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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.052:苦難の道Ⅰ~二人と三人~

「コレカラ、苦難ノ道ヘ行ク二名ヲ選出スル!」


 響き渡る機械的な声の不自然さを不快に思いつつも、カオス達は覚悟を決めたのか、落ち着いた面持ちでその選出を待った。

 そうしていると、殆どカオス達を待たせず左右の天井付近の壁に一つずつ小さな穴が開いた。それは非常に小さく、そこを通り道にするとは思えない代物だ。そして、そこから何かが出て来るだろうことは容易に想像出来。

 すぐにその穴の中から奇妙な物体が一つずつ現われた。黒いフードとローブを身に纏い、一つの目玉をつけたような仮面の人型ではあったが、そこに生物的な雰囲気は何も感じられなかった。言ってみれば、機械やからくり人形と同じような感じだった。

 その奇妙な物体はゆらりゆらりとカオス近辺の空中を漂い、カオス達を品定めするようにゆっくりと周回し始めた。それをカオス達は黙って見上げた。それで直接的な攻撃はなく、かつすぐ終わるだろうと思ったのだ。

 その目論見は当たる。二つの物体はゆらめくのを止め、カオス達を挟んで対角上に止まった。その瞬間、二つの仮面の目玉が激しく光を放った。

 それと同時にその二体の黒いローブが変形し始め、紐のような触手へと変化していった。それはその二体によって素早く伸ばされて、対象を捕らえようとする。

 避ける暇など無い。

 その触手は、カオスとフローリィをあっと言う間にその触手で捕らえた。縄のようにカオスとフローリィの体を拘束する。


「なっ?」

「え?」


 カオスとフローリィは驚き、そこから脱しようとしたが、もうそれは遅かった。黒い縄によって、カオスとフローリィはぐるぐる巻きになっていた。


「カオス!」

「カオスちゃん!」

「フローリィ!」


 捕らわれなかった三人も驚き、捕らわれた二人をどうにかしようと模索するが、どうにも出来なかった。対象を捕らえた二つの物体は『もう此処に用は無い』と言わんばかりに、カオスとフローリィを連れてすぐに消え去った。


「消えた!」


 それはあっと言う間の出来事だった。

カオスとフローリィの姿は消えた。何処へ行ったかは、分からない。だが、それがどういう場所であるかは、マリアはすぐに気付いていた。

 それを踏まえた上でカオス、自分の弟ならば大丈夫だと信じた。これ以上心配する必要はないと感じた。だから、マリアは断言する。


「先行きましょー。道が出来たみたいよ~」


 前へと進める。それは、マリアにとっては予定調和。だが、ルナにとっては青天の霹靂であった。だから、驚きの声を上げる。


「で、でも、二人が!」

「大丈夫よ♪ さっきの出来事から考えるに、カオスちゃん達は苦難の道に飛ばされたに違いないわ~」

「あ? ああ」


 ルナは起きたことを理解した。カオス達は訳の分からない連中に、訳の分からないまま連れ去られたのではなく、苦難の道へと飛ばされた。その証拠は、苦難の道へ行くのは二人と指定してあり、こちらは三人だからだ。それを考慮すると、向こうが二人ならば自然と向こうが苦難の道となるのだ。


「でも、大丈夫~」


 マリアは心配しない。


「カオスちゃんなら、どんな苦難にも負けはしないわ~♪」


 そのような弱虫ではないし、それを貫くだけの強さを育ててきたとマリアは信じていた。疑いもしなかった。そして、それはロージアにとっても同じ。だから、心配な素振りは一切見せない。


「フローリィもね」


 そう信じていた。そして、それだからこそ魔の六芒星になれたのだ。魔王アビスの養女、姪とは言っても能力が無ければ、そのようなものにはなれない。だから、その場はフローリィに任せてロージアは先に行く事が出来る。

 マリアとロージアは微笑み合う。そして、それからこれから自分達がすべきことをマリアは適格に判断し、ハッキリと声を出して言う。


「私達が心配しなくても、カオスちゃん達はすぐに私達に追いつくわ~。だから、これから先の罠や障害は、お疲れ様って意味も籠めて出来るだけ私達で排除していきましょ~」


 それは正しい。そして、それ以外に自分達の出来ること、やるべきことは無い。ルナも、マリアの言葉をすぐに理解した。


「そうですね。時間も大切にしないといけませんしね」


 ルナは消えた前方の壁の先に見える通路を見据えながら、凛とした声でそう答えた。もう、迷いはなかった。



◆◇◆◇◆



 白く円状の部屋。四方には規則正しく柱が立っていたが、それは天井に届いておらず、存在の意味を見出せない。そんな無駄な虚飾にしか思えない代物。壁も、そうだった。意味の無い虚飾に彩られていた。そして、何も生物的なものがないが故の静寂。

 生物の居ないその部屋は、そんな静寂に包まれていた。だが、その静寂が今破られた。天井近辺の空間が割れ、一つの人影がこの部屋に現われた。

 カオスだ。月朔の洞窟の袋小路から別空間に飛ばされたカオスは、この部屋に連れてこられた。その天井近くの空間。いきなりではあったけれど、カオスは臨機応変に対応して、綺麗にその部屋の床に着地した。


「此処は?」


 カオスは周りを見渡してみた。苦難の道に飛ばされたのは明白だが、それ以外には何も分からない。此処がどのような場所で、どのような仕掛けがあり、どうすれば元の道に戻れるか、それら一切分からないのだ。

 とりあえず周りの状況を把握しようとカオスは考え、少しずつ見渡した。そんなカオスの頭上から、何かがカオスに向かって落ちてくるような音が聞こえた。

 何か落ちてくる!

そう考えた時は既に遅く、カオスは下敷きになってしまった。落ちてきたもの、フローリィによって。


「あ、ゴッメ~ン。下敷きにしちゃった♪」


 口では謝っているが、反省の色は全く感じられない。だが、別にカオスは怒る気は無かった。そのようなことはどうでもいいのだ。それよりも。


「はよ、どけ。痛いし、重いじゃねぇか」


 背中に乗り続けるフローリィがどけば良かったのだ。

 フローリィはカオスの上から下りて、自分の膝と尻を叩いて埃を落とす。それから、自分が落とされた部屋を見渡し、その異様な光景を目にする。色々不自然な部屋を。

 そしてカオスに訊ねるのだ。


「此処は?」

「知らね」


 カオスは即答する。


「「…………」」


 しばらく沈黙を保った後、フローリィはカオスに向かって怒鳴る。


「だから、踏み潰したのはきちんと謝ったでしょーがっ! 意地悪しないで、さっさと教えなさいよ!」


 フローリィはカオスが踏み潰されたことを根に持って意地悪をしているのだと考えたのだ。そう思ったのは、カオスにも理解出来た。そして、それはカオスにとっても心外だったので。

 カオスも怒鳴り返す。


「そんなガキみてぇなマネすっかっ! 単純に俺もこの部屋に来たばっかで、お前と同じく何も知らねーんだよ、馬鹿!」

「馬鹿? 馬鹿って言った方が馬鹿なんだからね!」

「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い?」

「ぎゃあぎゃあっ!」

「わあわあ!」


 カオスとフローリィは、少々怒鳴りあった。だが、それが不毛の怒鳴り合いであると気付き、すぐ終わらせる。

 これも時間稼ぎの為の罠か。二人は同時にそう言ったが、そんな訳ないじゃないかとつっこんでくれる人はそこには誰もいなかった。それはともかく。

 カオスとフローリィは、改めて自分達の落とされた部屋の様子を見渡しながら、現状の把握をする。


「要するにだ。此処がどんな場所なのかは知らんが、俺達があそこで言われた『苦難の道』ってのを味わう二人になっちまった訳だな」

「そうね。あっちは三人だし」


 それは確実だ。フローリィも納得する。


「だが、その『苦難を味わう=洞窟から追い出される』訳でもねぇだろう?」

「だろうね。出されるだけなら普通の罠にしておくか、そのように記せばいいだけだし。ああいう風に回りくどく書いたんだから、そうなるんじゃないの」


 あの5vs5のように細かい条件を指定し、それに一致しないとその後に奥への侵入を阻害する仕掛けがあった。だが、それはあくまでも前提条件だけであった。その点で言えば、□達は雑魚ではあったけれど、正々堂々とはしていた。ならば、この月朔の洞窟のカラーとしても、その洞窟外から出してしまうという手は使ってこないだろうと考えられ。

 カオスは結論づける。


「遠回りにはなるだろうが、俺達も先を進んでいれば目的地、ブラックエンド・ダークセイバーに辿り着く筈だ。ああ、出口はあそこだけみたいだな。こんな所で悩んでいてもしょうがねぇ。さっさと行こうぜ。いずれ他の連中にも会えるだろうよ」

「そうだね」


 前進するしかカオス達に採れる選択肢は無かったのだ。

 そうやってカオス達が部屋を出ると、すぐにカオス達は別の部屋へと辿り着いた。その部屋の中で、珍妙なカッコウをした男が一人、醜い笑みを浮かべてカオス達を待ち構えていた。

 カオス達は部屋に入ると何も無い部屋の真ん中で仁王立ちしているその男の存在にすぐ気付いた。そんなカオス達に、その男はとりあえず挨拶をする。


「苦難の道に来たお二人さん、ようこそ」


 そして自己紹介。


「吾輩は地上で最も頭が切れる『かも』しれない男、()! ()! ()! 大王だ! ぶわははははははははははははははははっ!」


 無駄に笑うその男を見て、カオスもフローリィもその男に対して思ったことは同じ。一つだった。

 変態!


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