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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.047:5vs5②~カオスの狙い~

 カオスは前回に引き続き、対戦相手であるブラック・ヴォルケーノを罵倒し続けていた。内容は最早どうでも良くなってきていた。と言うか、ネタが尽きてきていた。


「アホー、ボケー、カスー」


 嗚呼、もう考えるのもめんどくせぇ。

 カオスはそう思いながら適当に悪口を言っていたのだが、それでも単純馬鹿のブラック・ヴォルケーノには効果絶大だったようだ。


「許せん! 許せん! 許せーーーーんッ!」


 顔中、身体中に血管を浮かび上がらせ、ブラック・ヴォルケーノはその怒りを露わにする。魔力は上がり、身体に籠められたパワーも上がってきていた。だが、それだけだ。それでは、勝てない。

 ブラック・ヴォルケーノの味方である他のメンバーもそれを察知しており、そのブラック・ヴォルケーノの状態を見て、審判をしている□以外の三人は溜め息をついた。


「安い挑発だ」


 ○はカオスを冷静に判断した。


「まんまとひっかかりやがって、あの馬鹿が」


 ☆はブラック・ヴォルケーノの今までの失敗を思い出しながら、今もまたそれと同じ失敗を繰り返していることに対し、このチームメイトとして恥ずかしい思いだった。


「おーい。落ち着け、ヴォルケーノ」


 ×はブラック・ヴォルケーノに向かって、リングの外からそう呼びかけた。しかし、それに彼が応えることはなかった。


「シャアアアアアアアアッ!」


 ブラック・ヴォルケーノは奇声を発しているだけだ。×の方を全く見ようともしない。周囲が見えなくなっているらしい。カオスはそれを見てクククッと笑い、ブラック・ヴォルケーノのチームメイトはまた溜め息をついた。


「聞こえてないな」


 ☆は×の肩を軽く叩いた。


「ああ。情けない限りだ」


 チームメイトの溜め息などいざ知らず、ブラック・ヴォルケーノはカオスに向かって突進する。突進し、大きくその右腕を振り上げる。振り上げて、それを斧のように振り下ろす。


「ぐるぁああああっ!」




 嗚呼、こんな程度か。

 カオスはその軌道を読み切り、バックステップでその攻撃を瞬時に回避する。それと同時に、カオスはブラック・ヴォルケーノの評価を下方修正した。シンプルな挑発に引っ掛かって暴走してしまうメンタルの弱さ。その上で、暴走の結果による全力突進のクオリティすらも大したことない。


「ハッ」


 カオスはブラック・ヴォルケーノを嘲笑う。当然ながら、それもまた挑発だ。そして、ブラック・ヴォルケーノはそれにも容易に引っ掛かる。

 自分の攻撃が容易に避けられた。それだけでなく、さらなる挑発で怒りをさらに上げたブラック・ヴォルケーノは、左腕をさらに力強く振り下ろす。


「ぬべらばあっ!」


 それにより床は強く衝撃を受けた。が、やはり単純な攻撃でしかない。

 カオスはバックステップで回避し、焦る様子すらも見せない。そして、それがさらにブラック・ヴォルケーノの怒りを上げてゆく。


「死ね! 死ね! 死にやがれーーーー!」


 今度は今振り下ろしたばかりの左腕をカオスに向けて振り上げた。アッパーだ。だが、それもまた単純な攻撃。

 カオスは横に回避し、その攻撃から容易に身を守った。そしてそのカオスの回避で、ブラック・ヴォルケーノの視界からカオスの姿が消えた。

 カオスは巨体のブラック・ヴォルケーノの広い死角をつき、素早くブラック・ヴォルケーノの背後へと回ったのだ。

 ただでさえ死角をつかれているのに、怒りによって我を忘れて、視界を狭めているブラック・ヴォルケーノには気付ける余裕など無い。だから、手遅れとなる。


「くっそ! ネズミのようにちょこまかと逃げ回りやがって! 今度は何処だ? 出て来い! ぶち殺してやる!」

「ま、そんなもんか」


 カオスは少し距離を取って助走して、ブラック・ヴォルケーノの背後に向けて軽く走った。そして、ある程度の所で踏み切ってジャンプする。

 そこまでの間が、数秒にも満たない。だが傍観者である☆は、そのカオスの動きに気付く。


「後ろだ、ヴォルケーノ!」

「!」


 ブラック・ヴォルケーノはその☆の声に驚いて、くるりと後ろを振り向いた。だが、もう遅い。カオスの蹴りがブラック・ヴォルケーノの背中にクリーンヒットする。

 カオスに比べてその重量は倍以上あるとは言っても、不意をつかれた攻撃である上、しっかりと勢いが籠められている攻撃だ。ブラック・ヴォルケーノの体は、いとも簡単に飛ばされた。

 カオスはブラック・ヴォルケーノに蹴りを入れた後、しっかりとリングに足をつけて着地した。しかし、ブラック・ヴォルケーノにはそれが出来なかった。蹴飛ばされたブラック・ヴォルケーノの体は、既にリング外にあった。ブラック・ヴォルケーノの下方には、底の見えない穴があるだけ。


「やはり、死ぬのはお前だったじゃないか」

「!」


 ブラック・ヴォルケーノは、空中でジタバタする。だが、飛べもしなければ、瞬間移動魔法も使えないブラック・ヴォルケーノでは、そこから逃れる術は無い。後は落ちてゆくだけ。

 ブラック・ヴォルケーノの巨体は、次第にリングからもリング外からも見えなくなっていき、そして消えた。


「…………」


 □はブラック・ヴォルケーノが完全に消えたのを確認すると、カオスの勝利を宣言する。そこでインチキするつもりは無いらしい。


「場外。まずは、そちら側の1勝だ」

「Yeah♪」


 カオスはガッツポーズをしてみせる。雑魚相手であったので達成感は皆無だが、喜ぶべき場所は喜んでおこうと考えたのだ。そして、全ての面で今回の戦いはカオスの理想通りであった。そう、カオスは今回、策謀で勝つのを目標とした。そして、その作戦は全て計画通りに遂行されたのだ。完璧だった。

 まず、ブラック・ヴォルケーノを怒らせたのは、怒りによって筋肉を硬質化させ、動きをより直線化させる為だ。そして、ブラック・ヴォルケーノの攻撃をバックステップで避けたのは、自然な形でブラック・ヴォルケーノをリングの端まで誘導させる為だ。それを数回行い、自分の蹴りでブラック・ヴォルケーノを場外へ落とせる位置にまで誘導したら、今度は横に避けてブラック・ヴォルケーノの死角を辿って後ろへ回り込む。そこで、ブラック・ヴォルケーノの背中に蹴りを入れ、場外の谷底へとブラック・ヴォルケーノを叩き落してしまえば、それでお終い。

 正に、完璧だった。実に省エネで、楽な勝利だった。カオスはその喜びに浸る。そして、そんなカオスもチームの面々も笑顔で迎える。


「カオスちゃん~♪」


 マリアが右手を出し、互いにタッチする。そのまま踊りだしそうな感じだ。


「イエー」

「イエ~♪」


 今度はルナが腕を出し、カオスと互いの腕をぶつけ合ってその勝利を祝う。実に、(おとこ)らしい表現だった。


「よしっ」

「おう」


 さらに、次は両手が高々と上方に向けられた。ハイタッチの準備だ。カオスは迷わずにそれに応え、フローリィとハイタッチをする。


「Yeah♪」


 これで三人。残り一人と何もしないのもナンなので、ただ立っているだけのロージアにも、カオスはルナとやったように軽く腕をぶつけて、それなりの形にした。

 ロージアはそんなカオスの行動に対し、嫌な気分をしてはいなかった。ただ、お姉さん的な感じで優しく微笑んでいるだけだった。仮面で誰にも気付かれはしないけれど。




 そんなカオスチームの様子を遠めに見ながら、□チームの☆と×は笑う。ただ1勝しただけなのに、既にチームの勝利を決めたような騒ぎに見えたからだ。


「馬鹿共が。たかが1勝しただけであんなに浮かれやがって」


 ☆は少し不機嫌そうに言い捨てる。


「そうだな。全くだ」

「あんなウドの大木1匹倒しただけで、あんなに大騒ぎ出来てしまうとは、大した奴等じゃないって訳だな」

「ああ。その証拠だな」


 そんな☆と×の会話を、○は黙って聞いていただけだったが、最後に忠告するように口を挟んだ。このままでは、それがずっと続くような気がしていたからだ。

 ○は言う。


「だが、気をつけなければならないぞ。そうやって油断をして、ブラック・ヴォルケーノは簡単に葬られてしまったのだからな」

「かもな」

「だな」


 ☆と×は素直に○の言葉に耳を傾け、その忠告に従う。その同調の言葉を聞いて、それから○は☆と×から1歩先へと進んだ。この戦い前の打ち合わせでは彼が次鋒、次は彼の番なのだ。

 ○はリングへと向かう花道をリングに向かって進みながら、これから自分達が取らなければならない心構えをつらつらと述べる。


「私は決して油断はしない。堅実に戦い、堅実に勝って、ポイントを5分5分に戻そうじゃないか」


 ○はリングに立つ。だが、そんな打ち合わせなど全くしていなかったカオスチームは、まだ誰もリングには立っていなかった。誰が出るか決まっていないのだ。

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