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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter2:港町アヒタル
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Act.021:港町戦争Ⅷ~見たことのない魔獣~

 カオス達のいる電波塔の真下では、ラシュトによる爆弾破裂によって生じた煙がようやく晴れ始めてきていた。そして、それによって隠されたものが姿を現す。

 カオスは軽く舌打ちをしながらその中心部を見据えながら、後ろからの緊迫感のないのんびりとしたルナと姉の声を聞く。


「爆弾で卵の殻を破ったのか」

「考えたわね~」


 アヒタルの町を破壊した時だけでは、ラシュトの能力が物質を破壊するにあたってどうこうとしか考えていなかったが、このような道具として使うのはカオス達にとって新たな驚きでもあった。だが、そうやってのんびりしている場合ではない。カオス達は、爆風の中で蠢く1つの影と気配を察知した。

 そう、魔物。

 ラシュトの爆弾魔法によって魔獣の卵の封印が解けた上、中に居る魔物はあの爆風の中でも無事に生きている訳だ。その点からしたら、トラベル・パス試験時にマリアが出した強力な下級魔族と同等、もしくはそれ以上の力を秘めている魔物が現われたというのは、誰の目にも明らかであった。


「現われるわ」


 爆風が晴れて、辺りに霧散してゆく。それと共に視界は良好になってゆき、その魔物が目視で確認できるようになっていった。


「コレか?」


 カオス達の前に体長2メートル弱の魔物が現われた。頭が人の頭蓋骨のようである以外姿は人に似つかないが、二足で立っていることから、獣としてある程度上位の頭脳を持っているとも考えられた。

 姉ちゃんは俺とルナだけでやれ、とか言いそうだな。

 カオスはこれからのマリアの言動をそう予測し、少し憂鬱な気分になった。そんな気分で、自分達の目の前に現われた魔獣を眺めていた。しかし、そこで少し疑問に感じることがあった。

 コレは、何だ?

 このような魔獣は、カオスはルクレルコの学院や図書館の資料でも見たこと無かったし、勿論実際にこの目で見たことも無かった。だが、姉なら知っているだろうとそう疑問を振ってみた。


「何だか見た記憶のない魔獣だなぁ。姉ちゃん知ってるか?」

「私も知らないわ~」


 ルクレルコ魔導学院の教師であるマリアでさえ知らない魔物。未知の生物?

 それを目の前にして、カオスとマリアの二人が目の前に現われた魔物が何物で、どういう行動をするのか考えていた。だが、その時ルナがちょっと驚きの声を上げた。


「あ!」

「ルナ、どうかしたか?」


 不思議な場面ではあるが、驚くような場面ではない。そう思いながら何事かルナに訊ねるカオスに、ルナはカオスの気付いていなかった現状を教える。


「あの眼帯男、居ないわ」

「あ、ホントだ」


 魔法爆弾を使用して、この未知の魔物を召還した眼帯男、ラシュトは電波塔の前から姿を消していた。爆風に紛れて素早くここから立ち去ったようだ。

 逃げられた?

 警官としては、その状況は良くないだろう。だがカオス達は警官ではないし、ラシュトを捕まえることにそうこだわってる訳でもないので、逃げられたとしてもそんなに焦ってはいなかった。

 カオスはちょっと真面目な顔をする。


「それも重要だ。重要に違いない。だがな」


 ラシュトを捕まえられたなら、このアヒタルでの安全は守られたであろう。しかし、過ぎたことをどうこう言っても始まらない。現状を、あの魔物について考えるのが先だ。

 カオスは大きな声を上げる。


「アレが新種だというなら名前だ! 新発見という証に、この俺自ら名前を付けてやろうではないか!」

「「…………」」


 ルナとマリアはずっこけた。思い切りずっこけた。だがカオスはそんな二人の反応を気にも留めず、その間に未知の魔物の頭のてっぺんからつま先までざっと見渡してから、腕を組んで少し考える。そして、命名する。


「よし、命名! 『怪人・落ち武者ドリアンエキセントリック56号車カオス発見』!」

「そいつの種族名はフィジカル=スケルトンだ」


 カオスがセンスの欠片も無い名前を命名しようとした時、そのカオス達の後ろからその未知の魔物の名前を知っているらしき者が、さらっとその魔物の名前を告げてしまった。

 これを知っているとは何者?

 そんな驚きの気持ちと共にルナとマリアはその声の方を振り返った。

 未知じゃない? 『怪人・落ち武者ドリアンエキセントリック56号車カオス発見』という名前は無かったことに?

 その一方で、カオスは歴史に名を残せなかったそんな悔しい気持ちと一緒にその者の方を振り返った。そして、その者達の姿を見て、カオス達は驚きの声を上げることとなる。


「あーーーーっ!」

「さっきの?」


 カオスが言っていた『怪人・落ち武者ドリアンエキセントリック56号車カオス発見』の正式名を告げた者は、カオス達には面識の無い者だったが、その後ろに居る二人はついさっき遭遇した者、フローリィとロージアであった。

 そんな二人の驚きの声を意に介せず、カオス達と面識の無い長い黒髪の男、ラスターはカオス達にその魔物についての説明を補足する。


「そいつは魔界にのみ生息する生物であるからな。人間であるお主等には見覚えのないのかもしれん」


 とは言え、そんなラスターの親切な説明は誰にも届かなかった。誰にも届かず、フローリィの大声でかき消される。


「あーーーー、カオス!」

「あらあら、さっきの」


 フローリィはオーバーなリアクションで、その逆にロージアは落ち着いた反応でカオス達のほうに視線を向けた。フローリィは少し不愉快そうな表情をする。


「まさか、つけてたんじゃないでしょうね?」

「阿呆か。後から出て来たのはお前らのほうじゃねぇか。つか、そもそもつける理由なんて何処にもねぇし」

「ああっ、無礼な奴! そんなこと言って」


 カオスとフローリィは何やら言い合い、口喧嘩を始めていた。もとい、のらりくらりとした反応をするカオスに、フローリィが一方的に噛み付いていた。その二人を見ながら、自身の説明が無かった事にされたラスターは、少し溜め息をついた。だが、その間もそのカオスという男を観察していた。

 カオスという男、この男が同僚であるガイガーを惨殺した?

 アビス城に寄せられたデータは、それだけであった。それのみから推測すると、カオスという男が悦楽殺人者か何かで、快楽の為にガイガーを殺したと思えるかもしれない。そう、動機については一切不明だったのだが。

 ラスターはただでさえ細い目をさらに細める。そして、隣に居るロージアに問いかける。


「本当に、こやつがガイガーを殺した男、カオス・ハーティリーか?」

「ええ、信じられないかしら?」


 ラスターの表情は疑いのものだったので、カオスという人間にそのような力が無いと思ってそう問いかけているのだとロージアは解釈した。だが、ラスターは首を横に振る。


「いや。自由に扱えるかは別にして、ガイガーを殺す位の力を持ちうる可能性はありそうだ。だが、性格的に『惨殺』という行為を好んでするようには見えん」

「そうね」


 確かに。

 ロージアはラスターの言う通りだと思った。ログハウス内での行動、そして今の行動、それらを総合的に判断しても、殺しが好きな種類の人間には見えない。


「もし、本当にあの者がガイガーを殺したとするならば」


 ラスターは口を開く。


「正当防衛で殺したのだろうな」

「でしょうね」


 フローリィには見えてなかったのかもしれないが、ガイガーの性格や思考を考えると、そのような結論に至るのが一番自然のようにロージアとラスターには思えた。

 相手が人間とはいえ、無意味に殺してはならない。

 それは、魔王アビスも含めた魔王アビスの配下となっている者は皆守らなければならない決まり事である。それを破ろうとした上に、返り討ちにあった。それでは同情は出来ない。

 ロージアとラスターはそう考え、ガイガーのことを考えるのを止めた。


「ふむ」


 ラスターは呟く。彼にとって、今回の人間界の訪問ですべきこと、知っておきたかったことは全て終了した。その思いも込めた一言であった。


「用事も済んだ。帰るとしよう」

「そうね。フローリィ、帰るわよ」


 ラスターは後ろを振り返り、スタスタと歩き始める。そして、ロージアはカオスとの口論が一息ついているフローリィにそう声をかけてから、ラスターの後をついていった。

 帰る?

 自分はここに来た目的、魔獣の卵の処分をしていないのに帰るというのはどういうことなのだろうか? あのフィジカル=スケルトンをどうにもしなくて良いのだろうか?

 そう思いながら、自分達が好き勝手しているのに何も動いた気配の無かったフィジカル=スケルトンの方に視線を向けた。


「って、魔獣を処分しなくていいのって、ああっ!」

「おお」


 フローリィは驚きの声を上げた。カオスもその方を向いて、驚きの声を出す。

 なんと、既にフィジカル=スケルトンの首から上が無くなり、それは既に屍と化していたのだ。そして、振り返りラスターの方に視線を向けると、彼の左手にその頭がしっかりと握られていた。自分達が無駄話をしている内に、彼が首を斬り落として倒していたようだ。


「「…………」」


 敵は倒された。だが、自分達の出番がなかったどころか、戦闘のシーンがさっぱり分からないまま終わったことに、カオスとフローリィは複雑そうな顔をした。だが、カオスはすぐにそれを前向きに捉えることにした。

 自分が何もしない内に敵となった下級魔族が葬られた。それすなわち、自分は楽出来たのだ。結果オーライなのだ。

 そう思いはしたが、改めてカオスはラスター達の方に視線を向ける。「誤解が解けたら殺しに行く」と、フローリィが言っていたのを思い出していたのだ。だが、彼等がそのような行動に出る気配も無ければ、殺気も感じられない。しかし、それを罠にするというケースもなくはない。が、先程まで見ていたフローリィの性格を考慮に入れると、それを逆手にとって不意打ちするようには見えなかった。それで満足するような者ではないと分かっていた。

 ならば、今はそれに関して考える必要は無いだろう。カオスは、そう判断した。それより、ここから消えたエマムルド強盗団の眼帯男、ラシュトが問題であろう。

 そう。全てが終わった訳ではない。カオスは理解する。

 もし、あの男があの魔獣の強さに関して絶対の自信を持って臨んでいたと仮定したならば、あそこで撤退、姿を消すという選択はしないだろう。その選択をしたのは、自分にもその魔獣の攻撃が来るのを危惧したか、ただ単にその魔獣を時間稼ぎの噛ませ犬としていたかのどちらかであろう。

 カオスはそう予測をつけていた。そして、その場合は後者としてこれからの行動を判断すべきだとも分かっていた。

 もし、あの男にこれから何か狙う物があるとするならば?

 カオスの脳裏には、すぐにあの黒髪の少年、カイの顔が浮かんできた。他に考えられなかった。


「姉ちゃん、ルナ! さっさと雁間亭に戻るぞ! あの眼帯野郎の狙いはおそらくカイだけだ!」


 電波を飛ばした時に要求した物は、『今日我々に上等かました奴等全員の首』か、『雁間亭のガキの首』かのどちらかであった。だが電波塔の下で再びあの男と対峙した時、ラシュトが電波塔でアヒタル市民に要求してしまうくらいの大きな殺気を自分達に対して持っていないと感じていた。

 それはルナやマリアも同じで、カオスの言うことに対して首を盾に振る。


「そうね。急ぐわよ!」

「ええ~♪」

「走っていきましょう!」


 ルナとマリアはそう言い合うと、カオスに何も言わずに雁間亭に向けてさっさと走り始めていった。

 二人共落ち着き無くしてんなぁ。

 少し蚊帳の外に出されたような気分になったカオスだったが、それでも言い出しっぺである自分が、それを放っておいてここに残る訳にもいかないので、ルナとマリアの背中お追って走り出そうとしたが。

 それをジッと見ていた二つの瞳。


「ぬぉあっ!」


 走り出そうとしていたカオスの足は、誰かの足に引っ掛けられた。カオスはそれにより体勢を前方に崩し、前のめりに転んでしまった。

 服についた泥を落としながら、カオスは自分に足を引っ掛けた者の方向に視線を向ける。フローリィだ。


「危ねぇじゃねぇか、コラッ!」


 自分を殺そうとしている者に向かって、そう問うのはナンセンスだということに、カオスは気付いていなかった。そして、それはフローリィにとってもそうであったようで、平然とした顔でカオスに自分の要件を告げる。


「ちょっと訊きたいことがあってね」

「は? 訊きたいこと?」


 お前、性格的に聞く耳なんかもってなさそうじゃねぇか。

 一瞬カオスはそう思ったが、そう言うと攻撃されるので言わなかった。だから、フローリィは機嫌を損ねること無く話を続ける。


「あのログハウスで、アンタはあたしのこの姿を見ても『妹』だと言った」


 フローリィは、エルフのように長く尖った自分の耳を触ってみせる。これは嫌でも目立つ代物だろう。例えログハウスの初対面時にカオスが自分の姿をじっくり見てなかったのだとしても、見落とすとは考えられない。だから、彼女には不思議でならなかった。


「違うって分らなかったの?」

「…………」


 カオスは少しだけ笑みを見せた。そう、違うって分らなかったのだ。その可能性があると思ったのだ。



◆◇◆◇◆



 一方、雁間亭改め『Restaurant KATANA』の周りは、醜い騒動に包まれていた。心無いアヒタル市民によって取り囲まれたのだ。店内に入れない人々は、店の中に向かって次々と罵声を浴びせる。


「出て来い、疫病神! 殺してやる!」

「我等がアヒタルに災害をもたらす奴は殺せ! 殺してしまえ!」

「そうだそうだ。死ね! 死んでしまえー!」


 雁間亭の店内の片隅でツキナは怯えながら、アヒタル市民に命を狙われるハメとなった我が子を強く抱きしめていた。愛しい我が子、愛しいあの人の忘れ形見を、心無い者の毒牙にかけられないように。

 人として最低の部類に入る人間の罵声を聞き流しながら、雁間亭に残っていたリスティアはもう一度店内をぐるっと回って確認作業に入っていた。そして、大丈夫だと判断する。リスティアは店内の片隅で震えているカイとツキナのところに歩み寄ると、優しく声をかけた。


「この店内全体に、私の魔力によって結界を張りました。これで彼等はここまで侵入出来ないでしょう。石ころ一つとて侵入出来ません。もう安全ですよ」


 リスティアにそう言い切れる自信があるのはツキナにも分かる。だが、母としての心配は尽きない。素人であるツキナでも結界は万能ではないと知っているからだ。だから、その不安をぶつける。


「でも、結界は破られることがありますよね?」

「ええ、そうですね。その可能性はゼロではありません。しかし」


 結界は破られる可能性も孕んでいる。カイ達の不安を煽ろうとしない為に敢えて伏せていたのだが、隠し立ては難しそうだと思い、リスティアは正直にそう言うが。

 それは自分の力に対する過小評価である。リスティアはそう思っていた。だから、自信満々に言えるのだ。


「しかし、大丈夫ですよ。結界を破るには、最低でもその結界を張った術者よりも強い力を持たねばなりません。そのような術者、あんな弱者の群の中にはいません。それは絶対です」


 自信満々にそう言うリスティアに、ツキナはそれ以上何も言えなかった。確かに不安はある。だが彼女のその結界によって、悪しき者達がこの中に入って来れないのも事実なのだ。

 そう思うと、彼女の腕の力は弱まった。その隙にカイはツキナの腕から離れ、リスティアの方に歩み寄った。


「リスティアお姉ちゃん」

「何でしょうか?」


 カイの表情が不安で彩られているのは、リスティアにも感じられていた。だから、リスティアは年長者として努めて柔らかい声で接した。そのリスティアの真摯な態度が分かったのか、カイは素直にその不安を打ち明ける。


「僕、死んだ方がいいのかな?」


 このままでは、母親をも傷付けることになりかねない。カイはそう感じていた。自分が死ねば、母親が傷つけられることも無いだろう。そう考えたのだ。


「カイ! 馬鹿言わないで!」


 その声を聞いたツキナはそのカイの言葉を否定する。親として当然である。そして、それはリスティアからしても同じで、ツキナの言葉に同調する。


「そうですよ。私もそう思います。あんな連中なんかを気にして、カイ君が犠牲になることは無いんです」

「で、でも」

「それに、あの人がここに居たらこう言うでしょうね」


 不安な面持ちのままのカイの前で、リスティアは喉を少し調節しながら『あの人』の声真似をする。そして、同じ口調で諭した。


「カイ。お前、今回は誰が悪いと思ってる? お前の首要求した奴だけじゃねぇ。ここを取り囲んでるクソ野郎共も同罪だ。そんなクズ共なんかの命の為に、お前が犠牲になる必要はねぇ。好き勝手生きりゃあいいんだよ。それを責められる謂われなんかねぇんだからよ、とね」

「うん。そうだね」


 『あの人』もどきの声を聞いて、カイは少し笑顔を見せた。



◆◇◆◇◆



 ぶえっくしょいっ!

 港町アヒタルの電波塔の下、小高い丘の上であの人こと、カオスはくしゃみをしていた。


「汚いわねぇ」

「誰か俺のことを噂しているんかな?」


 当然ながらカオスには、雁間亭でのリスティアの物真似を知る由は無い。


「そうか。美女だ。どっかの綺麗でセクシーな姉ちゃんが俺を噂してるんだ。きゃぁ、カッコイイ。抱いてぇって、困っちゃうね」

「カオス?」


 ノリノリでボケるカオスの肩に、ポツッと手を載せられた。カオスは、油の切れたロボットのようなぎこちない動作で、その方向に視線を向ける。

 その手の主は、カオスの視線が完全に自分に向ききらない内にカオスに問いかける。


「そんなに黒コゲにされたいのかしら?」


 フローリィはご立腹だ。冗談はあまり通用しないらしい。カオスは素早く首を横に振って否定する。まだ死ぬ気は無いのだ。


「イエ。ゴ遠慮願イマス」

「だったら、その理由をさっさと説明しなさい。あたしだって別に暇じゃないんだから」

「ああ、分かった分かった」


 わざわざ自分から喋るようなことではないが、このフローリィ相手に隠す必要も無さそうだ。正直に言うリスクが無いと感じたカオスは、正直に教えることにした。


「理由は二つ。一つは俺が養子だということ。養母は教えてくんなかったから、俺は自分の本当の家族構成を知らないし、俺に妹がいるかどうかも分からねぇ。例えどんなに似てなくても、異母兄妹・異父兄妹なんかいる可能性もゼロではねぇ」

「まあ、そうね」


 それはカオスがログハウスに来た時点で、フローリィは薄々感じていた。あの部下の策では、カオスの家族関係が明確だった場合、それが嘘だとすぐ分かってしまう。カオスが来たということは、妹が行方不明になっているか、家族関係が不明瞭かのどちらかだからだ。

 それはすんなり理解した。そして、フローリィはカオスの姿を少しだけじっくりと見た。


「それに、丸っきり姿が似ても似つかないって訳でもなさそうだしね」


 フローリィは、自分の髪を触りながらそう言った。自分は金髪碧眼で、カオスも金髪碧眼である。その二つの点だけを言えば、二人は似てなくはないかもしれない。


「ま、そういうことだな」


 カオスは伸ばした髪でずっと隠していた耳をフローリィに見せた。


「え?」


 フローリィはカオスの姿を見て驚いた。カオスの耳は、普通の人間の丸い耳ではなかった。フローリィ程ではないが先は尖っていて、それはエルフか魔族のようであった。

 コイツは?

 ただガイガーの敵だと思っていた。だがその時、フローリィは初めてこのカオスという男を知りたいと思った。

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