Connect06:ステラ共和国への出発
すぐに時が過ぎて、ステラ共和国へ行く当日の早朝となった。地上最強の魔女マリフェリアスに会うのを目指そうと、カオスの家の前にある広場に、カオス、マリア、ルナの3人が集まっていた。
そう、ルナもいた。
「って、何でお前がいるんだ?」
闇の魔法を知りたいのはカオス、そしてそれを案内するのはマリア。ならば、行くのはその二人だけで十分である。ルナには、別にわざわざそこまで行く必要は無いとカオスは思った。
そんなカオスに、ルナはブスッとしたままの表情で淡々と答える。
「あたしが目指しているのは魔導師。だから、その頂点に達人の話を聞けたらすごくプラスになるし、それが出来なくてもその国に行っただけでも何かしらの収穫になるからね。悪い?」
「別にいいとか、悪いとか言ってねーじゃん?」
「それならいいじゃない」
ああ、いいな。
カオスは手を叩き、心を雑談モードから冒険モードに切り替える。そして気合いいっぱいで、楽しそうな声で号令をかける。
「じゃ、行くか。行き先はエスペリア共和国、首都ステラだ!」
「オー♪」
ルナとマリアは、ノリ良く返事をした。そして、マリアはそう返事をしながら魔力を充溢させ始めて瞬間移動魔法の準備を整え始める。慣れているマリアはすぐにその準備を終え、カオスとルナに微笑みかける。
「はい。二人共行くわよ~。つかまってぇ♪」
そう言うと、カオスとルナはマリアの魔法にちゃんとついていけるように、マリアのすぐ側に近付きマリアの手を取った。マリアは二人が触った感触を確かめると、その魔法を発動させる。
「瞬間移動魔法」
三人の視界は、そして身体は、眩しい光に包まれてルクレルコ・タウンから消えた。
そう、白い光。眩しくて、目も明けられない程の光。
そんな強い光ではあるが、それは長く続きはしない。すぐに三人の視界は晴れ、視界は戻った。カオス達は、少しずつ目を開けていきながら、周りの景色を確かる。少し目を開いただけで、周りが元居た場所ではないということが分かった。
金属に囲まれた部屋。カオス達が瞬間移動魔法で辿り着いた場所はそんな所だった。
牢屋ではない。青や白など、色合いからして牢屋にしては派手すぎる。だから、ここは何かしらの部屋であるのだろう。だが、ルクレルコ・タウンの建物のように木材は一切使用されておらず、その部屋からは温もりのような物は一切感じられなかった。
余り、感じいい場所ではないな?
そう思いつつ、カオスは足元、床に目を向けた。そこには魔法陣のようなモノが描かれてあった。カオスはそこから視点を前方に戻してから、それをマリアに向ける。
「姉ちゃん、ここは何処だ?」
「ステラの魔法玄関よ♪」
「まじっくげーと?」
「ええ。瞬間移動魔法に対する装置よ。これは~♪」
聞いたこと無い言葉だったので、カオスは首を捻る。そんなカオスに、マリアは優しく教える。瞬間移動魔法さえまだ教えていないルクレルコ魔導学院の授業では、それに対抗する装置であるこの魔法玄関はなお教えられていない。カオス達が、この装置について知らないのは当たり前なのだ。
「これは、瞬間移動魔法でこのステラ内にやって来た人を、強制的にこの魔法玄関の所に連行する装置よ~」
「つまり、魔法による闖入者を防ぐのが目的だと?」
「そう~。首都のような所だと、その瞬間移動魔法でいきなり王宮とかに行かれたら困るからね~」
「成程ね」
カオスとルナは納得した。理解が早い。そんな二人の表情を見てマリアは満足そうに微笑み、さらにそこから出ることを促す。
「じゃ、先行きましょうか~」
「ああ」
「はい」
この魔法玄関が終点ではないのだ。ここはあくまでも入口であり、魔女マリフェリアスに会うか、闇の魔法について知る何かしらを発見するかが、今回のゴールなのだ。
マリアが壁のスイッチに触れ、部屋の扉を開ける。そこから廊下に出て、壁に掛けられてる案内図に従ってカオス達は廊下を歩いていった。
カオスはルナとマリアと共に魔法玄関の出口、ステラの入口に向かって廊下を歩きながら、周りの様子を窺っていた。
ここはエスペリア共和国の首都であるステラの魔法玄関である。首都とは国の中心、人が多く集まっている場所。だが、この魔法玄関の廊下ではあまり人が歩いていなかった。それが、カオスの中で疑問になっていた。
「首都なのに人があまり居ないな。こんなもんなのか?」
「ここには瞬間移動魔法でやって来た人しかいないからよ~♪」
カオスの問いに、マリアはにこやかに答える。そして、説明する。
魔法玄関は、あくまでもここに瞬間移動魔法で勝手に侵入出来ないようにする装置である。だから、瞬間移動魔法が使えない者はここに来る事は絶対に無いし、その上取り扱っているのは入る者だけなので、瞬間移動魔法でここから出る者も、この魔法玄関にはいない。
要するにこの廊下は瞬間移動魔法でやって来た者しか歩いていない。だから、首都とは言っても必然的に歩いている人数は少なくなるのだ。
「ふ~ん」
カオスは、また一つお利口になった。だが、正直そんなことはどうでも良かった。まあ、ただの雑談だったのだ。それは端で聞いていたルナもそうで、それよりも早く魔法について色々と知りたいと考えていた。
「何はともあれ、先を急ぎましょう」
ルナはそれ故に、カオスとマリアを急かす。そして、二人もこんな所でのんびりするつもりは全く無いので、そんなルナに同調する。
「そうねぇ。そうしましょ~♪」
「だな」
カオス達三人は歩いていった。背筋を伸ばしてまっすぐに歩いていった。エスペリア共和国首都ステラ、魔法玄関の外の入国管理所はすぐそこだった。
◆◇◆◇◆
一方、それから数時間後のアレクサンドリア連邦東方のルクレルコ・タウンのバーント家二階のアレックスの部屋、そこでもようやく朝となっていた。アレックスは、悪夢から目覚めた時のように飛ぶような仕草で目覚める。
「はっ! な、何か面白い話を逃した気がするぞ!」
そんなアレックスに、下の階から母親の怒声が飛んだ。
「アレックス! 休みだからっていつまでも寝てないで、ちっとは家の手伝いをしなっ!」
無残、アレックスはカオス達に置いていかれていた。誘われなかったので、ルクレルコ・タウンでお留守番となったのだ。アーメン。
短いけれど、キリが良かったので……




