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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
136/183

Act.115:仮面武闘会Ⅰ~疑問~

☆対戦組み合わせ☆

 準決勝

13:〇 リスティア・フォースリーゼ vs ルナ・カーマイン   ×

14:  デオドラント・マスク    vs カオス・ハーティリー

 試合会場では、大きな歓声と拍手が飛び交っていた。それら全てが、ルナやリスティアの健闘を讃えるものであり、試合後にはノーサイドという心の清らかさを讃えるものだった。

 リスティアは力の限り戦い抜いたルナに自分の肩を貸す。肩を貸して、ルナの歩調に合わせてゆっくりと歩いて退場していった。

 そういった行為、それらに対しても観客は大きな賛辞でもって見守っていた。それは、殆どの人がそうであった。殆どの人が、それを素晴らしいものとして見守っていたのだ。


「ケッ。綺麗にまとめちゃって」

「ケッ。綺麗にまとめやがってさ」


 しかし、例外も存在していた。偽善的なものとして、心地悪いと感じている者も存在していた。そう。カオスとマリフェリアスだ。そのひねくれ者2人だ。


「…………」


 だが、そう思った瞬間に2人はさらに嫌な感覚を感じていた。


「な~んか、あのクソガキとリンクしちゃったような感じよねー」

「クソババァとリンクしちゃったような気分だぜ。胸糞悪ぃー」


 そんな嫌な感覚。似た者同士の2人は、そこまでリンクしていた。

 が、そんなことはどうでもいい。いい気はしないが、考えても意味はない。

 嫌な感覚を抱きつつも、カオスはすぐに思考を切り替える。そんなどうでもいいものよりも考えるべきは、これからの試合だ。

 そう。カオスの出番だ。カオスはこれからの試合に気分を切り替え、試合へと赴いた。



◆◇◆◇◆



 壊れたリングを修復し、試合はすぐに再開される。次の試合はすぐに行われる。準決勝第2試合、カオスの試合だ。


『それでは、準決勝第2試合です! デオドラント・マスク対カオス・ハーティリー!』


 会場では、その開始がコールされる。


『両選手の入場です!』


 ドドーン!

 その宣言と共に、北門と南門のゲートが開かれる。それと同時に、その花道の横に取り付けられてあるパイロが火を噴き、その入場に華を添えた。

 そんな華と、観客の歓声を浴びながら、カオスとデオドラント・マスクは入場を開始した。2人共、落ち着いた態度であった。カオスとしても、特にこの大会への思い入れもなければ、これといった意気込みや、欲望のようなもので縛られることもなかった。悪く言えば、負けても良いとさえ思っていた。だが、それが却っていつも通りのリラックスした気持ちで試合に臨める結果となっていた。

 これはカオスにとってはただのゲーム。ただ、プレイするからには負けたくはないな。カオスは、チラッとそう思った。必死になるつもりはないが、プレイヤーとして勝ちたいと思っていた。その為に、やれることはやって、出せる策は出す。ゲームとは言え、その程度はしないと無駄になる。糧にも何にもならなくなる。

 だから、結局カオスは考える。この試合に勝つ為の方法を。

 試合、対戦相手はデオドラント・マスク。そう。デオドラント“マスク”である。

 マスク、デオドラント・マスクの顔は、そのマスクによって覆われ、隠されてあった。それがどのような意図によるものなのかは分からないし、それそのものは試合の中ではどうでも良いだろう。ただ、とりあえずはそのマスクを暴くことから試合を始める。そうすべきだとカオスは考えたのだ。

 そのように出来てから、本当の意味での試合は始まるものだと考えていた。

 まずは、そのように仕向ける。そんな結果を得る。その上で、その結果へと至る道を模索するのだ。カオスは、そこへの道を1つ思いついた。

 締めはアレにして、仮面を破壊すると。そして、それへの道をさりげなくデオドラント・マスクを歩ませてゆくのだと。

 そして、デオドラント・マスクを真っ直ぐに見据えながら、そうこう考えている内に、試合開始の合図は審判兼司会者によって発せられる。


『それでは、始めて下さい!』


 それと同時に、カオスとデオドラント・マスクは構えを取る。

 だが、しかし両者共にすぐに攻め込んだりはしない。まずは真っ直ぐに見据えながら、相手の動向を探る。様子見である。

 デオドラント・マスクの戦いに対する消極性。それは、カオスにとっては都合が良かった。手段をしっかりと確認出来るから。

 狙いはともかくとして、それに至るまでの手段は、デオドラント・マスクに覚られては絶対にいけないのだ。それは、即失敗へと繋がる。

 それを理解しながら、カオスは慎重に試合へと臨む。


「…………」


 そんなカオスを、デオドラント・マスクは手招きして誘う。かかってこいというような挑発行為だ。


「かかってこいってのか? 上等じゃねぇか」


 だが、カオスは知っている。コルラも、オーディンも、その挑発に乗ってあの恥ずかしい罠にかかってしまったのだと。そして、その罠は今もまた仕掛けられているのだと。

 そう。リングの上には、僅かばかりの魔力によって透明な氷が張られてあった。それにより、罠が仕掛けられていた。前の試合の冒頭でやったのと同じである。


「だがな」


 カオスは右手に軽く魔力を充溢させる。大きな魔力は必要ない。軽くで十分である。そして、それをダーク・マシンガン1発だけにして放つ。


「そんなお笑いのような罠がいつまでも通用する訳がねぇだろうが」


 そう。デオドラント・マスクの仕掛けた罠に向けて。罠は、察知しにくいように僅かな魔力で作られている。それは罠としては優秀な一因でもあった。だが翻せば、それは破壊するにも僅かな魔力で十分となる。そして、それをカオスが証明する。

 破壊。ダーク・マシンガン1発のみで、カオスはその氷の罠を粉々に破壊した。

 氷の罠は砕け、氷は気化して煙と化しながら消えていった。罠の消滅である。

 これで大丈夫だ。安心して攻めてゆける。

 そう思ったかのように、カオスは氷の罠を破壊した途端、デオドラント・マスクに向かって真っ直ぐに攻め込んでいった。力を籠め、腰をしっかりと入れて、デオドラント・マスクに向かって殴りかかる。

 それが当たる、その刹那だった。デオドラント・マスクの姿は忽然と消え、もう殆ど失われている水煙だけがカオスの拳の感触に残った。


「ど、何処だ! いねぇ!」


 カオスは驚いたような顔をする。そんな顔のまま、辺りを見渡す。


「……なんてな♪」


 デオドラント・マスクは後ろに居る。カオスには気配を探る能力は無く、視覚でしか相手を把握出来ないが、ここでデオドラント・マスクが背後を取るのは、前回のオーディンとの試合で分かっていた。むしろ、そのように仕向ける為に真っ直ぐに攻め込んだのだ。

 そして、その通りデオドラント・マスクはカオスの背後に居た。


「バック取ればいいってもんじゃ、ねぇんだよ!」


 デオドラント・マスクが攻撃を仕掛ける前に、カオスは振り向いてデオドラント・マスクを蹴り飛ばす。大きく大きく蹴り飛ばす。

 デオドラント・マスクの体は宙を舞い、飛んでいった。カオスはそれに追撃をかけんと追いかける。が、それは流石に上手くいかない。そのままでは。

 その気配を察したデオドラント・マスクが、飛ばされながらもその体勢を変えるのだ。両手に軽く充溢させた魔力を地面に叩きつけ、体の流れを上方へと変えた。

 舞い上がり、カオスからの追撃をかわしたデオドラント・マスク……に思われた。が、それもカオスからしてみれば予想通り。上方へ逃れるまでは考えていなかったけれど、そのまま飛ばされるままになっているとは、ハナから期待はしていなかった。何かしらアクションは起こすと思っていた。だから、予想済み。

 だから、柔軟に対応出来る。その変化させられたデオドラント・マスクの通る軌道を先読みし、その背後へと先回り。


「!」


 デオドラント・マスクはそのカオスの先回りした動きに気が付くが、もう遅い。カオスはそれを待つようなお人好しではない。それを放置して良い試合とは思っていない。


「はああああっ!」


 ドガッ!

 カオスの攻撃、肘打ちがデオドラント・マスクに炸裂する。避けようのなかったデオドラント・マスクに、その攻撃はクリーンヒットした。上空から下方にあるリングまで、デオドラント・マスクは一直線に落ちていった。

 そして激突。カオスの攻撃と、重力の2つの力で落ちたデオドラント・マスクは、その衝突によってリングに大きく穴を穿っていた。リングの石を割り、その下の土が土埃となり舞い上がっていた。

 だが、それでやられる訳がない。その程度で終わる者ではない。

 カオスはデオドラント・マスクをそんな過小評価はしていない。だから、遠慮せずにそこから追撃をかける。左手に素早く魔力を充溢させる。

 そして、放つ。


「ダーク・マシンガン」


 充填式。

 カオスの手から黒い魔力は流れ、少し離れた場所に黒い円を描く。それは、魔力の塊だ。そこから、ダーク・マシンガンは射出されるのだ。

 土砂降りの雨のように。


「…………」


 あれは昨日の対グレン(偽)の時に使った技ね。

 観ていたマリフェリアスは、すぐに分かった。同じダーク・マシンガンと名付けられていても、今放たれているのはさっきの対クロードの時に使ったのとは異なる。あれは速射式であった。何を考えてか、今回は充填式である。速射式はあまり溜めを行わずにすぐに放てる。だが充填式は、その名の通り放つまでに少々時間を要する。

 その時間を費やしてまでして、カオスはここで充填式を選んだ。ならば、そこには何かしらの理由があるのではないか。

 マリフェリアスはそのように思った。が、すぐに考えるのをやめた。どうでも良かったからだ。だから、また黙って観戦に集中した。

 ズドドドドドドドドドド……

 その時も、ダーク・マシンガンは射出されていた。デオドラント・マスクは駆け、その軌道から逃れる。そうして、充填されたダーク・マシンガンの間合いの外へと逃れる。

 そこから反撃だ。デオドラント・マスクは素早く右手に魔力を充溢させて、上空に居るカオスへの反撃の準備を始める。


「!」


 が、そこでやめる。反撃しない。右手の魔力の充溢を元に戻してしまう。

 その間合い。時間。隙。


「!」


 その頃には既にカオスはダーク・マシンガンの射出をやめて、リングの上に戻っていた。デオドラント・マスクの近くに立っていた。そのことにデオドラント・マスクも気付くが、やっぱりその段階では少々遅い。

 カオスはここでも遠慮しない。攻撃を叩き込む。

 腰のしっかりと入った蹴り。それを食らったデオドラント・マスクは、大きく飛ばされた。場外にまでは届かなかったが、リングの上にドサリと落ちたのだった。


「…………」


 そのデオドラント・マスクの姿を、カオスは冷静な目で見ていた。そして、そのデオドラント・マスクに関して首を傾げる。

 今の奴の動き、何か変だったなと。

 疑問に思うのだ。


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