Act.048:5vs5③~次に出る者~
「次の試合か。誰が出る? カオス、指名していいよ」
「ん? 俺が決めちまっていいのか? ならば」
カオスはまだ戦っていない四人を見渡して、その中の1点に目を留めた。
「じゃ、フローリィで」
「あたし?」
「ああ」
「まぁ、いいけど。どうせ、いつかは出るんだしね」
フローリィは適当に体を動かして手足をほぐし始めた。その様子をチラッと見ながら、カオスは残り三人にも目を向ける。
「どうせだから、残りもこんな感じにしようぜ」
カオスはそう言う。どうせならば、次に出る選手だけじゃなくて誰がどういう順番で出るのか決めてしまえばいい。そうすればその分時間は節約されるし、どうせ相手がどういうのかは分からないのだからあれこれ考える意味もない。
それを踏まえた上で、カオスはそのカードを発表する。
第一戦:カオス vs △(ブラック・ヴォルケーノ) カオスの勝利。
第二戦:フローリィ vs ○
第三戦:ロージア vs ?
第四戦:ルナ vs ?
第五戦:マリア vs ?
「まぁ、いいんじゃないの」
ルナはさしたる抑揚も無くそう賛同した。ルナにとっては、相手がどのようなものでも関係ない。カオスのように自分の戦いをするだけだし、そうしなければならないと分かっているからだ。
それは他の三人にとっても同じだった。此処でやるべきことは至極単純。自分が勝てばそれでいいのだ。だからそれは、相手が強かろうが弱かろうが、相手が下品だろうがそうでなかろうが、もう関係ない。
「敵の前情報は何も無いからな。戦ったところを見た相手はいないだろうし、その場で適した相手が決められるとは思えねぇ。順番なんざどうでもいいのさ。だから、適当に決めた」
説明など何もなかった。だが、それでも四人にとってはどうでも良かったのだ。反対する者は誰も居なかった。
「じゃ、あたしは行ってくるよ」
リングの上には、既に○が上っている。フローリィはリラックスした面持ちでそのリングの方に向かう。
「無理しねぇようにな。死んだら元も子もねぇんだからさ」
カオスはリングに向かうフローリィにそう声をかける。殺られるとは思わないが、敵がもしかしたら非常に強いという可能性もなくはない。少なくともゼロではない。
それはフローリィにも分かっていた。だから、そんなカオスに愛想良く手を振った。
「オッケー♪」
ロージアはそんなカオスとフローリィのやり取りをカオスの隣で黙って見ていた。そして、フローリィがリングに上がって、そこからの声が大声でないと聞こえない位置になってから、カオスに静かな声で話しかけた。
「優しいのね」
「は? 何だ、唐突に?」
カオスはロージアに変な顔をした。優しい。そう聞こえはしたのだが、そのように魔族であるロージアに言われることを、自分がした覚えが全く無かったのだ。
ロージアはそのカオスにその訳を話す。
「さっきのフローリィとのハイタッチ、そしてリングに向かうフローリィに向けた言葉、人と魔との今の関係性を考えれば、それは無視しても当たり前、何も無くて当然と思うけど?」
フローリィがハイタッチしようと手を出してきたので、それに応えた。
フローリィがリングに戦いに行くので、無理はしないようにと告げた。応援した。
即席であってもチームはチーム。チームメイトとしては当然のことをしたに過ぎない。カオスはそう思っていた。だから、そのように改めて言われると、呆れたくなるような気持ちになってしまうのだ。
「はぁ。何かと思ったら、そんなことかよ。ケツの穴のちっちぇ、馬鹿馬鹿しいことじゃねぇか」
「馬鹿馬鹿、しい?」
ロージアとしては、魔族と人間との関係をそのように言われた記憶は無い。だが、カオスは言う。
「人だとか、神だとか、魔族だとか、そんなので区分けするなんて下らねー。俺にとっちゃどうでもいいし」
「そうね~」
そのカオスの言葉を隣で聞いていたマリアが、そんなカオスの言葉に賛同する。
「それを言ったら、キリが無いからねぇ。男女とか、年齢とか、出身地とか」
マリアはカオスを大切に思っている。だが、カオスは何処の誰だか分かっていない。だから、そんな基準を設けて差別した場合、もしカオスがその対象に入ったら?
そう考えると、ただの言葉だけでその者達の事を差別して、どうこうする無意味さを実感するのだ。だから、マリアも気付いていた。
「そうね、確かに」
ロージアもそれが無くなればいいものだとは、頭では理解していた。だが、恨まねばならない対象である人間側から、そのように言われるとは思っていなかったので、それは彼女にとっては凄い驚きでもあった。
とは言え、それは彼女にとっては嬉しい誤算。とある理想に近づけるという淡い期待の種に、水を少し垂らしてくれる嬉しい誤算だったのだ。
その一方で、戦いが始まろうとしていたフローリィの対戦相手である○はガッカリしていた。期待外れだったのだ。
ブラック・ヴォルケーノを葬ったとは言え、さっきのは軟弱な男。その次は、目の前に居る身長150cmにも満たない子供にしか見えない女。だから、○はつまらない勝負になりそうだと思っていた。恐らく、どうせ五人出なければならないのだから、向こうは1勝取ったところでこういうのを出してしまおうと考えたんじゃないか? そう思っていたのだ。
楽勝だ。
頭にその言葉が掠めたが、○はすぐに気を引き締める。気の乱れ、それでブラック・ヴォルケーノは負けてしまった。目の前で起こった失敗を繰り返すのは、愚者の行為。絶対に繰り返してはならない。
○は心に強く思うのだ。例え、相手がどのような者だとしても、己のベストを、全力を尽くそうと。そして、その結果ここにどんな残酷な結果になっても構わないと。
「いくか」
○はローブの中から手を出して、一気に自分のローブを剥ぎ取った。被っていたフードも一緒に飛び、その○の姿が衆目に晒される。
「な?」
その姿を見てフローリィ、そしてカオス達五人は驚いた顔をしたのだが、進行役である□は淡々とした調子で○を対戦相手であるカオス達に紹介する。
「こちら側の次鋒はこやつ。テリブル・アイズだ」
○、テリブル・アイズに視線を向けながら、□はその者を紹介する。
テリブル・アイズ?
その者はブラック・ヴォルケーノのように人の形をしていなかった。獣の形でもない。眼球が五つ宙に浮き、中心らしきその一つに肝のような物がついている他は、枯れ木のように細い両腕が浮いているだけだった。つまり、胴も足も頭も無かった。
生物であるかどうかすらも疑いたい。そんな代物だった。
「何だ、ありゃ?」
視界に現れた妙な奴を目の当たりにして、カオスは頭をかいた。
ロージアはその隣でその生物を冷静に観察する。そして、答える。
「恐らく細かい霊片のような物が、複数集まって合体したような生物だと思うわ」
死体であれ、生体であれ、小さな生物が合体し、大きな生物へ変貌するというケースもなくはない。学院の授業でそう聞いたような、聞かなかったような感じだったのを、カオスは思い出していた。
そのあやふやな記憶から導き出した答えは。
「合成獣、キメラか?」
「大まかに言ってしまえばね」
ライオンの頭にヤギの胴体、そして毒蛇の尻尾。それぞれの特技を生かした強い個体となる。それがキメラ。そういうものと聞く。
ただ、そのテリブル・アイズの姿は、とてもそういった合成に成功したようには見えなかったので。
「フフフフ、この五つの目からは決して逃れられん。覚悟するがいい」
迫力は皆無だった。だから、フローリィとしても弱い魔獣が吠えているだけにしか見えず、ただ呆れたような顔をしているだけだった。
カオスはそんなテリブル・アイズの姿を見て一つ疑問に思っていた。
「どうでもいいんだけどさ」
「え?」
「アイツ、何処から声出してんだろ? クチねぇし」
「さぁ?」
カオス達の疑問は尽きなかったが、それが解決されることはなかった。と言うか、どうでも良かったのだ。
◆◇◆◇◆
どうでもいいことだが、その頃アレックスはまだエロ本を見ていた。そして、歓喜のヨダレを垂らしていた。
「おおぅ、このコは(以下省略)」




