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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.046:5vs5①~カオス参戦~

 カオス達五人は、月朔の洞窟の通路をまっすぐに進んでいた。すると、先程の部屋から出て数分と経たない内に、カオス達はまた開けた場所へと出た。


「ん?」


 先頭を行っていたカオスは、今までの廊下とは異質な空間を見渡す。カオス達がやって来た通路の向かい側まで真っ直ぐ通路が通してあり、その真ん中に1辺10メートル位の正方形の石のリングのような物が置かれてあった。その為、この通路はそのリングへと向かう為の花道となっているかのようだった。そして、リングの周りにも空間はあり、そこは断崖絶壁となっているようで、底がどうなっているのか分からない程にポッカリと穴が開いていた。


「何だ、ここは?」


 カオスは疑問を口に出す。そんなカオスに、カオス達とは逆側からやって来た集団の一人が答える。


「ここは闇の決闘場だ」


 その集団は皆、白いローブに三角形のフードを被って顔を隠していた。そして、その頭を隠すフードの正面にはそれぞれ異なる図形が描かれてあった。その図形は□と△と○と☆と×。カオスの疑問に答えたのは、その五人の先頭を偉そうに歩いていた□だった。


「ようこそ五人の戦士達よ」


 □は明らかに口先だけの歓迎の言葉を述べる。そして、そのまま□は説明を続ける。


「お前達がこれより先へ行くには、そこのリングで我々と1対1で戦い、その戦いに勝たねばならない」

「それでか。あそこのドアが五人じゃないと開かねぇっつーのは」

「ルールは簡単だ。一人1回ずつ戦って五戦行い、先に3勝した方の勝ちだ」


 □は簡潔に説明する。だが、その簡潔さ故に疑問は残る。戦いは避けられないだろうが、いくつか疑問をカオスはその□にぶつけた。


「質問」

「何だ?」


 □はカオスの質問を拒みはしない。黙っておいて、後で自分達に都合の良いようにルールをねじ曲げるというような、卑怯な手は使わないらしい。


「お前達が負けたらこの先へと俺達が通行出来るようになるとは聞いたが、もし俺達が負けたらどうなるんだ? 何かペナルティーのようなものはあるのか?」

「無い。ここから帰ってもらうだけだ。敢えて罰と言えば、今日の挑戦権は失うといったところだ」

「では、次の朔の日にはまた挑戦しても良いと?」

「そうだ。その戦いで死なず、生きていればな」


 ここで負けたら、帰らなければならない。だが、次の機会にまた挑戦出来る。負けたら、ここで全員死ななければならないといったような、そういうペナルティーは無いと言う。


「では、後一つ。先に3つ勝てばいいなら、5回戦わなくても勝敗が決する場合がある。その場合、残りは消化試合となるんだが、その時はどうするんだ?」

「消化試合はしない。その時点で戦いは終了だ」


 □はそのまま試合におけるルールも説明する。


「戦いのルールも簡単だ。1対1で戦い、どちらかが死ぬか、降参か、場外で負けとなる。それだけだ。他にはルールは無い」

「要するに、武器でも魔法でも何でもありという訳ね?」


 ロージアは□の言った内容を補足し、確認を取る。□は、静かに首を縦に振る。


「その通り。では、もう訊ねることも無いだろう。では、早速始めようか」


 □がそう言って説明を終わらせると、□の後ろから△が出て来た。ゆったりとしたローブの上からでも分かる巨体をゆっくりと動かしながら、リングの上へ歩いていく。


「こっちは、もう1戦目に誰が出るのか決まっているぞ」


 △がリングに向かって歩いている途中で、□はカオス達にそう告げた。そちらもすぐに誰が出るのか決めろということらしい。


「グフフフフ」


 △はリングに辿り着くと、下品な笑い声を上げた。そして、自分を包み隠しているそのローブと三角仮面を一気に剥ぎ取った。△の真の姿が、カオス達の前に現われた。


「先鋒、ブラック・ヴォルケーノ!」


 □は△を大声でそう紹介する。だが、カオス達はそのブラック・ヴォルケーノを目の当たりにしてドン引きしていた。

 その姿は明らかに異様だった。三角仮面に記されていた△の通りの三角形な輪郭に、坊主頭と下品な顔。姿形や体つきは人間に似てはいるが、2メートル以上にもなろうかという巨体に、無駄についていそうな筋肉ムキムキの身体。そして、服装はふんどし一丁のみ。場が場ならば、変質者と見られてもおかしくなかった。


「さぁ、そっちは誰が出るんだ?」


 □は催促するが、カオス達五人は二の足を踏んでいた。怖い訳ではない。ただ、あの変質者っぽい魔族に触れられたくないと言うか、関わりたくないと思っていたのだ。


「下品な感じで嫌」

「確かに。あの変態っぽい感じが」


 敵を目の前にして、その姿でメチャメチャ引いている女性陣の声を聞きながら、カオスは溜め息をついた。

 確かにあの露出狂、変質者の相手をするのは女性にはキツイだろう。カオスはそう理解する。アレックスが居ればああいう輩を相手するのはアレックスになるのだろうが、こっち側には今、男は自分しか居ない。つまりは、そういうことだ。


「しゃあねぇ。まずは俺が出るよ」


 カオスはそう宣言する。そんなカオスの判断に、あの変質者の相手は正直したくないと考えていた女性陣は、誰一人としてカオスの出陣を反対しない。

 カオスは花道を普通に歩いてリングの入口の所に辿り着くと相手の変質者、もといブラック・ヴォルケーノ側がしてきたように、自分も名乗りを上げた。


「水爆戦隊トリチウム先鋒、カオス・ハーティリー!」


 カオスは戦隊もののヒーローのような香ばしいポーズを取ってみせるが、それに対してすぐに物言いが入る。いや、名乗りそのものへクレームが入る。


「違う! ロマンティック・テディベアーズ!」


 当然、フローリィだ。カオスは、そんなフローリィを見てまた溜め息をついた。


「意外としつこいな、お前は」

「アンタもねッ!」

「…………」


 殺し合いになりそうな試合を目の前にして、漫才のような会話を繰り広げるカオス達に□は絶句していた。このような者達は、彼は今まで見たことなかった。だが、□はすぐに気を取り戻し、ここの主催者としてやるべきことを進める。

 □は先鋒として出る事を宣言したカオスに訊ねる。


「始めていいのか?」

「あ? ああ」


 カオスは返事をする。覚悟も準備も出来ているのだ。これでも。

 カオスの返事に対して、□は「用意なんか何もしてないだろ」と思っていたのだが、わざわざ向こう側に有利になるようにしようとは思わなかったので、黙っておいた。さっさと始めることにしたのだ。


「では、第1試合始め!」


 その□の合図と共に、ブラック・ヴォルケーノは素早く、カオスはそれとは対照的に緩やかに構えを取った。全身に力が入っているブラック・ヴォルケーノとは対照的に、カオスの構えは自然的で力みが無かった。

 ブラック・ヴォルケーノはそのカオスの様子を見て舌打ちする。


「俺の相手は軟弱そうなガキか。女子供の中では少しはマシかとも思ったが、期待外れもいいところか。力も弱く、構えも軟弱。実につまらん。すぐに終わらせてやる。貴様の死でなっ!」


 ブラック・ヴォルケーノは少し苛立っていた。カオスはそんなブラック・ヴォルケーノを嘲笑う。完全に馬鹿にした顔をして、見下したように笑ったのだ。


「やる前から勝った気になってんじゃねぇよ、うすらでかいだけの馬鹿が。役立たない物をウドの大木とは良く言うが、お前の場合はウドの巨木だな。役立たなさで言ったらさらにもっと上な感じ。倍の倍の倍な感じだ」

「何、だ、とぉ?」


 ブラック・ヴォルケーノのコメカミに少々青筋が立った。カオスはそれを見て少しニヤリとした。ブラック・ヴォルケーノがどのような性格で、どのような弱点を持っているのかこれで把握したのだ。

 カオスはさらに挑発する。


「クソ野郎の分際で偉そうだな、オイ。とんがりコーンの分際で偉そうに人間様の言葉を喋ってんじゃねぇよ、ボケ。てめぇみてぇな奴は、カラーコーンに混じって道路工事の片隅でおとなしくしてろ」

「き、ききききっ!」


 ブラック・ヴォルケーノの青筋は、どんどん広がってゆく。


「そんな雑魚が偉そうに人語話しちまったら、皆さん誤解するじゃねぇか。そんなに何かしら音を発したかったら、『キシャー』とか、『グヴェルバー』とか喚いてろよ。このゴミ野郎」

「貴様、許さん! ブチ殺す! 嬲り殺しにしてくれるわぁっ!」


 ブラック・ヴォルケーノの堪忍袋の尾は、もう切れた。キレて、今すぐにカオスをボコボコにしてやると息巻いていた。だが、その姿を見てもカオスは落ち着いていて、それでいて相手を馬鹿にした嘲笑いはやめない。


「やれるもんならやってみろよ、このカスが。まあ、そう喚くだけ喚いて、何も出来ねぇままくたばるのが貴様のような三下の役目だがな」


 全てカオスの計算通りだった。ブラック・ヴォルケーノは怒りで訳が分からなくなっている。ただでさえ鈍そうなのに、怒りで筋肉は凝り固まり、動きはさらに悪くなる。

 この試合、戦う前から全てはカオスの手中にあった。



◆◇◆◇◆



 その頃、アレックスは嬉しそうな顔をして言っていた。


「巨乳サイコー♪」

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