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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter6:魔王
155/183

Extra Act.04:監獄の如き山頂~アーサーの憂鬱~

 勇者アーサーは国王である。広大な国土の頂点に立つ国王である。ただ、そんな自分でありたいと望んだことは一度もない。

 自分は誰だ? 自分は何だ?

 ただ広いばかりの部屋。誰もいない部屋。そんな場所で鍛錬を積みながら、アーサーは自問自答を繰り返す。意味のない自問自答を繰り返す。

 嗚呼、分かっているではないか。国王に過度な鍛錬など必要ない。ただ、民たちの為の神輿となって担がれていればいいのだ。それを分かっているからこそ、アーサーは国王なんかになりたいと思ったことは一度もなかった。俺はただの戦士であると。そこは基本的に魔導の追及にしか興味のない母と同じであり、それを少し嬉しく思ってもいた。

 まあ、本人にそれを言ってやる気は死んでもないが。


「ふはははは」


 アーサーは誰もいない場所で独り笑った。答えはもう出ていた。否、最初から自分と共にあった。

 アーサーはただの戦士である。勇者と讃えられるようなものでもなければ、国王であるような器でもない。ただの狂戦士でしかない。

 そんな自分を人々はいまだに勇者だと褒め称える。それはアーサーにとって、苦行以外の何物でもなかった。確かに対アビスとの戦い後の混乱期、そんな時期では勇者といった旗印が、皆の希望として必要だったのは分かる。だからこそ、あの時期ではそんな人々の希望であろうとしていた。こけおどしではあったけれど。

 時は過ぎた。人々はずっと平和を享受し続けられている。それはアーサーというこけおどしの成果であるとアーサー自身も理解していた。それ故に、こけおどしとなった選択も間違いではなかったのだろうと。

 ただ、いつかそのこけおどしは死ぬ。寿命か、病気か、要因は色々あれど、人である以上いつか必ず死ぬ。その時、その瞬間に終わってしまう平和ではダメだ。

 そう思うからこそ、アーサーは騎士採用試験の一つでしかなかったトラベル・パス試験B級を思い切り興行的なものとした。有用な人材を広く人々の目に見えるようにして、色々な優れた人材で国を回し続けられる礎とする為だ。その結果、エクリアのような優れた若い人材が芽を出すようになった。

 ならばもう勇者アーサーは、国王としての勇者アーサーは必要ない。

 そう判断したアーサーは、自身の国王としての職務を少しずつ減らしていった。色々なものに権限を与え、独裁体制を緩和していった。まるで自分がいつ死んでも混乱が起きなくて済むように、いつ死んでも構わなくする為のように。

 アーサーは職務の合間、部下にも誰にも何も言わずに独り、ただ魔獣を狩る。地を駆け、力を出し、空を舞い、魔を使う。奴等はアーサーが何と呼ばれているのかすら知らず、ただ殺しに来るのみ。そんな奴等を、アーサーはただの戦士の一人として狩るのみ。そこに、最初から最後まで名前は存在しない。御大層な名前は存在しない。そんな戦士Aでいられる間だけ、アーサーは自分が自分でいられるような気がしていた。そして、改めて思う。

 自分は国王ではない。ただの戦士、狂戦士であると。

 戦って、戦って、その末に死ぬ。それこそが本望である。それはきっと、山で死ぬのが本望と謳う登山家と同じようなものだろう。

 とは言え、この世界にはもうアーサーの敵となるような強大な悪は存在しなかった。そう思った時、ふとやり残してきたことを思い出した。そう、魔王アビスである。

 勇者アーサーは仲間と、人々と力を結集したその結果、魔王アビスを退けた。魔王アビスを魔界へと追いやり、退治したのだと讃えられてはいるが、それはアーサーが本心からそうやりたかったと望んだことではない。

 あの時、世界は混乱の最中にあった。それを早急に終わらせる為、正々堂々と戦わないで終わらせた。アーサー一人で勝てる力などなかったから、そうするしかなかったのだ。そんなアーサーに、あの時あの場所での不満を言える資格はない。だが、その不満が心残りとなり、心の何処かでずっと消えずにいた。

 嗚呼、戦いたかった。その結果がどうなろうと、一人の戦士として正々堂々と。





 そんな自分の目の前に、魔王アビスがいる。自分を仇と見定めた、強大な敵がいる。こんなに嬉しいことはなかった。魔王アビスには勝てないと分かっていても。

 全力で戦い、全力で散り、そして力尽きて死ぬ。それこそが歓び。

 そう思えてしまう時点で、確かにアーサーは国王に向いていなかった。


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