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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter4:月朔の洞窟
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Act.044:月朔の洞窟Ⅰ~開門~

 とある月の出ない晩のことだった。魔王アビス城では魔の六芒星であるノエルが非常にガッカリした表情をしていた。つまらなく感じていた。


「何だ、そうなのかよ」


 そんなノエルに、同じく魔の六芒星であるラスターは淡々と事実を述べる。


「ああ。ロージアと出掛けたのを見たぞ」

「何だ、つまんねぇ。せっかく美味いプリンを見つけてきたというのに、アイツは留守だってのかよ」

「そうなるな」


 ノエルは少し考えた。

 プリンは生もの。帰宅を待っていては駄目になってしまうかもしれない。今回は紹介出来なくて残念だったが、それは次回への延期としよう。フローリィの義妹であるアナスタシア達と食べればいい。しかし、フローリィの分はどうすればいいのか疑問に残る。プリン二つを自分一人で食べるのはどうかと思われるし。

 と、そのところでノエルの目に先程自分の質問に答えたラスターが再び映った。


「ラスター、お前食うか?」

「食わん。甘い物は苦手だ」


 ラスターは即答で断る。だが、そこにアドバイスを添える。


「外出と言っても仕事で出た訳じゃないから、プリンが駄目になる前には戻る筈だ。取っておいてやったらどうだ?」

「そうだな。そうしておくか」


 ノエルは冷蔵庫にプリンを安置した。



◆◇◆◇◆



 それと同時刻くらいのこと。エスペリア共和国エレニス付近でも朔月の日の夜となっていた。カオスとルナとマリアは、日の入りに合わせ月朔の洞窟の入口の前に瞬間移動魔法(インスタンテ)でやって来ていた。

 日が沈んで、辺りに暗闇が生まれる。カオスは周囲が暗闇に包まれるようになったのを確認し、その開かずの扉に手をかける。


「おっ!」


 すると、前回来た時は押しても引いてもビクともしなかったその扉が、今回は大した負荷も無く開いていった。扉はすぐに全開になり、洞窟の中の通路をカオス達の前に晒した。

 通り易くなっている岩の通路がそこには見えた。


「開いたね」


 ルナはドキドキを隠せない様子でその中の様子を見守っていた。カオスもそれと同じ気分だった。

 未知の場所に入るのは怖い。不安もある。だが、高揚感もある。けれど、何にしろここに入らなければ始まらないし、来た意味も無い。迷うだけ時間の無駄だから、早く中へと行こう。

 高揚感を抑えながら、そう考える。


「よし、さっさと行くかー」

「そうね」

「ちょっと待った~」


 だが、そんな二人をマリアは止める。


「何、姉ちゃん? 気が抜けるなぁ~」


 カオスはマリアの方を向いてぼやく。


「確認よ~♪」


 マリアは落ち着いている。


「そう、ここは今のように月の出ない夜にしか入れないでしょ~?」

「ああ。以前マリフェリアスから聞いたが、それがどうし」


 た、と言おうとしたところで、カオスは気付いた。マリアが何を言いたいのかも分かった。


「ああ、そうか! つまり、外から中に入れないならば、それと同時に中から外にも出られないという訳か」

「そういうこと~」


 要するに、此処の探索はタイムリミットが設定されているのだ。月の無い夜は月に一回くらいしかないので、その時期を逃したら一月は出られない訳になる。現実的に考えれば、それは『死』を意味するだろう。だから、何が何でもそのタイムリミットは守らなければならない。

 それを踏まえた上で、ルナはタイムリミットを慎重に考える。


「月の無い晩と考えるのでは、タイムリミットは夜明けまで、となるわね」

「だろうな」

「今はここの時刻で午後8時ちょっと前ね~。月日柄夜明けも早いから、4時位が夜明けと仮定すると~、余裕をもって考えて3時半位には出ておきたいわね~」

「ん~? ってこったぁ」


 マリアの言葉を受けて、カオスは指折り時間を数える。


「9、10、11、12……と、大体7時間半といったところか?」

「それくらい暗算で出しなよ」


 そんなルナのツッコミも含みつつ、カオス達は月朔の洞窟へ入る前の最終確認を終えた。後は、心と体だけだ。カオスは今までの話を纏める。


「つまりだ。例のブツが手に入ろうと、入らなかろうと、その位の時間になったら撤退ということでオッケーだな?」

「そうね」

「そうよ~♪」

「じゃ、ちょっくら行くとすっか」


 大した気合いも入れないまま、カオス達三人は月朔の洞窟の中へと入っていった。探索の開始だった。

 用意してきた松明(たいまつ)にルナが火炎魔法で火をつけて灯りとする。ゴツゴツとした岩壁の一本道がカオス達の視界に映し出される。そんな道に従って、カオス達は少しずつ洞窟の中へと斜面を下降していった。

 今のところ、トラベル・パスのCクラスの実技試験の時のような魔獣も出て来なければ、動物らしい動物も出て来なかった。もっとも、それもこの洞窟が月に一度しか出入り出来ない点と、魔獣も動物も一つの生物である点を考慮すれば、それもまた無理ないと思えた。

 そう、今のところ安全である。何もない。しかし、安全は退屈でもある。カオスは退屈していた。だから、口走る。


「オイラはモグラのモグたんで~す♪」


 訳の分からないことを。


「は?」


 ルナは目を白黒させる。カオスが何かしらの意味をもってその言葉を口にしたのではないかとも考えられたのだが、ルナにはカオスが何を意味してその言葉を口にしたのか何が何だか分からなかったのだ。

 そんなルナに、カオスはしゃあしゃあと言ってのける。


「こんな場所を歩いていると、モグラになったような気分にならねぇか?」

「あ、あのさ? それが探索に何か意味でもある訳?」

「何もねぇな。こんな所に居ると気分が鬱憤すっからな。気分転換♪ 気分転換♪」

「…………」


 意味など、何も無かったらしい。カオスの言動に一々反応していた自分が馬鹿だった。ルナはそう思いながら、自分の頭をかいた。

 今度からは、そういうボケは放っておこう。

 ルナが心の中でそう思った時。


「お?」


 松明を持って先頭を行っていたカオスは、突然声を上げて立ち止まった。ルナはそれに気付かず、カオスの背中に頭をぶつけた。

 何、急に止まってんのよ!

 口から出そうになったが、此処でまたおかしなボケを放たれると、文句を言った自分が馬鹿みそうなので、ルナはその言葉を無理矢理飲み込んだ。


「此処は?」


 松明を持っているカオスは、その松明で道の先を照らす。


「見てみろよ」

「あ!」


 ルナはカオスが照らした先を見て少し声を上げた。道が変わっているのだ。今までは岩肌むき出しのゴツゴツした道だったのだが、カオスが照らした少し先からは館の中の廊下のような綺麗な道になっていた。上下左右のキチッとした正方形になっており、飾りは無いが非常に綺麗な道になっていた。

 非常に綺麗ではあるが。

 それがこの場では却って不自然で、何かしら危険な香りを醸し出しているようにも思えた。


「道が綺麗になっているということは、此処は完全に人為的に造られた洞窟だって訳だな」

「そうでしょうね」


 ルナはカオスの言葉にあっさりと同調する。


「罠とかもあるかもしれねぇな」

「あるでしょうね」

「行く手を阻む敵も出るかもしれねぇな」

「出るでしょうね」

「…………」


 カオスはルナの方をじとーっと見る。不満そうだ。ルナはそのカオスの顔を見て首を傾げる。


「な、何よ?」

「つまんねー反応(リアクション)だな、オイ!」

「そんな驚くようなことじゃないでしょうが」

「んー? ま、そりゃそうだけどよ」


 それでも、やっぱりカオスはつまらなそうだった。


「まあ、いい」


 カオスはそれを忘れることにして、先に行くことを決める。時間は節約しても困らないのだから。


「先、行くぞ」


 目の前で急に綺麗になっている道はあからさまに怪しいが、他に道があるとは思えない。そして、それがどのようなものなのか分からない以上、とりあえずその綺麗な道に少し足を踏み入れてみた。

 カオスはゆっくりと片足をその綺麗な道に踏み入れる。すると、その綺麗な道はその一瞬でピカッと光を放った。その瞬間、辺りは光に包まれたのだ。


「な?」


 驚いて天井を見上げると、綺麗になっている道の天井には灯りが備え付けられてあり、それがカオスが床を踏んだことによって、何かしらの仕掛けで点灯するようになっていたのだろう。

 それ以外には何も無さそうだったが。


「…………」


 カオスはゆっくりともう片方の足を踏み入れた。何かしらまた起こるのではないかという不安もあったが。もう、それ以上は何も起こらなかった。明かりがついただけのようだった。

此処でこれがどういう仕掛けなのか、どういう意図なのか。そういったことを考えるだけの暇はない。カオス達は松明の火を消し、先へと急いでいった。

 そうして足早に綺麗になった通路をまっすぐに進んで数分経つと、カオス達の目の前には大きく開かれた部屋が現われた。

 カオス達がその部屋の中に入ると、そこには何も無い様子で、向かい側の壁に二枚扉のドアのようなものがあるだけのようだった。


「広いトコに出たな」

「でも、何も無さそうね」


 カオスとルナは広いだけで何も無さそうな白い部屋を見渡した。見渡したけれど、やはりあるのは先にある二枚扉だけのようだ。

 此処は通過点とみなして問題ないだろう。カオス達はそう判断する。


「あのドアの奥に行けってことだよな」

「でしょうね~♪」

「んーーーー?」


 ルナはやり取りをしているカオスとマリアを横目で見ながら、そのドアを上から下までざっと観察した。その二枚扉はドアになっているようだが、そこには取っ手のようなものは一切取り付けられていない。


「取っ手が無い。つまりは押せって訳ね」


 そう判断する。取っ手が無ければ、引くことも横に動かすことも出来ない。手で開けるのならば、押すしかない。

 手を服でこすって滑り止めをしながら、ルナは気を引き締める。これが魔剣ブラックエンド・ダークセイバーを守る為の仕掛けなら、とても重いに違いないからだ。


「ほら、カオス。一緒に押すよ」

「だが、断るっ!」

「…………は?」


 気合いを入れてルナは誘ったが、カオスはあっさりと拒絶する。その言葉がルナを唖然とさせる。


「ふ、ふざけてんの? それともケンカ売ってんの?」


 ケンカなら買うわよ?

 ルナの目はそう言っていた。それを見ながら、カオスは大きく溜め息をついた。


「どっちでもねーよ、このバカチンが」

「じゃあ何だっていうのよっ!」

「あのドアはどんな強い力で押したって開きゃあしねぇよ。やるだけ無駄だ」

「え?」


 どんな強い力で押したところで開きはしない。

 そんな言葉が、ルナを我に帰させる。やってもいないのにどうして分かるんだとか思ったりもしたが、カオスがそう言い切るのには何かしらの理由があるのだろう。そう考え、問う。


「何でよ?」

「あ? ああ。あのドアの右横に注意書きがあるからな」

「え? ええええ?」


 ルナがよく目を凝らすと、確かに扉の右横に注意書きのようなものが書かれたプレートが貼り付けてあった。


「…………。見落としていたか」


 扉しか見ていなかった。


「バーカ♪」

「ふふふふ♪」


 マリアはそんなやり取りを見て微笑んでいるだけだった。マリアもカオスと同じように、そのプレートには気付いていたのだ。ただ、自分がわざわざ口出ししなくても大丈夫だと思っていたのだ。


「で、そのプレートには何て書いてあんの?」


 ルナはカオスに訊ねる。


「ちょっと待て。まだ全部は読んでいない」


 カオスは再びそのプレートに書かれてある字を読み返す。



 この扉は力で開けることはどのような力をもってしてでも不可能である。この扉を開ける為には、次に挙げる条件を完全に満たさねばならない。

 五人の戦士をこの部屋に集めよ。さすれば、おのずと道は開かれる。人は多過ぎても少な過ぎてもいけない。



「と書かれてあるわ~」


 いつの間にか途中から音読を代わっていたマリアが、そう締める。


「要するに、だ」


 カオスはそう言いながら、そこに居るルナとマリアを順番に見渡す。


「後二人足らねぇな」


 カオスを一、ルナを二、マリアを三だとすると、五人になるにはまだ二人足らないが、とそこでカオスはふと気付く。

 五人の『戦士』だと?

 戦士というからには、この後闘いがあるのは明白。だから、後二人と言っても闇雲に二人追加すればいい訳じゃない。少なくとも、ある程度戦える人材でなければこちら側としては不利な展開となるだろう。

 そう考える。そして、それを踏まえた上で人選を行うと、そこで挙がってきた二人の人物は?

 アレックスとマリフェリアス。

 知り合いで呼べる人材の中で、その二人がベストだとカオスには分かっていた。しかし二人のキャラクターを考えると、呼びたくないという思いもあるのが正直な気持ちだった。まだリニアの方が来てくれそうだが、リニアの家は残念ながら何処にあるのか分からない。

 とは言え、ウダウダ言ったところで先には進めない。呼ぶしかないのだ。

 カオスは決意する。


瞬間移動魔法(インスタンテ)を使って、プレートに書いてある通りに人数を二人追加してみるぞ。俺はアレックスを呼びに行くから、姉ちゃんはマリフェリアスを頼む」

「そうね~。それがベストでしょうね~♪」

「じゃ、時間ももったいねえし、とっとと行くとすっか」

「そうね~」


 二人がそう決意して、瞬間移動魔法(インスタンテ)を発動しようとしたその時だった。機械音のような不自然な音声が部屋の中に響き渡った。


『条件ガ満タサレマシタ。扉ガ開キマス』


 誰も呼んでいないのに、何もしていないのに、重い音を立てながら勝手に二枚扉は真ん中で横に割れ、ゆっくりと開いていった。そして、その扉の奥にある通路が次第に顔を現し始めたのだ。


「なっ。どういうことだ?」


 カオス達はビックリした顔をする。此処に来てから何もしていないのに、この扉が開いた。本来ならば、開く筈は無いのだが。


「!」


 その時カオス達は自分達の他の気配を感じ取った。カオス達が入って来た入口側から新しい人物が入って来ていたのだ。その者達の方を振り返り、カオスは納得する。

 その者達は二人。

 それは白いローブをすっぽりと被った銀仮面の女と、金髪をツインテールに纏めているフリフリのドレスを着た少女、魔王アビス配下の魔の六芒星のロージアとフローリィだった。

 その二人が現われたのだ。

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