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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.056:苦難の道Ⅴ~影二つ~

 2vs2。

 そんな宣言がされてすぐ、カオス達の前に二つの人型の影が降り立った。それらは二つとも同じ見てくれをしていたのだが、とても異様な物に見えた。フォルムは確かに人やエルフ等の亜人と同じものであった。頭が一つ、手足が二本ずつの、いわゆる五体である。だが、頭には顔が無く、目や鼻、口や耳のようなパーツは存在しなかった。その為か、生きている感じもなかった。

その二つの影は動く。苦難の道第二の番人(名前適当につけてくれ)の後に立っているだけだったその影は、カオス達の方に向かってゆっくり一歩踏み出した。

 そうやって動くのを見ると、やはり何らかの生物であるらしい。カオス達は、そう感じざるを得なかったが。

 カオスは顔をしかめる。


「キモイ奴等だな、オイ。つか、顔ねぇし」

「…………」


 顔が無いからか、カオスの罵倒に対してその影はどのように思ったのかは窺い知れない。口が無く、耳も無いので、全く聞こえなかったのかもしれないし、何らかの手段で聞こえていたのかもしれない。

 その上で、カオスの言動に対しても何の反応もなく、ただゆらりゆらりと動いているだけだった。その動きが、その者の不気味さを高めていた。

 苦難の道第二の番人(最早名前などどうでもいい)は、その影に命令する。


「かかれ!」

「「!」」


 すると、その声は分かるのか、その二つの影は一様に戦闘態勢となった。そして、魔力が一気に充溢される。そこから、攻撃を仕掛けてくる事はカオス達にも十二分に理解出来、カオス達もまた、素早く戦闘態勢となった。

 ちょうどカオス達が戦闘態勢を整えると、その二つの影の1つはカオスに、もう一つはフローリィに戦いを仕掛けてきた。

 地を蹴り、一直線にやって来る。そのスピードは、思ったよりも速かった。少なくとも、先程戦った△○□より素早いのはすぐに分かった。

 影はカオスに先制の蹴りを仕掛ける。軸足である左足をしっかりと踏み込んでの、右足による回し蹴りだ。カオスは腰を落とし、左腕でその攻撃を受ける。下からその蹴りを持ち上げる態勢となり、自然な流れで相手の力を上方へとスライドさせる。

 その一連の動きだけで、カオスは悟らされる。コイツは雑魚ではないと。スピードだけでなく、パワーも自分と互角位のものは持ち合わせていると感じさせられた。


「チッ!」


 カオスは体を翻しながら相手の懐に入るように一歩踏み出す。そして、それと同時に右の肘打ちを食らわせる。

 それはマトモに入り、影は後方へと飛ばされた。だが、体勢を立て直すのも上手いらしく、しっかりと地面に足をつけて着地して、カオスに向けての戦闘態勢は崩さない。

 パワーとスピードはある。そして、防御力もある。手を抜いた攻撃ではないけれど、余りダメージを受けている様子が見られないと、カオスは理解する。

 では、どうするか。

 そんなカオスの思考の途中で、影は再びカオスに襲い掛かってくる。カオスとて油断している訳ではない。戦闘態勢は崩してはいないので、素早くそれに対応する。

 影はまた真正面から攻めてきた。さっきと同じ、右足による回し蹴りだ。だが、カオスはその蹴りを、今度は防御で受けようとはしない。今度は体勢を下に落として、その攻撃を回避する。

 影の視界から、カオスの姿が消える。影はカオスの姿を探そうと試みるが、その瞬間に隙が生まれた。そして、その隙を見逃すようなカオスではない。自ら後ろ向きに倒れる姿勢となったカオスは、その反動を利用した形で、影に蹴りを入れる。

 影の体は、上方に飛ばされる。魔力の籠もったカオスの蹴りによって、影は天井まで叩きつけられるような勢いで飛ばされていった。だが、その上方で自ら体を翻して勢いを弱め、さらに体勢を整えて、激突を回避する。そして、それから体を何回転か回して、地面に下りた。

 この影はキモイ野郎だが、スピード、パワー、バランス感覚、そこら辺のものは自分と互角に近いものがある。だが、勝てない相手ではない。そのように、カオスは判断する。

 苦難の道第二の番人(最早カッコ内のネタは無い)は、そんなカオスを嘲笑うように、カオスとフローリィの戦いを見ながら大笑いした。


「はーっはっはっは! 勝てない。貴様等は絶対に勝てないぞ! 絶対になッ! はーっはっはっはっはっはっ!」


 絶対?

 その言葉に、カオスとフローリィは反応する。苦難の道第二の番人は、訊かれてもいないのにその影の特性をカオス達に説明する。


「なぜなら、コイツ等はただの魔物ではない!」


 苦難の道第二の番人は、そっくり返るように胸を張る。余程、自分の出したこの二つの影に対して自信を持っているらしい。やはり、訊かなくても自分から説明をし始める。


「コイツ等は、お前等の体力、力、魔力、素早さ、バランス感覚等全てをコピーしているのだ! 要するに、全力の自分と戦っているのと同じなのだよ! だから、貴様等は絶対に『勝て』はしないのだ! はーっはっはっはっはっは!」


 苦難の道第二の番人は、そう言いながら大笑いする。だが、そんな大笑いを耳にしながらも、カオスは憤らなかった。怒りも何も無い。ただ、呆れていただけだった。


「何だ、そんなことか」


 カオスは溜め息をついた。溜め息をつきながら、カオスはちょっと前にトレーニング中にマリアに言われたことを思い出していた。




 眩しい木の下、少し体を休めながらマリアは休憩しているカオスとルナに言った。


「い~い、二人共。昨日より今日、そして今日より明日。一歩一歩着実に力をつけてゆくのよぅ~。地味

で、実感が湧きづらいけれど、それが強くなるってことなんだからね~」


 良く晴れた日のことだった。




 その時、カオスはその言葉に対して特に思うことは無かった。当たり前とくらいにしか思っていなかった。だが、もっとつきつめてゆけば、今日より明日少し強くなるってことは、今より次の瞬間にはそれよりもほんの少し強くなるってことだ。

 だから、カオスは言う。断言する。


「問題無い」


 そう、問題など無いのだ。苦難の道第二の番人は力が同じだから、『勝ち』は絶対に無いと言った。だが、それは逆から言えば『負け』も無いのだ。制限時間のあるこの月朔の洞窟内での戦いだ。それが彼の狙いであるのはカオスも分かっていた。だが、それでも問題は無い。なぜなら、コピーされた時点の自分より少しでも強くなればいいだけの話なのだ。

 一歩一歩。

 マリアはそう言っていた。そして、カオスもそうやって強くなろうと思っていた。その先で、何よりも強くなってやろうと。その為に、その一歩一歩を何度でも繰り返してやるつもりだった。

 此処もその一つでしかない。何の特別でもないので。


「何の問題も無い」


 カオスはそう言うのだ。変わらずに断言するのだ。

 その言葉は苦難の道第二の番人を少なからず激昂させるものだった。だが、彼は努めて冷静であるようにして、落ち着いた口調で影に命令する。


「問題無い? 自惚れだな。影よ、その生意気な鼻っ柱を折ってやれ」


 苦難の道第二の番人は、それはただのカオスの根拠の無い自信、ただの自惚れであると思っていた。だが、影は気付く。カオスの魔力の波長が少々変わっていることに。

 その影の様子から、苦難の道第二の番人もそのカオスの変化に気付く。何かしらこの男にはあると。


「魔力が上がった? いや、充溢してきているのか…」


 苦難の道第二の番人は、カオスの様子をそのように判断する。そして、それは正しい。

 カオスは魔力を充溢させた後、それを利き腕である右腕に集中させ始める。そして、その魔力で素早く一つの物を具現化させてゆく。


「!」


 苦難の道第二の番人の目の前で、その変化は起こった。カオスの右腕に、氷が具現化されていったのだ。

 魔法の氷は棒状となり、真っ直ぐに伸びていったのだが、その棒に少しずつ刃が生まれ始めた。カオスが具現化された魔法の氷で創ろうとしているのは、ロッドではなく刀だった。


「実戦では初公開だぜ」


 カオスは笑う。そして、その刀を完成させて、披露するのだ。


「マジック・ブレード(氷)」


 魔法の刀を携えて、カオスは真っ直ぐに影と対峙する。

 そのカオスの刀を見て、苦難の道第二の番人は正直に凄いと感じていた。なぜなら、魔法剣とはその出来栄えは術者の実力次第で決まってしまうものだ。カオスの魔法剣は、発動が早いだけでなく形状も綺麗に仕上がっていた。それだけで、その剣は威力もかなりのものであると推測された。

 とは言え、それと同時に自分達にとって有利だとも考えていた。なぜなら、魔法剣は発動している間は魔力を消費し続けている。そして、どのような優れた術者であっても、魔法剣はあくまでも即席で作り上げる紛い物でしかない。つまり、本物の名刀には切れ味では絶対に勝てないのだ。

 苦難の道第二の番人は、カオスと戦っている影に向かって叫ぶ。


「おい、影! 見た目に騙されるんじゃない! 魔法剣などお前の敵ではないぞ! しかも、奴は魔法剣を作るのに多量の魔力を使った! 寧ろチャンスだ! 倒せ! 倒してしまえっ!」


 その言葉に、影は奮起する。そして、影は戦意を取り戻してカオスの方へと向かっていった。

 魔法剣は通常の剣の切れ味より劣る。だから、駄目だ。そして、それを相手が使ったから、こちらにはアドバンテージとなった。

 そう考えているのは、カオスにはお見通しだった。そして、それを分かった上でカオスはその魔法剣を使うことにしていた。

 魔法剣はどんなに頑張っても、普通の剣より切れ味が良くならない。だから、魔法剣は駄目な物。

 そのように考えられているが、その理論には穴がある。カオスはそのように思って、こうやって行動を起こしたのだ。それを、苦難の道第二の番人は気付けていなかった。

 それもまた、カオスの術中。


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