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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter2:港町アヒタル
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Connect05:盗まれた卵と騒乱直前のレストラン

 港町アヒタルの電波塔から少し離れた場所で、フローリィ達は一人の上級魔族の男と偶然出会っていた。その長い黒髪の男、余りアビス城の外に出ないラスターに出会ったことにフローリィは驚き、その理由を彼に訊ねた。

 ラスターは同じ魔の六芒星であるフローリィに隠す必要も無いので、その理由を話して聞かせる。ロージアとはまた別の任務で人間界にやって来たのだと。


「盗難品の回収、もしくは破壊?」


 そう答えたラスターに、フローリィは怪訝そうな顔をする。理由が分らなかったのだ。どうでもいい物なら人手を費やしてまでして回収しようとはしないだろうし、大切な物なら破壊してほしくは無い筈だからだ。だから、対象物の回収と破壊のどちらでもいいというラスターの任務はフローリィにとっては理解しがたく思えたが。

 ラスターはその理由を易しく説明する。


「何とも危険な物である故な。特に力の無い人間達にとっては。それ故、こうして私が出向いた訳だ」

「へぇ」


 面白そうね。

 フローリィはラスターの話を聞いて、直感的にそう思った。このまま大人しく城に帰るより、ラスターのところに少し寄り道した方が楽しい事になりそうだ、とふんだ。だから、笑顔で言う。


「よ~し、ここは一発あたしが手伝ってあげて」

「もらわずとも結構だが、どうせ有無を言わせぬつもりであろう? まあ、良い。ついて来るくらいは好きにするが良い」


 フローリィが皆言わなくとも、フローリィの赤ん坊の頃から知っているラスターは、自分が承諾しようとしまいと結果は変わらない事が分かっていた。その為、フローリィが全て言い切らない内に、どうでもいいような答えをしたのだ。

 だが、それはフローリィの方もそうで、ラスターがそういう答え方をするであろう事は何となく予測がついていた。だから、苦笑いしながら補足する。


「ほら、良く言うじゃないの。一人より二人。二人より三人ってね。三人寄れば何とかって諺の通りにね」

「!」


 三人?

 ロージアはフローリィのその言葉に反応した。ラスター、フローリィ、そして自分。いつの間にか、自分もそれに行くハメになっているらしい。少なくともフローリィの中では。

 自分の中でロージアの同行が決定しているフローリィは自分の発言のおかしい所に全く気付かず、話を進めながら部下である魔族二人に向かって命令を下す。


「じゃ、アンタ等は先に帰って、父様にもう少し遅れるって伝えといて」

「「え?」」


 城の主で、自分達の頂点に存在する魔王アビスに対して、そのように伝言しろと言っていた。それは彼等にとっては恐怖に満ちた命令であった。だが、それをフローリィは知らない。知らずにその部下二人を置いてロージアと共にラスターの方へと行ってしまったのだ。


「ラスター、一体これから何を回収、もしくは破壊するのさ?」


 ラスターの近くに行ったフローリィは、まだ漠然としか聞いていなかったラスターの任務の詳細を訊ねた。その問いに、ラスターは淡々とした調子で答える。


「魔獣の卵だ。アビス城近くの小国の主から献上された物が盗まれ、それが人間界に持ち込まれたらしくてな。別にその魔獣の卵は必要無いのだが、放っておいて人間界の治安を乱すのもどうかと思われ、魔王アビスはそのように私に命ぜられたのだ」

「へぇ」


 フローリィは納得した。無駄な殺生を嫌う義父だ。そのように命じてもおかしくはない。そう思ったのだ。

 それにしても魔獣の卵ねぇ。どんなに強い魔物が入っているにしろ、所詮は下級魔族。思った程には面白いことにはなりそうにないかな、とフローリィはチラッと思ったが、ロージアはポロリと疑問を呟く。


「魔獣の卵そのものはともかく、アビス城に忍び込み、盗みを働けるような輩が人間の中にいるのかしら?」

「あ!」


 フローリィはそこで気付かされた。こんな人間界から魔界へとやって来て、さらにはアビス城に忍び込み、ものを盗んでみせる。そんな輩がいるなんてのは問題であると。



◆◇◆◇◆



 その一方、雁間亭ではラシュトによるカイの首要求の脅しの放送の後、リスティアの手によって看板が付け替えられていた。『Restaurant KATANA』。雁間亭が雁間亭であるとアピールしていたのは看板だけだったので、とりあえずこうして看板を変えてしまえば、雁間亭を知らない人にはここが雁間亭だとは分らないようにはなった。

 そして、念の為に『本日定休日』の看板をドアにぶら下げ、ドアに鍵をかけた。その手際を見ながら、最悪の中の最悪のパターンにまで対処しようとしているように見えるリスティアに対し、当事者であるカイとツキナは少し首を傾げた。

 やり過ぎではないか。そう思っていたのだ。


「店の看板を偽物に変えて、今日を定休日にして堂々とドアに鍵をかけるなんて」

「いくら何でも同じ町の人、仲間なんですから、そうそう酷いことをするとは思えませんが?」


 カイとツキナは次々とそう言う。同じ町に住む仲間同士、困った時には助け合って力を合わせ、困難に立ち向かっていくと思っていたのだ。

 そう出来たならばいい。リスティアもそう考えはするが、それはあくまでも最良のパターン。ただの理想。リスティアは、カイとツキナの考えをズバッと斬り捨てる。


「甘いです。大甘です。人間誰しも強い訳ではありません。助け合おうと、弱者を守ろうと考えている訳ではないのです。ですから、誰か他の人を犠牲にしてしまえば自分が助かるのなら、他人なんか殺してしまっても構わない。そう考えてしまう人は少なくないですよ?」


 いや、人には良心というモノがあるのだから、そうはしないのではないか?

 リスティアの考えに対してツキナはそう思ったのだけれど、そう主張する明確な根拠も無いので黙っていた。そうして質問も反論も無いので、リスティアは続いて今後の対策について説明する。


「外には顔見知りも居るかもしれないので、下手に逃げると却って危険です。ですから、解決するまでここで籠城しましょう。いくら何でもアヒタルの警察が何もしないとは考えられないですからね」


 少なくとも姉がこの状況をよしとする訳がないですし、後は外に居る人達に任せておきましょうか。

 リスティアはそう締めくくりながら、ドアの前にテーブルを置いてバリケードにした。


「さて」


 出来ることは一つでも多くやっておこう。リスティアはそう考え、テーブルをどかして店内の真ん中にスペースを確保し、その中心で魔力を充溢させ始めた。

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