Extra Act.03:或る兵士の憂鬱
兵士の詰所、そこの朝礼をする場所で、臨時集会が行われていた。その詰所でのリーダーが壇上に上がり、集まった部下達に檄を飛ばす。
このままではいけない。このままでは危ないと。
「先程こちらにも連絡があった。魔物共は現在行われているBクラス試験を陽動にして、この首都への侵攻を図っている! いいか、これは首都、そして王国の危機なのだ!」
拳を振り上げ、大きく兵士達にアピールする。
「愛する者を守るの為、愛する国を守る為、今こそ立ち上がれ! 剣を持ち、戦いへと赴くのだ! 魔物の侵入を絶対に阻止するのだ! いくぞ!」
「おおおおっ!」
鼓舞された兵士達は、拳を高らかに掲げ、叫ぶ。腹から精一杯声を出して、その士気を高める。
「それではそれぞれの持ち場へ行け! 行って、首都の守りを堅固なものにするのだ!」
「おおおおっ!」
兵士達はそれぞれのグループに分かれ、散っていった。戦場に向かう兵士達の表情には気合いが溢れており、モチベーションは最高潮であった。
しかし、それはあくまでも大多数の兵士であって、全ての兵士を意味するところではない。中には不真面目な者もいた。
「…………」
ああ、だっりーーーー。こん畜生め!
と或る兵士、彼もまたその不真面目な兵士の1人であった。
首都アレクサンドリア北07ゲート、そこが彼の持ち場であった。彼はそこに警備兵の1人として常駐し、往来する者の中に怪しいのが居ないかどうかチェックをして、その上で外から魔族の軍団が攻め込んで来たら、軍の本体が辿り着くまでにどうにかしなければならないという仕事につかされたのだ。
戦うのが軍人の仕事である。分かっている。分かってはいるのだが……
「ふあ~~~~~っ」
あくびをしながら、彼は思う。
だ。
手を大きく上へ掲げて。右足を軽く浮かせて、彼は思う。
だ。
手を大きく上へ掲げて。左足を軽く浮かせて、彼は思う。
だ。
手を下ろして、身体を前屈みに傾かせて、彼は思う。
だ。
足を横に流して、変身ヒーローのポーズをとりながら、彼は思う。
だ。
左腕で大きく円を描き、右手足を適当に放り出しながら、彼は思う。
だ。だ。だ。だ……
だりぃーーーーーーーー
「はーーーーーーーーーーーーーーーー」
魂が残らず抜け出ていきそうな溜め息を彼はついた。全身の力が残らず消えていきそうなだらしのない溜め息をついた。
彼は思う。思い続ける。
大体何だってんだよ、魔物ってよぉ。嘘くせぇなぁ。もう16年も表立って出て来ていねぇんだろー。今更、首都なんかに何も来ねぇっつーの!
それなのに、それなのに、こんな街外れで警備だと? 超絶的につまんねぇ。面倒くせぇ。やってらんねー。今すぐ家に帰りたーい。酒飲んで眠りた~い。あ~あ、いつも通り待機室でのんびりチェスでもしていたかったな~。
いつもの待機室、何も起こらない平和にちょっと退屈感を覚えながらも、それを殺すように遊んで暮らし、のんびりとした毎日を思い出していた。それはそれでちょっと退屈ではあったけれど、このような本当に何も無さそうな退屈よりはずっとマシであった。そう。こんな立ってるだけの仕事よりどんなにマシだろうか。そのように彼は思うのだった。
かと言って、実際にリーダー共の危惧している通りに魔物が攻めて来て、戦う事になったりしたらもっと嫌だけど。怪我したら痛いだろうし、死んだら最悪だし。
「ふぅ……」
しかし、仕方ない。
彼はこう思うことにした。あれもこれもどれも、全ては給料の為だ。給料の為に、現実とは思えない阿呆話につきあってやろう。そのように思うことにしたのだ。
そして、時間としてはもうトラベル・パス試験は決勝戦が終わる頃合いに入っているらしい。残るはエキシビジョンだ。つまり、後少しで全ては終わるとのだ。
よしっ!
彼はちょっと笑みを浮かべる。この拷問の時間はもうすぐ終わるから。
勤務が終わったら、飲んでやる。思い切り飲みまくってやる。店の酒がなくなるくらいに飲んで、飲んで、飲みつくしてやるわー!
仕事の後の酒、それを想像して彼は楽しい気分になった。このだるい時間が終わり、楽しい時間がもうすぐやってくると信じて、非常に嬉しくなってきたのだった。
しかし、そんな彼は知らない。
事件は突然やって来るのだと。
そして、職務続行。すぐに酒どころではない騒ぎとなってしまうのだ。
ロスタイム発生! ロスタイム発生!
それは章を分けて行われるのだ。