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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
143/183

Act.122:格闘ゲームⅥ~真髄~

☆対戦組み合わせ☆

 準決勝

13:〇 リスティア・フォースリーゼ vs ルナ・カーマイン   ×

14:  デオドラント・マスク    vs カオス・ハーティリー

「はああああ……」

 リングの上、上空ではロージアが魔力を充溢させていた。体の奥底から、全てから、出せる限りの魔力を引き出さんとしていた。

 それは球状の形となり、ロージアを包むようにして具現化していった。

 感じた。ロージアは感じていた。自分の力を。これから出せるその力を。

 それは大きい。今までで最も大きい。最高である。そんな現時点での自分の最高の力を具現化出来るであろう。そのように感じていた。


「はああああああああ……」


 リングの上、地上ではカオスも魔力を充溢させていた。上空で自分を見下ろしているロージアを見上げながら、自分の中に眠っているありったけの魔力を引き出そうとしていた。

 それは炎のようでありながら、そうではないものとなって、カオスの身を包むようにして具現化していった。

 感じた。カオスも感じていた。自分の力を。これから出せるその力を。

 やはり、それは大きい。今までで最も大きい。最高である。そんな現時点での自分の最高の力を具現化出来るであろう。そのように感じていた。

 お互い激しく光るは魔力、その激しさは力の大きさの象徴。そして、炎にも氷にも、何にも変換されていないその力は、魔法となる以前の純粋な力の結晶である。奇しくも2人は、その域に達していたのだ。無意識ではあったのだけれど。


「…………」


 カオスはロージアを見上げる。見上げながら、自分がやるべきことを考えていた。

 ブラック・ホールは使えない。そうなるであろう。なぜなら、ブラック・ホールは何でもかんでも吸い込めるわけではないからだ。あれに関しては2つの制約があった。1つは発動していると場所移動が出来ないこと。もう1つは生物が吸えないこと。

 ロージアがこの後その魔力を放つだけならば、吸い込める。魔力の奔流は生物ではないから。だが突撃してきては、それを吸い込めない。ロージアという魔族、生物がそこに含まれてしまうから。

 それをロージアが知っているかどうかは分からない。まあ、知らないであろう。だが、放つだけではさっきと同じで芸が無い。ならば、あそこまで魔力を充溢させたのだから、このまま突っ込んでくるのであろう。上空側には引力というアドバンテージがある。それが普通なのだ。

 まあ、いい。

 カオスは思う。上等だ。これはゲーム。ならば、こちらとしてもその正面対正面の激突を楽しめば良いだけの話だ。

 カオスは笑う。楽しそうに。ロージアも笑う。その上空で、やはり楽しそうに。

 そしてその直後、その眼光は鋭くなる。鋭くなり、お互いに相手を射抜く。そう。互いに決意したのだ。



 勝負だと。



 自分の力全てを出し尽くし、ぶつけ合う勝負、それはすぐに始まった。まずは、ロージアが動いた。カオスの予想通り、そこから遠距離攻撃というわけではなく、そこからカオス目がけて突撃を開始した。魔力を身に纏ったままカオスに突っ込んでいく算段だ。

 それに対し、カオスは真正面から迎撃する。魔力を上空に向けて放ち、突撃してくるロージアにそれをぶつけて、その突撃を阻止するという算段だ。

 そして、激突。激しい激突。

 全開の魔力と魔力、大きなパワーとパワーがぶつかる。大きな衝撃と、爆発音を伴いながら。魔力と魔力の押し合いが始まるのだ。


「おおおおっ!」

「くおおおっ!」


 カオスとロージア、両者共に1歩も引かない。遠慮は一切しない。自分の全力でもって、前へ前へと己の魔力を、体でもってどんどん押していこうとする。

 攻撃は最大の防御、それぞれの最高の攻撃は、その相手の攻撃を押し止める抑止力にもなっていた。力と力、だからこそ、そこに膠着は生まれた。両者共に体力と魔力を失いながらも、動かない状態が続くようになった。


「…………」


 その試合の様子を、観客達は固唾を呑んで見守っていた。ロージアが魔族とかどうとか、騒いでいるような観客はもう何処にもいない。試合を観ている観客全ての関心は、ただこの試合の行く末のみとなっていた。2人が全力を出して戦ったその結末のみとなっていた。

 勝者と敗者、カオスとロージア、そのどちらがどうなるのかもどうでも良くなっていた。ただ、知りたいだけだった。見届けたいだけだった。

 そして、それはルナやマリア、カオスの関係者においても同じ。


「くっ、うぐぐぐぐぐぐっ!」

「うぉっ、ぬおおおおっ!」


 両者の魔力と魔力が激突する。そんな膠着状態。そんな一日千秋のような時間が、誰もが長過ぎると思ってしまうような時間が1分程度続いていた。

 それはいつまでも、もっと長い時間続いていくように思われた。だが、そこに少しずつ、人々が気付けない程少しずつ、微妙な変化が生まれ始めるようになっていた。

 カオスとロージアは押し合う。押して、押されて、押して、押される。カオスは押して、押されて、押して、押され、押される。


「はああああっ!」


 ロージアは叫ぶ。その瞬間、ロージアの放っていた魔力がさらに膨れ上がった。カオスは押し、押され、押され、押し、押され、押され、押され始める。

 そのカオスの目に、次第にロージアの姿が大きく映るようになり、カオスは自分の置かれている状況を否応無しに悟らされる。


「な、押されっ!」


 ていると分かっても、どうしようもなかった。カオスは既に全力だったから。だから、ここでこれ以上出力を上げるのは不可能だったし、正面対正面のぶつかり合いになってしまっては何かしらの策が入り込む余地も生まれない。本当に何もしようがない。

 ただ、状況に流される。そして、ロージアはそのまま突っ込んでくるのだった。



 ドグアアアアッ!



 大きな音を立てて、大きな魔力を孕んだロージアの両の拳はカオスに突撃した。接近の阻止に全力を傾けていたカオスは、防御も回避も出来ず、その拳をマトモに食らってしまった。

 そして、飛ばされる。多大なダメージと共に。大きく、そして強く。

 リングは破壊される。ほぼ徹底的に。盛り土を覆っていた石のタイルはあらかた吹き飛び、粉々となっていた。土埃は大きく舞い上がり、それを飛び散らせながら、その破壊の大きさを物語る。そこは、まるで大型の爆弾が爆発した跡のようになっていた。

 だが、それも時期に治まっていく。土埃は落ち、地面に還る。煙は晴れていき、ロージアの突撃後のリングの状態を露わにしてゆく。

 荒地。

 破壊されたリングは、まるで荒野のようになっていた。酷いものだ。

 その上に、ロージアはゆっくりと静かに降り立った。だが、その眼光は未だに鋭いままだった。ある一点を見据えたまま。

 その一点、ロージアの視線の先にはカオスが居た。ロージアの攻撃を食らい、ダメージを受けながらも、リングの外には落ちなかった。即・敗退という状況は防いでいた。

 そして、ダウン。その状況も覆す。カオスは、ゆっくりでありながらも立ち上がった。


「はあっ、はあっ!」


 カオスは息を激しく切らす。ダメージを受けているだけでなく、体力も魔力も底に近い状態になっていた。だが、それでも立ち上がる。立ち上がり、真っ直ぐに相手を見据える。そして、その瞳の中の戦意は失せていない。衰えてはいない。


「はあっ、はあっ、ふぅ。場外負けだきゃあ防いだぜ。今は、これでオッケーとしておくか。だが……」


 勝負は終わっていない。

 しかし、これはゲームである。命懸けの実戦と違い、命のやり取りをする訳ではない。その上、負けたからと言って何かしらを奪われるものもなければ、ペナルティーも無い。そんなただのゲーム、楽しめば良いだけの代物である。必死になる必要は何処にも無い。

 だが、やるからには負けたくはない。己の全力を出し尽くし、そのベストを全て相手に叩きつける。絶対に負けない為に。勝つ為に。

 それこそがゲームの真髄だ。

 その熱き想いが、ゆっくりながらにもカオスを立ち上がらせた。尽きた筈の体力と魔力を、微量ながらにも復活させた。戦う気にさせた。


「はあっ! はあっ!」


 そのカオスを、ロージアは真っ直ぐに見ていた。ロージアも疲れている。体力も魔力も尽きかけている。さっきのぶつかり合いでは勝ったものの、そういった点においては大して変わりは無く、お互い様だった。

 もう、2人共ピークの力の半分も出せはしない。


「はああああっ!」


 けれど、カオスはそこからさらに魔力を充溢させ始めた。充溢させるスピードも、それで溜まった魔力の量も、さっきの激突時に具現化させた量と比べれば、著しく劣ってしまうものだった。だが、それでも1つの形にはした。させたのだ。

 それをカオスは放つ。ダーク・マシンガンのようなものを1つにして、玉のような形にして、それをロージアに向けて真っ直ぐに投げつけた。それがカオスにとって、この試合で放てる最後の魔法になりそうだった。

 その遠距離攻撃で放たれたものは、大したスピードじゃなかった。力的にも大した攻撃には見えなかった。だから、力を失いかけているロージアにも回避は簡単そうだった。

 だから、避ける。横にサッと。

 そのロージアの横、カオスのその攻撃魔法は通り過ぎていった。ロージアにかすりもせず、ただ通り過ぎていった。


「…………」


 まあ、そうなるだろうな。

 その流れに、カオスは驚かなかった。そうなると思っていた。さらに言えば、そうなるであろうと分かっていた上で、あの攻撃魔法をロージアに向けて投げつけていた。なぜなら、その攻撃魔法は普通のダーク・マシンガンのように、ただ真っ直ぐ飛ぶだけの代物ではないから。

 カオスの投げた攻撃魔法、それはロージアの横を通り過ぎていった。そして数メートル過ぎた後、そこでその攻撃魔法はピタリと動きを止めた。

 その玉はそうして止まった後、すぐにまた動き出す。今度は逆に、元来た道をロージアに向かって戻ってきた。


「え?」


 ロージアは驚く。それは、終わった筈の攻撃だった。

 だが、そのカオスの魔法はまだ終わってはいない。その働きを終えてはいない。そう。カオスが放ったその魔法は、自動追尾機能がつけられていた。ターゲットであるロージアを何処までも追いかけていって、そこに突撃してゆく。そんな魔法だったのだ。


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