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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.045:月朔の洞窟Ⅱ~五人の戦士~

 カオス達の集まった部屋。そこから離れたある部屋では、五月蠅い位の警報が鳴り響いていた。耳をつんざくようなそのノイズの中で、一人の男は笑っていた。楽しくなってきたのだ。心臓の鼓動も早くなっていた。だが、悪い気はしていなかった。


「クククク、今月は来たか。馬鹿で無謀な輩共がっ!」


 ホームベースのような四角い輪郭に、両脇に角のついた魔族の男は、後ろに白の三角形のフードとローブで姿をすっぽりと隠している四人の部下に向って笑っていた。


「あと少しだ。あと少しだぞ。はーっはっはっは!」

「「「「はーっはっはっはっはっはっ!」」」」


 彼等も笑う。皆が笑う。非常に楽しそうに。そして、嬉しそうに。



◆◇◆◇◆



 それと同じ頃、カオスは新しく部屋の中に入ってきた面子に驚きを隠せない様子を見せた。そして、それはフローリィ達にとっても同じだった。


「お、お前等は!」

「カ、カオス!」


 フローリィは叫ぶ。フローリィ側としても、いくらここが人間界の洞窟とは言え、こんな所でカオスに出会うとは夢にも思わなかったからだ。


「まさかな。だが、そういう訳か」


 カオスはこの部屋のプレートに書かれていた文章を思い出し、納得していた。




 この扉は力で開けることはどのような力をもってしてでも不可能である。この扉を開ける為には、次に挙げる条件を完全に満たさねばならない。

 五人の戦士をこの部屋に集めよ。さすれば、おのずと道は開かれる。人は多過ぎても少な過ぎてもいけない。




 五人の戦士。そこには、人間とかどうとか限定されてはいない。つまり、そうなのだ。カオスを一、ルナを二、マリアを三だとして、そこからさらにプラスして、フローリィが四で、ロージアが五となるのだ。

 そう、五人の戦士が揃った。だから、この奥の扉は開かれた。

 その一方で、来たばかりでこの洞窟、この部屋を知らぬフローリィは、ブスッとした顔でカオス達に訊ねる。


「な~んで、アンタ達がこんな所に居るのよ?」


 此処は月朔の洞窟の中の一部屋。常識で考えれば、こんな所で出会う訳が無い。それは、カオス側としても同じ。

 それを踏まえれば、月朔の洞窟に入った訳を訊ねるのは愚問だろう。カオスは笑う。


「夜の散歩でもしてるように見えたか?」

「チッ。やっぱり目的は同じ訳ね」


 魔剣ブラックエンド・ダークセイバー。それ以外に、こんな洞窟に入る理由など何も無い。他にも何か貴重な物はあるかもしれないが、魔剣ブラックエンド・ダークセイバー以外に目もくれないつもりのフローリィからしたら、自分が目もくれないものをカオス達が狙うとは思えなかった。

 嗚呼、少し考えればやはり愚問だった。


「でも」


 ライバルがいないとは思わなかったけれど、やはりライバルは減らせるなら減らしておきたい。フローリィはそう考え、カオス達に話を振る。


「魔剣ブラックエンド・ダークセイバーは闇属性のインテリジェンス・ソード。闇の剣が人間なんかに使える筈がないでしょ。無駄骨だから帰りなさい」


 闇は魔族の専売特許。そのような考えだった。

 確かに、フローリィの言う通り使えないかもしれない。使える保証は何処にもない。だが、その逆に使えないという保証も何処にもない。

 カオスは笑う。


「それは分かんねーぞぅ♪」

「分かるわよ! そうに決まってるわ!」

「まあまあ、落ち着いて」


 沸点の低いフローリィをなだめながら、ロージアはこの場をまとめようとする。


「こんな所で言い争っても何にもならないでしょう?」

「そうだな。時間を無駄にするだけだな。今晩中に此処での探索を終わらせ、出なきゃいけねぇことを考えれば尚のことな」


 フローリィとは対照的に落ち着いたままのカオスは、そんなロージアの意見に同調する。そう、時間は足らなくて困ることはあっても、余って困ることは無い。

 湯気を吐きそうなフローリィもそれは分かっているので、そこで無駄に叫ぶのを止めてロージアの話を聞いていた。


「魔剣ブラックエンド・ダークセイバーは、さっきフローリィが言った通りインテリジェンス・ソード、つまり意志があります。ならば、誰がその剣を手にするのか『本人』に決めてもらうのがベストなんじゃないかしら?」


 インテリジェンス・ソードはその武器に拒絶された者は何をもってしてでも使用出来ない。カオスはマリフェリアスの言葉を思い出していた。


「そうだな」


 カオスは賛同する。そして、それはフローリィ側としても知っていることで、フローリィもロージアの言葉に賛同するのだ。


「そうね」

「ま、それに五人じゃないとこの先は進めねぇらしいからな」

「そなの?」

「ほれ。あそこに書いてあんだろ?」


 カオスは開いた扉の右横にあるプレートを指差しながら、フローリィに説明した。


「ああ、成程ね」

「…………」


 ロージアはそんなカオスとフローリィを黙って見ていた。彼女としても、こんな何も無い部屋にカオス達が足止めされていた理由が分かり、何もせずして自分の疑問が解決して良かったのだ。


「よし。じゃあ、決まりね」


 フローリィは決意を秘めた瞳をする。ここで争っていても仕方がないし、滞っていてもデメリットしかない。それは分かっていた。だから、発表する。


「とりあえず、この五人で連合チーム結成ー♪」


 彼女の中では既に決定事項だった。だから、ニッコリと笑ってウインクしたりするのだ。


「そうだな」


 カオスの方としても反対する理由は無い。この五人で行った方が、何かと手っ取り早くていい。ここで争えば、それはタイムと体力のロスに繋がる。ならば、もし仮に争うのだとしたら、ブラックエンド・ダークセイバーを入手してから、この洞窟の外で争えばいい。そう考えたのだ。

 それ故にこの五人でのチームに異存は無い。だが、カオスの中では一つの問題点があった。


「チーム。チームと言えば、チーム名。チーム名、チーム名ねぇ」


 名前だ。何事も名前が重要なのだ。商売の時に、店の名前が重要であるように。


「…………」


 来た!

 ルナは、考えを巡らせるカオスを眺めながら、少し構えていた。これは、トラベル・パスCクラス実技試験の時と同じだからだ。あの時のようにアンポンタンなことを言うのは目に見えていた。


「よしっ!」


 そして、カオスは発表する。


「結成! 水爆戦隊トリチウム!」

「「「「!」」」」


 ルナ達四人に衝撃が走った。特にそんなカオスに対して慣れのないフローリィとロージアに関しては尚更。

 フローリィは少し顔を青くしながら、予定外のアンポンタンな出来事に少々息を乱す。そして、ちょっと舌打ちする。少し納得がいかなかったのだ。


「ネーミングセンスがなってないわね、カオス。あたしが手本を見せてあげる」


 そして、フローリィも発表する。


「命名! ロマンティック・テディベアーズ!」

「「「「!」」」」


 同じくカオス達四人に衝撃が走る。カオスを除くルナ達三人は、カオスのアンポンタンな行動と同じフローリィに対する驚きに、カオスはそのフローリィの『お手本』の出来具合に、絶句していたのだ。

 カオスは少し間合いを明けてからフローリィにツッコミを入れる。


「きしょっ。名乗れるか、そんな名前」

「んだとーっ!」


 フローリィは不満を爆発させる。同じく、カオスも不満だ。

 可愛い熊のぬいぐるみと共にあったフローリィとしては、どうしても「くまさん」は外せなかった。それなしにチーム名は考えられなかった。と言うか、「ロマンティック・テディベアーズ」最高。

 その一方で、そういうのがキャラ的に合わないと自覚しているカオスとしては、そのような名前を名乗っている自分を想像するだけで気持ち悪くて、嫌で嫌で仕方なかった。と言うか、「水爆戦隊トリチウム」最高。

 二人は譲らない。


「水爆戦隊トリチウム!」

「ロマンティック・テディベアーズ!」


 二人の間に火花が飛び散る。それを見て、ルナとロージアは疲れたように溜め息をついていた。時間を無駄にしてはいけないと言ったばかりなのに、早速これだ。無駄以外の何物でもない。そもそも、名前など必要無いのだ。


「カオス~」

「フローリィ?」


 カオスとフローリィの背後から、それぞれルナとロージアがドスを利かせた声でぬっと現われた。心臓が口から出そうなくらいビックリしたカオスとフローリィに、二人は無駄口を叩かずに用件だけを伝える。


「行くよ」

「行くわよ」


 ハモっていた。


「あ、ああ」

「うん」


 カオスとフローリィは、適当に返事して先に歩きだしたルナ達についていった。その背中を見ながら、不意にカオスとフローリィは目が合った。


「カオス、アンタも大変だね」


 フローリィの目は同情で満ちていた。

 確かに、真面目一辺倒のルナと一緒に居ると気苦労も多い。疲れも多い。カオスはそれを感じていたが。


「ああ、お前もな」


 フローリィも同じようだ。

 そんな雑談をしながら、カオス達はチームとなって先に進み始めたのだった。



◆◇◆◇◆



 どうでもいいが、その頃ルクレルコ・タウンの自室に居るアレックスも笑っていた。熱気に包まれ、汗も少々流していた。


「ぐふふふふふふふふふ」


 ベッドに寝転がりながら、本を眺める。端から見たならば、実に不気味な光景だった。そんなアレックスは、本の写真を眺めながら、突然感動の叫びを上げるのだ。


「素晴らしいー!」


 本の中の写真、綺麗な女性達は微笑んでいた。アレックスはカメラ目線で微笑むその女性達が、自分だけに微笑んでくれているような気がしてならなかった。おっぱい丸出しで。

 おっぱい丸出しのエンジェル、ほんのり桜色のエンジェル達が、アレックスの煩悩と心を刺激し続けていた。そんなアレックスに、その熱を氷点下にまで下げるような怒声が飛ぶ。


「アレックス!」


 下のリビングの方から聞こえるその声の主は、アレックスの母親のものだ。


「何だか知らないけど、静かにしな! 近所迷惑だよ!」

「あ、ああ。気をつける」


 アレックスの心臓は早くなっていた。さっきまでとは別の意味で。アレックスは汗も流していた。やはり、さっきまでとは別の意味で。

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