌いである自分は、戦いでも何でも負けるのが嫌で、絶対負けない為に強くなった。だが、カオスにそのような面があるようには見えない。そこから、さらに功名心のような動機を除外してしまうと、カオスが強くなろうとする目的が全く見えなくなってしまうのだ。

 これも訊いてみようか?

 フローリィはチラッと思う。だが、それはすぐに却下した。訊いたところで、カオスがマトモに答えるとは思えないからだ。結局ああだこうだ言って、はぐらかされてしまうのは目に見えている。そして、そんなカオスの口車に自分は勝てないとも。

 フローリィは少々口惜しく思っていたのだが、それもまた仕方ないと思うことにした。自分にはそういうのは合わないのだと。

 そうやって少し考え込んでたフローリィを、カオスは急かす。


「おい、フローリィ。急ぐぞ。さっさとしろよ」

「分かってるー」


 カオスとフローリィは、その歩みを意図的に少し速めた。

 時は金。足りなくて困れども、余って困るようなことは無い。だから、カオス達も急ぐことにしたのだった。

 『闇』の待ち受ける最奥へと。


短いけれど、キリが良かったので……

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