Act.053:苦難の道Ⅱ~クイズの時間?~
変態!
珍妙なマスクを被り、キテレツなサングラスをかけ、上着替わりに学ランを羽織っているかと思えば、前のボタンは全開で、中はフンドシ一丁だった。そして、マスクの色も、学ランの色も、フンドシの色も全て真っ赤。そのカッコウを見るだけで、二人はありとあらゆる意味で気が狂いそうな気がしていた。無論、全て悪い意味で。
だがその男、駆忌途大王はそのようなことを気にも留めない。そのカッコウ通り、マイペースな男なのだ。駆忌途大王は、苦難の道の番人としての務めを始める。
「苦難の道、第一の砦はこの吾輩が務める! ここから先へ進むには、この吾輩に勝たねばならんのだ! まあ、無理だろうがな! ぶわっははははははははははははっ!」
「…………」
いちいち無駄に『は』を並べて馬鹿笑いをするその変態、もとい駆忌途大王を、フローリィはいい加減黙らせたかった。葬ってしまいたかった。だから、駆忌途大王に向かってその勝負を受け、駆忌途大王を指差して自分が戦うのを宣言する。
「いいわ。このあたしが」
アンタをあっと言う間に片付けてあげる、と言おうとして、口にしたのだが、その声はやたらマイペースな駆忌途大王の馬鹿でかい声によってかき消されてしまった。
「た・だ・し!」
駆忌途大王はフローリィの声をかき消しながら叫ぶ。
「吾輩との勝負は格闘ではない! クイズだ! 知能の勝負だ! ぶわっははははははははははははっ!」
無駄な馬鹿笑いをしながらも、駆忌途大王はここの砦の突破条件を説明する。駆忌途大王は馬鹿丸出しで、変態丸出し、腹も足も丸出しな男ではあったが、そういう所はきっちりとやるらしい。一応。
駆忌途大王は突破条件を出す。
「クイズとは、これから吾輩が出す問題に答えろ! 正解したならば、此処を通してやろうじゃないか! ぶわははははははは!!」
駆忌途大王の無駄な笑いに対して、怒りを通り越して呆れモードになっていたフローリィは、大きく溜め息をついた。
苦難の道とかどうとか大袈裟に記してあったから、どのようなモノが襲いかかって来るかと思えば、その最初がこんな変態だったのだ。呆れもする。だが、駆忌途大王は『第一の砦』と言ったので二以降、少なくとも次もある。つまり、これで終わりではない。ならば、こんな所は早々に終わらせようと考えた。
こんな変態なんかに付き合ってはいられないのだ。
「アンタの阿呆にこっちがつきあうと思う?」
有無を言わずぶちのめし、無理矢理突破してやろうとフローリィは考えた。しかし、隣の苦難の道のパートナーとなったカオスからストップがかかる。
「だが、こっちはつきあいたくなくても、つきあわざるをえねーだろうな」
カオスは冷静だ。あのような阿呆には慣れているのだ。近くにアレック(中略)。
言うまでもなく、そんなカオスの考えにフローリィは納得いかない。あんな変態につきあってたら、こっちの頭まで疑われかねないような気がしていたのだ。
故に問う。
「何でよ? アイツぶちのめすなり、殺すなりすれば、簡単じゃないの」
「周り良く見てみろよ」
カオスは視線を広げるようにフローリィに促す。フローリィは言われた通りに改めて自分のやって来たこの部屋の様子をぐるりと見渡した。そうやって見渡しているフローリィに、カオスは逆に訊ねた。
此処にも何もない。
「出口、何処だよ?」
元来た道の出入口の他に、この部屋で先に行く通路となるような物は何一つとして見当たらなかった。そして、落とされたあの場所からここまでずっと一本道だったのだ。それ、すなわち。
「無い! 道間違えた?」
フローリィはそう考えたが、カオスはそう思わなかった。そして、カオスが思った通りのことを駆忌途大王はニヤニヤ嫌らしい笑顔を浮かべながら答えた。
「いぃや。先に行く道の扉は、ちゃんとこの部屋に存在している。だが、それは吾輩の意志無くては開かない。つまり、吾輩に負けを実感させねばならないのだ。困ったな。ぶわっははははははははっ!」
殺すことは出来なくなった。だが、逆を言えば殺さなければいいのだ。カオスとフローリィは、自分達がすべきことを話し合う。クイズなんかにつきあいたくないフローリィは、あくまでも強攻策だ。
「開きたくなるまで痛めつけるという手もあるけれど」
けど。
「マトモに答えてやった方が早いな」
「うん。分かってる」
それはカオスに言われなくてもフローリィにも分かっていた。駆忌途大王がどのような問題を出すかは不明だが、こちらが答える時間は長くても数分程度だろう。だが、殺さぬように痛めつけて、その者の意志を変えさせるのには、もっともっと時間がかかるのは明白だった。ならば、さっさと答えてやってしまった方が賢明だ。
まあ、失格になったらそうしよう。あの変態をぶちのめそう。
フローリィは頭の片隅でそう考えていた。その隣でカオスは駆忌途大王へ告げる。
「じゃ、答えるからよ、さっさと問題出せや」
「ふむ、良い心掛けだな」
駆忌途大王は腕を組んで偉そうに笑う。フローリィにはその仕草にも少し癪に障ったが、気にすると時間の無駄なので、怒りが出ないように出来るだけその方向を見ないようにした。
そんなフローリィにも意を解せず、駆忌途大王は常におかしな方向にマイペースだ。カオスの言葉を受けて、クイズにおけるルールを説明し始める。
「ルールは簡単だ。吾輩の出す問題に答えればそれでいい。しかし、吾輩の問題の解答権があるのは、あらかじめ決めた一人だけだ」
「答える奴はこっちで決めてもいいのか?」
「構わんさ」
「じゃあ、答えるのは」
「カオスで」
フローリィと言おうとしたところで、そのフローリィに遮られた。面倒臭いのは相手に押し付けてしまおうと考えたカオスではあったが、向こう側も同じように考えていたらしい。
カオスはフローリィの方を振り返る。フローリィは、遠慮がちな顔はしていなかった。カオスが答えるのは当然と言わんばかりの顔をしていた。
「え、俺?」
「当然。男と女が居れば、苦難を背負うのは男の務めでしょうが」
当然。
その言葉がカオスは気に食わなかった。なぜなら、フローリィにはそう言う資格など無いように思えたからだ。そっぽ向いて、愚痴を垂れる。
「ケッ。さっき『どんな苦難も恐れる私ではない』とか、偉そうに言ってたのは何処の誰だったけなぁ? 口だけか。嗚呼、口だけねぇ~」
「!」
フローリィの鉄拳が飛んだのは言うまでもない。
「「…………」」
「ぎゃあぎゃあっ!」
「わあわあ!」
そこからカオスとフローリィの口論が始まった。そして、それを端から駆忌途大王は愉快そうな顔をして高みの見物していた。なぜなら、そうしていて貰った方が彼にとっては都合がいいからだ。
ここのガーディアンとなっている者は、強制的にこの洞窟内に拘束されている。そして、その働き具合によってその拘束期間が短縮される。だから、こうして時間を食ってもらえばもらえる程、自分の拘束期間は短縮されてゆくのだ。
とは言え、そんな彼の望みはすぐに消える。時間が限られているのを知っているカオス達は、早々に口論を止めてしまうからだ。
「と、まあ。言い争いをしててもしょうがねぇ。時間の無駄だ」
「そうよ」
「ま、いい。俺が答えるよ」
カオスは自分のほうが答えることにした。と言うか、よくよく考えてみればフローリィに向いているとはどうしても思えず、自分がやってしまった方が簡単にここを突破出来そうだからだ。
さすがに、ここまで来るだけはあってあれ以上は時間を食わないか。
駆忌途大王はガッカリしたが、彼にはそれもまた予想の範囲内ではあった。カオスが解答者になることも含めて。
「では、答えるのは男の方でいいんだな?」
一応、確認を取る。
「ああ」
「では、ゆくぞ」
駆忌途大王は力を入れる。そして、手足を色々と動かす無駄なアクションを交えつつ、宣言する。
「苦、江、須、血、四!」
駆忌途大王は解答者であるカオスに向かって手を掲げ、そして出題した。
「巨乳とッ! 貧乳! 魅力的なのはどっちだッ?」
「!」
顎が外れる程の衝撃がカオス達を襲ったのは言うまでもなかった。




