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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter3:地上最強の魔女
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Act.034:地上最強の魔女Ⅲ~ステラ魔法研究所~

 ステラ魔法研究所。それはエスペリア共和国首都ステラの中心部から少し離れた、中心地に比べれば幾分静かな場所に建っていた。

 カオス達はLIFTERのドアを開け、そこから降りて外に出る。そして階段を下りると、その正面に魔法研究所が見えた。


「ここか? うん、ここだな。多分」


 LIFTERを降りた時点ではそんな感じで半信半疑ではあったが、そのすぐ後近くに『ステラ魔法研究所』というネームプレートを見付け、考える間もなくその疑問は解消された。

 カオス達は改めてステラ魔法研究所を見据えた。


「マリフェリアスは居るかな?」

「さぁな」


 恐らく10中8~9の可能性で、彼女は此処に居ないだろう。ルナの言葉に対するカオスの言葉には、そんな意味が含まれていた。このような分かり易い場所に、王である魔女マリフェリアスがいるとは考えられない。

 面倒臭がり屋のカオスには分かる。こんな所にいようものならば、魔女マリフェリアスに会わんと人が殺到して鬱陶しく、かつ面倒なことになること必至。そんなこと、早々に統治権を破棄した面倒臭がり屋(推定)がやる訳がない。そして、セキュリティ上でもそれは正しいだろうが。

 それでも、とカオスは考える。


「まあ、此処がそこに至る為の一番の近道なのに間違いはないだろうがな」


 魔女マリフェリアスに至る為の何かしらの情報、もしくは闇魔法に関する何かしらの情報、それらの内のどちらを得るにしても、現時点ではこの魔法研究所への訪問が最良に考えられたからだ。

 カオスは一歩前へと進む。


「行かなきゃ何も始まらねぇ。行くか」

「あ、うん」

「そうねぇ~♪」


 カオス達は魔法研究所に向けて歩き出した。ネームプレートの横から魔法研究所に至る道を辿り、階段を登っていくと、入口のドアの所に受付口があり、そこに門番のような者が居た。


「いらっしゃいませ。ここはステラ魔法研究所です。本日はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」


 門番は少し警戒心を見せながらカオス達に問う。


「魔女マリフェリア」

「スの残した功績に興味があってね。魔法の勉強を始めたんだけど、もっと色々な情報を得たいと思って休日を利用して遠出してきたんだ」


 馬鹿正直に、「魔女マリフェリアスに会いに来た」とルナが言いかけたので、カオスは故意に遮って別の理由を捏造して喋りだす。ルナは驚き、思わずその口をつぐんだ。

 カオスは続ける。


「今年のトラベル・パスのテストにも合格したし、それじゃあ魔女様のお膝元であるステラで見てみたいなぁって考えてここまでやって来たんだ♪」


 カオスは、『魔女マリフェリアスに会いたい』とも『闇の魔法』とも口にしない。ただの魔法研究生を装う。だが、それが功を奏し、門番はカオス達に職務上向けていたその警戒心を解く。

門番はレストランのウェイターのような爽やかな笑顔を見せる。


「それならばお入り下さい。当ステラ魔法研究所は、ステラ内外どころか国内外問わず、熱心な魔法研究生には広く解放されておりますから」


 門番はそう言い、魔法研究所の入口のドアを開けてカオス達を招き入れ、カオス達は魔法研究所の正面玄関から堂々と入った。

 研究所に入るとカオスはすぐさま案内図を確認し、魔法研究所内の図書室へと向かっていった。ルナとマリアもそれについて行く。階段を下りて、地下一階に一つだけある大部屋が、現段階でも目的地である図書室。

 そこに向けて魔法研究所内を少し歩くと、ルナが不満そうな顔をして口を尖らせた。


「カオス」

「何だ?」

「アンタ、そんなに魔女マリフェリアスに会いたくないの?」


 会ったところでどうせババァなんだから、いっそ今すぐ帰りたい。そう言っていたのを、ルナは真に受けていたのだ。


「は?」


 そのやり取りを既に綺麗さっぱり忘れているカオスは、不思議そうな顔をする。何だかさっぱり分からなかったのだ。ルナはさっきのことについての不満をカオスにぶつける。


「だって、門番の人達にあんな嘘ついたじゃないの」


 門番の人達、ということでカオスはピンと来た。『魔女マリフェリアスに会いたい』とも『闇の魔法』とも口にしなかった。ただの魔法研究生を装ったことだ。

 ああ、アレか。そう言ってカオスは笑う。


「馬鹿か、お前は?」


 馬鹿にしたのだ。


「バ!」

「形だけとは言っても、マリフェリアスはここの国王、もしくは元国王だぞ? 要するに、この国一の超VIPじゃねぇか。そんなお偉いさん相手に、得体の知らねぇ余所者がいきなり会いたいって言ったところで会わせてくれる訳ねぇし、そんなこと言ったら相手を警戒させるだけに決まってるだろうが」


 カオスはルナが怒り出す前にその理由を教えてやった。ここで馬鹿正直になったところで何のメリットも無い。それどころか、デメリットにしかならないのだと。

 ルナは馬鹿にされたことは不本意ではあったが、カオスの言っている事は至極当然であり、納得させられていた。


「そ、それもそっか」

「後、条件さえ整ってしまえば、別に会えなくてもいいのよねぇ~♪」


 マリアもカオスの言葉に同調し、その説明を補足するように言う。それを聞いて、カオスは「その通りだ」と笑う。


「欲しいのはデータだからな。データさえ得られれば、それでいい」

「そういうこと~♪」


 カオス、そして同行者のマリアからすれば、カオスの魔法である闇魔法についてのデータ、及びトレーニング方法等が分かればそれでいい。魔女マリフェリアスに会うのも、その手段の一つであって、最終的な目的ではないからだ。


「だから、まずは此処だ」


 カオスは図書室に足を踏み入れる。魔法研究所内の図書室は、単独の図書館と比べても遜色ない程の広さと蔵書をカオス達に見せた。それらの著書は、言うまでもなく全て魔法関連の物。


「ここの蔵書の中から、使えそうなヤツを探し出せればそれでオッケーなのさ」


 カオスは腕を広げて笑う。笑う。笑う。ワラウ。

 図書室と言っても、ジャンルが魔法に限られた書庫である。せいぜい広さは街角の小さな本屋レベルだとカオスは高を括っていた。だが、その広さは想像以上であった。

 その広さに圧倒されてヤケクソになっていたのだ。そう、カオスの笑いはヤケクソのものだ。はははははははは。


「成程ね。それで、目当ての情報が手に入ればそれでいいのか。あはははは」


 ルナも笑う。目は笑っていなかったが。


「ああ。そうだ。はははははははは」

「はははははははは」

「はははははははは」


 カオスは笑う。ルナも笑う。乾いた笑い声が、図書室内の一角に木霊した。


「じゃ、まずは魔女マリフェリアスの著書があるかどうか探してみましょ~♪」


 マリアも笑っている。だが、彼女はヤケクソにはなっていない。

 別にこの図書室内の蔵書全てに目を通す必要などない。最初にすべきなのは地上最強の魔女であるマリフェリアスの蔵書があればそれを探し出し、その内容から闇魔法に関する項目があれば見付ける。そこになければ、次点として禁呪関連を探す。そう、やること自体は限られている。出来なくは無い。しかし、その内面でカオスもマリアも分かっていた。

 忌まれてまではいないけれど、闇魔法は魔法世界から抹消されてしまったエレメント。仮に魔女マリフェリアスの著書が並んであったとしても、そう易々とその事について書き記してあるとは思えない。99.9999……%ありえないだろうと。

 とは言うものの、それでも魔女マリフェリアスの残した物を見るのは、直接的ではなくともこれからの成長において何かしらの糧となることも分かっていた。

 それはルナも分かる。だから、賛同するのだ。


「そうね。じゃ、図書室内を探してみましょうか」

「ちょっと待て」


 やる気を出して、図書室内探検を始めようとしたルナを、カオスは止める。ルナは振り返り、不満そうな顔をする。


「何? まだ何かある訳?」

「いや、別に大事なことって程じゃねぇんだが」

「じゃぁ」


 さっさと探すわよ。と言いかけた所で、カオスはボソッと教える。


「ただ」

「ただ?」

「ここにある蔵書だったら、わざわざ手間暇かけて図書室内をあちこち探さねぇで、司書にでも訊けばそれで済むじゃねぇかって思ってな」

「あ、そうね~」

「はよ言え」


 正に、その通りだった。ルナの返しも含めて。



◆◇◆◇◆



「魔女マリフェリアスの著書ですか? ありますよ」


 司書の女性は他の図書を訊くのと同じような感覚でにこやかに対応した。そこまでさらっといくとは予想外だったが、カオス達はこれも結果オーライだと思うことにした。


「で、それは何処に?」

「あちらの一番奥になります」


 司書はある一定の方向に手を向けて指した。カオス達がその方向に視線を向けると、ある程度本棚があった後、その奥には壁があり、そこにドアが一つついていた。

 あの本棚の一番端が一番奥と言えなくもないけれど、一番奥と言うからには?


「ひょっとして、あのドアの向こうだったりするのか?」

「はい♪」


 冗談半分でカオスは言ったのだが、その司書はあっさりとその通りだと言った。それが却ってカオスの中で何か引っかかるものなった。

 不自然極まりない。

 カオスは問う。


「仮にも国王の書いた書物が、そんな人目につかねぇトコに置いちまっていいのか? 普通、超目立つトコにどどーんと置くだろ。図書室のど真ん中とかに『さぁ、愚民共! 私の書物を見なさい! 穴だらけの蜂の巣になるくらい見なさい!』って感じで」

「ふふふふ、何でも本人の意向らしいですよ?」


 絡みつつ、ふざけるカオスに困った様子を見せながらではあるが、営業スマイルは崩さずその司書はそう答える。


「ふ~ん?」


 カオスは納得したような、しないような顔をしていた。ただ、カオスはこの司書が言っていることに不審な点があることに気付いていた。カオスは考えを巡らせる。

 元とは言え国王の書いた書物を、人目に殆どつかない場所にほぼ放置状態にしてある。それを国王本人の意志によって行われ、それを此処の職員はよしとしている。それを聞くだけでは不思議では無いかもしれないが、何故そうしようとするか理由をイメージすると、それが変であると感じる。

 理由は書物が大勢の目に晒されるのが恥ずかしいと感じる場合と、何らかの理由があって人様においそれと教える訳にいかない場合。

 前者の場合、恥ずかしいのならば書かなければいいし、嫌がる国王、地上最強の魔女に書くことを強要出来る人間はこの国には存在しない。書いた後にそう感じるようになったのならば、撤去してなかったことにすればいい。だが、そうはしない。だから、その理由は潰れる。

 そして後者の場合、誰にも教えたくないのならば書かなければいいし、自分が選んだ特定の人物にだけ教えたいのならば、書いた本をこんな図書室なんかに置いておかず、自分の手元に置いておけばいい。それ故、こっちの理由も潰れる。

 それらを考慮に入れると、大衆の目に晒す訳にはいかないが、書いた本をこの図書室に置いておかなければならない理由がある。そこに考えが到達する。

 そう考えると、やはりその魔女マリフェリアスの本に書いてある内容はどうでも良い、他愛ない内容になっているのだろう。だが、彼女にとって問題となっているのは、その本の内容ではない。

 重要なのは場所なのだろう。このステラ魔法研究所の、地下にある図書室の一番奥の場所。ここでなければ置きたくない、ここに置いておきたい理由が彼女にはあるのだ。

 マリフェリアスは本を置く自体乗り気ではないのだろう。だが、置きたくないが置かなければならない。知られたくないが、そうせざるを得ない。もしくは、何かしら残しておかねばならない。それらは表に出すと不審さが露わとなるが、司書にあっさりと教えさせれば、その不審さをある程度拭える。

 本心では置きたくはないのだが、その本はこの首都ステラに置いておかなければならない『モノ』である。そうせざるを得ないのは、彼女の立場上のものだろう。そう考えると、それがどのような『モノ』なのか答えは一つしかない。後は簡単だ。

 ここにはその本、もしくはその辺りには存在するのだ。エスペリア共和国の王であった魔女マリフェリアスへと至る道標が。それも、とてつもなく分かり難い手段で。

 魔女マリフェリアスに会う。最初に挙げた無茶な意見だったが、やはりそうしなければわざわざエスペリアまでやって来た甲斐が無いだろう。カオスはそう考え始めていた。

 そんなカオスに、ルナから急かすように声がかかる。


「ほら、カオス。さっさと行くわよ」

「ああ、行く」


 気が付くと、ルナとマリアは既にカオスより数歩先に行っていた。カオスは少し早足で、彼女達を追いかけていった。

 ここでウダウダしても何にもならない。行ってみなければ、やってみなければ何も始まりはしない。そう分かっているから、カオスはとりあえず行ってみようと考えてルナ達の後を追いかけたのだ。

 その表情はしっかりとしていて、その瞳には綺麗な輝きが湛えられていた。そのカオス達の様子を一通り見て、その案内した司書はカオス達の背後で嬉しそうに微笑んでいた。

 それから机の中に内蔵されてあったマイクを取り出し、自分の本来の仕事に戻る。マイクのスイッチを入れて、担当の者を呼び出す。


「はい」


 向こう側は暇なせいか、担当の者はすぐに通信に応対した。司書は感情を押し殺したような感じで、努めて事務的にその用件を述べる。


「管理人ラシル、そっちのテリトリーに三名行ったわ。新たな挑戦者よ」

「了解」


 司書の言ったその管理人、ラシルは事務的な応対でありながらも声に少し笑いが含まれていた。


「まあ、またいつもの通りでしょう? 期待しないで待ってるわ。ふふふふ」

「あら、それは分からないわよ? 駄目と決め付けるのはまだ早くなくて?」


 彼は私の言葉に対して不信感を抱いていたから。

 司書はラシルの見ていない挑戦者、カオス達から他とは違う何かを感じ取っていた。

 確かに今までここに来た者は全て期待を裏切り、試練に応えられない人しかいなかった。なので、経験上だけで言えばラシルが正しかった。それは司書も分かっていた。だが、何か違ったことが起こるのではないか? 司書はそう期待せずにいられなかった。

 何か楽しいことが起こりそうな予感がする。ミリィから聞いたあの人の言葉通りに。

 ラシルはそんな彼女に少し驚き、そして少し嬉しそうな顔をした。


「あら、エルナが期待するなんて珍しいじゃな~い?」


 ラシルは司書、エルナに愉快そうに言った。


「そう?」

「ええ。じゃあ、こっちも少しは楽しみにしながら待つとするわね。じゃ♪」


 そうして、ラシルは通信を切った。エルナもその通信のスイッチを切って、それをまた机の中へとしまった。少しの期待をしながら。


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