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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.051:月朔の洞窟Ⅲ~繋ぎ~

 カオス達は五人纏まってリングの奥、洞窟の前方に向かって足を踏み出した。リング上にはグレンアルドリッチの死肉の破片が散乱し、テリブル・アイズの燃えカスが生々しく残っていた。

 そんな凄惨な光景を気にも留めず、カオスは☆と×に話しかける。


「これで、こっちの三勝だ。こっちの勝ちで終わりで文句はねぇんだよな?」

「ああ」

「ま、そうだな」


 ☆と×は取り乱したりしなかった。その態度にいささか不自然を感じはしたものの、気にしてもしょうがないのでカオス達は先を急ぐことにした。

 グレンアルドリッチ達五人がやって来た通路、それが洞窟の奥へと続く道だった。カオス達は、その先へと一歩足を踏み出した。


「じゃ、先に行きましょ~♪」

「ああ」

「そうですね」


 先導するマリアに、カオスとルナは返事をする。フローリィとロージアもそれについて行く。

 5vs5の戦いが終わったから、このチームの存続意義も無いように思われたが、これで終わりという保証は無いし、これからもこうした仕掛けが続くのは火を見るよりも明らか。ならば、このチームは存続させていった方が得策。

 そのように考えたのだ。お互いに。

 そうして、五人は戦わなかった☆と×をそこに置いたまま、奥の方へと進んでいった。その背中を見送りながら、☆は笑いを堪え切れなかったような笑い声を上げる。


「クククク、行くがいいさ。どうせアレは誰にも手に入れられはしない。『奴』に勝てる者など、この世の何処にも存在しないんだ。ハーッハッハッハッハッハッハ!」


 ☆の声はカオス達の耳にも届いていたが、誰も振り返らなかった。どう考えても☆の言葉はただの負け惜しみにしか聞こえず、改めて耳を傾ける価値があるとは思えなかったからだ。

 カオス達はどんどん洞窟の先へと進んでいった。その先に何が待ち受けているのかも知らずに。




 そんなカオス達の後姿が見えなくなってから、☆と×は笑い合った。


「行ったな」

「そのようだな」

「奴等がブラックエンド・ダークセイバーを得ても良し。得られなくとも良し、といったところだからな」

「ああ、そうだな」

「奴等がブラックエンド・ダークセイバーの入手に成功したら、この洞窟の存在の意味は無くなり、我々はこの洞窟から解放される。そして、奴等がブラックエンド・ダークセイバーの入手に失敗した場合、逃げられた場合と死んだ場合を除いて、奴等はこの洞窟の中に拘束される。つまり、奴等が我々の失った三人のメンバーの補充となるのだ」


 月朔の洞窟において、ブラックエンド・ダークセイバーの獲得に失敗した者、失敗したチームは、この月朔の洞窟の守護者として一定期間尽くさなければならない。その為、グレンアルドリッチ達も邪魔者としてこの洞窟内でカオス達と戦わなければならなかったのだ。

 期間は百年。だが、侵入者を撃退すれば、少しでも足止めすれば、その期間は多少短くなる。今回その短縮がほとんど叶わなかった☆と×は、自身の解放と自身のチームの補填のどちらかを狙い、そのような挑発をしたのだ。前者に関して全く期待はしていなかったが、後者の可能性は低くないと予想していた。ある程度戦力の上乗せになると考えたのだ。

 その狙いを、カオス達は誰も知らない。



◆◇◆◇◆



 カオス達は歩いていた。注意を払ってはいたが、そこには罠らしきものは何もなかった。罠が無いのは良いが、全く無いというのもそれはそれで不安にさせるものであった。


「何も無いね」

「ああ」


 ルナがぼやき、カオスはそれに同調する。5vs5の部屋から出てから罠は無いが、さっきああして5vs5の障害があったように、何かしらこの道程の障害となる物は、この先に必ずあるのだ。だが、こうして罠が全く見かけられないのを考慮すると?


「これからの障害の1つ1つに自信があるのかしらね~?」


 そういうことになる。優れた物があれば、細かな罠などどうでもいいに違いない。

 マリアはそう考えた。そして、それはニアミスだと、あの☆と×は知っていた。洞窟内の障害一つ一つにこの月朔の洞窟を守ってる者は自信があるのではない。最奥に控えている者に、自分を突破出来る者はいないという自信があるのだ。ならば、他の前座などどうでもいいと。


「…………」


 カオス達は図らずもその方向へ向かい歩みを進めてゆく。そのカオスの背中を、フローリィはじっと見ていた。そして、そのカオスにフローリィは疑問をぶつける。


「カオス」

「呼んだか?」

「そう言えば訊いてなかったけど、アンタ達は何でブラックエンド・ダークセイバーを求めてこの洞窟にやって来たの?」


 魔剣ブラックエンド・ダークセイバーを求める目的、それをフローリィは知りたかったのだ。普通の剣ならともかくとして、魔剣ブラックエンド・ダークセイバーは闇の魔剣である。闇の魔法と係わり合いが無い人間には縁の無い代物でしかないだろうから疑問なのだ。

 カオスはそんなフローリィに即答する。


「欲しいから!」

「「…………」」


 答はした。答えはしたのだが、答になってなかった。

 フローリィはステップを踏んで、カオスの方へと向かう。左手を後ろに回して、勢いをつける。そして、それを振りかぶって手刀としてカオスの首筋に叩きつける。

 カオスの体はそれによりバランスを崩し、少し斜め方向となる。フローリィはその崩れを助長するように、足をカオスのくるぶし辺りに添える。

 カオスの体のバランスが崩れるのをその目で確認しながら、左手のひらに素早く魔力を充溢させる。それを裏拳にして、カオスのみぞおちに叩き込む。

 カオスの体が少し前のめりに倒れ掛かる。フローリィはそこからバックステップで自分の間合いを保つ。そこから今度は逆に、フローリィの方からその間合いを詰めていって、魔力を充溢させた右の裏拳をカオスの顎にヒットさせる。

 会心の一撃! カオスの体は宙を舞い、カオスは多大なダメージを受けた。という風な感じで、カオスは地面に倒れこんだ。その倒れこんだカオスを見下ろしながら、フローリィは悪びれもせずに言い捨てる。


「答になってないわ。答に!」

「って、ツッコミ長っ! 長過ぎて、最早何だか訳分かんねぇし!」


 何の話か見失う位長々と、ツッコミと称した一方的な攻撃を行ったフローリィに対し、カオスは文句を言う。だが、そんなカオスの文句に対してもフローリィは悪びれる様子を全く見せなかった。

「それが嫌ならちゃんと答えなさい。今度ちゃんと答えなかったら、さっきの10倍どつくよ?」

 そう言うならば、答えなければならないだろう。死ぬことは無いだろうが、痛い。これ以上痛い目は見たくなかったし、何よりも時間の無駄だ。話が進まないし、この月朔の洞窟のタイムリミットは致命的になってしまう。

 カオスは溜め息を一つついて、今度は答えることにした。


「そりゃあ、勿論。強くなる為だ」


 それは本当だ。偽りでも何でもない。確かに、強くなりたいとは願っている。だが、当然カオスはそれで終わらせはしない。


「そして、強いと女にモテモテになるのだ! ヒャーッハッハッハッハッ!」

「!」


 フローリィの無言の鉄拳がカオスに炸裂する。大きな轟音と共に、カオスの体は地面に叩きつけられる。倒れてすぐにそこから立ち上がったカオスは、フローリィに文句を言う。


「今度はちゃんと答えたじゃねぇか!」


 後ろ半分は嘘だが。

 モテる為だけの強さならば、現段階でも十分だとカオスは思っていた。だが、マリア達を守る為の強さならば、まだまだ全然足らない。マリアを守る為ならば、少なくともマリアより強くなければならないのだ。

 とは言え、それをヒトには言いたくなかったのだ。秘密にしなければならない理由など何処にも無いのだが、それでも秘密にする。だから、一つまみの真実を加えながらも偽るのだ。そして、それを分かっているから、ルナとマリアは文句を言わない。

 そのカオスを見ながら、フローリィは不満げな顔をする。


「うっさい。理由は無いけど、何かムカつくのよ」


 フローリィはこれ以上ここでカオスに何か訊いても無駄と感じていた。腕っ節の方は自分の方が上と感じてはいたが、口ではどうやってもカオスの方がずっと上だからだ。

 カオスとフローリィは、ぎゃあぎゃあ騒いでいる。だが、口では絶対にカオスには勝てないのをフローリィは重々承知していた。

 その様子を、ちょっと先を行っていたマリアとロージアは立ち止まってまた振り返り見る。そして、ロージアはちょっと疲れたような溜め息をついて、フローリィ達に口出しする。


「ほら、時間は限られているんだから、いつまでもじゃれあってないでさっさとしなさい」

「急がなきゃならないんでしょ~?」


 マリアも口出しする。その二人は、まるで姉妹のように息がピッタリだった。手のかかる弟を持つ者と、手のかかる妹を持つ者とでは、人と魔族の違いはあっても何か通ずる物があったのだろう。


「誰がじゃれあってるかーっ!」

「ちっ、意気投合しやがって」


 フローリィは逆ギレ気味に怒鳴り、カオスは愚痴を垂れる。だが、やはり年長者であるその二人には叶わないのも二人は分かっていた。従うしかない。そして、逆らい続けるメリットも無い。

 それを理解しているのが弟であり、妹なのだ。


「まぁ、いい。行くか」


 言いたい文句はあったのだが、カオスはそれをしまっておいた。意固地になって反論したところで、損をするのは自分だからだ。

 カオス達はそうしてまた先の道を進んでいった。




「ん?」


 カオス達がまたしばらく歩いていくと、道はまた行き止まりになった。上下左右を見渡すが、その曲がり角となりそうな所は何処にも無さそうだった。


「道、間違えた?」

「かもな」


 ルナの考えに、カオスもその可能性は否定しない。何処かで分かれ道があったような記憶は無いが、それはただ単に自分達が気付けなかっただけだったかもしれないと。しかし、その案はすぐに消える。道は間違ってはいなかった。それを、すぐにロージアが発見した。


「ん? あそこに何か書いてあるわ」


 道の行き止まりの右横の壁に、またプレートのようなものが貼られているのをロージアは発見したのだ。


「何だ? また何か要求するってのか?」


 カオスは愚痴を言う。先程の5vs5の対決の前にあった、最初の部屋にあったプレートが思い出されたのだ。それで、また変な通過条件を出されるのではないかと勘ぐっていた。


「あたしが読んでみるよ」


 フローリィは足を踏み出して、そのプレートの前に立つ。そして、そのプレートに書かれてある文章を読み上げ始める。


「これから、ここに辿り着いた者の中から、二名が選出される。その二名は、ここから離れた場所で苦難を味わわなければならない。ここへ来るまでに五人残っていれば三人は楽が出来るが、二人ならば誰も楽出来ないし、一人ではこの先へ進めない。その条件を満たした上で、覚悟が出来ているのならば、このプレートの右側にあるボタンを押すがいい。さすれば、おのずと道は開かれる。そう書いてあるわ」

「ちっ。悪趣味だな、この洞窟は」


 カオスは毒づく。二人だけが他の三人分の苦労を背負うハメになると、どうしてもそこでチームワークは崩れがちになるだろう。5vs5で多少は強まった感のあるチームワークを、ここで崩してしまう策略に見えたのだ。姑息な手段だと。

 とは言え、そのようなことを他の面子は気にも留めない。


「さてさて、それじゃあ早速そのボタンをプチッと押しましょうか~♪」


 マリアは早速満面の笑顔でそのボタンに手を伸ばそうとする。その考えが全く無さそうな行動を、カオスは止める。


「ちょっと待った!」

「なぁに、カオスちゃん?」


 カオスはそのマリアに文句を言うのだ。嫌な予感がするのだと。


「何の躊躇もせずに、迷わず押すんかい!」

「そうよ~♪」


 マリアは満面の笑顔のままだ。押したその先に何が待ち受けているのか分からないというのに、そうやって躊躇いもしないのはカオスには信じられない行動であった。


「心の準備とか、その他もろもろ色々ゴチャゴチャあるじゃねぇかよー」


 そんなカオスに、マリアは優しい声で注意する。諭した。


「そんなんじゃダメダメよぅ、カオスちゃん~。困難を一つ一つ全て乗り越えていかないと、強くはなれないんだからね~♪」

「そうよ、カオス」


 そんなマリアの説教に、ルナも同調する。どうしても自分には旗色の悪い展開に、カオスは舌打ちする。ならば、せめて他の二人を巻き込んで多数決でもしてやろうかとも考えて他の二人、フローリィとロージアに訊ねる。


「何かこっちではそうなったけどよ、お前等はそれでいいんか?」


 どうせ押すことになるんだろうが、少しは迷え!

 カオスはそう期待したが、その期待は裏切られることになった。フローリィ達は、即答で返事をする。


「どんな困難も恐れるあたしではないわ」

「そうね。この私達の名にかけてもね」

「…………」


 カオスは溜め息をついた。


「へぇへぇ、みんないいコだねぇ」


 ちょっと嫌味ったらしく愚痴を言いたい気分にもなっていた。困難を避けられるものなら避けてしまいたいと思うのは、人の人として生きてゆく性であろう。それはごく自然だ。そう考えていたカオスにとって、他の四人の選択は普通ではなかった。

 もう、さっき考慮に入れた多数決では自分の惨敗であるので、ここは他の四人に従わなければならない。


「じゃ、カオス押すよ」


 ルナは唯一反対していたカオスに一応の確認を取る。今更反発してもしょうがないし、ただの時間の無駄なので、カオスは悪あがきしない。


「ああ、勝手にしろや」

「じゃ、押すね」


 ルナは躊躇せずそのプレートの右横にあるボタンを押す。すると、その途端にカオス達の周りにけたたましいアラーム音が響き渡った。そして、そこから非人間的な声でシステムの起動を告げる。


『人数五名、認識! コレカラ、苦難ノ道ヘ行ク二名ヲ選出スル!』


 それが苦難の道の始まりであった。


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