Act.054:苦難の道Ⅲ~双丘と絶壁~
ここで問題です。
巨乳と貧乳、魅力的なのはどちらか答えなさい。
「って、何だこの問題はっ!」
その問題を出題されたカオスは、思わず叫んだ。クイズと言われて酷い難問もイメージしたのだが、これはある意味それよりも性質が悪かった。馬鹿じゃなかろうかと。
その一方で出題した当の変態、もとい駆忌途大王は当然とばかりの顔をしていた。その顔はまるで、自分は普通の問題を出したのにカオスが逆恨みしているかのようだ。
「何だ、じゃない。これが、お前が答えるべき問題なのだ」
サラッと言いのける。
「ふざけんなー!」
当然、そんな駆忌途大王に対してカオスは納得がいかなかった。出題される前にフローリィが言ったように、この目の前に居る変態を殺してやりたい気分だった。
「内容云々を別にしても、そんなの問題になってねー!」
カオスは叫ぶ。クイズとは正解が必ず一つでなければならない。そうでなければ、正解や誤りの判断が出来ないからだが。
「魅力なんざ、人それぞれ感じ方が違うじゃねぇか!」
そう。変態、駆忌途大王の出した問題には正解へと至る絶対的な基準は無い。つまり、これが100%正解というモノは存在しない。
それは駆忌途大王自身も当然知っている。だが、それでもマイペースは崩さない。そして、カオスに向かって念を押すように問題の主旨を付け加える。
「確かにそうだ。お前の言う通りだ。だが、お前の答えるべき答えは一つだ。真実はいつも一つ、と言うようにな」
変態こと駆忌途大王は胡散臭い真面目な顔をして、そのように言った。そして、その駆忌途大王の言った言葉が、カオスを少々悩ませた。
答は一つではないのがカオスにとってはアドバンテージになると、カオス自身はそう思っていた。だが、駆忌途大王はそのように見える問題であっても、答は一つしかないと言う。駆忌途大王の出した問題には、何かしら裏があるように思わされていた。
答は一つしかない?
カオスは思い悩む。カオスとしては、大きなおっぱいが大好きだ。出来るならば、あの新鮮な桃のように瑞々しく、マシュマロのように暖かく、この心をがっちりと捕らえて離さないあの魅惑の二つの山に飛び込んでいきたかった。
それを考えると、カオスにとっての答は一つだった。だが、ここはカオスの趣味を問われている訳ではないのは、カオス自身にも分かっていた。だから、不用意に「巨乳だ!」とは言わない。
「…………」
カオスは気晴らしに少々辺りを見渡してみた。そのカオスの目に、フローリィの姿が目に映った。
フローリィ。
その体を前から、そして横からもチラリチラリと見てみた。そのカオスの視線に気付き、フローリィは不快そうな顔をした。
「何よ? ヒトをジロジロ見て」
「いや、何でもねぇよ?」
カオスはフローリィからその視線を外した。そのカオスの脳裏に、フローリィの姿、特に胸の部分が改めて焼きつく。服越しではあるのだが、それは良く分かった。
断崖絶壁。
その言葉がカオスの頭を通り過ぎて行った。フローリィには、悲しい程無かった。哀れな程無かった。同情を禁じえず、涙をこぼしてしまう程に無かった。おっぱいが。
そのようなフローリィを前にして、自身のおっぱいに対する趣味は語れないとカオスは思っていた。言う人間に対してどのような感情を抱いていても、自分に魅力が無いと言われて良い気分な奴などいる訳がない。
それを踏まえた上で、このフローリィは短気でワガママで、なおかつ手が早い。そのようなフローリィを前にして、「巨乳大好き。VIVA KYONYU!」なんて言おうものなら、恐ろしいことになるのは目に見えている。前略、中略、以下省略にしたい位の凄いことになろう。さらにその後、マリアお姉様の説教フルコースも追加されよう。
それが分かるカオスだから、自分の趣味を曲げて答える。
「貧乳だ」
「何故、そう思う?」
巨乳大好き! 貧乳、NO THANK YOU!
そう言うと、後ろに怖いヒトが居て、怖いことになるから。とは勿論、口が裂けて後頭部で繋がってしまったとしても言えない。だから、カオスはもっともらしい事を理由に挙げる。
「何にしてもそうだが、大きけりゃそれでいいってもんじゃねぇからな」
そこから強引に畳み掛ける。
「いくら大きくても、ヘチマのような化物クラスのおっぱいに魅力があると思ってるのか? 否! 不自然で気持ち悪いだけじゃねぇか!」
「ふむ、成程な」
変態はカオスの言っている理論に納得した姿勢を見せる。彼にとって、その答は正直どうでも良かった。ただ、時間稼ぎを目的としている彼にしてみれば、そんな答の無い問題で、もっともっと悩んで欲しかっただけだ。
彼の策謀はそれだけでない。無駄で馬鹿丸出しのポーズを決めながら、駆忌途大王は宣言する。
「では、第二問!」
「ぬあっ!」
「いいっ?」
それはカオス達にしてみれば青天の霹靂。『正解したら通す』と言っていたので、さっきの馬鹿な問題に正解したようだったので、ここはこれでクリアーと思ってたのだ。
「クリアーしたんじゃねぇのかよっ!」
カオスは抗議するが、駆忌途大王はそれを受け付けない。
「ふ、誰もたった一問でクリアーとは言ってなかろう?」
「チッ、確かにな」
カオスは敢えて問題数や正解数、その辺りを訊かなかった。それは、この駆忌途大王の出す問題に失敗した場合、『間違えたら失格? そのようなことは聞いてない。聞いてないから、無効だ』という言い訳が一回は使えるようになるからだ。
今回、それが裏目となってしまったようだ。同じ手を、駆忌途大王の方が使ったのだ。
これは己の身を守る安全対策であった。だが、このままでは堂々巡りとなろう。カオスは、ケリをつけるように駆忌途大王に促す。
「しゃあねぇな。だが、これで最後だろうな?」
「ああ。それで構わんさ。今度吾輩の出す問題をクリアーしたら、ここは突破で良い」
駆忌途大王は躊躇わずそのように答えた。一問目には、穴があった。だが、次の問題は大丈夫だ。そう、駆忌途大王は考えていた。そして、それだけ自信もあったのだ。
「では、行くぞ」
無駄で変態丸出しのポーズを決めながら、駆忌途大王は宣告する。
「最、終、問題ィイイイイッ!」
駆忌途大王のサングラスの奥の目がキラリンと光った。その輝きは明らかに無駄で、ただの変態度の増長でしかなかった。そして、この描写もただの無駄でしかない。
駆忌途大王は出題する。
「大きいだけでなく、形も美しい魅力溢れるオッパイとぉぉぉぉおおおおっ!」
方向性は同じだった。寧ろ、悪化。
「洗濯板のように、あるんだか無いんだかさっぱり分からぬオッパイとぉぉぉぉおおおおっ!」
そこでフローリィの堪忍袋の尾が切れた。さっくりと切れた。駆忌途大王が自分を意識して出題していると悟ったからだ。
「魅力的なのぅわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!」
「死ね」
問題を言い切らない内に、フローリィの拳が駆忌途大王に炸裂した。生命力は常人より持っているが、戦闘に関しては素人同然の駆忌途大王の体は、あっと言う間に飛ばされた。
「くはっ!」
大王という名の割りにひ弱な駆忌途大王は、吐血しながらフラフラと立ち上がった。そして、怒りのオーラを纏ったフローリィと対峙する。無論、腰はひけてる。90度近くまで腰が曲がったお年寄りのように。足は生まれたばかりの小鹿のようにプルプルだ。
「わ、吾輩にこのようなことをしかけるとは。し、失格になっても良いのか?」
戦闘能力を持たない駆忌途大王にとって、この先への道が分からないようになっている部屋の造りは、彼の身を守る防具でもあった。
そしてヒトの心をかき乱すクイズの出題が、彼にとっての剣だ。答えようの無い問題でペアのチームワークの崩壊を狙い、それだけの時間を稼ぐのが彼の目的だった。
そんな彼の前に、今こうして目の前に怒りを露わにしているフローリィが仁王立ちしている。ここで自分が屈しなければ、彼女は決してこの先へ進むことは出来ないと理性では分かっているのだが、それよりも駆忌途大王の中では恐怖が勝っていた。
「で、誰が洗濯板だって?」
「だ、誰もお主のことだとはひ、一言も。ヒィッ!」
フローリィは駆忌途大王に向かって一歩進み、駆忌途大王は一歩下がる。カオスはその端で傍観に徹する。巻き添えは御免なのだ。
「殺す」
「NOぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっ!」
駆忌途大王の醜い悲鳴が部屋の中に響き渡った。それでも、フローリィは殴る。蹴る。どつきまわす。
「むげらぶぁじゅぎゃぎゃぐぇうぉぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!」
駆忌途大王の聞き苦しい悲鳴が部屋の中に響き渡った。それでも、フローリィは殴る。蹴る。どつきまわす。殴る。蹴る。踏みつける。
屈しない。
吾輩は決して屈しない。
そのように決意していた駆忌途大王ではあったが、その決意は一分と持たずに崩れ去った。塵となって消えた。
「ク、クリアーにする。あ、いやっ! さ、させて下さいっ!」
駆忌途大王は既にフローリィの恐怖によって支配されていた。土下座して、その頭を無様に地面にこすり付ける。これ以下は存在しないというような、そのみっともない姿を見て、フローリィはその拳をふるうのを止めた。
「よし」
最初からそうしておけば良かった気もしたが、カオス達二人は気にしないことにした。気にしたところで、時は戻らないのだ。
平成最後の投稿がこんな内容とはな……
次回、令和最初の投稿もクッソ下らない仕様となっております( ̄∇ ̄;)




